【相続における生命保険金の扱いの全体像(相続財産・特別受益・遺留分)】

1 相続における生命保険金の扱いの全体像
2 被相続人自身が受取人である生命保険金の相続財産性
3 相続人が受取人である生命保険金の具体例
4 相続人が受取人である生命保険金の相続財産性
5 生命保険金の特別受益性の判断(平成16年判例・概要)
6 生命保険金の特別受益性の判断基準の曖昧さ
7 平成16年判例の後の判断の傾向(概要)
8 生命保険金の特別受益性を肯定した時の持戻額
9 生命保険金の遺留分における扱い(平成14年判例・概要)
10 特別受益と遺留分に関する判断の比較
11 遺留分侵害額の計算における生命保険金の扱い
12 相続時の生命保険の調査(参考)
13 相続における死亡退職金・遺族年金・弔慰金の扱い(参考・概要)

1 相続における生命保険金の扱いの全体像

生命保険の被保険者が亡くなると、受取人が保険金請求権を持ち、その結果、生命保険金を受け取ることになります。
この生命保険金(請求権)は、相続の際に法律的な扱いについて見解の対立が生じやすいです。具体的には相続財産や特別受益に該当するかどうか、遺留分に関してどのように扱うか、という見解です。
本記事では、相続における生命保険金のこのようないろいろな法的扱いについて全体的に説明します。

2 被相続人自身が受取人である生命保険金の相続財産性

まずは、受取人被相続人自身となっているケースについて説明します。この場合、一般的に、保険金は相続財産として扱われます。

<被相続人自身が受取人である生命保険金の相続財産性>

あ 相続財産とする解釈

被相続人自身が受取人となっていた生命保険金について
生命保険金を相続財産とする
この見解が実務では一般的である
※安達龍雄/『民商法雑誌42巻2号』有斐閣p129
※泉久雄『相続財産』/『総合判例研究叢書 民法26』有斐閣p167

い 反対説

生命保険金を相続財産に含めない
※遠藤浩『相続財産の範囲』/『家族法大系6 中川善之助教授還暦記念』有斐閣p184

3 相続人が受取人である生命保険金の具体例

実際に問題となりやすいのは受取人相続人(の1人)であるというケースです。とても多くの判例や学説などの解釈論があります。
まずは、典型的な状況の具体例をまとめておきます。

<相続人が受取人である生命保険金の具体例>

Aは生命保険に加入していた
A自身が被保険者となっている
生命保険の保険料はAが支払っていた
Aが亡くなった
死亡保険金の受取人はBとなっていた
BはAの子(相続人)である

4 相続人が受取人である生命保険金の相続財産性

相続人が生命保険金を受け取ったケースでは、保険金を相続財産としては扱いません。最高裁判例もあり、ほぼ見解は統一されているといえましょう。

<相続人が受取人である生命保険金の相続財産性>

あ 性格の分析

受取人である相続人が受け取った生命保険金について
次のような事情がある
ア 『被相続人名義の財産』が移転したわけではないイ 保険契約という『第三者との契約により発生』した支払であるウ 単にその支払のタイミングが被相続人の死亡だっただけである

い 一般的な判断(判例)

受取人(相続人)の固有財産である
相続財産には該当しない
※最高裁平成16年10月29日
※最高裁昭和48年6月29日(交通事故傷害保険のうち被保険者死亡の際の保険金について)
※最高裁昭和40年2月2日(養老保険契約における被保険者死亡の場合の保険金について)
※大判昭和11年5月13日
※福岡家裁昭和41年9月29日
※伊沢孝平『保険法』青林書院p350
※大森忠夫ほか『生命保険契約法の諸問題』有斐閣p227
※於保不二雄ほか『注釈民法(25)』有斐閣p186

5 生命保険金の特別受益性の判断(平成16年判例・概要)

前述のように、相続人が生命保険金を受け取っても相続財産としては扱わないので、相続人の間で不公平となります。そこで、特別受益にあたるのではないか、という発想があります。
以前はいろいろな解釈がありましたが、平成16年の最高裁判例が判断基準を示し、解釈を統一しました。簡単にいうと、原則として特別受益にはあたらないけれど、事情によっては例外的に特別受益として扱う、という判断です。詳しい内容は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|相続人が受取人の生命保険金の特別受益該当性

6 生命保険金の特別受益性の判断基準の曖昧さ

前述のように平成16年判例が、生命保険金が特別受益に該当するかどうかの判断基準を示しましたが、結局、具体的な事案について、例外にあたるかどうかという判定を確実にできるわけではありません。つまり具体的事案における予想の精度が高くないです。これについては問題点として批判的な指摘がなされています。

<生命保険金の特別受益性の判断基準の曖昧さ>

法律の素人である一般市民が遺産分割協議で参照できるような判断基準が明らかであるとは言い難い
※中川忠晃『判批』/『判例タイムズ1234号』2007年5月p64

7 平成16年判例の後の判断の傾向(概要)

前述のように、平成16年判例の判断基準の中の例外(特段の事情)にあたるかどうかは曖昧なところがありますが、実際にこの判断をした裁判例が蓄積されつつあります。
大きな傾向としては、相続財産と保険金の比率で判定できるといえます。平成16年判例の後の裁判例については別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|生命保険金の特別受益該当性(比率に着目した判断の整理)

8 生命保険金の特別受益性を肯定した時の持戻額

例外的に、生命保険金を特別受益として扱うと判断された場合には、また別の問題があります。特別受益としてカウントする範囲、つまり持ち戻す金額(計算方法)について、複数の解釈があるのです。見解のバリエーションを整理します。

