最判平成23年7月15日|建物賃貸借の更新料条項の有効性と消費者契約法10条の合憲性
1 最判平成23年7月15日|建物賃貸借の更新料条項の有効性と消費者契約法10条の合憲性
建物を借りる契約を更新するときに、賃借人が賃貸人へ更新料を支払う、という約束が契約書に書かれていることがあります。更新料は、期間が満了して賃貸借契約を更新する際に賃借人と賃貸人との間で授受される金銭で、この支払を約束する条項を、この判決は更新料条項と呼んでいます。賃料の何か月分、という決め方が通常です。
最高裁判所第二小法廷は、平成23年7月15日、この事件で2つのことを判断しました。1つは、消費者契約法10条が財産権を保障する憲法29条1項に違反しないこと。もう1つは、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、同条によって無効とはならないことです。
事案は、京都市内の共同住宅の一室で、賃料が月額3万8000円、更新料が賃料の2か月分で1年ごとに発生する、というものでした。この記事では、この判決が何を判断したのかを、事案と訴訟の経過から順に見ていきます。
消費者契約法10条がどのような条項を無効とする規定なのかは、別の記事で説明しています。
2 結論——消費者契約法10条は合憲・一義的かつ具体的な記載→特段の事情なければ有効
この事件で争われたことと、最高裁の答えを先にまとめます。
この判決には、『最高裁判所判例解説 民事篇 平成23年度』に収められた森冨義明調査官の解説があります。以下ではこれを判例解説と呼びます。
結論——消費者契約法10条は合憲、一義的かつ具体的に記載された更新料条項は特段の事情がない限り有効
| 争われたこと | 最高裁の答え |
|---|---|
| 消費者契約法10条は、財産権を保障する憲法29条1項に違反しないか | 違反しない。従前の判例の趣旨に徴して明らかである |
| 更新料は、どのような性質の金銭か | 一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有する |
| 消費者契約法10条前段にいう「任意規定」は、明文の規定に限られるか | 限られない。一般的な法理等も含まれる。更新料条項は前段の要件に当たる |
| 同条後段の、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するかどうかは、何によって判断するか | 条項の性質、契約が成立するに至った経緯、情報の質及び量ならびに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断する |
| 賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、後段の要件に当たるか | 更新料の額が賃料の額や更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、当たらない |
| 賃料の2か月分を1年ごとに支払うという本件の更新料条項はどうか | 特段の事情があるとはいえず、消費者契約法10条によっても借地借家法30条によっても無効とすることはできない |
この判決の判決要旨は2つ
1 消費者契約法10条は、憲法29条1項に違反しない。
2 賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらない。
※森冨義明『〔21〕 1 消費者契約法10条と憲法29条1項 2 賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項の消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」該当性』/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成23年度』法曹会平成26年12月10日p544
3 事案——賃借人は支払済み更新料の返還請求・賃貸人は未払分の請求
舞台は京都市内の共同住宅の一室です。平成15年4月1日に1年の約束で賃貸借契約が結ばれました。賃料は月額3万8000円、更新料は賃料の2か月分、そして退去後の原状回復費用の一部として12万円の定額補修分担金を支払う、という内容です。同じ日に、賃借人の債務を連帯保証する契約も結ばれています。
判決は当事者を訴訟上の地位で呼びます。上告人が賃貸人、被上告人X1が賃借人、被上告人X2が連帯保証人です。判例解説のほうは、賃貸人をY社、賃借人をX1、連帯保証人をX2と呼びます。以下の引用も、それぞれの呼び方によります。
賃借人は、平成16年から平成18年まで3回にわたって契約を1年ずつ更新し、その都度7万6000円の更新料を支払いました。平成19年4月1日からは更新の合意をしないまま住み続け、契約は同じ日に更新されたものとみなされましたが、このときの更新料は支払っていません。
賃借人は、更新料条項は消費者契約法10条または借地借家法30条により、定額補修分担金の特約は消費者契約法10条により、いずれも無効だと主張して、支払済みの更新料22万8000円と定額補修分担金12万円の返還を求めました。賃貸人はこれに対し、未払の更新料7万6000円の支払を求める反訴を起こし、連帯保証人に対しても保証債務の履行を求めています。
賃料は月額3万8000円、更新料は賃料の2か月分、いずれも消費者契約に当たる
(1) 被上告人X1は、平成15年4月1日、上告人との間で、京都市内の共同住宅の一室(以下「本件建物」という。)につき、期間を同日から平成16年3月31日まで、賃料を月額3万8000円、更新料を賃料の2か月分、定額補修分担金を12万円とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し、平成15年4月1日、本件建物の引渡しを受けた。
