貸金業者の取引履歴|個人情報保護法38条の手数料は徴収不可
1 貸金業者の取引履歴|個人情報保護法38条の手数料は徴収不可
貸金業者に取引履歴の開示を求めるとき、手数料の根拠として個人情報保護法が出てくることがあります。各社の公表ページも、貸金業法に基づく取引履歴の開示と、個人情報保護法に基づく開示請求とを分けて案内しています。
本記事では、個人情報保護法38条の手数料を貸金業者の取引履歴の開示に使えるのかを、条文、手数料を徴収できる手続との区別、金融庁の回答の順に説明します。
貸金業法19条の2が定める開示義務そのものは、別の記事で説明しています。
貸金業者の取引履歴の開示義務|貸金業法19条の2と最判平成17年7月19日
2 金融庁は個人情報保護法ルートを否定→38条の手数料の徴収は不可
先に全体をまとめます。条文は個人情報保護法、行政の立場は金融庁の回答によるものです。
個人情報保護法ルートの現在地
あ 個人情報保護法の手数料(どの手続に認められるか)
本人は保有個人データの開示を請求でき(33条1項)、事業者は開示の請求を受けたときに手数料を徴収できる(38条1項)。訂正や利用停止には手数料が認められていない。
い 額の枠(いくらまで定められるか)
徴収する場合は、実費を勘案して合理的であると認められる範囲内で定める(38条2項)。定めたときは、開示等の請求に応じる手続とあわせて本人の知り得る状態に置く(32条1項3号)。
う 金融庁の回答(38条の手数料を使えるか)
取引履歴の開示義務は信義則に基づくもので個人情報保護法に根拠を有するものではないから、同法に基づく手数料の徴収はできない、とする。
え 費用負担そのもの(当局は判断したか)
最高裁判決が費用負担の在り方に具体的に言及していないため、当局としても判断を差し控えるとする。不合理に高額な設定の場合だけ、開示を「不当に拒むこと」に該当し得るとする。
3 個人情報保護法38条=開示請求の手数料・実費を勘案した合理的な範囲
もう1つの経路が個人情報保護法です。本人は、自分が識別される保有個人データの開示を請求することができ(33条1項)、事業者は、この開示の請求を受けたときに手数料を徴収することができます(38条1項)。貸金業者の公表ページが、貸金業法に基づく取引履歴の開示と、個人情報保護法に基づく開示請求とを分けて案内しているのは、この2つの経路があるためです。
手数料の額には枠があります。徴収する場合は、実費を勘案して合理的であると認められる範囲内で額を定めなければなりません(38条2項)。額を定めたときは、開示等の請求に応じる手続とあわせて、本人の知り得る状態に置く必要があります(32条1項3号)。各社が手数料の金額を公表ページに載せているのは、この規定によるものです。
なぜ開示と利用目的の通知にだけ手数料が認められ、訂正や利用停止には認められないのか。コンメンタールは、これらの請求には事業者が原則として応じざるを得ない性質があるために濫用のおそれがあり、その防止の観点からも手数料の徴収が認められるのだと説明します。訂正や利用停止のほうは、事業者の落ち度や法違反に基づくものだから手数料を徴収することは相当でない、という整理です。
引用する『個人情報保護法コンメンタール』は2021年3月の刊行で、条文は令和2年の改正前の番号で引かれています。手数料が33条、開示が28条1項、利用目的の通知が27条2項、訂正等が29条、利用停止等が30条で、現行では順に38条・33条1項・32条2項・34条・35条に当たります。手数料の規定については、引用する条番号が違うだけで、文言は現行38条と同じです。引用は原文のまま載せています。
開示の請求と手数料(個人情報保護法33条1項・38条)
本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データの電磁的記録の提供による方法その他の個人情報保護委員会規則で定める方法による開示を請求することができる。
※個人情報の保護に関する法律33条1項
個人情報取扱事業者は、第三十二条第二項の規定による利用目的の通知を求められたとき又は第三十三条第一項の規定による開示の請求を受けたときは、当該措置の実施に関し、手数料を徴収することができる。
※個人情報の保護に関する法律38条1項
個人情報取扱事業者は、前項の規定により手数料を徴収する場合は、実費を勘案して合理的であると認められる範囲内において、その手数料の額を定めなければならない。
※個人情報の保護に関する法律38条2項
手数料の額を本人の知り得る状態に置く(個人情報保護法32条1項3号)
