将来の相続より前に,子供に財産を渡しておきたいのですが,知らせると使ってしまうのが心配です。

1 子供に知らせずに生前贈与したい場合,信託で実現できる
2 信託一般;信託財産を管理する受託者は第三者,委託者自身のいずれも可能
3 受託者が亡くなった時に『後任の指定』がないと裁判所の選任手続が必要になる

1 子供に知らせずに生前贈与したい場合,信託で実現できる

『子供に生前贈与をする』かつ『子供に知られたくない』というニーズがあります。
通常の贈与では不可能です。
また,『知らせない』場合は『贈与と認められない』リスクもあります。
別項目|『名義預金』『名義株』の認定を避ける方法;信託の活用
この点,信託を用いるとこれが可能となります。

例えば,『父Aが委託者兼受託者,子Bが受益者』,という形で信託をすれば可能です。
通常は信託の場合でも受益者(贈与における受贈者に相当)に通知することになります。
しかし,通知しないと規定することも可能なのです。
※信託法88条2号本文
通常の民法の枠組みではできなかったことが,信託では可能となっています。
※信託法88条2号但書

また,この方法を取った場合,倒産隔離という効果も生じます。
別項目|信託契約においては差押がされにくくなっている;倒産隔離

なお,『子供の存在自体を知られたくない』というテーマはこれとは別です。
詳しくはこちら|死後の認知|全体|認知を回避or遅らせる背景事情
詳しくはこちら|遺言認知|子の存在を隠す・遺言執行者が遂行・相続→金銭賠償

2 信託一般;信託財産を管理する受託者は第三者,委託者自身のいずれも可能

信託の場合受託者が財産の管理を行います。
元の所有者は管理を受託者に委ねるということが可能なのです。

逆に,管理は自分で行う,という方法も可能です。
この場合,委託者=受託者という設定にすることになります。

3 受託者が亡くなった時に『後任の指定』がないと裁判所の選任手続が必要になる

信託が長期間継続する場合は,受託者が亡くなるということも生じることがあります。
特に,遺言代用信託受益者連続型信託の場合には,このような事態が想定されます。
別項目;遺言代用信託,受益者連続型信託;まとめ
具体的な対応策について説明します。

(1)裁判所に対する,受託者選任請求手続

信託を設定(信託契約)した後に,受託者が亡くなる時期が来ます。
この時に,面倒なことが生じます。
受託者不在ということになりますから,代替要員を投入しなくてはなりません。
原則的には,裁判所に対して受託者の選任請求という手続を取る必要があります。

(2)事前に『次の受託者』を指定しておく方法

受託者不在となった時に,裁判所への受託者選任請求をする必要を回避できます。
最初の信託設定(信託行為や信託契約)の時点で,予め『次の受託者』を決めておけば良いのです。
この場合,裁判所への選任請求をしなくて済みます。
ただし,『次の受託者』を決めておいたとしても,問題が解決しない事例もあります。

次の受託者が拒否するケースです。
そこで,当初の信託設定時に,『次の受託者』(候補)に,了解を取り付けておき,これを信託契約書等に明確化しておくと良いです。
ここまでして初めて安心できます。

信託の設定は,このように,長期間にわたる,ある意味スケールの大きいプロジェクトです。
想定できることは最大限想定し,対策を取っておくべきです。

条文

[信託法]
(受益権の取得)
第八十八条  信託行為の定めにより受益者となるべき者として指定された者(次条第一項に規定する受益者指定権等の行使により受益者又は変更後の受益者として指定された者を含む。)は、当然に受益権を取得する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
2  受託者は、前項に規定する受益者となるべき者として指定された者が同項の規定により受益権を取得したことを知らないときは、その者に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。