また、被上告人X2は、平成15年4月1日、上告人との間で、本件賃貸借契約に係る被上告人X1の債務を連帯保証する旨の契約を締結した。
本件賃貸借契約及び上記の保証契約は、いずれも消費者契約法10条にいう「消費者契約」に当たる。
※最高裁判所 2011-07-15 民集 65巻5号2269頁/裁時 1535号13頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1361号89頁/判時 2135号38頁/金法 1948号83頁/金商 1384号35頁/金商 1372号7頁
契約書の更新料条項と、その後の更新・支払の経過
(2) 本件賃貸借契約に係る契約書(以下「本件契約書」という。)には、被上告人X1は、契約締結時に、上告人に対し、本件建物退去後の原状回復費用の一部として12万円の定額補修分担金を支払う旨の条項があり、また、本件賃貸借契約の更新につき、① 被上告人X1は、期間満了の60日前までに申し出ることにより、本件賃貸借契約の更新をすることができる、② 被上告人X1は、本件賃貸借契約を更新するときは、これが法定更新であるか、合意更新であるかにかかわりなく、1年経過するごとに、上告人に対し、更新料として賃料の2か月分を支払わなければならない、③ 上告人は、被上告人X1の入居期間にかかわりなく、更新料の返還、精算等には応じない旨の条項がある(以下、この更新料の支払を約する条項を「本件条項」という。)。
(3) 被上告人X1は、上告人との間で、平成16年から平成18年までの毎年2月ころ、3回にわたり本件賃貸借契約をそれぞれ1年間更新する旨の合意をし、その都度、上告人に対し、更新料として7万6000円を支払った。
(4) 被上告人X1が、平成18年に更新された本件賃貸借契約の期間満了後である平成19年4月1日以降も本件建物の使用を継続したことから、本件賃貸借契約は、同日更に更新されたものとみなされた。その際、被上告人X1は、上告人に対し、更新料7万6000円の支払をしていない。
※最高裁判所 2011-07-15 民集 65巻5号2269頁/裁時 1535号13頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1361号89頁/判時 2135号38頁/金法 1948号83頁/金商 1384号35頁/金商 1372号7頁
賃借人の本訴、賃貸人の反訴、連帯保証人への請求が併合審理された
本件本訴は、居住用建物を上告人から賃借した被上告人X1が、更新料の支払を約する条項(以下、単に「更新料条項」という。)は消費者契約法10条又は借地借家法30条により、定額補修分担金に関する特約は消費者契約法10条によりいずれも無効であると主張して、上告人に対し、不当利得返還請求権に基づき支払済みの更新料22万8000円及び定額補修分担金12万円の返還を求める事案である。
上告人は、被上告人X1に対し、未払更新料7万6000円の支払を求める反訴を提起するとともに、連帯保証人である被上告人X2に対し、上記未払更新料につき保証債務の履行を求める訴えを提起し、この訴えは、上記の本訴及び反訴と併合審理された。
※最高裁判所 2011-07-15 民集 65巻5号2269頁/裁時 1535号13頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1361号89頁/判時 2135号38頁/金法 1948号83頁/金商 1384号35頁/金商 1372号7頁
4 下級審——第1審・原審とも更新料条項を無効→賃貸人が上告・上告受理の申立て
第1審の京都地方裁判所は平成21年9月25日、更新料条項も定額補修分担金の特約も消費者契約法10条により無効だとして、賃借人の返還請求を認め、賃貸人の請求を退けました。控訴審の大阪高等裁判所も平成22年2月24日、基本的に同じ判断で控訴を棄却しています。
原審が更新料条項を無効とした理由は、更新料をどういう金銭と見るかにありました。原審は、更新料に賃料の補充という性質は認められず、更新拒絶権の放棄が対価になっているともいえず、法定更新の場合にも発生する以上は賃借権を強化する対価でもない、として、趣旨の不明瞭な部分の大きい、一種の贈与的な性質の金銭だと評価しています。この見方が、後で見る最高裁の見方と正面から食い違うことになります。
賃貸人は上告し、あわせて上告受理の申立てをしました。上告理由は2つに分かれます。1つは消費者契約法10条が憲法29条1項に違反するというもので、これは上告理由として扱われます。もう1つは理由の不備・食違いをいうものでしたが、最高裁は、その実質は事実誤認または単なる法令違反の主張であって、民事訴訟法312条1項・2項の上告理由のいずれにも当たらないとしました。更新料条項が消費者契約法10条により無効かどうかという肝心の争点は、上告理由としてではなく、上告受理の申立てを受けて判断されています。
原審は更新料条項と定額補修分担金の特約をいずれも無効とした
3 原審は、上記事実関係の下で、本件条項及び定額補修分担金に関する特約は消費者契約法10条により無効であるとして、被上告人X1の請求を認容すべきものとし、上告人の請求をいずれも棄却すべきものとした。
※最高裁判所 2011-07-15 民集 65巻5号2269頁/裁時 1535号13頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1361号89頁/判時 2135号38頁/金法 1948号83頁/金商 1384号35頁/金商 1372号7頁
