【遺言書の内容の解釈(適法有効の方向性・判断基準・具体例)(解釈整理ノート)】
1 遺言書の内容の解釈(適法有効の方向性・判断基準・具体例)(解釈整理ノート)
遺言書が有効か無効か、有効だとしても「どのような意味なのか」について、相続人の間で熾烈な対立となることがよくあります。
詳しくはこちら|遺言無効確認訴訟の審理の総合ガイド(流れ・実務的な主張立証・和解の手法)
本記事では、遺言書の内容の解釈(判定)の基準や具体例について、実務上のルール(判例)を整理しました。
2 遺言解釈の特徴と基本方針→遺言者の真意探求のみ
遺言解釈の特徴と基本方針→遺言者の真意探求のみ
遺言がどのような効力を生じるかは、遺言書に示された遺言者の意思解釈によって決まる
3 基本方針→適法有効方向
基本方針→適法有効方向
※最判昭和30年5月10日判タ49号55頁
4 判断材料の広汎性→遺言書の全記載・作成当時の事情や状況
判断材料の広汎性→遺言書の全記載・作成当時の事情や状況
あ 昭和58年最判
遺言書が複数の条項から成る場合には、特定の条項を解釈するに当たっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他の条項と切り離して抽出し、その文言を形式的に解釈するだけでは十分でなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し、当該条項の趣旨を確定すべきである
※最判昭和58年3月18日判タ496号80頁
い 判断基準の整理
遺言内容の確定においては、以下の観点から遺言者の真意を探究する
(ア)遺言書の全記載内容との関連性の検討(イ)遺言書作成当時の事情の考慮(ウ)遺言者の置かれていた状況の考慮
5 遺言書外の事情の考慮
(1)遺言書外の事情考慮→あり
遺言書外の事情考慮→あり
※最判平成5年1月19日民集47巻1号1頁
(2)遺言書の記載優先の原則
遺言書の記載優先の原則
※最判平成13年3月13日判タ1059号64頁
(3)遺言書作成当時の事情・状況考慮の補充性
遺言書作成当時の事情・状況考慮の補充性
※東京高判平成17年6月22日判タ1195号220頁
6 遺言の有効性との関係と主張立証責任
遺言の有効性との関係と主張立証責任
あ 遺言の有効性との関係
遺言は原則として書面によって行われる意思表示であるため、遺言書からその遺言内容を把握できない場合は、遺言の効力の発生は認められない
い 遺言無効確認訴訟における主張立証責任→有効主張側
遺言が有効であると主張する者は、抗弁として、遺言の効力の発生を基礎付ける事実について主張立証しなければならない
7 遺言が無効と判断された具定例
(1)「おまかせします」→無効
「おまかせします」→無効
(2)複数の取得者(矛盾する記述)→無効
複数の取得者(矛盾する記述)→無効
同じ土地を異なる者に取得させる内容であった
遺言者の意思が一義的に確定できないため、全体として無効である
8 遺言が有効と判断された事例
(1)「不動産分与」と取得者氏名→有効
「不動産分与」と取得者氏名→有効
「遺贈する」「相続させる」等の文言がなかった
「遺書不動産分与の件」との表題の下に相続人の名前に対応させて不動産を記載してあった
遺言者が各相続人に遺贈すべき遺産を明らかにした趣旨と読める
遺言全体が無効とはならない
遺言者の所有でない財産については、単に遺言に基づく権利移転の効果が発生しないだけである
(2)「渡してほしい」「分けてほしい」→有効
「渡してほしい」「分けてほしい」→有効
「遺言書」の表題と記載内容全体から見て確定的な意思表示であると解釈した
9 参考情報
参考情報
藤井伸介ほか著『遺言無効主張の相談を受けたときの留意点』日本加除出版2020年p33、34
本記事では、遺言書の内容の解釈について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺言の有効性など、相続や遺産分割に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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