将来の相続ではなく,もっと臨機応変に対応できる方法はありませんか。

1 『受益者指定権者』を指定しておけば臨機応変な受益権コントロールが可能
2 受益者指定権を活用した信託の具体例
3 受益者指定権者を指定した信託を活用する場合の注意点

1 『受益者指定権者』を指定しておけば臨機応変な受益権コントロールが可能

『受益者指定権者』を信託契約(信託行為)で定めることができます。
こうすれば,『指定権者』のリアルタイムな判断によって,受益者を別の人に動かすことができます。
具体的な活用法を説明します。

2 受益者指定権を活用した信託の具体例

<事業承継における受益者指定権者の活用例>

ア 会社経営者が,後継者候補に株主の権利(受益権)を与えておく
イ 将来仮に事業を承継しない状況に変わった場合に,受益権を取り戻す

参考として,仮に,株式そのものを生前贈与した場合は↓のようになります。

<参考;株式の生前贈与の場合>

贈与後に状況が変わっても,株式を強制的に取り戻すことはできません。

<事情の変化の例>

・事業を承継しない方向性に変わった
・(子が)親の面倒をみなくなった(関係が悪化した)
・連絡が取りにくくなった

このような場合に,一旦渡した受益権(株式や議決権)を,受益者指定権者の判断1つで取り戻すことができます。

3 受益者指定権者を指定した信託を活用する場合の注意点

贈与税や,信託法に規定する手続について,しっかりと配慮しておくと良いでしょう。

(1)贈与税の課税

指定権者の指定により,受益権の所在が変わると,税務上,贈与として扱われます。
民法上は,オールマイティーに受益権の所在を変えられるという利便性に注目しがちです。
しかし,課税上は非常に高額な負担となることもあります。
要注意です。
結局,そこまで気軽には使えません。
本当に緊急措置として,一旦渡した財産を引き上げる,という場合に限定して使うという方針が良いでしょう。

(2)『受益権を失った』ことの通知

指定権者の指定により,従前の受益者は受益権を失います。
そして,この際,受託者は,元の受益者に対して受益権を失ったことを通知する義務があります(信託法89条4号)。
当然と言えば当然です。
しかし,このような局面は多少なりとも対立的であるはずです。
通知義務の不履行などでクレームを受ける可能性があります。
そこで,信託契約において『受益権を失った者に対する通知は不要』という旨を規定しておくとベターでしょう。
もちろん,実際には何らかの手段で知らせることにはなるでしょう。

(3)『受益権指定権者』の相続

受益権指定権者が亡くなった場合,この『指定権』は相続されないのが原則です(信託法89条5号)。
そこで,結果的に受益権のコントロールはできない状態となります。
これに対しては,信託契約で受益権指定権者の承継について規定しておくとベターでしょう。

<受益権指定権者の承継の規定例>

受益権指定権者が亡くなった時には配偶者(妻)に指定権を承継させる