原審は更新料を、趣旨の不明瞭な一種の贈与的な性質の金銭とみた
ア 更新料の性質
更新料に賃料の補充又はその一部という性質があるとは認められない。
本件において、更新拒絶権の放棄が、更新料の対価となっているとまではいえないし、対価としての性質があるとしても、その意義は希薄で更新料の金額とは均衡していない。
また、本件更新料条項は法定更新の場合にも更新料を支払う旨のものであり、更新料に賃借権強化の対価の性質はない。
そうすると、更新料は、単に更新の際に賃借人が賃貸人に対して支払う金銭という意味合いの強い、趣旨不明瞭な部分の大きいもので、一種の贈与的な性質を有すると評価し得る。
※森冨義明『〔21〕 1 消費者契約法10条と憲法29条1項 2 賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項の消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」該当性』/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成23年度』法曹会平成26年12月10日p546
その余の上告理由は、上告理由には当たらない
2 その余の上告理由について
その余の上告理由は、理由の不備・食違いをいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
※最高裁判所 2011-07-15 民集 65巻5号2269頁/裁時 1535号13頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1361号89頁/判時 2135号38頁/金法 1948号83頁/金商 1384号35頁/金商 1372号7頁
5 判示|消費者契約法10条は憲法29条1項に違反しない(上告理由を排斥)
賃貸人の上告理由の第1点は、消費者契約法10条が財産権を保障する憲法29条1項に違反する、というものでした。最高裁はこれを、従前の判例の趣旨に徴して明らかだとして、1文で退けています。
引かれているのは2件です。平成14年2月13日の大法廷判決(民集56巻2号331頁)と、平成18年11月27日の第二小法廷判決(裁判集民事222号275頁)です。判例解説によれば、後者は学生納付金の返還請求訴訟で、損害賠償の予定等を定める条項の効力を制限する消費者契約法9条1号が憲法29条に違反しないことは大法廷判決の趣旨に徴して明らかだ、と判示したものでした。つまり先例が合憲としていたのは9条1号であって、10条ではありません。
判例解説は、最高裁が消費者契約法10条の憲法適合性について判断したのは、この判決が初めてだと書いています。
消費者契約法10条が憲法29条1項に違反しないことは、従前の判例の趣旨に徴して明らかである
1 上告理由のうち消費者契約法10条が憲法29条1項に違反する旨をいう部分について
消費者契約法10条が憲法29条1項に違反するものでないことは、最高裁平成12年(オ)第1965号、同年(受)第1703号同14年2月13日大法廷判決・民集56巻2号331頁の趣旨に徴して明らかである(最高裁平成17年(オ)第886号同18年11月27日第二小法廷判決・裁判集民事222号275頁参照)。論旨は採用することができない。
※最高裁判所 2011-07-15 民集 65巻5号2269頁/裁時 1535号13頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1361号89頁/判時 2135号38頁/金法 1948号83頁/金商 1384号35頁/金商 1372号7頁
先例が合憲としていたのは、損害賠償額の予定を制限する消費者契約法9条1号だった
なお、最二小判平成18年11月27日・裁判集民事222号275頁は、いわゆる学生納付金の返還請求訴訟において、消費者契約法2条3項に規定する消費者契約を対象として損害賠償の予定等を定める条項の効力を制限する同法9条1号が、憲法29条に違反するものでないことは、前掲最大判平成14年2月13日の趣旨に徴して明らかである旨の判示をする。
※森冨義明『〔21〕 1 消費者契約法10条と憲法29条1項 2 賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項の消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」該当性』/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成23年度』法曹会平成26年12月10日p559
10条の憲法適合性についての判断は、この判決が初めてだった
最高裁が消費者契約法10条の憲法適合性について判断したのは、本判決が初めてである。
※森冨義明『〔21〕 1 消費者契約法10条と憲法29条1項 2 賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項の消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」該当性』/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成23年度』法曹会平成26年12月10日p559
6 判示|更新料の性質=賃料の補充ないし前払・契約継続の対価等の複合的性質
