1 夫婦の同居義務はあるが,例外も多い
2 同居義務の強制執行はできない
3 同居義務違反の不利益もある

1 夫婦の同居義務はあるが,例外も多い

夫婦間の基本的な義務の1つとして同居義務が民法上明記されています(民法752条)。
一方,例外もあります。

一般的に仲が悪くなり,離婚の協議中や調停・訴訟の進行中は別居していることの方が普通です。
蓄積された従前の裁判例を分析すると,例外の定め方にはいろいろな方法があります。
ごく簡単に言えば,夫婦の仲が悪化して,同居してもまったく実益がない,という場合には例外となります。
同居しなくて義務違反ということにはならないのです。

同居義務の例外の典型>

ア 夫婦が破綻状態にある場合
イ 一方が同居を拒否して翻意する可能性がない場合
ウ その他正当の事由がある場合
※札幌家裁平成10年11月18日

2 同居義務の強制執行はできない

仮に訴訟で同居義務が認められても,強制執行はできません。
同居義務の存在,と,その実現手段=強制執行,は異なります。
同居義務という性質上,いかなる強制執行もできないとされています(大審院昭和5年9月30日その他多数)。

義務だから仕方なく同居するという状態は,個人の意思決定と言いますか,尊厳をないがしろにすることになるからです。
同居義務違反を原因とする慰謝料請求も一応考えられます。
『同居義務を履行してくれず,配偶者が家を出てしまったから寂しい・傷ついた』,という主張です。
しかし慰謝料請求も,上記同様の理由から認められないとされています。

3 同居義務違反の不利益もある

同居義務は違反した時に,何も不利益を受けないというわけではありません。

仮に,一方的・独断的に,家に帰らない状態を続ければ,夫婦の仲は悪化するでしょう。
結果的に,離婚原因として認められることもあります。
特に長期間の別居は3大離婚原因の1つとされています。
詳しくはこちら|3大離婚原因の全体と『性格の不一致』の誤解
同居義務違反→別居によって離婚に至った場合,慰謝料請求が認められるでしょう。

なお,収入の中心を担う者(一般的には夫)が,家を出て,かつ生活費も渡さない,ということもあります。
このような状態は『悪意の遺棄』という法定離婚原因に該当することもあります(民法770条1項2号)。
詳しくはこちら|離婚原因の意味・法的位置付け

条文

[民法]
(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条  夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

(裁判上の離婚)
第七百七十条  夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
(略)
二  配偶者から悪意で遺棄されたとき。

判例・参考情報

(判例1)
[札幌家庭裁判所平成10年(家)第769号夫婦同居申立事件平成10年11月18日(抜粋)]
 夫婦は,合理的な理由のない限り,同居すべき義務を負っているが(民法752条),この義務は,婚姻費用の分担義務などと大きく異なり,その性質上任意に履行されなければその目的を達成できないものであり,いかなる方法によってもその履行を強制することは許されないというべきである。そうすると,家事審判法9条1項乙類1号に定める夫婦の同居に関する処分として,同居を拒んでいる夫婦の一方に対し,同居を命ずる審判をすることが相当といえるためには,同居を命じることにより,同居が実現し,円満な夫婦関係が再構築される可能性が僅かでも存在すると認められること,つまるところ,同居を拒んでいる者が翻意して同居に応じる可能性が僅かでもあると認められることが必要であると解すべきである。
 これに対し,夫婦である以上同居義務があるのであって,同居を拒否する意思がいかに固くとも,同居を拒否する正当な理由がない限り,同居を命ずる審判をすべきであるとの見解もあろう。しかしながら,同審判は,夫婦を同居させて円満な夫婦関係を再構築させることを究極の目的としてなされる家庭裁判所の後見的処分の一環であって,同居が実現されないことに対する帰責性が夫婦のいずれにあるのかを確定することにその本旨があるわけではないと解すべきであるから,同居を拒んでいる夫婦の一方に翻意の可能性が全くない場合には,前記の同居義務の性質に照らし,同居を命ずる審判をすることは相当でないというべきである。