【「建物だけ」や「建物と土地」の現物分割の可否(類型別)】

1 「建物だけ」や「建物と土地」の現物分割の可否(類型別)

現物分割は、消極的要件があります。不可能著しい価格減少をもたらす場合には現物分割はできません。
詳しくはこちら|現物分割の要件(消極的要件の基本的解釈・著しい価格減少の減少率基準)
現物分割の消極的要件にあたる事情にはいろいろなものがあります。本記事では、建物だけを対象とする共有物分割と、建物と土地を対象とする共有物分割において、現物分割の消極的要件に該当する事情を、分類しつつ説明します。

2 建物の現物分割の可否

1個の建物を複数の建物に分ける、ということは通常はできません。ただし、区分所有とすることで、複数の建物にすることができることもあります。つまり、区分所有にすることを伴う現物分割は可能であることもあります。
また、複数の建物を一括して現物分割とすることは可能です。具体的には個々の建物をいずれかの共有者の単独所有とするという方法です。

建物の現物分割の可否

あ 原則

1個の建物の現物分割はできない
※東京地裁昭和44年9月16日
詳しくはこちら|複合的な事情により現物分割の可否を判断した裁判例の集約
建物につき区分所有を認めえない限りは現物分割は不能である
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p481

い 区分所有にすることを伴う現物分割(概要)

建物を区分所有にすることを伴う現物分割は可能である
敷地となっている土地(の所有権や賃借権)も共有物分割の対象となる
詳しくはこちら|区分所有とすることを伴う現物分割

う 複数の建物の現物分割

複数の共有建物を対象とする共有物分割において
それぞれの建物をいずれかの当事者の単独所有とする現物分割は可能である
※東京高裁昭和59年8月30日
※東京地裁平成9月1月30日(3筆の土地と3個の建物を対象とする共有物分割)
詳しくはこちら|複合的な事情により現物分割の可否を判断した裁判例の集約

3 1個の建物とその敷地(土地)の現物分割の可否

共有の土地とその土地上にある建物の両方が共有物分割の対象となるケース(一括分割)もよくあります。
建物が1個である場合は、建物の現物分割ができないので、土地も現物分割ができなくなることが多いです。ただし、建物と比べて土地が広い(建ぺい率に余裕がある)場合は、「土地の一部と建物」と「土地の残り」の2つに分ける現物分割が可能であることもあります。

1個の建物とその敷地(土地)の現物分割の可否

あ 裁判例

(土地と1個の建物を対象とした共有物分割において)
本件共有物件が土地及び建物であるから現物をもって分割することが法律上不能であること言うまでもなく・・・
※大阪地裁昭和25年10月16日
※東京地裁昭和44年9月16日(同趣旨、他の事情もある)
詳しくはこちら|複合的な事情により現物分割の可否を判断した裁判例の集約

い 判例解説(平成8年判例)

(最判平成8年10月31日・1380号について)
本件不動産のうち原判決別紙物件目録記載1ないし3の土地上には、ほぼ一杯に・・・本件建物が存在しており、しかも、本件建物は、構造上一体を成していることから、XらとYの持分に応じた区分所有とすることができず、したがって、本件不動産を現物分割することは不可能である。
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p851

う 区分所有+土地共有残存という分割

建物を区分所有とすることが可能である場合
建物を区分所有として、土地を共有のまま敷地利用権とするという内容の現物分割ができることがある
詳しくはこちら|区分所有とすることを伴う現物分割

4 複数の建物とその敷地(土地)の現物分割の可否

共有物分割の対象が、土地と複数の建物である場合は、個々の建物を単独所有とする現物分割(前述)を用いれば、土地について現物分割をすることも可能になります。

複数の建物とその敷地(土地)の現物分割の可否

(土地と複数の建物を対象とした共有物分割において)
土地を現物分割にするとともに、それぞれの建物をいずれかの当事者の単独所有とする現物分割は可能である
※東京高裁昭和59年8月30日(原審は現物分割を否定した)
※東京地裁平成9月1月30日(3筆の土地と3個の建物)
詳しくはこちら|複合的な事情により現物分割の可否を判断した裁判例の集約
※神戸地判昭和62年9月25日(2筆の土地と2個の建物)

本記事では、建物だけ対象とする共有物分割と建物と土地を対象とする共有物分割において、現物分割が否定される事情を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産や共有物分割の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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