1 家庭裁判所の手続では特殊事情から『住所を明かしたくない』ということがある
2 家事事件の記録を相手に『閲覧や謄写』される制度がある
3 家事調停等では『非開示希望』により住所を相手に知らせないことができる
4 従前からの『住所を相手に知らせない』制度も使える
5 申立書への『本籍』記載の要否は裁判所の裁量;ハイレベル
6 申立書に『戸籍を添付』する場合は『本籍』の記載が必要とされる

1 家庭裁判所の手続では特殊事情から『住所を明かしたくない』ということがある

家事調停においてはイレギュラー事項が背景に存在することがあります。
具体的には,DVのケースなどで,相手方に居場所が分かること,を避けたい,という状況が典型例です。
このようなケースは少なくないので,各種対応策が用意されています。
家事事件;調停等;相手方との接触を回避する措置
ここでは,対応策のうち,申立書の記載に関するものを説明します。

2 家事事件の記録を相手に『閲覧や謄写』される制度がある

まず,原則的なルールとして,調停や審判の記録の閲覧,謄写を認める規定があります。
家事事件手続法の条文を形式的にみると,審判の場合の方が,調停の場合よりも開示を認める方向になっているようにみえます。
実際には具体的な必要性を判断するので変わりはないと言えます。

(1)家事審判における記録開示手続

<家事審判における記録開示手続;家事事件手続法47条>

あ 当事者

→原則=許可(3項)
→例外;プライバシーに配慮した例外規定あり(4項)

い 利害関係を疎明した第三者

→原則=不許可
→例外;裁判所が相当と認めて許可した場合のみ許可(5項)

(2)家事調停

<家事調停における記録開示手続;家事事件手続法254条>

あ 当事者

→原則=不許可
→例外;裁判所が相当と認めて許可した場合のみ許可(3項)

い 利害関係を疎明した第三者

→同上=『当事者』と同じ

3 家事調停等では『非開示希望』により住所を相手に知らせないことができる

家事事件手続法上,相手に情報を開示しない制度があります。
平成25年施行の家事事件手続法による非開示希望の制度です。

事件記録の閲覧・謄写について,裁判所の裁量(許可)を経るということになっているのです(家事事件手続法47条4項,254条3項)。
裁判所が閲覧・謄写を許可するかどうか,のプロセスで,当事者からの非開示希望を考慮する,という構造になっています。

<家事事件手続法による,相手方に住所を知らせない方法>

あ 『非開示の希望に関する申出書』を提出する

非開示を希望する理由を記載します。

い 『連絡先等の届出書』を提出する

申立書や委任状には『知られてもよい住所』を記載する

<記載する『知られてもよい』住所の例>

・別居前の住所
 過去夫婦で同居していた住所
・住民票上の『住所』
 既に転居して現住していない住所

『住所』以外に,連絡が取れる住所・電話・FAX番号等を『連絡先等の届出書』に記載します。
代理人弁護士の事務所所在地を記載するのが典型的です。

以上の制度は,平成25年施行の家事事件手続法によって新たに設定された制度です。

実際には,『開示すると実害がある』という判断がされる場合は審判,調停のいずれでも開示を認めない,という結論に違いはないです。

4 従前からの『住所を相手に知らせない』制度も使える

一方,家事事件手続法施行前から,同様の問題に対する解決策は用意されていました。
現在でも,利用できる場合もあります。
以前の制度は,最高裁の事務連絡という内部文書として存在しました(後掲通知1)。

<従前からの住所を秘匿する方法>

※いずれか
ア 代理人弁護士の事務所所在地を記載する
 本人の住所は記載しません。
イ 実際には居住していない実家の住所を記載する 

5 申立書への『本籍』記載の要否は裁判所の裁量;ハイレベル

家事事件手続法において,家事審判や調停の申立書の記載事項について規定があります(家事事件手続法49条,255条)。
ここでは『当事者』という表現です。
解釈として,住所氏名が含まれるのは当然です。
さらに,実務上,本籍もこの『当事者』に含めて考えらることもあります。
家庭裁判所が用意している離婚調停などの申立書のサンプルに本籍欄があります。
ただし,上記のとおり,これが明確に義務かどうか,は別問題です。

現実的には,例えば離婚調停の終了時に本籍が有用となります。
離婚の調停が成立すると,その後,当事者が役所に離婚届を提出することになります(戸籍法77条,63条,戸籍法施行規則57条)。
当然,役所としては,個人の婚姻,離婚などに関しては,本籍を主要な識別情報としています(戸籍法29条,30条)。
結局,家事調停においては,身分関係・役所のデータ,と関係することが多い→本籍の特定をしておくべき,という考え方があるのです。
なお,本籍を申立書の記載事項に含める類型については,添付書類として戸籍事項証明書(戸籍謄本)を求めるのが通例です(家事事件手続規則37条3項,127条,後掲文献1)。

