貸金業者の取引履歴の開示義務|貸金業法19条の2と最判平成17年7月19日

1 貸金業者の取引履歴の開示義務|貸金業法19条の2と最判平成17年7月19日

借入れの取引履歴は、債務整理や過払金の返還請求をするときの出発点になります。利息制限法の制限利率で計算し直すには、いつ・いくら借りていつ返したかの記録が必要で、それを持っているのは貸金業者です。

本記事では、貸金業者が取引履歴の開示義務を負う根拠と、その義務が費用の負担について何を言っているのかを、貸金業法19条の2と最高裁判決から説明します。

開示を求めたときに実務で何が起きるかは、別の記事で説明しています。

貸金業者の取引履歴|貸金業法19条の2の閲覧・謄写請求と費用の納付

2 開示義務は信義則上のもの→貸金業法に費用の定めなし

本記事の結論を先にまとめます。いずれの行も、後述の各節で条文と出典を挙げて説明します。

開示義務と費用の現在地

あ 貸金業法の定め(費用の負担を定めているか)

19条の2は帳簿の閲覧・謄写を請求できることを定めるだけで、費用には触れていない。

い 最高裁の判断(費用に触れているか)

開示義務を導く理由の中で、貸金業者に特段の負担は生じないとしているにとどまる。費用を誰が負担するかについて述べたものはない。

う 最判の射程(どこまでと読まれているか)

開示義務そのものは認めつつ、無制限・無制約の開示義務を判示したものではないとする読み方が示されている。

え 費用論の文献(調べて見つかったか)

費用論に正面から答えた文献は、2026年9月30日現在、当方が調べた範囲では見当たらない。

3 貸金業法19条の2=閲覧・謄写の請求権のみ・費用の定めなし

貸金業者には、営業所または事務所ごとに業務に関する帳簿を備え、債務者ごとに、貸付けの契約について契約年月日・貸付けの金額・受領金額などを記載して保存する義務があります(貸金業法19条)。この帳簿について、債務者等は、閲覧または謄写を請求することができます(同法19条の2)。貸金業者の側は、その請求が請求者の権利の行使に関する調査を目的とするものでないことが明らかであるときを除いて、請求を拒むことができません。

請求できる人の範囲は内閣府令が定めています。債務者等本人と債務者等であった者のほか、法定代理人や相続人、本人に代わって弁済をした者、そしてこれらの者から請求について代理権を付与された者です(貸金業法施行規則17条の2)。債務整理の依頼を受けた代理人は、この4号によって請求できることになります。

閲覧の方法は、営業所等ごとに帳簿を備え置き、営業時間内に、請求に応じて閲覧または謄写をさせる、というものです(同規則17条の3)。条文は閲覧または謄写をさせなければならないとだけ書いていて、その費用を誰が負担するかには触れていません。貸金業法にも施行規則にも、費用の定めは見当たりません。

条文

帳簿の備付けと閲覧の請求(貸金業法19条・19条の2)

貸金業者は、内閣府令で定めるところにより、その営業所又は事務所ごとに、その業務に関する帳簿を備え、債務者ごとに貸付けの契約について契約年月日、貸付けの金額、受領金額その他内閣府令で定める事項を記載し、これを保存しなければならない。

※貸金業法19条

債務者等又は債務者等であつた者その他内閣府令で定める者は、貸金業者に対し、内閣府令で定めるところにより、前条の帳簿(利害関係がある部分に限る。)の閲覧又は謄写を請求することができる。この場合において、貸金業者は、当該請求が当該請求を行つた者の権利の行使に関する調査を目的とするものでないことが明らかであるときを除き、当該請求を拒むことができない。

※貸金業法19条の2

条文

請求できる者と閲覧の方法(貸金業法施行規則17条の2・17条の3)

法第十九条の二に規定する内閣府令で定める者は、次に掲げる者とする。

※貸金業法施行規則17条の2

債務者等若しくは債務者等であつた者又は前各号に掲げる者から法第十九条の二の請求について代理権を付与された者

※貸金業法施行規則17条の2第4号

貸金業者は、法第十九条の規定に基づき、同条の帳簿をその営業所等ごとに備え置き、法第十九条の二に規定するときを除くほか、その営業時間内に、請求者の請求に応じて閲覧又は謄写をさせなければならない。

