【家事審判における給付命令(家事事件手続法75条)】

1 家事審判における給付命令(家事事件手続法75条)

家事審判において、裁判所は、審判の中に給付命令を入れることができます。本記事ではこれに関する法的問題を説明します。

2 家事事件手続法75条の条文

最初に条文を確認しておきます。家事審判は非訟手続の1つです。裁判所が具体的な権利関係を形成(創設)する手続です。これが原則論ですが、それに加えて、給付義務の履行の命令を審判の中に追加できる、ということが1項に定められています。2項は、その給付命令には執行力があると書いてあります。

家事事件手続法75条の条文

(給付命令)
家庭裁判所が審判により、権利又は法律関係の形成に関する裁判をする場合において、その審判の内容である権利又は法律関係の形成に伴って金銭の支払その他の給付をする義務が生ずる場合には、当該審判において、その義務の履行を命ずることができる。
2 前項の審判のうち給付を命ずる部分は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する。
※家事事件手続法75条

3 趣旨→家庭紛争の一回的・総合的解決

家事事件手続法75条の趣旨は、一回的・総合的解決を図ることにあります。原則論どおりだとすると、形成した権利関係について当事者が任意の履行をしない場合、訴訟提起をして判決(債務名義)を取得した上でなければ強制執行ができない、ということになってしまいます。これでは無駄に手続が重くなるので1回の手続で済むようにしたのです。

趣旨→家庭紛争の一回的・総合的解決

あ 目的→一回的解決

家事事件手続法75条は、家庭をめぐる紛争の一回的・総合的解決を図ることを目的としている

い 必要性→別途の訴訟を回避

家事審判においてこのような給付を命ずることが許容されないとすると、審判によって形成された権利または法律関係に基づいて、改めて給付請求をしなければならないことになる

う 旧法との関係

旧家事審判法15条を維持している

4 給付命令のある審判の具体例

家事審判の手続には多くのものがあります。養育費、婚姻費用の審判では支払う金額を決めます。離婚の際の財産分与や相続の際の遺産分割の審判では金銭の支払や、不動産を取得する者を裁判所が決めます。このような財産の給付を決める審判が、給付命令を出せる審判の典型です。

給付命令のある審判の具体例

(ア)夫婦間の協力扶助に関する処分の審判(別表第2の1の項)(イ)婚姻費用の分担に関する処分の審判(別表第2の2の項)(ウ)子の監護に関する処分の審判(別表第2の3の項、特に養育費の請求)(エ)財産の分与に関する処分の審判(別表第2の4の項)(オ)祭具等の所有権の承継者の指定の審判(別表第2の5、6または11の項)(カ)扶養の程度または方法についての決定およびその決定の変更または取消しの審判(別表第2の10の項)(キ)遺産の分割の審判(別表第1の12の項)(ク)特別の寄与に関する処分の審判(別表第2の15の項)

5 給付命令の申立の要否→不要(職権可)

家事事件手続法75条に基づく給付命令については、裁判所が職権で行うことができます。つまり、当事者が申立をしなくても裁判所が給付命令を出せるのです。一般論としては、給付命令を出される側にとっては不意打ちになるといえます。ただし、実務的には家事審判では(申立がなくても)給付命令がつくことは驚くようなことではないので具体的な支障が生じるようなことは通常ありません。

給付命令の申立の要否→不要(職権可)

あ 基本的な考え方

裁判所が形成された権利または法律関係の実現のために必要か否かという観点から、職権で給付命令を行うことができることを前提としている

い 職権による給付命令の必要性

ア 趣旨の実現 紛争の一回的解決の見地から、当事者の申立がなくても給付を命ずることができるようにすることが相当である
イ 給付内容の事前特定困難 申立の段階では具体的な給付内容が不明確な場合がある。
ウ 給付内容特定による遅延回避 審判の前に改めて申立をさせることは審判手続を遅延させる可能性がある

う 手続保障への配慮

職権で給付命令を行う場合、当事者の手続保障への配慮が一層重要になる
審判の内容が不意打ちにならないような手続運営が必要である

6 給付命令に基づく強制執行→執行文不要

もともと給付命令をつける目的は、仮に履行されない場合に強制執行できるようにしておく、というものです(前述)。別の言い方をすると、給付命令のついた審判は、判決と同じ債務名義にあたるのです。
詳しくはこちら|債務名義の種類は確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)などがある
ただ、判決よりも強力なところがあります。それは、原則として執行文が不要であるという特徴です。家事事件手続法75条2項に「執行力のある(債務名義)」と明記されているからです(判決であれば執行文の付与によって初めて執行力が生じます)。ただし、条件成就執行文や承継執行文が必要なケースでは、これらを省略することはできません。

給付命令に基づく強制執行→執行文不要

あ 執行力の付与

家事事件手続法75条2項により「執行力がある」ことが法律上(条文上)当然に認められる

い 執行文の要否

ア 原則(単純執行文)→不要 単純執行文の付与を受けることなく審判(給付命令)を債務名義として強制執行をすることができる
イ 条件成就執行文・承継執行文→必要 給付が条件にかかっている場合には条件成就執行文の付与、当事者に承継があった場合には承継執行文の付与が必要である

参考情報

※金子修編著『逐条解説 家事事件手続法 第2版』商事法務2022年p319、320

本記事では、家事審判における給付命令について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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