【判決と和解の中間的手続(裁定和解・17条決定・調停に代わる審判)】

1 判決と和解の中間的手続として『裁定和解・17条決定』がある

判決は、一方的に解決内容を裁判所が判断します。
和解は、当事者が解決内容を判断します。その判断が合致した時に成立します。
この中間的な制度があります。
裁判所の判断もなされ、かつ、当事者も一定の判断をする、というものです。
『民事訴訟・調停』で2つの制度があります。
家事調停の制度も含めると合計3つとなります。

<裁定和解・17条決定・調停に代わる審判|まとめ>

手続の種類 制度の種類 条文 判決と同じ効果 異議申立 事前の「承服宣言」
民事訴訟 裁定和解 民事訴訟法265条 必須
民事調停 調停に代わる決定(17条決定) 民事調停法17条 制度なし
家事調停 調停に代わる審判 家事事件手続法284条 ◯(後記※1 どちらも可能

(※1)事前の「承服宣言」があるとできない(☓になる)

家事調停における手続は別記事にて説明しています。
詳しくはこちら|家事調停の『調停に代わる審判』|相手の出席拒否・合意間近という場合に使える

裁判所が和解調停の案を提示し、当事者が一定の関与をしつつ、この和解調停条項が効力を生じる、というものです。
実務上、次のような状況で活用されることがあります。

<裁定和解、調停に代わる決定の活用場面の例>

・和解交渉が進み、提案の相違幅が小さくなっている
・当事者双方は、自発的にこれ以上譲歩しない
・当事者双方は、中立的な見解があれば多少の譲歩は可能と思われる

なお、これらの制度を利用しなくても、通常、訴訟中の和解交渉の場面では、事実上、裁判所(裁判官)から和解案の提示がなされることはあります。
別項目;裁判官の訴訟指揮により和解協議が行われる
この事実上の和解案提示よりも、裁定和解・調停に代わる決定、の方が、裁判所の見解の影響度が大きいように設計されています。

2 裁定和解のためには『和解条項を承服する』という当事者双方の書面を提出が必要

裁定和解の手続

あ 裁定申立

当事者双方が次の内容の宣言(約束)を書面にして裁判所に提出する
『裁判所提示の和解条項案を承服する』
※民事訴訟法265条2項

い 裁定和解の告知

裁判所が、和解条項案を判断し、告知します。
※民事訴訟法265条1項、3項

う 和解の成立と同じ扱い

和解が成立したのと同じ状態になります。
※民事訴訟法265条5項

裁判所が判断し、その内容が拘束力を持つ、という意味で、判決と類似します。
ミニ判決とでも呼べるような制度です。

3 裁定和解には不服申立手続はない|許容範囲を予め書面に盛り込むと良い

裁定和解の手続き上、最初に当事者が裁判所の和解条項案を承服することを書面において提出しています(民事訴訟法265条2項)。
文字どおりに、裁判所が示した和解条項に従うことになります。

判決であれば控訴や上告により、判決の効果を覆す制度があります。
しかし、裁定和解は判決ではないので、控訴や上告によって解消することはできません。結局、裁判所による提示(告知)の後は、キャンセル・解消ができません。

裁定和解の撤回・効力の解消

あ 告示前の撤回

裁判所が和解条項案を提示(告知)する前であれば
撤回(キャンセル)することができる
※民事訴訟法265条4項

い 告示後の解消

裁定和解において
裁判所の提示する和解条項が不利なものである場合でも、効果を解消できない
※『コンメンタール民事訴訟法Ⅴ』p297

このような性格上、裁定和解は利用する際、当事者に躊躇が生じることが多いです。
逆に、利用する前提として、許容できる範囲を特定しておく工夫も有用です。

<裁定和解の内容の許容範囲の特定>

裁定申立の時点で和解条項の条件として許容できる範囲を協議の上、合意→書面に明記しておく

4 裁定和解の経緯に特殊事情があると、例外的に無効となる

条文上、裁定和解には不服申立ての制度がありません。
しかし、特殊事情がある場合は、無効と判断されることも考えられます。
裁定和解と類似する仲裁という手続のルールの類推適用です(仲裁法45条2項4号、5号)。
また、民法上の錯誤無効や信義則違反、を適用する考え方もあります。
裁定和解が無効となる事情、無効を主張する際に利用する手続は次のとおりです。

裁定和解の無効化

あ 裁定和解が無効となる事情

ア 不意打ち 当事者の意見聴取が不十分であった
→和解条項が当事者の意向を大きく逸脱している
イ 範囲の逸脱 和解条項が当事者が裁定申立の中で設定した条件、範囲を逸脱している

