【信託受益権は遡って放棄できるが課税上の扱いに注意が必要】

1 信託の受益権は放棄ができる

基本的には、信託の受益者として指定されると、自動的に受益権を承継します(信託法88条1号)。
法律上、特に承諾などが必要とされてはいないのです。

しかし、事情により受益権の承継を拒否したい場面も生じます。
その場合は、受益権の放棄ができます(信託法99条1号)。

2 受益権の放棄をする典型例は課税の負担の回避

一般的に、受益権というのは、文字どおり、権利だけがあって義務がない、という性質です。
しかし実際には、受益権とは言っても権利行使に制約が付いていることがあります。

遺言代用信託のメリット(通常の遺言や遺言信託との違い)

その一方で、課税上は受益権は制限のない権利(信託財産)として算定されます。
最悪の場合権利は不十分(売却して金銭に換えられない)けど、フル課税されるということになります。
この場合、承継した受益権とは関係ない、独自の財産の中から相続税(や贈与税)を捻出する必要が出てしまうのです。
このように、課税の面から受益権を受け取ると損するという場面があるのです。

3 受益権放棄のタイムラグの間の収益は遡って受領しないことになる

(1)受益権放棄はいったん受益権を得た時点に遡る

受益権放棄の効果は受益権承継時まで遡ります(信託法99条2号)。
遡及効と呼んでいます。

具体的には、最初から受益権者ではなかった、という扱いになります。
そこで、本来もらうべきではなかった収益については不当利得として返還すべきと考えられます。

受益権放棄のタイムラグの間の収益の具体例

信託財産は収益不動産であった
受益権を承継してから放棄までの短期間の間に、信託財産からの家賃収入を受益者として受け取った

(2)遺産分割では遡及効が制限される(参考)

遺産分割協議が行われた場合も遡及効があります。
しかし、遺産分割協議の場合は、判例上、遡及効を否定する解釈が取られています。
詳しくはこちら|遺産の賃貸不動産の賃料債権の扱い(遺産分割/当然分割・遡及効の制限)
詳しくはこちら|相続手続全体の流れ|遺言の有無・内容→遺産分割の要否・分割類型・遡及効

4 受益権放棄により課税されなくなるが、タイミングによっては更正請求が必要

受益権を放棄すると、別の方が受益権を獲得するのが通常です。
受益権を放棄した方と、獲得した方に分けて課税について説明します。

(1)受益権を放棄した方

形式的に受益権を獲得したけれど、遡ってその後失った、ということになります。
最終的には獲得したものがないので、相続税、贈与税は生じないと考えられます。

ただ、既に申告している場合は、更正の請求をするべきです。
最近の相続に関しては、更正請求の期限は法定申告期限から5年となっています。
ただし、法改正前はこの期限が異なるので注意が必要です。

更正請求の期限(法改正前後の違い)

あ 国税通則法改正前

ア 対象範囲平成23年12月2日より前に法定申告期限が到来する国税
イ 更正請求の期限法定申告期限から1年

い 国税通則法改正後

ア 対象範囲平成23年12月2日以降に法定申告期限が到来する国税
イ 更正請求の期限法定申告期限から5年
※国税通則法23条1項

(2)受益権を結果的に獲得した方

受益権の価値に応じて、贈与税が課税されることになります。

税務上は放棄の遡及効について民事法よりも緩く考える傾向があります。
放棄の時点で、獲得した、という考えが取られると思われます。
詳しくはこちら|遺産分割・相続放棄・信託受益権放棄・遺留分・税務の遡及効のまとめ

5 受益権放棄による2度手間回避には受益の意思表示を設定すると良い

信託法上、受益者を指定すると、自動的に受益権が承継されることになっています。
一方で、「受益権放棄」がなされると、遡って受益権の承継が否定されます。
このような一時的、暫定的な承継があると、課税上の手間などが生じます(上記『4』)。
これを排除する方法があります。

最初の時点で受益者となることが自動的ではないようにしておくことです(信託法88条1号)。
つまり、次のように『受益の意思表示が必要』という設定にしておくことです。

受益の意思表示を必要とする条項例

『受益権を取得するには、受益者となる者が受益の意思表示を行う必要がある』

逆に言えば、このような設定をしておかないと『受益の意思表示なしでも受益者となる』という状態になります。

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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