【公共事業・土地の強制収容|事業認定・収用裁決・補償金・行政訴訟】

1 公共事業・土地の収用|任意買収/強制収容
2 公共事業・用地取得|任意買収が優先・強制収容は最終手段
3 土地の強制収容|手続の流れ
4 事業認定|要件=『公共事業』として必要性が高いこと
5 収用裁決|要件=原則的に収用は認められる
6 土地収用の補償金の評価・算定(概要)
7 公共事業への反対派→行政処分・裁決取消訴訟
8 行政側からの強制的手段|行政代執行
9 交渉の超長期化→コミュニティ崩壊→買収コスト抑制現象|八ッ場ダム

1 公共事業・土地の収用|任意買収/強制収容

公共事業において,用地を取得することは大きなプロジェクトとなります。
取得の方法は大きく2種類に分けられます。
任意に買い取る方法と強制的に『収用』するものです。

<公共事業・土地の取得|任意買収>

公共用地を,当事者の合意に基づく民法上の売買(契約)の形式で取得すること
※今村成和『損失補償制度の研究』有斐閣p145

<公共事業・土地の取得|強制収用>

あ 『収用』の意味

公益事業に必要な土地に対し,起業者が,所有権・使用権を強制的に取得すること
※土地収用法2条

い 起業者の典型例

国・地方公共団体

う 語法

法律上は『収用』である
一般的には『強制収容』と呼ぶことも多い

2 公共事業・用地取得|任意買収が優先・強制収容は最終手段

公共事業での用地取得は『任意』と『強制的』な方法があります(前述)。
通常は『任意買収』を優先し,交渉が長期化する傾向があります。
実例は後述します。

<公共事業・用地取得|任意・強制手段の組み合わせ>

あ 原則=任意買収

任意買収を優先する
権利者との交渉から始める
『強制収容』の手続と平行して任意交渉も継続する

い 最終手段=収用

交渉未了が残りわずかという段階で『強制収容』を検討する

3 土地の強制収容|手続の流れ

土地の収用の手続全体の流れをまとめます。

<事前準備段階>

あ 事業の説明会開催

起業者
※土地収用法15条の14

<事業認定段階>

内容=主に事業の公益性の認定(後記)

い 事業認定の申請

起業者→国土交通大臣
※土地収用法18条

う 申請書の公告・縦覧

市町村
縦覧期間=2週間
※土地収用法24条

え 公聴会

主催=国土交通大臣
※土地収用法23条

お 社会資本整備審議会・意見聴取

国土交通大臣
※土地収用法25条の2

か 事業認定の告示

国土交通大臣
※土地収用法26条

<現地調査段階>

き 土地・物件の立入調査

起業者
※土地収用法35条

く 土地調書・物件調書の作成

起業者
※土地収用法36条

け 裁決申請書の作成

起業者
※土地収用法40条

<強制収用段階>

収用委員会による審査手続
収用委員会=都道府県に置かれる行政委員会
主な審査内容=補償金額の確定(後記)

こ 裁決の申請

起業者→収用委員会
※土地収用法39条

さ 収用委員会・審理

収用委員会
※土地収用法46条

し 権利取得裁決・明渡裁決

収用委員会
※土地収用法48条,49条

<権利移転・明渡段階>

す 補償金の支払い

『払渡』or『供託』
起業者→土地所有者など
※土地収用法95条,97条

せ 権利取得・明渡

権利取得時期=『権利取得裁決』で定められている
起業者・土地所有者
※土地収用法101条,102条

4 事業認定|要件=『公共事業』として必要性が高いこと

土地収用の前提は,いわゆる『公共事業』です。
文字どおり『公共性』を中心に事業として適切かどうかが審査されます。

<事業認定|要件>

次のすべてに該当すること

あ 『公共事業』の類型である

土地収用法3条各号に規定されている

い 起業者が事業を遂行する充分な意思と能力を有する
う 事業計画が土地の適正かつ合理的な利用に寄与する
え 土地を収用しor使用する『公益上の必要』がある

※土地収用法20条

『事業認定』は,訴訟で適法性が判断されることが多いです。
判断基準の大原則をまとめておきます。

<行政処分の適法性|基準>

裁量の逸脱・濫用である場合に限って違法となる
※最高裁昭和50年5月29日;群馬中央バス事件
※最高裁昭和53年5月26日;ソープランド出店事件
※最高裁昭和53年10月4日;マクリーン事件
※最高裁平成4年10月29日;伊方原発事件
※最高裁平成9年1月28日;収用補償金増額

