【遺言代用信託(受益者連続型信託)の活用事例と相続税の課税】

1 遺言代用信託と受益者連続信託の意味
2 受益者連続型信託の活用方法の例
3 受益者連続型信託の事業承継への活用例
4 『受益者連続型信託』の活用事例|幼少の後継者が就任するまでの『つなぎ登板』
5 受益者連続信託|当事者|『30年後に生存している者』に限定される
6 受益者連続型信託への遺留分の適用(概要)
7 受益者連続信託の税務上の注意点
8 受益者連続型信託は長期化するので他にも注意すべきことがある

1 遺言代用信託と受益者連続信託の意味

一般的に信託は,関係者の利用する範囲,時期などの設定の自由度が高いです。
多くの設定が可能ですが,その類型として遺言代用信託受益者連続型信託というものがあります。
委託者や受託者の死亡によって受益者が変更される,という設定の信託のことです。

<遺言代用信託と受益者連続信託の意味>

あ 遺言代用信託

委託者の死亡の時に受益権を取得する定めがある信託
※信託法90条

い 受益者連続型信託

受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する定めがある信託
※信託法91条

遺言代用信託の典型例は,委託者が亡くなった時受益権が相続人に移転するというものです。
遺言により相続の承継内容を定めておくことと似ているので遺言代用信託と呼ぶのです。
実際には,遺言代用信託受益者連続型信託の両方に該当する信託もよくあります。後継ぎ遺贈型信託と呼ぶこともあります。
以下,主に受益者連続型信託について説明します。

2 受益者連続型信託の活用方法の例

受益者連続型信託は,具体的な活用方法がいくつかあります。

<受益者連続型信託の活用方法の例>

ア 遺言代用信託 受益者連続型信託と遺言代用信託の両方に該当する信託(前記)
イ 遺留分対策ウ 事業承継

信託は,遺留分侵害になる状態を回避したり,家業の会社支配権を承継させる方法として活用することも多いです。
つまり,これらの活用方法は重複する実例が多いのです。
事業承継への活用について,次に説明します。

3 受益者連続型信託の事業承継への活用例

受益者連続型信託事業承継に活用する具体例を説明します。

<受益者連続型信託の事業承継への活用例(※1)

あ 前提事情

現在は,会社の株式をAが所有している
会社の実質的な経営者もAである

い 信託契約の内容

この株式を他の方(受託者)に譲渡する
信託財産=株式
実質的な財産権である受益権はA自身が持つ
Aが亡くなった時には,受益権は(A→)長男とする
長男が亡くなった時には,受益権は(長男→)次男とする

Aが亡くなった後,受益権は長男が持つことになります。
信託財産は株式なので,受益者が株式の議決権を行使できます。
長男が経営権を握れることになります。

4 『受益者連続型信託』の活用事例|幼少の後継者が就任するまでの『つなぎ登板』

受益者連続型信託を『つなぎ登板』として使う方法を紹介します。

<つなぎ登板|信託契約の内容>

この株式を他の方(受託者)に譲渡する
信託財産=株式
実質的な財産権である受益権はAの妻が持つ
Aが亡くなった時には,受益権は(妻→)長男とする

実際にAの生前に,長男が経営できる状態になった場合,変更として受益権を長男に移転することもできます。
この方法におけるは,本来的な経営者ではなく,つなぎとしての暫定的役割です。
なお,仮に単純にAから妻に株式を譲渡すると一定のデメリットがあります。
Aが株式を処分できることや,仮にAが亡くなった時にAの相続人に株式が渡ってしまうことです。
この点,上記の信託を用いた方法であれば,このような不都合を回避できます。

5 受益者連続信託|当事者|『30年後に生存している者』に限定される

受益者連続信託では受益権の承継について,指定する期間の制限について説明します。

(1)受益権の承継者の範囲

信託法上,信託行為から30年後に存在している者,が受益権の承継者としての範囲です(信託法91条)。
受益権を承継する者が信託行為から30年後の時点で存在している必要があります。

(2)承継する時期

承継するタイミングについては制限はありません。
実際に受益権を承継するタイミング(信託行為から)30年後よりもさらに後で構いません。

(3)現在存在しない者も対象となる

信託行為の時点では存在してない人物,が将来受益権を承継することは可能です。
典型的なのは,まだ誕生していないを設定する例です。
ただし,信託行為から30年経過時点で存在していることが前提です。
信託行為から30年後,の時点でエントリーが必要,と考えても良いです。

(4)承継する回数

受益権の承継する回数に制限はありません。
以上の期間制限の範囲内であれば,『承継』の回数に制限はありません。
例えば『委託者(当初の財産所有者)→配偶者→長男→次男→孫』など,数次にわたる承継も可能です。

6 受益者連続型信託への遺留分の適用(概要)

受益者連続型信託の内容によっては遺留分侵害として遺留分減殺請求がなされることもあり得ます。
遺留分の適用については,いろいろな細かい問題があり,解釈が統一されていないものも多いです。
詳しくはこちら|受益者連続型信託(後継ぎ遺贈型信託)への遺留分の適用

7 受益者連続信託の税務上の注意点

受益者連続型信託を利用した場合,税務上の扱いに注意が必要です。
税務では,受益者が変更となると,(無償での)財産の移転として捉えます。
詳しくはこちら|信託の受益権や残余財産の取得による相続税や贈与税の課税
受益者連続型信託では,死亡によって無償で受益権(財産)が移転したと考えて相続税が課税されるのです。

<受益者連続型信託×税務>

あ 前提事情

前記※1と同じ事例とする

い 基本的解釈

税務上は『100%の受益権がA→長男→次男に移転する』と考える

う 解釈の内容

ア 1次移転 A→長男の時点で100%の受益権(信託財産である株式)が相続税の対象となる
イ 2次移転 将来の長男→次男という相続の時点
100%の受益権が相続税の対象となる
※相続税法9条の3
※相続税法基本通達9の3−1(1)

え まとめ

遺留分算定基礎財産には入らないけど税法上相続財産とみなされる

お 同様の税務上の扱い

『遺留分キャンセラー』3種も共通である
詳しくはこちら|遺留分対策;遺留分キャンセラー,緩和策,税務の扱い

1ステップ分を省略する,という節税効果は一切生じません。
民法上と税法上の扱いが明確に異なるので注意が必要です。

8 受益者連続型信託は長期化するので他にも注意すべきことがある

受益者連続型信託は,複数世代にわたって存続することが想定されています。
長期間継続するのが通常なのです。
そこで,将来的に生じることについて類型的に対策を取っておくと良いです。
別記事に説明しています。
詳しくはこちら|遺言代用信託|受益者連続型信託の活用・税務の扱い・遺言信託との違い

本記事では,遺言代用信託や受益者連続型信託を活用する典型例や課税の問題を説明しました。
実際に遺言代用信託や受益者連続型信託の設計をお考えの方や,既に作られた信託の遂行の場面で問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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