【民法における法律の錯誤(無効・取消の対象となる)】

1 民法における法律の錯誤(無効・取消の対象となる)

いろいろな場面で契約、合意をして権利関係が決める、ということが行われます。その時は納得していても、後から想定外の結果になることが発覚してあわてふためく、ということもあります。
その1つのパターンとして、特に意識していなかった法令(法律)が適用される、というものがあります。典型例は税法が適用され、予想外の高額の税金が課税されることが分かった、というものです。
このように、法律を誤解した(理解が欠けていた)場合に、錯誤として、契約や合意を取り消すことができることもあります。
本記事ではこれについて説明します。

2 法の不知への錯誤の適用→肯定

(1)山田二郎氏見解→肯定

ところで、刑法、つまり犯罪については、ルールを知らなかったとしても、故意がなかったことにはなりません。国民の代表が決めた法律(ルール)は知っていて当然という扱いになっているのです。
では、民法の世界、たとえば契約・合意についても、後から法律を知らなかったので取り消したい、という要求は通らないのではないか、というとそうではありません。民法95条の錯誤の規定が適用されます。もちろん、一定の要件にあてはまる場合にだけ取消をすることが認められます(平成29年改正前は「無効主張」でした)。

山田二郎氏見解→肯定

あ 見解

刑事法の領域では、「法の不知は弁解とならない。」という法格言が適用されている(刑法三八条三項)。
しかし、民事法の領域では、この法格言は適用されていない
※山田二郎稿/『判例タイムズ762号臨時増刊 平成2年度主要民事判例解説』1991年9月p142〜

い 刑法の故意阻却否定(参考)

法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。
※刑法38条3項

(2)我妻栄氏見解→一般の錯誤に類似

法律の誤解についても錯誤の規定が適用されるという見解は、古くから多くの学説が採用しています。我妻氏は物の性状についての錯誤に類似する、と説明しています。

我妻栄氏見解→一般の錯誤に類似

あ 物の性状に関する錯誤→適用あり(前提)

(ロ)物の性状・来歴に関する錯誤は、人の身分・資産などに関する錯誤と同様の範囲で、要素の錯誤となりうる ※我妻栄著『民法講義I 新訂 民法総則』岩波書店1965年p301

い 法律の錯誤→物の性状の錯誤に類似

(ニ)法律または法律状態の錯誤も、物の性状の錯誤に類似する。 ※我妻栄著『民法講義I 新訂 民法総則』岩波書店1965年p302

(3)コンメンタール民法→動機の錯誤と近接

コンメンタール民法は、法律の錯誤動機の錯誤と近接したものである、と指摘しています。なお、平成29年改正後は民法95条2項で「法律行為の基礎」と表現しています。契約や合意の前提としたもの、というような意味です。

コンメンタール民法→動機の錯誤と近接

(f)法律ないし法律状態の錯誤も、いろいろな形で問題になる(すでにあげた例のなかにもある)。
・・・
この種のものも、「動機の錯誤」と近接したものが多い。
※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p209

3 高額課税の発覚による錯誤取消(概要)

実際に、法律の錯誤として登場することが多いものの1つが、税法の錯誤です。具体的には、契約や合意の後に、予想外の高額の課税が発覚した、というものです。これについてはいろいろな状況について、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|財産分与での高額譲渡所得税発生時の無効・取消と代理人責任
詳しくはこちら|遺産分割・相続放棄による高額相続税発生時の無効・取消(判例の適用基準)

本記事では、民法における法律の錯誤について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に法律の錯誤(契約・合意の後に想定外のことが発覚したケース)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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