【生命保険金の特別受益該当性(比率に着目した判断の整理)】

1 生命保険金の特別受益性の判断基準(概要)
2 保険金比率≒100%→特段の事情を肯定した
3 保険金比率=61%→特段の事情を肯定した
4 保険金比率=6%→特段の事情を否定した

1 生命保険金の特別受益性の判断基準(概要)

相続人が受け取った生命保険金が特別受益に該当するかどうかの見解は対立しやすいです。平成16年の最高裁判例で判断基準が示されました。
詳しくはこちら|相続人が受取人の生命保険金の特別受益該当性
判例の判断基準の中には『特段の事情』があり,結局,個別的事案の評価によって結論が変わります。
平成16年以降の実際に判断された実例は非常に参考となります。
本記事では,参考となる実例(裁判例)を紹介します。

2 保険金比率≒100%→特段の事情を肯定した

生命保険金の金額が『遺産総額』とほぼ同額,というケースの裁判例です。なおここでの『遺産総額』は『生命保険金』はカウントしていません。

<保険金比率≒100%→特段の事情を肯定した>

あ 遺産総額との比率

被相続人の子=2人
子のうち1人Aが約1億0129万円の生命保険金を受給した
遺産総額は約1億0134万円相当であった
ほぼ同額である

い その他の事情

扶養や療養看護を託するなどの明確な意図は認められない

う 裁判所の判断

『特段の事情』を認めた
→保険金全額が特別受益に該当する
※東京高裁平成17年10月27日

3 保険金比率=61%→特段の事情を肯定した

生命保険金と遺産総額の比率が61%というケースの裁判例です。特殊事情も大きく結論に影響していると思われます。これと同じ比率であっても,個別事情によっては特段の事情が否定されることもあり得ます。

<保険金比率=61%→特段の事情を肯定した>

あ 遺産総額との比率

相続人のうち妻Aが保険金を受領した
保険金の合計額は約5154万円であった
遺産総額の約61%であった

い その他の事情=婚姻期間が短い

婚姻期間は約3年半であった

う 裁判所の判断

『特段の事情』を認めた
→保険金全額が特別受益に該当する
※名古屋高裁平成18年3月27日

え 補足説明

婚姻期間が短いという特殊事情が考慮されている
→単純に比率だけで判断されたわけではない

4 保険金比率=6%→特段の事情を否定した

生命保険金と遺産総額との比率が6%というケースの裁判例です。さすがに低すぎるので特別受益として認めませんでした。

<保険金比率=6%→特段の事情を否定した>

あ 遺産総額との比率

被相続人の子=4人
子のうち1人Aが約428万円の保険金を受領した
遺産総額の約6%であった

い その他の事情

Aは長年被相続人と同居していた
Aは被相続人の入通院時の世話をしていた

う 裁判所の判断

『特段の事情』を認めなかった
→保険金は特別受益に該当しない
※大阪家裁堺支部平成18年3月22日

本記事では,相続人が受取人として受領した生命保険金が特別受益にあたるかどうかを判断した裁判例を紹介しました。
実際には,個別的な事情によって法的扱いや最適な対応が違ってきます。
実際に相続において生命保険の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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