遺言を書こうと思います。
長男に大部分を承継させたいのですが,『私の妻の面倒をみてくれること』を前提にできますか。

1 遺言には停止条件負担を付けることができる
2 遺言内容に義務が含まれるかどうかで停止条件負担が区別される
3 停止条件付遺言は条件成就の時or遺言者死亡時に効力が生じる
4 停止条件付遺言を元に履行を請求できない

1 遺言には停止条件負担を付けることができる

遺言は主に財産の承継内容を記載しておくものです。
単純に承継先を記載するというのに加えて,カスタマイズが可能です。

2種類の方法について説明します。

(1)停止条件付遺言について

遺言の内容に停止条件を付けることができます(民法985条2項)。
停止条件とは,条件内容が成就した場合に,(遺言の)効力が生じる,という意味です。
一般的に用いられる『条件』とか『前提条件』と同じ意味です(後記『3』)。

(2)負担付遺言について

遺言の内容に,財産承継に伴う負担を設定することができます。
遺言の内容には種類がありますが,遺贈に負担を付けた場合については条文化されています(民法1002条)。
遺贈以外の遺産分割方法の指定相続分の指定についても負担を付けることは認められています。
<→別項目;負担付遺言

(3)停止条件や負担を付けた遺言の活用例

<遺言内容の例>

遺言者の妻の面倒をみることを停止条件負担として,一定の遺産を承継させる

これはちょっとおおまかに書きましたが,内容としてはよくある類型です。

2 遺言内容に義務が含まれるかどうかで停止条件負担が区別される

遺言に『停止条件』,『負担』と記載してある場合は分かりやすいです。
しかし実際には,どちらとも読める,ということが多いです。
この2つのどちらと認めるか,ということを説明します。

(1)解釈の方向性

まず,一般論として,遺言の解釈は,遺言内容や,他の事情によって遺言者の意思を推測します(後掲判例1)。
そして,遺言者の意思,本意から,次のように考えます。

停止条件負担の判別の方向性>

ア 対象者が義務付けられる意向 → 負担
イ 対象者が義務付けられない意向 → 停止条件

(2)対象者の義務の判断

義務と言えるかどうか,は,『選択の自由』と義務としての妥当性により判断します。

<対象者の『選択の自由』の例>

・一定の負担を履行して遺産を承継する
・負担しない代わりに遺産ももらわない

<『義務』としての妥当性>

あ 法的義務,に該当するか否か

裁判例(後掲判例2)
『祭祀主催者を引き受ける』は義務ではない→負担ではない(条件である)→遺言取消申立は失当
理由=系譜,祭具,墳墓のように祭祀に関係あるものの所有権を承継するだけの効果(民法897条)

い 法律上強制できる内容か否か

例;婚姻・離婚・養子縁組等をする,しないというものは性質上強制できない
 →法的義務ではない→負担ではない→条件である

う 受遺者の意思だけで実現できるものか否か

例;競技の成績,特定の大学への合格,遺言執行者を受遺者以外の第三者が引き受けること
→受遺者の意思だけでは実現不可能→法的義務ではない→負担ではない→条件である

3 停止条件付遺言は条件成就の時or遺言者死亡時に効力が生じる

元々,遺言自体は,相続開始(=被相続人死亡)の時点で効力を発生します(民法985条1項)。
ここで,停止条件付遺言の場合は,条件成就の時に効力が発生すると規定されています(民法985条2項)。
相続開始,と,条件成就,の前後関係で次のようにまとめられます。

<停止条件付遺言の効力発生時点のまとめ>

あ 遺言者死亡,よりも後に,条件が成就した

→条件成就の時(民法985条2項)
この場合,遺言者死亡時点では未確定条件付の権利という状態です。

い 遺言者死亡,よりも前の時点で,条件が成就している

→遺言者死亡時点(において確定的に効力が発生する)

う 条件が成就しないことが確定した

→対象の遺言内容(条項)は無効となる

4 停止条件付遺言を元に履行を請求できない

停止条件の内容について,履行請求は認められません。
停止条件は,ある効果(遺言内容どおりの遺産承継)が生じるかどうかのトリガーに過ぎません。
あくまでも自発的に履行した場合に,一定の効果が生じるという関係です。

<停止条件付遺言の具体例>

あ 遺言内容

『甲が(遺言者の)妻に100万円を払うことを条件に,A土地を相続させる』

い 効果

相続人は甲に対して100万円の支払を請求することはできない

逆に,義務であるとすればそれは停止条件ではなく負担(付遺言)ということになります。
<→別項目;負担付遺言

条文

[民法]
(祭祀に関する権利の承継)
第八百九十七条  系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2  前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

(遺言の効力の発生時期)
第九百八十五条  遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2  遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。

(負担付遺贈)
第千二条  負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
2  受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

判例・参考情報

(判例1)
[富山地方裁判所昭和29年(ワ)第59号土地所有権確認並びに権利変更登記請求事件昭和34年11月20日]
甲第一号証によれば、遺言として記載されたところのものは「一、私の遺産は包括的に全部R男に贈与相続させる、(略)六、S男は領策の命に伏し、N家の分散を防ぎ、R男はS男を援助して洫族の団結を計らねばならない、右二人の遺族も亦同様であらねばならぬ」の六項目であることが認められる。
(略)
およそ遺言が本件のように自筆証書によつてなされている場合、それが停止条件付のものであるかどうかは、遺言の要式性から考えて証書の記載内容自体のみに即して判断すべきものであると解すべきところ、前掲甲第一号証の記載内容を検討しても、本件遺言が被告に非行のあることを停止条件としているとは認められないので、右主張は理由がない。

(判例2)
[宇都宮家庭裁判所栃木支部昭和43年(家)第601号負担付遺贈遺言の取消申立事件昭和43年8月1日]
 思うにかように祖先の祭祀を主宰する者と指定された者は死者の遺産のうち系譜、祭具、墳墓のように祭祀に関係あるものの所有権を承継する(民法八九七条)ことがあるだけでそれ以上の法律上の効果がないものと解すべきである。すなわちその者は被相続人の道徳的宗教的希望を託されたのみで祭祀を営むべき法律上の義務を負担するものではない。その者が祭祀を行うかどうかは一にかかつてその者の個人的信仰や徳義に関することであつてこれを行わないからといつて法律上これを強制することはできない。従つて受遺者が偶々祭祀を主宰する者に指定されたからといつてこれを負担付遺贈を受けた者とすることはできない。