※貸金業法施行規則17条の3

4 最判平成17年7月19日→信義則上の開示義務・貸金業者に特段の負担なし

取引履歴の開示義務そのものを認めたのが、最高裁判所第三小法廷の平成17年7月19日判決(民集59巻6号1783頁・平成16年(受)第965号)です。債務整理を受任した弁護士が半年近く繰り返し開示を求めたのに貸金業者が拒み続けた、という事案で、最高裁は、開示を拒絶した行為は違法性を有し不法行為を構成するとして、慰謝料について審理を尽くさせるために原判決を破棄し、差し戻しました。

この判決が開示義務を導いた理由の中に、費用の問題に隣り合う一節があります。債務者の側は債務内容を正確に把握できないと大きな不利益を被る可能性があるのに対して、貸金業者の側は保存している業務帳簿に基づいて債務内容を開示することは容易であり、貸金業者に特段の負担は生じない、という両者の負担の比較です。

もっとも、この判決は費用の負担そのものについては何も述べていません。述べているのは、開示義務があること、その義務に違反して開示を拒絶すれば不法行為になること、開示義務が外れるのは開示要求が濫用にわたるなど特段の事情がある場合に限られること、の3つです。

なお、この判決は平成17年のものです。判決文が「貸金業法」と略しているのは、当時の題名である「貸金業の規制等に関する法律」で、判決が挙げている条文は帳簿の備付けを定めた19条と施行規則16条です。前述の19条の2(帳簿の閲覧)は、判決文には一度も出てきません。最高裁は、開示そのものを定めた規定からではなく、貸金業法の趣旨と、前述の両者の負担の比較から、信義則上の付随義務として開示義務を導いています。

引用:判例

開示義務を導いた理由と、その規範

以上のような貸金業法の趣旨に加えて、一般に、債務者は、債務内容を正確に把握できない場合には、弁済計画を立てることが困難となったり、過払金があるのにその返還を請求できないばかりか、更に弁済を求められてこれに応ずることを余儀なくされるなど、大きな不利益を被る可能性があるのに対して、貸金業者が保存している業務帳簿に基づいて債務内容を開示することは容易であり、貸金業者に特段の負担は生じないことにかんがみると、貸金業者は、債務者から取引履歴の開示を求められた場合には、その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り、貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として、信義則上、保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものを含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うものと解すべきである。

※最高裁判所 2005-07-19 最高裁判所民事判例集59巻6号1783頁/裁判所時報1392号353頁/判例タイムズ1188号213頁/金融・商事判例1227号32頁/金融・商事判例1221号2頁/判例時報1906号3頁/金融法務事情1753号41頁

引用:判例

開示を拒絶したときの効果

そして、貸金業者がこの義務に違反して取引履歴の開示を拒絶したときは、その行為は、違法性を有し、不法行為を構成するものというべきである。

※最高裁判所 2005-07-19 最高裁判所民事判例集59巻6号1783頁/裁判所時報1392号353頁/判例タイムズ1188号213頁/金融・商事判例1227号32頁/金融・商事判例1221号2頁/判例時報1906号3頁/金融法務事情1753号41頁

5 最判の射程→無制限・無制約の取引履歴の開示義務は射程外

この判決が認めた開示義務の範囲については、限定して読むべきだという見方があります。『貸金業と過払金の半世紀』は、この最判(同書は「No17最判」と呼びます)が「無制限・無制約の取引履歴の開示義務」を判示したものではない、と述べます。

同書は、最判の正確な趣旨を判示したものとして、ある貸金業者に対する下級審の判決例(東京地方裁判所八王子支部の判決とその控訴審の東京高等裁判所判決ほか)を挙げています。これらの判決例そのものは、当方ではまだ取得していません。

