1 現金の不正な取得と不当利得返還請求
2 現金の不当利得が問題となる状況
3 現金の即時取得と不当利得の両方を認めた古い判例
4 現金の取得者の主観と不当利得返還請求の可否
5 現金の取得者の不当利得に関する因果関係の判断

1 現金の不正な取得と不当利得返還請求

現金については,高度な流通を保護することが要求されています。そのため,民法の規定の適用に関していろいろな特殊な扱いがなされています。
詳しくはこちら|現金の特殊性による変則的な占有・所有権の扱い
現金の流通を保護する解釈の中で根本的なものは占有イコール所有権理論です。
詳しくはこちら|現金についての占有イコール所有権理論(法理)の基本的内容
つまり,現金を取得した者は,それまでの現金の流通に問題があっても確実に権利を得られるということです。
この点,不当利得返還請求によって,現金を得た者が現金を戻さなくてはならない状況も考えられます。
本記事では,不正な取得経緯があったケースでの不当利得返還請求について説明します。

2 現金の不当利得が問題となる状況

現金の不当利得返還請求の問題は,前提とする状況が少し複雑です。具体例を使うと理解しやすくなります。
現金の窃盗犯が自分の債務返済のために,盗んだ現金を使った(支払った)という典型的状況を想定してください。

<現金の不当利得が問題となる状況>

Aが所有する現金を窃盗犯Bが盗んだ
Bは債権者Cにこの現金で返済した
AはCに不当利得返還請求をした

3 現金の即時取得と不当利得の両方を認めた古い判例

まず,古い時代の判例の解釈を紹介します。
債権者Cは,即時取得によって現金の所有権を得ます。しかし,原権利者AからCへの不当利得返還請求も認めます。
結論として,債権者Cは現金を戻すことになりました。
現金の流通よりも原権利者の保護を優先させることになっています。

<現金の即時取得と不当利得の両方を認めた古い判例>

現金の即時取得を認めながら,不当利得の成立を認めた
※大判昭和10年3月12日
※大判昭和11年1月17日
詳しくはこちら|現金の即時取得(判例の流れ・不当利得との関係)

4 現金の取得者の主観と不当利得返還請求の可否

現在(戦後の判例)では,現金の即時取得は使わず,占有イコール所有権理論を採用するようになりました。
詳しくはこちら|現金についての占有イコール所有権理論(法理)の基本的内容
そのため,現金を受領した者は自動的に所有権を得られることになりました。
その一方で,所有権とは別の不当利得返還請求権によって,一定の範囲で返還義務を負うことも認められています。
要するに受領した者が,現金は盗品であることを知っていた(重過失)場合には返還義務があるという判断です。
そうすると,占有イコール所有権理論と矛盾するように思えます。しかし,占有イコール所有権理論も,一定の特殊な状況では適用されません。
詳しくはこちら|現金の物権的返還請求権を認める見解(理論)や判断基準
結局,不当利得返還請求の判断と占有イコール所有権理論が矛盾するということではないでしょう。

<現金の取得者の主観と不当利得返還請求の可否>

あ 善意の受領→返還義務なし

法律上の原因の有無として判断する
善意の受領法律上の原因にあたる
=Cが善意で受領したのであれば返還義務はない
※最高裁昭和42年3月31日

い 悪意or重過失による受領→返還義務あり

悪意or重過失をもってCが受領した場合
受領者の利得は法律上の原因がない=不当利得となり返還義務がある
※最高裁昭和49年9月26日

5 現金の取得者の不当利得に関する因果関係の判断

現金の不当利得返還請求について改めて考えます。不当利得返還請求権の要件の1つに喪失と利得の因果関係があります。
この因果関係の有無の判定を緩く認めると現金の流通にブレーキをかけることになってしまいます。そこで,因果関係の判定は厳しくすべきであるという指摘があります。

<現金の取得者の不当利得に関する因果関係の判断>

あ 判例

因果関係については社会通念上認められるものであれば足りる
※最高裁昭和49年9月26日

い 学説による注意喚起

因果関係の存在をひろく認めてしまうと
不当利得法の面から,占有イコール所有権理論による金銭取引の安全保護を阻害(制限)してしまう
詳しくはこちら|現金についての占有イコール所有権理論(法理)の基本的内容
このような弊害が生じないよう配慮されなければならない
※林良平ほか編『新版注釈民法(2)総則(2)』有斐閣1991年p632
※能見善久稿『金銭の法律上の地位』/星野英一編『民法講義 別巻1』有斐閣1990年p114

う 他の見解

騙取者(B)・受領者(C)間の共謀がある場合に
被騙取者(A)の不当利得返還請求を認める
※清水誠『騙取された金銭をめぐる法律関係』東京都立大学法学会雑誌24巻1号(昭和58年)p69〜

本記事では不正に取得された現金についての不当利得返還請求について説明しました。
これらの理論は,従来の現金や仮想通貨に関する実際の広範な問題の解決をする時に,ベースとして使うことがあります。
実際に現金や仮想通貨の法解釈に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。