更新料がどういう性質の金銭かは、長く争われてきた点です。最高裁はまず、その性質は本来、賃貸借契約の成立前後の当事者双方の事情や更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量して、具体的な事実関係に即して判断されるべきものだと述べます。そのうえで、更新料は賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であること、その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることの2点を挙げて、更新料は一般に複合的な性質を有すると解するのが相当だ、としました。
「一般に」という言葉が入っている点に、判例解説は注意を向けています。更新料をめぐる事件は請求額が少額であることが多く、個々の具体的な事情をある程度捨象した解釈が求められる——判例解説はそうした事情を述べたうえで、本判決があえて「一般に」と付したのはそれを考慮したものだろう、と読んでいます。
更新料がどのような性質の金銭かという論点そのものは、別の記事で説明しています。
更新料は一般に、賃料の補充ないし前払、契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有する
(1) 更新料は、期間が満了し、賃貸借契約を更新する際に、賃借人と賃貸人との間で授受される金員である。これがいかなる性質を有するかは、賃貸借契約成立前後の当事者双方の事情、更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量し、具体的事実関係に即して判断されるべきであるが(最高裁昭和58年(オ)第1289号同59年4月20日第二小法廷判決・民集38巻6号610頁参照)、更新料は、賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると、更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。
※最高裁判所 2011-07-15 民集 65巻5号2269頁/裁時 1535号13頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1361号89頁/判時 2135号38頁/金法 1948号83頁/金商 1384号35頁/金商 1372号7頁
「一般に」と付したのは、一律に解決できる法理が望ましいことを考慮したものとみられる
本判決が、あえて、更新料は、「一般に」、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当であるとしたのは、このことを考慮したものであろう。
※森冨義明『〔21〕 1 消費者契約法10条と憲法29条1項 2 賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項の消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」該当性』/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成23年度』法曹会平成26年12月10日p552
7 判示|消費者契約法10条前段の「任意規定」=明文・一般的な法理→義務の加重
消費者契約法10条は、消費者契約の条項が無効となる要件を2つ定めています。1つは、民法などの任意規定の適用による場合に比べて消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重するものであること。もう1つは、民法1条2項に規定する基本原則、すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであることです。判例解説はこの2つを便宜上、前段要件・後段要件と呼んでおり、この記事でも以下そう呼びます。
前段要件でいう「任意規定」に明文の規定だけが含まれるのか、不文の法理も含まれるのかは、見解の分かれていたところでした。最高裁は、明文の規定のみならず一般的な法理等も含まれる、と解しました。そのうえで、賃貸借契約は賃貸人が物件を賃借人に使用させることを約し、賃借人がこれに対して賃料を支払うことを約することによって効力を生ずる(民法601条)のだから、更新料条項は一般的には賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるもので、任意規定の適用による場合に比べて賃借人の義務を加重するものに当たる、と判断しています。
任意規定には明文の規定のみならず一般的な法理等も含まれる
ア 消費者契約法10条は、消費者契約の条項を無効とする要件として、当該条項が、民法等の法律の公の秩序に関しない規定、すなわち任意規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重するものであることを定めるところ、ここにいう任意規定には、明文の規定のみならず、一般的な法理等も含まれると解するのが相当である。そして、賃貸借契約は、賃貸人が物件を賃借人に使用させることを約し、賃借人がこれに対して賃料を支払うことを約することによって効力を生ずる(民法601条)のであるから、更新料条項は、一般的には賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の義務を加重するものに当たるというべきである。
※最高裁判所 2011-07-15 民集 65巻5号2269頁/裁時 1535号13頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1361号89頁/判時 2135号38頁/金法 1948号83頁/金商 1384号35頁/金商 1372号7頁
本判決は、対立していた2つの見解のうち、一般的な法理も含むとする側を採った