個人情報取扱事業者は、保有個人データに関し、次に掲げる事項について、本人の知り得る状態(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む。)に置かなければならない。
※個人情報の保護に関する法律32条1項
次項の規定による求め又は次条第一項(同条第五項において準用する場合を含む。)、第三十四条第一項若しくは第三十五条第一項、第三項若しくは第五項の規定による請求に応じる手続(第三十八条第二項の規定により手数料の額を定めたときは、その手数料の額を含む。)
※個人情報の保護に関する法律32条1項3号
手数料を徴収できる手続と、できない手続
これらの請求等については、その理由にかかわらず、本人から請求等があった場合には個人情報取扱事業者は原則として応じざるを得ない性質のものであることから、その請求等が濫用されるおそれもあり、これを防止する観点からも手数料を徴収することが認められる。
他方、これ以外の本人関与手続である訂正等請求(法29条)、利用停止等請求(法30条1項・5項)及び第三者提供停止請求(同条3項・5項)の場合は手数料を徴収することができない。
※石井 夏生利 編著/曽我部 真裕 編著/森 亮二 編著『個人情報保護法コンメンタール』勁草書房2021年 3月p597
4 パブリックコメント回答→38条の手数料は不可・費用負担の判断は差控え
もう1つが、金融庁が平成17年10月14日に公表したパブリックコメント回答です。事務ガイドライン第三分冊(金融会社関係)の一部改正案に寄せられた意見への回答で、「6.手数料の徴収」という項目が立てられています。
そこで金融庁は、取引履歴の開示義務は信義則に基づくものであって個人情報保護法に根拠を有するものではないから、同法に基づく手数料の徴収はできないものと解される、と答えています。最高裁が認めた開示義務は、貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務としての信義則上の義務ですから、個人情報保護法の開示請求とは別の経路だ、という整理です。
他方で、費用の負担そのものについては、最高裁判決が費用負担の在り方について具体的に言及しておらず、当局としてもその判断は差し控える、と述べています。そのうえで、客観的にみて不合理に高額な費用設定を行っている場合には、過重な負担の要求であり、開示を「不当に拒むこと」に該当し得る、としています。
この回答が引く条番号は平成17年当時のもので、開示請求が25条1項、手数料が30条です。前節で触れた令和2年改正前の番号(手数料は33条)とも、現行の番号(手数料は38条)とも違います。とくに同じ「30条」が前節では利用停止等を指すので、番号だけで追わないでください。
まとめると、金融庁は、個人情報保護法に基づく手数料は使えないと明言しつつ、信義則に基づく開示義務における費用負担そのものについては態度を保留し、額が不合理に高い場合だけ開示の拒否と同視する、という立場です。請求できるともできないとも言っていません。
個人情報保護法に根拠がないので同法の手数料は使えない
同法第30条に基づく手数料の徴収はできないものと解されます
※『事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等』金融庁平成17年10月14日p5
費用負担の在り方そのものは判断を差し控える
当局としてもその判断は差し控えさせていただきます
※『事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等』金融庁平成17年10月14日p5
不合理に高額なら「不当に拒むこと」に当たり得る
客観的にみて不合理に高額な費用設定を行っている場合には
※『事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等』金融庁平成17年10月14日p5
5 おわりに
個人情報保護法の経路は、貸金業法に基づく取引履歴の開示とは別のものです。公表ページが2つを分けて案内しているのは、根拠となる法律が違うためです。
貸金業法19条の2が定める開示義務そのものは、別の記事で説明しています。
貸金業者の取引履歴の開示義務|貸金業法19条の2と最判平成17年7月19日
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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