い 裁定和解の効力を否定する手続

裁定和解の効力を解消する手続には『ア・イ』の方法がある
ア 期日指定の申立イ 裁定取消の訴え提起 ※『基本法コンメンタール民事訴訟法2(第3版)』p317

5 民事調停で調停に代わる決定(17条決定)=裁判所の判断をもらう方法がある

民事調停は、原則的に、当事者の話し合いによって合意成立を目指す、という制度です。
ただ、変わった制度として、裁判所が解決内容を決定する、というものもあります(民事調停法17条)。
調停に代わる決定とか17条決定と呼ばれる制度です。
条文上は職権で行われることと規定されています。
ただし通常は、当事者が、裁判所に解決案を提示して欲しいと希望している場合にこの手続がなされます。

特に、案件内容の専門家が調停委員、専門委員として関与している場合に、調停に変わる決定が活用されることがあります。
例えば、建築瑕疵について、建築の専門家が瑕疵の有無、損害の内容・金額を評価、判断する、という形で積極的に関与するという状況です。

裁判所の提示する解決内容は、最終的には、調停成立と同じように、強制執行が可能な状態となります(民事調停法18条5項)。

6 調停に代わる決定(17条決定)に対して異議申立ができる

調停に代わる決定がなされた場合、何もしないと、その内容は調停成立と同様に、強制執行可能な状態となります(民事調停法18条5項)。
逆に、内容に納得出来ない場合は、告知後2週間内に異議申立をすることができます(民事調停法18条1項)。
異議申立がなされると、裁判所の決定、は効力を失います(民事調停法18条4項)。
そして、異議申立に際しては、特に不服の理由は必要とされていません。
逆に言えば、まずは裁判所(調停委員や専門委員)の案をみてからそれを承服するか否かを考えるという様子見的に利用することもできます。

異議申立によって、決定は法的効力を失うのです。います。
ただし、この決定内容が、その後の訴訟などで資料(証拠)として利用されることはあり得ます。
案件内容の専門家の判断であれば、訴訟などの別の手続でも重視されることが多いです。

7 17条決定の異議申立権の放棄

民事調停の17条決定については、決定の後に異議を申し立てて、決定の効力を失わせることが可能です(前記)。
この点、当事者の両方が異議申立権を放棄することによって、どんな内容の決定がなされても強制的に解決を実現させよう、という発想もあります。
このような事前の異議申立権の放棄について、学説では肯定と否定の見解がありますが、肯定する裁判例が出ています。一般的には事前の異議申立権の放棄を有効として扱っています。

17条決定の異議申立権の放棄

あ 決定後の放棄

17条決定の後(の異議申立期間内)において
当事者が異議申立権を放棄することについて
→認められている

い 決定前(事前)の放棄

ア 裁判例 17条決定の前に異議申立権を放棄することについて
→これを認める裁判例がある
=異議申立権の放棄の後の異議申立は無効である
※東京地裁平成5年11月29日
イ 学説 学説には肯定・否定の見解がある
※吉田元子著『裁判所等による和解条項の裁定』成文堂2003年p113

8 訴訟から調停に手続が移行される場合もある(付調停)

民事訴訟において、専門的な調停委員に和解案を出してもらいたい、という場合に『付調停』が有用です。
一般の民事訴訟において、手続を訴訟から調停に変更するという制度のことです。
条文上、調停に付すると規定されているので付調停と呼ばれています(民事調停法20条)。

条文上は職権とされていますが、実務上、当事者からの要請により、裁判所が判断する、ということが通常です。
民事調停の場合、調停委員として各種専門家が候補者として用意されています。
そこで、専門家の評価を活用する、という局面で、訴訟から調停に付する、という方法が取られることがあります。
調停に移行した後は、次のような形で調停委員が活躍することになります。

民事調停における調停委員(専門委員)の積極的関与の例

あ 調停委員や専門委員の関与

調停委員や専門委員が評価・見解を説明する
詳しくはこちら|民事訴訟における専門委員の関与の制度(性質・決定の要件)

い 調停に代わる決定

調停に代わる決定として具体的解決内容を提示する

9 賃料改定調停における裁定制度(概要)

賃料改定(増減額)の調停では、特別な裁定制度があります。
裁定制度によって裁判所が調停条項を定めるとこれが確定します。
不服申立はできません。
前記の一般的な調停における調停に代わる決定(17条決定)とは違います。
詳しくはこちら|賃料改定の調停における調停条項の裁定制度

本記事では、裁定和解と民事調停の17条決定と調停に代わる審判について説明しました。
実際にどの手続を利用することが最適なのかは、具体的状況によって違ってきます。
実際にトラブルの解決手続を検討されている方や進めている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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