<家事調停申立書の記載事項の義務性>

あ 『氏名』,『住所』

義務である

い 『本籍』

法律上の義務かどうかは統一的公的見解が見当たらない
実務上は,添付書類として戸籍事項証明書を要する場合は記載が要請されている

6 申立書に『戸籍を添付』する場合は『本籍』の記載が必要とされる

家事調停,審判の申立書に『本籍』の記載は戸籍事項証明書の添付とセットになっています。
家事調停や家事審判の申立時に,添付書類としてどのようなものが必要とされるかは,条文上,裁判所の裁量とされています(前記『5』)。

まとめると次のようになります。

<申立書への『本籍』記載,戸籍事項証明書添付の有無>

身分関係に変更を生じる類型=戸籍事項に変更を生じる可能性がある

ア 添付書類として戸籍事項証明書が要求される
イ 申立書に『戸籍』の記載が要求される

例えば,養育費に関する類型については,戸籍事項,身分関係に変更が生じることはありません。
戸籍事項証明書は不要ですし,本籍の記載も不要です。

条文

[家事事件手続法]
(記録の閲覧等)
第四十七条  当事者又は利害関係を疎明した第三者は、家庭裁判所の許可を得て、裁判所書記官に対し、家事審判事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は家事審判事件に関する事項の証明書の交付(第二百八十九条第六項において「記録の閲覧等」という。)を請求することができる。
2  前項の規定は、家事審判事件の記録中の録音テープ又はビデオテープ(これらに準ずる方法により一定の事項を記録した物を含む。)に関しては、適用しない。この場合において、当事者又は利害関係を疎明した第三者は、家庭裁判所の許可を得て、裁判所書記官に対し、これらの物の複製を請求することができる。
3  家庭裁判所は、当事者から前二項の規定による許可の申立てがあったときは、これを許可しなければならない。
4  家庭裁判所は、事件の関係人である未成年者の利益を害するおそれ、当事者若しくは第三者の私生活若しくは業務の平穏を害するおそれ又は当事者若しくは第三者の私生活についての重大な秘密が明らかにされることにより、その者が社会生活を営むのに著しい支障を生じ、若しくはその者の名誉を著しく害するおそれがあると認められるときは、前項の規定にかかわらず、同項の申立てを許可しないことができる。事件の性質、審理の状況、記録の内容等に照らして当該当事者に同項の申立てを許可することを不適当とする特別の事情があると認められるときも、同様とする。
5  家庭裁判所は、利害関係を疎明した第三者から第一項又は第二項の規定による許可の申立てがあった場合において、相当と認めるときは、これを許可することができる。
6  審判書その他の裁判書の正本、謄本若しくは抄本又は家事審判事件に関する事項の証明書については、当事者は、第一項の規定にかかわらず、家庭裁判所の許可を得ないで、裁判所書記官に対し、その交付を請求することができる。審判を受ける者が当該審判があった後に請求する場合も、同様とする。
7  家事審判事件の記録の閲覧、謄写及び複製の請求は、家事審判事件の記録の保存又は裁判所の執務に支障があるときは、することができない。
8  第三項の申立てを却下した裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
9  前項の規定による即時抗告が家事審判の手続を不当に遅滞させることを目的としてされたものであると認められるときは、原裁判所は、その即時抗告を却下しなければならない。
10  前項の規定による裁判に対しては、即時抗告をすることができる。

(申立ての方式等)
第四十九条  家事審判の申立ては、申立書(以下「家事審判の申立書」という。)を家庭裁判所に提出してしなければならない。
2  家事審判の申立書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一  当事者及び法定代理人
二  申立ての趣旨及び理由
3~6(略)

(記録の閲覧等)
第二百五十四条  当事者又は利害関係を疎明した第三者は、家庭裁判所の許可を得て、裁判所書記官に対し、家事調停事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は家事調停事件に関する事項の証明書の交付を請求することができる。
2  前項の規定は、家事調停事件の記録中の録音テープ又はビデオテープ(これらに準ずる方法により一定の事項を記録した物を含む。)に関しては、適用しない。この場合において、当事者又は利害関係を疎明した第三者は、家庭裁判所の許可を得て、裁判所書記官に対し、これらの物の複製を請求することができる。
3  家庭裁判所は、当事者又は利害関係を疎明した第三者から前二項の規定による許可の申立てがあった場合(第六項に規定する場合を除く。)において、相当と認めるときは、これを許可することができる。
4  次に掲げる書面については、当事者は、第一項の規定にかかわらず、家庭裁判所の許可を得ずに、裁判所書記官に対し、その交付を請求することができる。
一  審判書その他の裁判書の正本、謄本又は抄本
二  調停において成立した合意を記載し、又は調停をしないものとして、若しくは調停が成立しないものとして事件が終了した旨を記載した調書の正本、謄本又は抄本
三  家事調停事件に関する事項の証明書
5  家事調停事件の記録の閲覧、謄写及び複製の請求は、家事調停事件の記録の保存又は裁判所若しくは調停委員会の執務に支障があるときは、することができない。
6  第二百七十七条第一項に規定する事項についての調停事件において、当事者から第一項又は第二項の規定による許可の申立てがあった場合については、第四十七条第三項、第四項及び第八項から第十項までの規定を準用する。

