【現金の即時取得(判例の流れ・不当利得との関係)】

1 現金の即時取得(判例の流れ・不当利得との関係)
2 現金の動産扱い(原則と例外)
3 現金が通常の『物』(動産)として扱われる例
4 現金の即時取得が問題となる前提(特定)
5 現金の即時取得に関する過去から現在の判例
6 現金への民法193条,194条の適用の問題点
7 有価証券の善意取得と現金との比較
8 即時取得と不当利得返還請求との関係

1 現金の即時取得(判例の流れ・不当利得との関係)

現金(金銭・貨幣)は,民法上の『物』ではありますが,一般的な財産(動産)とは大きく異なる扱い(解釈)がなされます。
詳しくはこちら|現金の特殊性による変則的な占有・所有権の扱い
特殊な扱いの1つに即時取得(善意取得)の適用があります。
本記事では,現金についての即時取得の適用について説明します。

2 現金の動産扱い(原則と例外)

通常,現金は動産として認めつつ,一般の動産とは異なる民法上の扱いとなります。
一方,非常に特殊な事情では,一般の動産とまったく同じ扱いとなることもあります。流通せず,はっきり特定しているようなケースで,典型例は丁寧にケースに入れて保管されている記念メダルです(後記)。

<現金の動産扱い(原則と例外)>

あ 価値媒体としての機能

現金は,交換手段である価値の担い手として機能する場合
→一般的な動産とは異なる特殊な扱いとなる
詳しくはこちら|現金の特殊性による変則的な占有・所有権の扱い

い 通常の『物』扱い

たんなる通常の『物』として取り扱われるにすぎない場合
→動産一般としての取扱いを受ける
即時取得の適用がある(通説)
※林良平ほか編『新版注釈民法(2)総則(2)』有斐閣1991年p630,150

3 現金が通常の『物』(動産)として扱われる例

例外的に現金でも通常の財産(民法上の『物』)とまったく同じ扱いとなるケースはいくつかあります。
具体例として,封に入れた状態で預けた現金や,コレクションの対象としての記念メダルや古銭が挙げられます。
一般的な『物』と同じ扱いなので,動産を対象とする即時取得は適用されます。
詳しくはこちら|即時取得(善意取得)の基本(要件・回復請求・代価請求)

<現金が通常の『物』(動産)として扱われる例>

封金を物として他人に寄託する
記念として発行された現金(記念メダル)を通常の物として取引する
すでに強制通用力を失った現金(古銭)をコレクションの対象として取引する
※林良平ほか編『新版注釈民法(2)総則(2)』有斐閣1991年p630,150

4 現金の即時取得が問題となる前提(特定)

前記のような特殊事情がない原則的なケース,つまり,現金が流通の一環・価値の移転として交付されたケースについて即時取得を適用すべきかどうかを考えます。
ここで重要なのは,現金が特定している(識別可能なのか)ということです。物理的に特定できなければ,その時点で(理論とは関係なく)即時取得は認められなくなります。
逆にいえば,即時取得の理論の問題になるのは,紙幣の番号や硬貨のキズで個体識別ができるという特殊な状況が前提になります。

<現金の即時取得が問題となる前提(特定)>

あ 即時取得が問題となる前提

現金の即時取得が問題となるのは
原所有者の現金が特定できることが前提である
きわめて特異な場合だけである

い 現金を特定できる例

Aが現金をBに預けておいた
預けた銀行券の番号や金属貨幣に刻み込まれた特徴(キズ)で識別できる
Bがこの現金をCに交付した
詳しくはこちら|現金の特徴のうち不特定性(識別できない)と特定される例外

う 即時取得が問題とならない状況(通常)

『い』の例外的状況以外の通常の場合は
実際に現金の即時取得が問題となることはない

え 原所有者の現金を特定できない例

封金を預かった者が無断で開封して使用(弁済)した
→特定しようがないので即時取得は問題とならない
※末川博稿『貨幣とその所有権』/『経済学雑誌1巻2号(1937年)』/末川博著『物権・親族・相続』岩波書店1970年所収p272

5 現金の即時取得に関する過去から現在の判例

明治時代にまでさかのぼると,判例は現金の即時取得を認めていました。要するに占有に加えて善意・無過失”まで備わって初めて所有権を得られるということだったのです。
その後の時代の流れで,戦後には判例は,占有イコール所有者理論を採用しました。つまり,現金を占有するだけで所有権を得るという解釈です。
詳しくはこちら|現金についての占有イコール所有権理論(法理)の基本的内容
即時取得よりも取得者の保護が厚くなったのです。即時取得を適用しなくてもよくなったともいえます。

<現金の即時取得に関する過去から現在の判例>

あ 明治期

現金が盗品であった場合に民法193条を適用した
→被害者は弁済受領者に対し2年間は回復請求できる
※大判明治35年10月14日

い 大正〜昭和初期(騙取タイプ)

