【保全命令の審理手続(債務者審尋・保全執行)と特徴(迅速性・密航性)】

1 保全命令の審理手続(債務者審尋・保全執行)と特徴(迅速性・密航性)
2 保全処分の審理の特徴|迅速性
3 保全手続の密行性→債務者審尋なし
4 双方審尋を実施する種類|『バレても良い』類型
5 審尋実施|仮の地位を定める仮処分|具体例・概要
6 担保決定→担保金納付→保全執行
7 保全処分|執行方法=通知・登記・登録など
8 仮差押|執行方法|登記・通知など

1 保全命令の審理手続(債務者審尋・保全執行)と特徴(迅速性・密航性)

本記事では民事保全の審理手続やその特徴について説明します。
仮差押を前提にしますが仮処分も基本的に同様です。
また民事保全の理論的な基本的事項は別に説明しています。
詳しくはこちら|民事保全(仮差押・仮処分)の基本|種類と要件|保全の必要性

2 保全処分の審理の特徴|迅速性

『仮差押・仮処分』という『保全処分』については,急を要することがほとんどです。
そこで,スピーディーに決定を出すように裁判所も工夫しています。
具体的には,債権者(申立人)代理人弁護士が直接裁判官と面接します。
申立書の内容について口頭で補足したり,裁判官から質問・確認が行われます。
また,事案によっては債務者も裁判所に呼び出され,反論や事情の聴取が行われます。
最終的に,申立内容に問題がなければ,保全命令が発令されます。
準備をしっかりと行い,スピーディーに進めば数日〜1週間で完了します。

3 保全手続の密行性→債務者審尋なし

<保全手続の密行性→債務者審尋なし>

原則として,債務者の審尋は行われない
『債務者審尋』が行われるのは例外的な場合のみ

保全処分の典型例は仮差押です。
これから損害賠償請求を行う相手の預貯金を押さえて,裁判の決着が付くまでロックしておく,というものです。
例えば,預貯金に対する仮差押であれば,相手にバレたら,その日のうちに預貯金を下ろせます。
そうしたら仮差押が無意味になってしまいます。
そこで,保全処分においては,基本的に,債務者には知られないまま,手続が行われます。
『密行性』,と呼んでいます。
通常,仮差押の場合,保全執行の後に債務者への通知(決定書の送付)が行われます。

4 双方審尋を実施する種類|『バレても良い』類型

民事保全処分の審理で,例外的に『債務者の審尋を行う』というものもあります。
債権者・債務者の両方の審尋を行うので『双方審尋』と呼んでいます。

<双方審尋を実施する種類>

あ 双方審尋を行う保全の種類

ア 仮の地位を定める仮処分イ 占有移転禁止の仮処分で債務者に目的物の使用を許さないもの

い 例外

条文上『審尋を実施しない例外』の規定がある
→実務上適用例はほとんどない
=該当する種類の申立ではほぼ全件双方審尋を実施している
※民事保全法23条
※『多摩のひまわり平成27年4月』p7

『仮の地位を定める仮処分』というのはネーミングが分かりにくいです。
簡単に言えば,仮差押と係争物の仮処分以外,ということです。
次に具体例を説明します。

5 審尋実施|仮の地位を定める仮処分|具体例・概要

仮の地位を定める仮処分の具体例は,いくつもの種類があります。
具体的内容・具体例は別記事で詳しく説明しています(リンクは冒頭記載)。

<審尋実施|仮の地位を定める仮処分|具体例・概要>

ア 労働者が賃金の仮払いを求めるイ 建築工事の禁止を求めるウ 面会強要の禁止を求める

このような例からもお分かりのとおり秘密裏に行う必要がないのです。
必要がないと言うか,相手方(債務者)のアクションを求める内容の仮処分なのです。
賃金を払ってもらう,とか,建物の建築をストップしてもらう,などです。
そこで,このような場合は,むしろ積極的に債務者の意向を聞いた上で,判断した方が良いのです。

6 担保決定→担保金納付→保全執行

保全命令が発令される時には通常,担保(金)が設定されます。
債権者が担保を納付してから具体的な保全執行がなされます。
担保金については別に説明しています。
詳しくはこちら|民事保全の担保の基本(担保の機能・担保決定の選択肢・実務の傾向・不服申立)

7 保全処分|執行方法=通知・登記・登録など

保全命令が発令された後には具体的なアクションが行われます。
『保全執行』と呼びます。
これについてまとめます。

<保全処分|執行方法>

あ 保全執行|基本

保全命令が発令される
→『保全執行』として実現される
具体的な『保全執行』が不要な種類もある

い 保全執行|遂行

裁判所が『保全執行』の手続を行う

う 保全執行|具体例

ア 特定の者・機関への通知イ 登記・登録の手続

保全執行は,裁判所が具体的に遂行してくれます。
仮差押の場合は『財産が動かせなくなる』措置を取ってくれます。
仮差押の具体的な保全執行については次に説明します。

8 仮差押|執行方法|登記・通知など

仮差押の発令後の具体的執行の内容をまとめます。

<仮差押|執行方法>

あ 不動産→登記

裁判所から法務局に仮差押登記が依頼される
正確には『嘱託』と呼ぶ
→相手方は不動産の売却・担保設定ができなくなる

い 預貯金→通知

裁判所から金融機関に通知がなされる
通知の内容=本人(預金者)に払い出すことを禁止する
→相手方は引き出し不能になる。

う 保険→通知

裁判所から保険会社に通知がなされる
通知の内容=本人(保険契約者)からの解約・払戻に応じることを禁止する
→相手方は解約不能になる。

これらの裁判所発信のアクションによって,結果的に,相手方自身は,対象財産を逃すことができなくなります。
俗に言う『ロック,フリーズ』された状態です。
『凍結状態』とも言います。

本記事では,民事保全の審理の手続やその特徴について説明しました。
実際の民事保全の手続では,個別的事情や主張・立証のやり方次第で審理の進め方や結論が違ってきます。
実際に保全の手続を検討されている方や,保全に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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