【遺言無効|実務|証拠・証人・保全的登記|公証人/医師の証言拒絶】
1 遺言能力|立証・証拠×実務的ポイント
2 遺言無効確認訴訟|公証人×証言拒絶
3 遺言無効確認訴訟|医師×証言拒絶
4 遺言無効確認訴訟|医師×証人|工夫
5 不動産×保全的登記|遺言vs法定相続|早い者勝ち
6 不動産×保全的登記|遺言vs法定相続|実務的効果
1 遺言能力|立証・証拠×実務的ポイント
遺言能力が裁判で争われるケースは多いです。
遺言能力に関する訴訟の理論面については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺言無効|訴訟|基本・理論|共同訴訟・当事者適格・訴えの利益・立証責任
本記事では立証・証拠の実務的なポイントを説明します。
まずは立証・証拠の重要部分を整理します。
<遺言能力|立証・証拠×実務的ポイント>
あ 重要性が高いもの
方針検討段階では『医療記録』が特に重要である
これをベースにすると良い
い 立証×実務的進め方
早期に『医療記録』を入手する
→内容を検討・把握する
→主張を整理・特定する
→関連する事情の把握・証拠の収集を行う
う 証人の注意点
公証人・医師が証人として重要である
具体的アクションとしては特有の配慮が必要である(後記)
2 遺言無効確認訴訟|公証人×証言拒絶
遺言無効確認訴訟では公証人の証言がキーになることもあります。
一方で公証人には『証言拒絶権』があります。
これについての解釈論をまとめます。
<遺言無効確認訴訟|公証人×証言拒絶>
あ 証言拒絶権|原則
公証人には『証言拒絶権』が認められている
※民事訴訟法197条1項2号
い 証言拒絶権|例外
ア 概要
遺言無効確認訴訟では『公証人の証言拒絶権』は制限される
イ 前提事情
遺言者が死亡した
公正証書遺言の効力を巡って紛争が生じている
公証人の証言を得る以外に適切な証拠方法がない
ウ 例外的解釈
遺言者の秘密に属する事実が開示されることは許容される
=証言拒絶ができない
許容範囲=紛争の争点に対する判断に必要な限度
※東京高裁平成4年6月19日
3 遺言無効確認訴訟|医師×証言拒絶
遺言無効確認訴訟では『医師の証言』が重要になることが多いです。
医師についても『証言拒絶権』との問題があります。
<遺言無効確認訴訟|医師×証言拒絶>
あ 医師×証言拒絶|基本
次のいずれにも該当する場合だけ
→証言拒絶・黙秘権の対象となる
ア 一般に知られていない事実であるイ 秘匿することが客観的に保護に値する利益と言える
※最高裁平成16年11月26日
い 解釈論
公証人の証言拒絶の限界(判例;上記)と同様と考えられる
→『紛争の争点に対する判断に必要な限度』では証言義務がある
4 遺言無効確認訴訟|医師×証人|工夫
医師の証人尋問については,現実的な配慮・工夫があります。
<遺言無効確認訴訟|医師×証人|工夫>
あ 配慮すべき事情
時間的に出廷が難しいことが多い
い 対応方法
代替的な手続を利用する選択肢も考える
ア 書面尋問
却って手間が増える可能性もある
イ 調査嘱託
所属する医療機関を対象とする
※民事訴訟法205条,186条
5 不動産×保全的登記|遺言vs法定相続|早い者勝ち
実務的に,主張・見解の対立の初期段階で準備することがあります。
一般的には『民事保全』『審判前の保全処分』という手続があります。
しかし相続で遺産に不動産がある場合は『登記』が重要になります。
ストレートな『登記申請』が『早い者勝ち』という状態になるのです。
<不動産×保全的登記|遺言vs法定相続>
あ 遺言を『有効』と主張する相続人
『遺言による登記』を単独で申請できる
い 遺言を『無効』と主張する相続人
『法定相続登記』を単独で申請できる
=『遺言がない』という前提の遺産承継
う タイミング
『あ・い』のいずれかが先に申請された場合
→他方の申請はできなくなる
え 事後的な処理
交渉や裁判で判断が確定した場合
→その時点でこの内容どおりの登記に修正する
6 不動産×保全的登記|遺言vs法定相続|実務的効果
上記の『早い者勝ちの登記』で違い・効果が生じます。
これについてまとめます。
<不動産×保全的登記|遺言vs法定相続|実務的効果>
あ 法的効果
遺言による登記/法定相続登記の違い
=第三者への売却などによる効果が大きく違ってくる
い 実務的効果
交渉における『有利/不利』につながる
実際に第三者に売却しない状況でもこの効果が生じる
登記に関しては別記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|相続に関する登記の種類と申請タイミング(法定相続・遺言・遺産分割・遺留分)

2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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