貸金業者の取引履歴の開示費用|上限の物差しと禁止を求めた意見
1 貸金業者の取引履歴の開示費用|上限の物差しと禁止を求めた意見
貸金業者が取引履歴の開示に費用を請求するとして、いくらまでなら許されるのかが次の問題になります。貸金業法の側に金額の物差しはなく、手がかりは行政の監督指針と、個人情報保護法の側の枠にあります。
本記事では、費用の上限がどこにあるのかを、監督指針の着眼点、金額の物差し、名目を問わない禁止を求めた意見の順に説明します。
貸金業法19条の2が定める開示義務そのものは、別の記事で説明しています。
貸金業者の取引履歴の開示義務|貸金業法19条の2と最判平成17年7月19日
2 上限は実費を勘案した合理的な範囲→名目を問わない禁止は置かれず
先に全体をまとめます。行政の立場は監督指針とパブリックコメント回答、金額の枠は個人情報保護法によるものです。
費用の上限をめぐる現在地
あ 貸金業法の物差し(額の基準はあるか)
貸金業法の側に、費用の額についての物差しはない。
い 監督指針Ⅱ-2-18(何を着眼点にするか)
帳簿の複写や複写物の郵送に係る実費を徴収する場合を前提に、金額が適正かつ適切か、実費の内容を説明する態勢があるかを着眼点にしている。正当な理由なく過度な負担を課す場合は、閲覧または謄写の拒否に該当するおそれがあるとする。
う 個人情報保護法の枠(何が参考になるか)
行政文書1個につき300円(オンライン申請は200円)が参考になるとする解説がある。
え 名目を問わない禁止(置かれているか)
名目を問わない明記を求める意見が寄せられたが、監督指針の文言には反映されなかった。一方、日本司法書士会連合会の指針13条は、任意整理事件について、名目の如何にかかわらず定める報酬以外の報酬を請求し、または受領してはならないと定めている。
3 監督指針Ⅱ-2-18→実費を徴収する場合の金額の適正性と説明態勢
「貸金業者向けの総合的な監督指針」(令和8年7月)は、帳簿の閲覧・謄写についての監督上の着眼点を、Ⅱ-2-18(1)に置いています。費用に触れているのはその③で、実費を徴収する場合を前提に置いたうえで、額が適正かどうかと、実費の内容を説明できる態勢があるかどうかを見る、という形になっています。
同じⅡ-2-18(1)の①は、確認や閲覧・謄写の方法について、正当な理由なく過度な負担を課す場合を、拒否に当たりうるものとして扱っています。実費を徴収すること自体は否定していない一方で、その負担が過度であれば拒否と同じに扱われる、という組み立てです。
監督指針は、行政が貸金業者を監督するときの着眼点をまとめたものです。それでも、実費を徴収する場合を前提に置いているという点で、費用の請求が監督上まったく想定されていない行為ではないことは読み取れます。
この着眼点は新しいものではありません。平成19年12月版の監督指針は、同じ項目をⅡ-2-14として置いており、実費を徴収する場合の金額の適正性と、実費の内容を説明する態勢について、令和8年7月版と同じ文言を用いています。条番号はⅡ-2-14からⅡ-2-18へ動いていますが、費用についての着眼点の文言は、平成19年12月の版と現在の版で違いがありません。
実費を徴収する場合の着眼点
帳簿の複写や複写物の郵送に係る実費を徴収する場合、当該金額は適正かつ適切な金額となっているか。
また、帳簿の閲覧又は謄写の請求者から当該実費の内容について説明を求められた場合、その内容を説明する態勢が整備されているか。
※『貸金業者向けの総合的な監督指針』金融庁令和8年7月p54
過度な負担を課す場合の扱い
なお、本人又は正当な委任を受けた代理人等であるかの確認及び閲覧又は謄写の方法に関し、正当な理由なく過度な負担を課す場合は、帳簿の閲覧又は謄写の拒否に該当するおそれがあることに留意する必要がある。
※『貸金業者向けの総合的な監督指針』金融庁令和8年7月p54
平成19年12月版の同じ着眼点=Ⅱ-2-14
帳簿の複写や複写物の郵送に係る実費を徴収する場合、当該金額は適正かつ適切な金額となっているか。
※『貸金業者向けの総合的な監督指針』金融庁平成19年12月p21
4 金額の物差し→実費を勘案した合理的範囲・行政文書1個につき300円が参考
費用を請求できるとして、いくらまでなら許されるのか。貸金業法の側に物差しはありません。個人情報保護法の側には、実費を勘案して合理的であると認められる範囲内という枠があります(38条2項)。
『詳解 個人情報保護法と企業法務』は、この枠の中での額の定め方に2通りがあるとします。コピーや郵送等の実費のみを徴収する方法と、実費に加えて閲覧・視聴に対しても開示手数料を徴収する方法です。そのうえで、情報の開示によって利益を受けるのは請求者本人なのだから、受益者である請求者が費用を負担するのが合理的であるとして、後者を採ればよいと述べています。