5 収用裁決|要件=原則的に収用は認められる

『収用』の最終的な審査は『収用裁決』です。
この段階では『既に事業認定をパスした後』です。
そこでイレギュラーな事情がない限りは『収用裁決』もパスすることになります。
ただし『補償金の金額』について見解の対立が生じることはよくあります(後記)。

<収用裁決|要件>

あ 『却下』裁決の事由

ア 事業が『告示された事業』と異なるイ 事業計画が事業認定申請時の計画と著しく異なるウ 土地収用法に違反する ※土地収用法47条

い 収用・使用の裁決|要件

『却下裁決の事由(『あ』)』に該当しない
→収用or使用の裁決を行う
→具体的には『権利取得裁決・明渡裁決』である
※土地収用法48条

6 土地収用の補償金の評価・算定(概要)

土地収用で実際に問題になりやすいのは補償金の金額です(前述)。
補償金の金額の算定方法は法令で定められています。補償金の基本的な内容やその中の営業補償については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|土地の強制収容における営業補償(損失補償)の意味や内容
また,ベースとなる不動産の評価については,他の公的な評価基準と同様のものとなっています。
各種の評価の説明については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|土地の公的評価額の種類(1物4価(5価)・実勢価格との比率)
詳しくはこちら|借地の明渡料の相場|訴訟と交渉の違い|借地権価格・正当事由充足割合
詳しくはこちら|賃貸建物の明渡料の金額の基本(考慮する事情・交渉での相場)

7 公共事業への反対派→行政処分・裁決取消訴訟

行政の審査・判断の内容に不服があるというケースもよくあります。
この場合,当事者としては行政訴訟によって,裁判所の判断をもらうことが可能です。
具体的には『事業認定・収用裁決』の違法性を主張し,取消を請求する訴訟です。
判例については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|公共事業×適法性・判例|原則的に適法|違法+事情判決もある

8 行政側からの強制的手段|行政代執行

収用裁決(権利取得裁決・明渡裁決)がなされた後に,住人が明け渡さないこともあります。
つまり,住人が退去せずに居座る,というケースです。
この場合は,行政サイドから『強制的な明渡』を実現する手段があります。
『行政代執行』という手続です。
『裁判所を通さなくても実行できる』という特徴があります。
一般の民間の強制執行よりも大幅に手続が簡略化されているのです。
詳しくはこちら|道路の不法占有|行政による解消|除去命令+行政代執行|大阪たこ焼き屋台事件

9 交渉の超長期化→コミュニティ崩壊→買収コスト抑制現象|八ッ場ダム

実際には交渉が長期化する傾向があります(前述)。
想定外の長期間に至った実際のケースを紹介します。
長期化の結果,買収コストが抑制されたという現象が生じています。

<任意交渉の超長期化→コミュニティ崩壊|事例|八ッ場ダム>

あ 概要

公共事業の用地取得の任意交渉が超長期に渡った
川原湯温泉街の旅館などの住人は強固な反対派であった
長期化するにつれて,反対派内部に『補償+転居』に応じる者が現れた
疑心暗鬼的なムードが生じた
次々と任意買収に応じる住人が続いた
結果的に,任意交渉だけでほぼ転居が完了するに至った

い 八ッ場ダムの歴史|概要

昭和27年 計画発表
昭和42年 ダム建設を決定した
平成26年9月24日 JR川原湯温泉駅・旧駅舎廃止
吾妻線が新線に移転
→樽沢トンネルが廃止された
全長約7.2メートルの日本一短い鉄道トンネルであった
この時点で旧川原湯温泉街で営業する旅館は1件となっていた

公共用地の取得については好ましくない実例として有名になっています。

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