1 金銭債権の相続に関する条文規定
2 相続×金銭債権|可分→分割承継
3 金銭債権の相続×『相続分』|具体的相続分が適用される
4 金銭債権を『遺産分割』の対象にする同意
5 預貯金の相続に関する平成28年判例変更(概要)
6 慰謝料請求権の相続(概要)
7 賃料債権の相続(概要)

1 金銭債権の相続に関する条文規定

本記事では相続における一般的金銭債権の扱いを説明します。
まずは原則的な規定を単純に適用してみます。

<金銭債権の相続に関する条文規定>

あ 遺産共有|基本

相続において遺言がない場合
→原則として遺産は『遺産共有』になる
※民法898条

い 債権×準共有|単純思考

債権を『複数の相続人で準共有する』ことになる
※民法264条

う 債権×準共有|例外

法令に特別の定めのある場合
→共有のルールを適用しない
債権の『可分』の規定(後記※1)が『特別の定め』になる
※民法264条ただし書

以上は単純に適用したものです。
最後の『特別の定め』によって違う結論となります。
説明を続けます。

2 相続×金銭債権|可分→分割承継

金銭債権は『可分』という特徴があります。
このことを反映した解釈論があります。

<相続×金銭債権|可分→分割承継>

あ 債権の可分性の規定(※1)

債権は『可分』である
→『準共有』の規定は適用されない
※民法427条

い 当然分割(※2)

ア 基本的事項
債権は共同相続により当然に分割される
遺産分割は不要である
イ 平成28年判例の影響
平成28年判例(う)の判例変更の対象について
昭和29年判例(※3)は含まれない
→現在も昭和29年判例(当然分割)が適用される
※最高裁昭和29年4月8日(※3)
※最高裁昭和30年5月31日
※最高裁平成16年4月20日

う 預貯金債権(平成28年判例変更)

預貯金債権は共同相続により分割されない
遺産分割の対象となる
※最高裁平成28年12月19日
詳しくはこちら|預貯金の相続の平成28年判例変更(分割承継の否定・遺産分割の対象)

金銭債権の典型的な代表例は『預貯金債権』です。預貯金については,以前はその種類によって扱いが異なりました。しかし,平成28年の最高裁判例で一律に遺産分割の対象となることになりました。従前の判例が変更されたのです。
逆に,預貯金債権以外の金銭債権については,平成28年の判例では触れられていません。従前と同じ解釈ということになります。

3 金銭債権の相続×『相続分』|具体的相続分が適用される

金銭債権は相続分に応じて分割承継となります(前述)。
ここでの『相続分』の解釈論をまとめます。

<金銭債権の相続×『相続分』の内容>

あ 標準=法定相続分

修正する事情(い)がない場合
→法定相続分となる

い 修正あり=具体的相続分

次のような事情がある場合
→反映させた『具体的相続分』が適用される
ア 遺言による相続分の指定
イ 寄与分・特別受益による修正
※東京地裁平成8年2月23日

4 金銭債権を『遺産分割』の対象にする同意

金銭債権は『遺産分割の対象ではない』というのが原則論です(前述)。
しかし現実的に『他の財産と一緒に分け方を決める』ニーズは大きいです。
そこで『遺産分割の対象にする』という扱いも認められています。

<金銭債権を『遺産分割』の対象にする同意>

あ 原則論

金銭債権は遺産分割の対象ではない(前記※2)

い 同意による遺産分割の対象にする解釈

相続人全員の同意がある場合
→金銭債権を『遺産分割の対象にする』ことができる
家裁の実務における一般的な扱いとなっている
※東京高裁平成14年2月15日
※福岡高裁平成8年8月20日
※東京家裁昭和47年11月15日

う 同意なしで遺産分割の対象とする解釈

同意がなくても『適切・必要と認められる』場合
→金銭債権を『遺産分割の対象にする』
家裁の実務における一般的な解釈ではない
※高知家裁須崎支部昭和40年3月31日
※神戸家裁尼崎支部昭和47年12月28日

え 預貯金に関する平成28年判例変更

預貯金債権について
→一律に遺産分割の対象となる
共同相続人の同意の有無は関係ない
※最高裁平成28年12月19日
詳しくはこちら|預貯金の相続の平成28年判例変更(分割承継の否定・遺産分割の対象)

実務の一般的扱いは『相続人全員の同意』を前提にするものです(上記『あ』)。

5 預貯金の相続に関する平成28年判例変更(概要)

金銭債権の相続における統一的解釈として最高裁判例があるのです(前述)。
現在,この判例の解釈は変更される可能性が高くなっています。

<預貯金の相続に関する平成28年判例変更(概要)>

あ 原審の判断

相続財産の中の預貯金債権
→遺産分割の対象とならない(前記※2)

い 最高裁の審理|大法廷回付

平成28年3月23日
最高裁第1小法廷が審理を大法廷に回付した

う 大法廷の決定

預貯金債権を遺産分割の対象として認めた
※最高裁平成28年12月19日
詳しくはこちら|預貯金の相続の平成28年判例変更(分割承継の否定・遺産分割の対象)

6 慰謝料請求権の相続(概要)

金銭債権の1つとして慰謝料請求権もあります。
慰謝料請求権は,そもそも『相続財産』になるかどうか,という見解の対立がありました。
現在は『相続財産になる』という判例の解釈が確立しています。
詳しくはこちら|相続財産の範囲|一身専属権・慰謝料請求権・損害賠償×損益相殺・継続的保証

7 賃料債権の相続(概要)

金銭債権の1つとして賃料債権があります。遺産に収益不動産がある場合『賃料』の法的扱いは複雑です。
原則論では『当該不動産を承継した者』に賃料が帰属するはずです。
しかし,原則論を修正する解釈がなされています。この解釈を前提としても,前記※2と同様に,賃料債権は原則として遺産分割の対象にはなりません。しかし,同意により遺産分割の対象とすることが認められています。
詳しい内容は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|賃料債権・収入×相続|遡及効の制限→分割帰属|遺産分割の対象にもできる