<生命保険金の特別受益性を肯定した時の持戻額>

あ 前提事情

相続人が受け取った生命保険金について
特別受益に該当すると判断した場合
→持戻額について次のような複数の見解がある

い 支払保険料説

被相続人が支払った保険料(掛金)の金額とする
※岡岩雄『実務から見た家族法入門』日本加除出版p217

う 保険金額説

保険金額(受領額)とする
※中川善之助『註釈相続法(上)』有斐閣p253
保険金額を基準にするのが原則である
※土谷裕子『最高裁判所判例解説民事篇平成16年度』法曹会p634

う 死亡時解約金説

死亡時における解約返戻金額とする
※遠藤浩『相続財産の範囲』/『家族法大系6 中川善之助教授還暦記念』有斐閣p180

え 相続税法3条1項1号準用説

次の算定による
払戻額
=保険金 × (被相続人が負担した保険料/保険料の全額)
※大阪家裁昭和51年11月25日
※宇都宮家裁栃木支部平成2年12月25日

9 生命保険金の遺留分における扱い(平成14年判例・概要)

生命保険が特別受益にあたるかどうか、とは別の問題として、遺留分に関してどのように扱うか、という問題があります。これについては平成14年に最高裁が判断を示しました。平成14年判例は、遺留分算定基礎財産や遺留分減殺請求(平成30年改正前)の対象としては扱わないという判断を示しました。
詳しくはこちら|相続人が受取人の生命保険金の遺留分における扱い(改正前後)

10 特別受益と遺留分に関する判断の比較

以上のように、生命保険金について、平成14年判例が遺留分に関する判断を、平成16年判例が特別受益に関する判断を示しています。
このうち平成16年判例(特別受益)だけが例外も示しています。
ところで、特別受益にあたる贈与(などの無償処分)は遺留分にも反映されるという扱いがあります。そこで、特別受益と遺留分では、生命保険金の判断が違うのか、同じなのか、という疑問が出てきます。性質的に違うところもあるけれど、同じ扱いとする合理性もあります。結局、今の時点では統一的な見解はないといえます。

<特別受益と遺留分に関する判断の比較>

あ 特別受益と遺留分の関係(前提・概要)

ア 平成30年改正前 原則として特別受益は遺留分算定基礎財産とする
※最高裁平成10年3月24日
イ 改正後 特別受益にあたる贈与を遺留分算定基礎財産とすることが明文化された
※民法1044条3項
詳しくはこちら|遺留分算定基礎財産に含める生前贈与(平成30年改正による変更)

い 特別受益と遺留分の判断の同質性

平成14年判例(遺留分)が指摘する理由は、死亡保険金請求権が特別受益に該当するか否かを考えるに当たってもあてはまるものである
※『最高裁判所判例解説 民事篇 平成14年度』法曹会2005年p941
平成14年判例(遺留分)の死亡保険金請求権についての法理は、基本的に特別受益該当性を検討する際にも妥当すると思われる
※『最高裁判所判例解説 民事篇 平成16年度』法曹会2007年p630

う 特別受益と遺留分の判断の相違点

平成14年判例(遺留分)は、特別受益に該当するか否かについては射程が及ばない
※『最高裁判所判例解説 民事篇 平成14年度』法曹会2005年p941、942
(平成14年判例(遺留分)が遺留分についての判断を示したが、その後も)
死亡保険金請求権が特別受益として持戻しの対象となるかどうかについては、当審の判例はなく、残された問題となっていた
※『最高裁判所判例解説 民事篇 平成16年度』法曹会2007年p623、624
特別受益については(遺留分とは異なり)共同相続人間の公平という観点からも検討する必要がある
※『最高裁判所判例解説 民事篇 平成14年度』法曹会2005年p941
死亡保険金請求権が特別受益に準ずるものとして扱われる場合には、それが遺留分減殺請求の対象になるかは今後に残された問題である
※『最高裁判所判例解説 民事篇 平成16年度』法曹会2007年p632

11 遺留分侵害額の計算における生命保険金の扱い

前述のように、平成14年判例は生命保険金を遺留分に反映させることを否定しましたが、平成16年判例(特別受益)のように例外的に遺留分に反映させる可能性もあるといえます。
では、個別的事情によって(特別受益と同じように)生命保険金を遺留分算定基礎財産に含めるとした場合にはまた別の問題が出てきます。
平成30年改正前であれば、遺留分減殺請求、改正後であれば遺留分侵害額の負担の順序について、遺贈・贈与との先後をどうするかという問題です。これについても統一的な見解はありません。

12 相続時の生命保険の調査(参考)

実際の相続の場面では、被相続人が入っていた生命保険があるかどうか、(ある場合)どの保険会社と契約していたか、ということが分からないことがあります。特に、オンラインで契約している場合、契約書などの書類で見つけ出すことができない、という傾向があります。この点、令和3年から、生命保険協会を介してすべての生命保険会社に対する一括照会の制度が始まりました。この制度は有用です。別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|生命保険契約照会制度(相続時の一括照会)

13 相続における死亡退職金・遺族年金・弔慰金の扱い(参考・概要)

以上で説明した生命保険金(請求権)の扱いと似ている問題が別にあります。それは、死亡退職金や遺族年金・弔慰金の相続における扱いです。
これらについてはそれぞれ別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|相続における死亡退職金の扱いの全体像(相続財産・特別受益・遺留分)
詳しくはこちら|相続における遺族年金と弔慰金の扱いの全体像(相続財産・特別受益・遺留分)
本記事では、生命保険金の相続における法的扱いの全体像を説明します。

本記事では、相続における生命保険金の扱いについてのいろいろな問題を全体的に説明しました。
実際には細かい事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることがあります。
実際に相続に関する生命保険金の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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