額そのものの目安としては、行政機関に対する開示請求の手数料が引き合いに出されます。コンメンタールは、行政文書1個につき300円(オンライン申請の場合は200円)とされていることなどが参考になる、としています。なお、引用中の「1)」は同書の脚注番号で、脚注は個人情報保護委員会のガイドラインQ&A48頁(6-17)を指しています。このQ&Aそのものは、当方ではまだ取得していません。
金額の定め方は2通り
具体的な金額の定め方については、コピーや郵送等の実費のみを徴収する方法と、実費に加えて、閲覧・視聴に対しても開示手数料を徴収する方法がある。
情報の開示によって利益を受ける者は、当該請求者本人なのであるから、原則として、受益者である請求者がその費用を負担することが合理的であろう。
したがって、後者の開示手数料を徴収する方法を採用すればよいものと思われる。
※弁護士 菅原貴与志著『詳解 個人情報保護法と企業法務〔第8版〕』民事法研究会2022年 4月p352
金額の算定で参考になるとされるもの
手数料の具体的な額については、実費を勘案して各事業者が定めることとなるが、開示の手数料の額の算定にあたっては、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律に基づく開示手数料が行政文書1個につき300円(オンライン申請の場合は200円)とされていること(同法16条1項及び施行令13条1項1号)などが参考になる1)。
※石井 夏生利 編著/曽我部 真裕 編著/森 亮二 編著『個人情報保護法コンメンタール』勁草書房2021年 3月p597
5 寄せられた意見→名目を問わない費用請求の禁止を求めたが容れられず
同じ改正案に対しては、費用の請求そのものを禁ずるよう求める意見も寄せられています。開示義務が信義則(民法1条2項)に基づくもので個人情報保護法に基づくものではないことを理由に、名目を問わず費用を請求してはならない旨を明記すべきだ、という求めです。
回答は寄せられた意見を概要の形でまとめ、提出者を記載しません。実際、この文書に提出者の名を挙げた欄はなく、求めた主体を文書の側から特定することはできません。
結果として、名目を問わず費用の請求を禁ずるという求めは、監督指針の文言には入りませんでした。現在の監督指針は、前述のとおり実費を徴収する場合を前提に置いています。
名目を問わない請求禁止の明記を求めた意見
名目の如何を問わず請求してはならないことを明確にすべきである
※『事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等』金融庁平成17年10月14日p5
6 代理人の側の規律=名目を問わない報酬の制限(日司連指針13条)
同じ「名目の如何を問わず」という言い方は、代理人の側の規律には現に置かれています。日本司法書士会連合会の「債務整理事件の処理に関する指針」(令和7年4月23-24日理事会決定)13条は、任意整理事件において、名目の如何にかかわらず、指針が定める報酬以外の報酬を請求し、または受領してはならない、と定めています。
同指針の解説によれば、この規定が置かれた背景には、事件処理にかかる付随費用として「顧客管理費用」「通信費」「顧問料」等の名目で依頼者から報酬を受領する事例が報告されていた、という事情があります。寄せられた意見が貸金業者について求めた明記と、この13条は、いずれも「名目の如何を問わず」という同じ言い方をしています。
これは貸金業者を拘束する規定ではありません。債務整理を受任する側の団体が、自分の会員に課している規律です。並べて読めることと、一方が他方の根拠になることは別です。
代理人の側の規律=名目を問わない報酬の制限
第 13 条 会員は、任意整理事件において、名目の如何にかかわらず、第9条から前条までに定める報酬以外の報酬を請求し、又は受領してはならない。
※日本司法書士会連合会編『債務整理事件の処理に関する指針の解説』日本司法書士会連合会2025-04-24p10
7 おわりに
費用の上限は、貸金業法の側では決まっていません。行政は実費を徴収する場合を前提に置き、額が不合理に高い場合だけ開示の拒否と同視するという立場です。名目を問わない禁止を求める意見は、貸金業者については容れられませんでした。
貸金業法19条の2が定める開示義務そのものは、別の記事で説明しています。
貸金業者の取引履歴の開示義務|貸金業法19条の2と最判平成17年7月19日
個人情報保護法38条の手数料を使えるのかという問いは、別の記事で説明しています。
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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