本判決は、ここにいう任意規定には、明文の規定のみならず、一般的な法理等も含まれると解するのが相当であるとして、後者の見解を採用することを明らかにした上、賃貸借契約は、賃貸人が物件を賃借人に使用させることを約し、賃借人がこれに対して賃料を支払うことを約することによって効力を生ずる(民法601条)のであるから、更新料条項は、一般的には賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の義務を加重するものに当たるとした。
※森冨義明『〔21〕 1 消費者契約法10条と憲法29条1項 2 賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項の消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」該当性』/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成23年度』法曹会平成26年12月10日p554
8 判示|消費者契約法10条後段の判断枠組み→更新料条項についての基準
残るのは後段要件です。最高裁はここで2段構えの説示をしています。まず、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するかどうかを何によって判断するのかという一般的な枠組みを示し、次にそれを更新料条項という類型に当てはめて、どういう場合には後段要件に当たらないのかという基準を導きました。
なお、後段要件と民法1条2項との関係については、この規定が民法のもとでも無効となる条項を確認したにすぎないのか、民法のもとでは必ずしも無効とされない条項まで無効にできるのかという議論があります。この判決は、そこまで踏み込んでいません。この議論そのものは、別の記事で説明しています。
(1)信義則違反→条項の性質・契約の経緯・情報の質量・交渉力の格差の総合考量
一般的な枠組みは、次のとおりです。消費者契約法の趣旨・目的に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量ならびに交渉力の格差、その他諸般の事情を総合考量して判断する、というものです。条項の中身だけでなく、その契約がどうやって結ばれたのかまで見る形になっています。
消費者契約法の趣旨、目的に照らし、諸般の事情を総合考量して判断する
イ また、消費者契約法10条は、消費者契約の条項を無効とする要件として、当該条項が、民法1条2項に規定する基本原則、すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであることをも定めるところ、当該条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは、消費者契約法の趣旨、目的(同法1条参照)に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきである。
※最高裁判所 2011-07-15 民集 65巻5号2269頁/裁時 1535号13頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1361号89頁/判時 2135号38頁/金法 1948号83頁/金商 1384号35頁/金商 1372号7頁
(2)一義的かつ具体的な記載→高額に過ぎる等の特段の事情なき限り後段要件に当たらない
これを更新料条項という類型に当てはめるにあたり、最高裁は3つのことを挙げます。更新料が複合的な性質を有する以上、その支払におよそ経済的合理性がないなどということはできないこと。一定の地域で、期間満了の際に賃借人が賃貸人へ更新料を支払う例が少なからずあることは公知であること。そして、裁判上の和解手続等においても、更新料条項を当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であること。そこから、契約書に一義的かつ具体的に記載され、支払について明確な合意が成立している場合には、情報の質及び量ならびに交渉力について看過し得ないほどの格差があるとはみられない、と述べます。
そのうえで示されたのが、この判決の中心となる基準です。
一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り当たらない
更新料条項についてみると、更新料が、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有することは、前記(1)に説示したとおりであり、更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできない。また、一定の地域において、期間満了の際、賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや、従前、裁判上の和解手続等においても、更新料条項は公序良俗に反するなどとして、これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると、更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に、賃借人と賃貸人との間に、更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。
そうすると、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。
