【相続人が受取人の生命保険金の特別受益該当性】

1 相続人が受取人の生命保険金の特別受益該当性
2 民法903条1項の条文
3 学説と平成16年判例前の裁判例
4 平成16年判例の判決文引用
5 生命保険金の特別受益性の判断基準
6 生命保険金の特別受益性を判断した裁判例(概要)
7 生命保険金と特別受益とした場合の具体的扱い(概要)
8 生命保険金の遺留分に関する扱い(概要)

1 相続人が受取人の生命保険金の特別受益該当性

被相続人が亡くなった際,生命保険の受取人として相続人の1人が指定されていることがあります。この場合,相続に関していくつかの問題が出てきます。
詳しくはこちら|相続における生命保険金の扱いの全体像(相続財産・特別受益・遺留分)
その1つに,相続人が受領する保険金は特別受益にあたるのではないか,という問題があります。本記事ではこれについて説明します。

2 民法903条1項の条文

最初に,特別受益を規定する条文を押さえておきます。以下,生命保険金(請求権)が,この中の遺贈贈与にあたるといえるかどうか,という解釈を説明します。

<民法903条1項の条文>

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
※民法903条1項

3 学説と平成16年判例前の裁判例

相続人が受け取った生命保険金は,実質的には被相続人が財産を特定の相続人に渡したのと同じであるという発想があります。そうすると生前贈与(または遺贈)と同じといえますが,贈与や遺贈とは違う面もあります。そこで複数の見解がありました。
後述する平成16年の最高裁判例で判断が統一されましたが,現在でも具体的事案の解決の中で役立つことがあります。
そこで複数の見解をまとめておきます。

<学説と平成16年判例前の裁判例(改正前)>

あ 特別受益肯定説

相続人が受け取った生命保険金(死亡保険金請求権)について
実質的には保険料の対価という性質をもっている
相続財産ではないが特別受益に該当する
※大阪家裁昭和51年11月25日
※中川善之助『親族相続判例総評(3)』岩波書店1940年p1130
※谷口知平『遺留分』/『家族制度法律篇(5)』河出書房1938年p189
※遠藤浩『相続財産の範囲』/『家族法大系6 中川善之助教授還暦記念』有斐閣p179
※福島家裁昭和55年9月16日
※長野家裁平成4年11月6日
※宇都宮家裁栃木支部平成2年12月25日

い 特別受益否定説

相続人が受け取った生命保険金について
相続財産・特別受益のいずれにも該当しない
※広島高裁岡山支部昭和48年10月3日
※東京高裁昭和55年9月10日
※広島高裁岡山支部昭和55年9月16日
※大阪家裁昭和53年9月26日
※東京家裁昭和55年2月12日
※東京高裁平成10年6月29日
※高松高裁平成11年3月5日
※神戸家裁平成11年4月30日

4 平成16年判例の判決文引用

平成16年の最高裁判例で,見解は統一されました。まずは判決文をそのまま引用します。

<平成16年判例の判決文引用>

上記の養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当である。もっとも、上記死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり、保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。上記特段の事情の有無については、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。 
※最高裁平成16年10月29日

5 生命保険金の特別受益性の判断基準

前記の平成16年判例はそのままでは分かりにくいので,示された判断基準の内容を整理します。
簡単にいうと,原則は特別受益ではないとしつつ,個別的事情によっては例外的に特別受益とする,という枠組みです。

<生命保険金の特別受益性の判断基準>

あ 原則=否定

生命保険金請求権を相続人が取得した場合
(実質的には相続人が受取人として生命保険金を受領した場合)
生命保険金請求権は原則として特別受益に当たらない

い 例外=肯定

特段の事情がある場合
=到底是認できないほど著しい不公平が生じる場合
→特別受益に該当する

う 特段の事情の内容

ア 客観的事情=基本的要素 ・保険金額
・遺産総額に対する比率
イ 付随的事情 ・同居の有無
・被相続人の介護などに対する貢献の程度
・他の相続人と被相続人との関係
・各相続人の生活実態
※最高裁平成16年10月29日
※土谷裕子『最高裁判所判例解説 民事篇 平成16年度』法曹会p631
※片岡武ほか『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版p161〜166

6 生命保険金の特別受益性を判断した裁判例(概要)

実際にはこの例外に該当するかどうかの点で,見解が熾烈に対立するケースが多いです。つまり特段の事情の判断です。平成16年判例では特段の事情の判断要素は示されていますが,だからといって具体的事案について明確に判定できるわけではありません。
平成16年判例の後に,具体的事案についてこの基準を適用して例外(特段の事情)にあたるかどうかを判断した裁判例が出てきています。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|生命保険金の特別受益該当性(比率に着目した判断の整理)

7 生命保険金と特別受益とした場合の具体的扱い(概要)

平成16年判例の基準を元にすると,個別的事情によっては特段の事情があるとして生命保険金を特別受益として扱うことがあります。では,特別受益にあたる場合に,どの範囲で特別受益として扱うか(持戻しをする金額)という問題があります。これについては複数の見解があり,統一されていません。
詳しくはこちら|相続における生命保険金の扱いの全体像(相続財産・特別受益・遺留分)

8 生命保険金の遺留分に関する扱い(概要)

生命保険を,遺留分に関してどのように扱うかは,平成14年の最高裁判例が示しています。
詳しくはこちら|遺留分算定基礎財産に含める生前贈与(平成30年改正による変更)
実は,平成14年判例で遺留分に関する扱いの基準が示され,その後,平成16年判例が特別受益に関してその考え方を踏襲したという流れがあったのです。
ただし,平成14年判例(遺留分についての判断)は例外を示していません。一方,平成16年判例(特別受益該当性判断)は例外を示しています。
結局,遺留分についても特別受益と同じ例外的扱いとする判断があてはまるかどうかについて統一的な見解がない状態といえます。
詳しくはこちら|相続における生命保険金の扱いの全体像(相続財産・特別受益・遺留分)

本記事では,相続人が受取人として受領した生命保険金が特別受益にあたるかどうか,という問題について説明しました。
実際には,個別的な事情によって法的扱いや最適な対応が違ってきます。
実際に相続において生命保険の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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