【遺言内容・文面の解釈の基本方針と具体例】
1 遺言内容の判断・確定に関する基本的方針
2 『おまかせします』という記載の解釈
3 『渡してほしい・分けて欲しい』という記載の解釈
4 『不動産分与』という記載の解釈
5 3通の書面の記載の解釈
1 遺言内容の判断・確定に関する基本的方針
遺言については内容,つまり条項の解釈が問題なることもあります。
特に自筆証書遺言では『複数の意味に取れる』条項も登場します。
遺言の条項の解釈については判例で原則的な方針が示されています。
<遺言内容の判断・確定に関する基本的方針>
あ 遺言の解釈の方針
遺言書の文言を形式的に判断するだけでは足りない
遺言者の真意を探究する
い 特定の条項の解釈方法
多数の条項のうち特定の条項の解釈について
単に当該条項のみを他から切り離して形式的に解釈するだけでは足りない
『う』の事情を考慮して遺言者の真意を探求する
う 考慮すべき事情
ア 遺言書の全記載との関連イ 遺言書作成当時の事情ウ 遺言者の置かれていた状況 ※最高裁昭和58年3月18日
結局,多くの状況の主張・立証で解釈に違いが生じるということです。
以下,具体的な条項の解釈について,実例を元に説明します。
2 『おまかせします』という記載の解釈
口語・平易な言葉は判断にしくいことになります。『おまかせします』という言葉は,財産の承継として認められない傾向があります。
<『おまかせします』という記載の解釈>
あ 遺言の記載
『一切を・・・おまかせします』
い 解釈
『与える』『贈る』という意味には取れない
不自然さが残る
→遺産分割方法の指定・遺贈の趣旨には解釈しない
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p56
3 『渡してほしい・分けて欲しい』という記載の解釈
『渡して/分けて欲しい』という言葉は曖昧です。しかし財産の承継の趣旨が読み取れます。遺言事項として有効となる傾向があります。
<『渡してほしい・分けて欲しい』という記載の解釈>
あ 遺言の記載
『遺言書』の表題
『渡してほしい』『分けて欲しい』
い 解釈
確定的意思を表示したものと言える
遺言者の願望にとどまらない
→無効となるものではない
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p56
4 『不動産分与』という記載の解釈
『不動産分与』という言葉は法的・正式なものではありません。しかし財産を承継する意味として認められる傾向があります。
<『不動産分与』という記載の解釈>
あ 遺言の記載
『遺書 不動産分与の件』という表題
相続人の名前と不動産を記載してある
い 解釈
ア 基本的解釈
遺贈の趣旨として解釈する
イ 遺産以外の不動産について
遺産ではない不動産が含まれていた
→生前処分の内容を確認的に記載したものである
→無効となるものではない
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p56
5 3通の書面の記載の解釈
複数の書面があり,その記載内容が整合していないケースがありました。全体として明確に意図が読み取れないので,無効となる傾向があります。
<3通の書面の記載の解釈>
あ 3通の書面の扱い
3通の書面が1つの封筒に入れられていた
→一体となって1つの遺言を構成する
い 同一土地の異なる承継内容
ア 遺言内容
3通の書面について
同じ土地を異なる者に取得させる内容の記載があった
イ 解釈
遺言者の遺言意思を客観的に一義的に確定することができない
→全体として無効である
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p56
なお,用紙が複数ある場合は『押印』という方式面でも有効性の解釈が問題となります。
詳しくはこちら|遺言の媒体・用紙と有効性(複数ページ・複数の用紙・ノート利用)
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