(家事調停の申立て)
第二百五十五条  家事調停の申立ては、申立書(次項及び次条において「家事調停の申立書」という。)を家庭裁判所に提出してしなければならない。
2  家事調停の申立書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一  当事者及び法定代理人
二  申立ての趣旨及び理由
3~4(略)

[家事事件手続規則]
(家事審判の申立書の記載事項等・法第四十九条)
第37条
1 家事審判の申立書には、申立ての趣旨及び申立ての理由(申立てを特定するのに必要な事実をいう。次項において同じ。)を記載するほか、事件の実情を記載しなければならない。
2 申立ての理由及び事件の実情についての証拠書類があるときは、その写しを家事審判の申立書に添付しなければならない。
3 家庭裁判所は、家事審判の申立てをした者又はしようとする者に対し、家事審判の申立書及び前項の証拠書類の写しのほか、当該申立てに係る身分関係についての資料その他家事審判の手続の円滑な進行を図るために必要な資料の提出を求めることができる。

(家事調停の申立て等・法第二百五十五条等)
第127条
家事調停の申立てについては第37条から第41条まで及び第47条の規定を、遺産の分割の調停の申立書については第102条第1項の規定を、寄与分を定める処分の調停の申立書については同条第2項の規定を、請求すべき按分割合に関する処分の調停の申立書については第120条の規定を準用する。

[戸籍法]
第二十九条  届書には、左の事項を記載し、届出人が、これに署名し、印をおさなければならない。
一  届出事件
二  届出の年月日
三  届出人の出生の年月日、住所及び戸籍の表示
四  届出人と届出事件の本人と異なるときは、届出事件の本人の氏名、出生の年月日、住所、戸籍の表示及び届出人の資格

第三十条  届出事件によつて、届出人又は届出事件の本人が他の戸籍に入るべきときは、その戸籍の表示を、その者が従前の戸籍から除かれるべきときは、従前の戸籍の表示を、その者について新戸籍を編製すべきときは、その旨、新戸籍編製の原因及び新本籍を、届書に記載しなければならない。
2  届出事件によつて、届出人若しくは届出事件の本人でない者が他の戸籍に入り、又はその者について新戸籍を編製すべきときは、届書にその者の氏名、出生の年月日及び住所を記載する外、その者が他の戸籍に入るか又はその者について新戸籍を編製するかの区別に従つて、前項に掲げる事項を記載しなければならない。
3  届出人でない者について新戸籍を編製すべきときは、その者の従前の本籍と同一の場所を新本籍と定めたものとみなす。

第六十三条  認知の裁判が確定したときは、訴を提起した者は、裁判が確定した日から十日以内に、裁判の謄本を添附して、その旨を届け出なければならない。その届書には、裁判が確定した日を記載しなければならない。
2  訴えを提起した者が前項の規定による届出をしないときは、その相手方は、裁判の謄本を添付して、認知の裁判が確定した旨を届け出ることができる。この場合には、同項後段の規定を準用する。

第七十七条  第六十三条の規定は、離婚又は離婚取消の裁判が確定した場合にこれを準用する。
2  前項に規定する離婚の届書には、左の事項をも記載しなければならない。
一  親権者と定められた当事者の氏名及びその親権に服する子の氏名
二  その他法務省令で定める事項

[戸籍法施行規則]
第五十七条 (略)
2  戸籍法第七十七条第二項第二号 の事項は、左に掲げるものとする。
一  調停による離婚、審判による離婚、和解による離婚、請求の認諾による離婚又は判決による離婚の別
二  前項第二号乃至第八号に掲げる事項

判例・参考情報

(通知1)
[平成17年11月8日付最高裁事務連絡(訴ろ-2)「訴状等における当事者の住所の記載の取り扱いについて」]
「犯罪被害者等から,加害者等に実際の居住地を知られ ると危害を加えられるおそれがあるなど,実際の居住地を記載しないことにつき, やむを得ない理由がある旨の申出がされた場合には,訴状等に実際の居住地を記載することを厳格に求めることはせずに,これを受け付けることが相当と考えられ」

(文献1)
[条解家事事件手続規則]
95頁
(家事事件手続規則37条3項について)
本条3項は,裁判所がその職権調査の一環として,申立人及び申立てをしようとする者に対し,手続の円滑な進行のために必要な資料一般の提出を求め得ることを確認的に規定したものである。家事審判の申立てには様々な種類があり,その全てについて必要な添付書類を列挙すること(民訴規55条参照)は困難であり,運用に応じた柔軟な変更も難しくなるため,個別の申立てごとに必要な資料の提出を適宜求めるのが相当であることから,本条3項の規定により,家庭裁判所が必要な資料の提出を求めることができることとしている。
家事事件では身分関係が申立適格を基礎付ける事件が多く,また,身分関係が重要な事実となることから,本条3項では「当該申立てに係る身分関係についての資料」を例示している。具体的には,戸籍記載事項証明書等が該当することになる。