引用:文献・公開情報

最判の射程についての読み方

上記最判(以下「No17最判」という)は、貸金業者に対し、一定の条件の下に取引履歴の開示義務を負わせたものであるが、よく誤解されているが、それは何ら、「無制限・無制約の取引履歴の開示義務」を判示したものではない。
No17最判の正確な趣旨については、A社に対する下記判決例が、それぞれ明確に判示している。

※阿部芳久・阿部高明著『貸金業と過払金の半世紀』青林書院2018年 1月p227

6 判決が引いた事務ガイドライン→弁済に係る債務の内容の開示に協力

最高裁判決は、開示義務を導く理由の中で、当時の金融庁事務ガイドラインを引いています。帳簿の記載事項のうち弁済に係る債務の内容について開示を求められたときに協力すること、という定めです。貸金業法の施行時には大蔵省銀行局長通達が同じ趣旨を定めていたことも併せて示されています。

このガイドラインの系譜にあるのが、現在の「貸金業者向けの総合的な監督指針」です。監督指針が費用について何を言っているかは、別の記事で説明しています。

貸金業者の取引履歴の開示費用|上限の物差しと禁止を求めた意見

引用:判例

最判が引いた事務ガイドライン(現在の監督指針の前身)

金融庁事務ガイドライン3―2―3(現在は3―2―7)が、貸金業者の監督に当たっての留意事項として、「債務者、保証人その他の債務の弁済を行おうとする者から、帳簿の記載事項のうち、当該弁済に係る債務の内容について開示を求められたときに協力すること。」と記載し、貸金業者の監督に当たる者に対して、債務内容の開示要求に協力するように貸金業者に促すことを求めている(貸金業法施行時には、大蔵省銀行局長通達(昭和58年9月30日付け蔵銀第2602号)「貸金業者の業務運営に関する基本事項について」第2の4(1)ロ(ハ)に、貸金業者が業務帳簿の備付け及び記載事項の開示に関して執るべき措置として、債務内容の開示要求に協力しなければならない旨記載されていた。)のも、このような貸金業法の趣旨を踏まえたものと解される。

※最高裁判所 2005-07-19 最高裁判所民事判例集59巻6号1783頁/裁判所時報1392号353頁/判例タイムズ1188号213頁/金融・商事判例1227号32頁/金融・商事判例1221号2頁/判例時報1906号3頁/金融法務事情1753号41頁

7 貸金業法19条の2の費用論→文献は未発見(2026年9月30日現在)

ここまで見てきたとおり、費用の問題を正面から論じているのは個人情報保護法の側の文献だけです。貸金業法19条の2の閲覧・謄写について、その費用を誰が負担するのかを論じた文献は、当方が調べた範囲では見当たりません(2026年9月30日現在)。

調べた範囲は次のとおりです。貸金業の実務を通史でまとめた『貸金業と過払金の半世紀』を書籍内で検索したところ、「実費」「謄写」「19条の2」はいずれも本文0件で、「手数料」は11件ありましたが、すべてクレジットカードの金利についての記述でした。貸金業法の逐条解説・条解にあたる書籍は、当方が使っている書籍データベースに収録されていません。裁判例についても、費用負担を扱ったものは、平成17年から令和8年までを掃いて見当たりませんでした。

「存在しない」とは書けません。検索は網羅ではなく、収録範囲と検索語に依存します。ここで言えるのは、この時点のこの範囲では見つからなかった、ということです。

8 おわりに

取引履歴の開示に費用を請求できるかという問いには、現在のところ、1つの答えがありません。貸金業法に費用負担の定めはなく、最高裁判決も費用について述べていません。行政と弁護士会のやり取り、そして金額の物差しについては、それぞれ別の記事で扱います。

開示を求めたときに実務で何が起きるかは、別の記事で説明しています。

貸金業者の取引履歴|貸金業法19条の2の閲覧・謄写請求と費用の納付

個人情報保護法38条の手数料を使えるのかという問いは、別の記事で説明しています。

貸金業者の取引履歴|個人情報保護法38条の手数料は徴収不可

貸金業の登録制や「貸金業」の定義そのものについては、別の記事で説明しています。

『貸金業』の定義と登録制・無登録営業への罰則(付随的サービスの適用除外)

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。

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