※最高裁判所 2011-07-15 民集 65巻5号2269頁/裁時 1535号13頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1361号89頁/判時 2135号38頁/金法 1948号83頁/金商 1384号35頁/金商 1372号7頁
9 あてはめ——最高裁は原判決を破棄・本件の更新料条項は有効
ここからは、最高裁がこの事件をどう処理したかです。食い違っていたのは更新料の見方でした。原審は更新料を趣旨の不明瞭な贈与的な金銭とみて、条項を無効としています。最高裁は更新料を複合的な性質の金銭とみたうえで、前に見た基準に照らして本件の条項を見ました。
結論は、本件の更新料条項を消費者契約法10条により無効とした原審の判断は是認することができない、というものです。原判決のうち定額補修分担金の返還請求に関する部分を除く部分は破棄され、最高裁がみずから判決をしました。順に見ていきます。
(1)賃料2か月分・1年ごと→高額に過ぎる等の特段の事情なし
本件の条項は契約書に一義的かつ明確に記載されており、内容は更新料の額を賃料の2か月分とし、賃貸借契約が更新される期間を1年間とするものでした。最高裁は、これについて特段の事情が存するとはいえない、としています。額そのものが相当かどうかを正面から論じたのではなく、示した基準にいう特段の事情に当たるかを見た、という運びです。
本件条項は一義的かつ明確に記載され、特段の事情が存するとはいえない
(3) これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件条項は本件契約書に一義的かつ明確に記載されているところ、その内容は、更新料の額を賃料の2か月分とし、本件賃貸借契約が更新される期間を1年間とするものであって、上記特段の事情が存するとはいえず、これを消費者契約法10条により無効とすることはできない。
※最高裁判所 2011-07-15 民集 65巻5号2269頁/裁時 1535号13頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1361号89頁/判時 2135号38頁/金法 1948号83頁/金商 1384号35頁/金商 1372号7頁
(2)借地借家法30条の「建物の賃借人に不利なもの」にも当たらない
賃借人は借地借家法30条による無効も主張していました。同条は、建物の賃貸借の更新などについての規定に反する特約で、建物の賃借人に不利なものを無効とするものです。最高裁はこれも、これまで説示したところによれば本件の条項がこれに当たるということもできない、として1文で退けています。理由として置かれているのは「これまで説示したところによれば」の一句だけで、更新料の性質についての判示がそのまま効いた形です。
本件条項は、借地借家法30条にいう建物の賃借人に不利なものということもできない
また、これまで説示したところによれば、本件条項を、借地借家法30条にいう同法第3章第1節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものということもできない。
※最高裁判所 2011-07-15 民集 65巻5号2269頁/裁時 1535号13頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1361号89頁/判時 2135号38頁/金法 1948号83頁/金商 1384号35頁/金商 1372号7頁
(3)主文——更新料の返還請求は棄却・未払更新料7万6000円の支払命令
主文は5項に分かれます。原判決のうち定額補修分担金の返還請求に関する部分を除く部分が破棄され、その部分についての第1審判決も取り消されました。賃借人の更新料返還請求は棄却され、賃借人と連帯保証人は連帯して7万6000円と、催告の後である平成19年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう命じられています。定額補修分担金の返還請求に関する部分についての上告は、却下されました。残る1項は、訴訟の総費用の負担についてのものです。
更新料の返還請求には理由がなく、未払更新料の請求には理由がある
以上説示したところによれば、原判決中、被上告人X1の定額補修分担金の返還請求に関する部分を除く部分は破棄を免れない。そして、前記認定事実及び前記第2の4に説示したところによれば、更新料の返還を求める被上告人X1の請求は理由がないから、これを棄却すべきであり、また、未払更新料7万6000円及びこれに対する催告後である平成19年9月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める上告人の請求には理由があるから、これを認容すべきである。なお、被上告人X1の定額補修分担金の返還請求に関する部分についての上告は却下することとする。
※最高裁判所 2011-07-15 民集 65巻5号2269頁/裁時 1535号13頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1361号89頁/判時 2135号38頁/金法 1948号83頁/金商 1384号35頁/金商 1372号7頁
原判決の破棄と、7万6000円および遅延損害金の支払命令
1 原判決中、被上告人X1の定額補修分担金の返還請求に関する部分を除く部分を破棄し、同部分に係る第1審判決を取り消す。
2 前項の部分に関する被上告人X1の請求を棄却する。
3 上告人のその余の上告を却下する。
4 被上告人らは、上告人に対し、連帯して、7万6000円及びこれに対する平成19年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