騙取した現金で債務を弁済したケースにおいて
現金について民法192条の適用を認めた
※大判大正9年11月24日
※大判大正13年7月18日
※大判昭和13年11月12日
即時取得を認めながら不当利得の成立を認める判例もある
詳しくはこちら|現金の不正な取得と不当利得返還請求(主観・因果関係の判断)

う 大正〜昭和初期(横領タイプ)

他人からの預り金で債務弁済や貸付をしたケースにおいて
現金について民法192条の適用を認めた
※大判大正元年10月2日
※大判昭和9年4月6日

え 現代

現金に即時取得は適用しない
(盗取した者への)金銭債権(不当利得返還請求権)が生じるのみである
※最高裁昭和39年1月24日
※最高裁昭和29年11月5日;同趣旨(金銭の占有イコール所有)

6 現金への民法193条,194条の適用の問題点

前記のように,現金についての即時取得は一般的に否定されています。
その理論(理由づけ)にはいろいろなものがあります。その中に,即時取得のメインの規定(192条)ではなく,例外的な状況に関する規定(193条,194条)をベースにする解釈があります。
194条は,条文上『買い受ける』ことが前提なので,現金(を買い受ける)は対象外であるという指摘です。これを元にして,原則である193条や192条も含めて現金を対象外としていると解釈するのです。

<現金への民法193条,194条の適用の問題点>

あ 民法194条の適用(否定)

現金が盗品or遺失物である場合
→『競売や市場でまたは商人から買い受ける』ことは考えられない
→194条は初めから盗品・遺失物が現金以外の動産であることを前提としている
※末川博稿『貨幣とその所有権』/『経済学雑誌1巻2号(1937年)』/末川博著『物権・親族・相続』岩波書店1970年所収p272

い 民法193条の適用(否定)

194条は,193条による例外を制限する規定である
194条の適用がないということは193条の適用がないということを意味する
※末川博稿『貨幣とその所有権』/『経済学雑誌1巻2号(1937年)』/末川博著『物権・親族・相続』岩波書店1970年所収p272,273

う 結論

盗品・遺失物の現金について
盗難or遺失から2年以内であっても,被害者・遺失主は現在の占有者に対して回復請求をすることはできない
※末川博稿『貨幣とその所有権』/『経済学雑誌1巻2号(1937年)』/末川博著『物権・親族・相続』岩波書店1970年所収p273

7 有価証券の善意取得と現金との比較

現金の即時取得を考える上で,有価証券の善意取得(即時取得)が大変参考になります。
有価証券については,商法や小切手法で善意取得が認められています。これは有価証券の流通を保護する趣旨で作られた規定です。
これと比較すると,現金は有価証券よりもさらに流通を保護すべきであるといえます。仮に現金に民法の即時取得が適用されるとすると,有価証券よりも保護が薄いことになってしまうのです。そこで,現金への即時取得の適用自体を否定する方向性になります。

<有価証券の善意取得と現金との比較>

あ 有価証券の善意取得の規定内容

金銭その他の物の給付を目的とする有価証券について
悪意または重過失なくこれを取得した者を保護する
=取得者がただちに証券上の権利を取得する
※商法519条2項,小切手法21条

い 盗品・遺失物の有価証券の扱い(違いなし)

善意取得の対象物が盗品・遺失物であるか否かを問題としていない
=盗品・遺失物であっても善意取得は制限されない

う 現金の扱い

現金は有価証券よりももっと普遍的に円滑に,かつ無条件的に流通する
商法519条の規定と比べると,より,盗品・遺失物であることを問題とすべき理由がない
=民法192条の即時取得を現金に適用することは制限される
※末川博稿『貨幣とその所有権』/『経済学雑誌1巻2号(1937年)』/末川博著『物権・親族・相続』岩波書店1970年所収p274

8 即時取得と不当利得返還請求との関係

即時取得は所有権を誰が得るかということを決める規定です。
一方,所有権とは関係なく利益(利得)を返還する義務を認める不当利得返還請求権があります。
理論的には別のものですが,だからといって即時取得は認めるが,不当利得としての返還義務があるとなった場合,結局現金を取得した人は戻す必要があるという結論になります。こうなると即時取得によって保護した意味がないことになります。
そこで,判例は,即時取得が成立した場合は不当利得としての返還義務はないと判断しています。

<即時取得と不当利得返還請求との関係>

あ 判例の理論

現金の即時取得が肯定された場合,法律の原因が肯定される
不当利得返還請求権は認められない
不当利得返還請求権が認められるためには
即時取得が成立しないことが前提条件となる
※最高裁昭和42年3月31日;弁済受領者が善意
※最高裁昭和49年9月26日;弁済受領者に悪意・重過失あり

い 即時取得と不当利得返還請求の関係

『あ』の理論は,有価証券の即時取得の主観的要件を,不当利得の法律上の原因に転用したものといえる
※川島武宣ほか編『新版注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p151

本記事では現金の即時取得について説明しました。
これらの理論は,従来の現金や仮想通貨に関する実際の広範な問題の解決をする時に,ベースとして使うことがあります。
実際に現金や仮想通貨の法解釈に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【現金の物権的返還請求権を認める見解(理論)や判断基準】
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