※最高裁判所 2011-07-15 民集 65巻5号2269頁/裁時 1535号13頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1361号89頁/判時 2135号38頁/金法 1948号83頁/金商 1384号35頁/金商 1372号7頁
10 決めていないこと——定額補修分担金の特約・高額の線・消費者でない賃借人
判決が判断したのは、目の前の事案についてです。この判決が決めていないことを3つ挙げておきます。
1つは、定額補修分担金の特約です。賃借人はこの特約も消費者契約法10条により無効だと主張し、第1審も原審もその主張を容れていました。ところが賃貸人は、この部分については上告受理の申立てをしたものの、理由を記載した書面を提出しませんでした。そのため、この部分についての上告は却下され、最高裁はこの特約の有効性を判断していません。原判決のうちこの部分は、破棄されずに残っています。
2つめは、どこからが「高額に過ぎる」のかという線です。判決は、本件の賃料2か月分・1年ごとについて特段の事情はないと述べただけで、基準となる額や倍率を示していません。判例解説は、同じ日に同じ第二小法廷が同旨の判示をして更新料条項の効力を肯定した事件がほかに2件あり、いずれも公刊物には載っていないと書いています。その2件は、賃料月額4万5000円で更新料10万円・1年更新の事案と、賃料月額5万2000円で更新料2か月分・2年更新の事案でした。基準の適用例がどのあたりにあるかは読み取れますが、線そのものはこの判決が述べたことではありません。
3つめは、賃借人が消費者でない場合です。この判決は、賃貸借契約と連帯保証契約がいずれも消費者契約法にいう消費者契約に当たることを前提にしています。賃借人が事業者や法人であって消費者契約法が適用されない場合に、同じ枠組みがどう及ぶのかは、この判決が述べたことではありません。前述した、後段要件と民法1条2項との関係をどう理解するかも、この問いに関わってきます。
定額補修分担金の返還請求に関する部分は、理由を記載した書面が提出されなかった
なお、上告人は、被上告人X1の定額補修分担金の返還請求に関する部分についても、上告受理の申立てをしたが、その理由を記載した書面を提出しない。
※最高裁判所 2011-07-15 民集 65巻5号2269頁/裁時 1535号13頁/裁判所ウェブサイト/判タ 1361号89頁/判時 2135号38頁/金法 1948号83頁/金商 1384号35頁/金商 1372号7頁
同じ日に、同旨の判示をした更新料の事件が2件あり、いずれも公刊物不登載
本件と同種事案に係る最二小判平成23年7月15日(平成21年(オ)第1744号、同年(受)第2078号)、最二小判平成23年7月15日(平成22年(受)第243号。
いずれも公刊物不登載)も、本判決と同旨の判示をし、更新料条項の効力を肯定している。
※森冨義明『〔21〕 1 消費者契約法10条と憲法29条1項 2 賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項の消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」該当性』/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成23年度』法曹会平成26年12月10日p559
その2件は賃料4万5000円で更新料10万円、賃料5万2000円で更新料2か月分の事案だった
ちなみに、本判決と同旨の判示をして更新料条項の効力を肯定した前掲最二小判平成23年7月15日(平成21年(オ)第1744号、同年(受)第2078号)は、賃料月額4万5000円、更新料10万円(約2.2か月分)、1年更新の事案であり、前掲最二小判平成23年7月15日(平成22年(受)第243号)は、賃料月額5万2000円(その後月額5万円に変更)、更新料2か月分(その後旧賃料の1か月分に変更)、2年更新の事案である。
※森冨義明『〔21〕 1 消費者契約法10条と憲法29条1項 2 賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項の消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」該当性』/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成23年度』法曹会平成26年12月10日p566
11 おわりに
平成23年7月15日の最高裁判決は、建物賃貸借の更新料条項について、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載されていれば、更新料の額が高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り消費者契約法10条によって無効とはならない、という基準を示したものです。第1審と原審がいずれもこれを無効としたのを、破棄しての判断でした。あわせて、消費者契約法10条が憲法29条1項に違反しないことも、最高裁として初めて判断しています。
この判決が示した基準が実際にどのように使われ、更新料が支払われなかったときに賃貸借契約を解除できるのかは、別の記事で説明しています。
建物賃貸借の更新料特約の有効性判断基準と不払いによる解除の効力
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。
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