【監視,断続的業務について労働時間の規制を回避する『適用除外申請』】

1 労働時間の解釈|一般論と『待ち時間・休憩時間』
2 監視・断続的労働;労基署の適用除外許可申請
3 『監視・断続的業務』の該当制判断
4 監視・断続的労働の具体例|該当する典型業務
5 監視・断続的労働の具体例|該当しない典型業務
6 部分的な監視・断続的業務
7 監視・断続的労働|許可未了の場合
8 監視,断続的労働の適用除外が許可されても『不利益変更』と抵触することもある
9 『適用除外』許可を得ても所定労働時間超過分の割増賃金は発生する
10 『適用除外』許可を得ても『深夜手当』は適用される

1 労働時間の解釈|一般論と『待ち時間・休憩時間』

例えば守衛や住み込みの管理人の業務は待ち時間が多いです。
労働時間として賃金算定の対象となるかどうかを説明します。
実質的には『働いていない』ので『労働時間』にはカウントすべきではないと言えます。
しかし,例えば仮眠中でも,緊急事態があればすぐに駆け付ける必要があります。
明確に休憩時間として区別していない場合は『指揮命令下→労働時間』と判断される可能性が高いです。
『指揮命令下』であれば『労働時間としてカウントする』という扱いになります。
『労働時間』の詳しい基準・解釈については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|『労働時間』の定義=指揮命令下説|残業届・許可制度|黙示の業務命令・接待

2 監視・断続的労働;労基署の適用除外許可申請

(1)監視,断続的労働の『労働時間』の特殊性

監視・断続的業務は,時間拘束という意味では,一般の労働と変わりません。
つまり,勤務時間内は,従業員は友人と出かける,食事するということができません。
その一方で,作業ベースでは自由(拘束しない)という部分があります。
待機時間中は緊張の度合も下がっています。

つまり,具体的作業がない時間については,眠っていても良いし,また,個人的な作業(例えば読書)をしていても良いということになっているのが通常です。
見掛け上,労働とは見えない感じもします。
守衛業務において,仮眠時間も含めて『労働時間』だとすると,過大になるという発想が生じます。

(2)監視,断続的労働の『適用除外』制度

以上の趣旨から,監視・断続的労働については,労働時間の規制の適用を回避する制度があります。

<監視・断続的労働の『適用除外許可』制度>

あ 対象業務

『監視・断続的労働』に該当する業務(後述)

い 手続

労働基準監督署の許可を受ける

う 効果

労働基準法の『労働時間』の規制の適用を受けなくなる
→『最低賃金』を下回る賃金設定が可能となる
※労働基準法41条3号

逆に言えば,この許可という手続きを取っていないと適用されません。
理屈,趣旨だけで,労働時間を一定程度割り引くということはできないのです。
住み込みの管理人の場合『365日24時間』が『労働時間』と判断されるリスクもあります。

3 『監視・断続的業務』の該当制判断

具体的な業務が『監視・継続的業務』に該当するかどうかの基準を説明します。
通達によると,次のように説明されています。

<『監視・断続的労働』の定義>

あ 『監視労働』

次のいずれにも該当する場合
ア 一定部署にあって監視するのを本来の業務とするイ 常態として身体または精神的緊張が少ない

い 『断続的労働』

次のいずれにも該当する場合
ア 実作業が間欠的に行われているイ 手待時間が多い ・手待時間が実作業時間以上である
・実作業時間の合計が8時間を超えない
※昭和22年9月13日発基17号
※昭和23年4月5日基発535号
※昭和63年3月14日基発150号

実際の業務内容が以上の業務に該当しない場合『適用除外許可』は受けられません。
仮に許可を受けても,業務が以上の範囲から逸脱していると『適用除外』にはなりません。

4 監視・断続的労働の具体例|該当する典型業務

監視・断続的労働の適用除外を利用する典型的な業務をまとめます。
また,類似するけれども利用できない業務の例もまとめます。

(1)監視・断続的労働に該当する具体的作業

<『監視・断続的業務』に該当する具体的作業の例>

ア 定期的巡回イ 臨時,緊急の書類受取,電話引継ウ 非常事態に備えて待機すること

(2)監視・断続的労働に該当する典型業務

<監視・断続的労働に該当する典型業務>

あ 守衛・踏切番・門番・メーター監視員

1日10往復程度まで

い 学校の用務員
う 社用車の運転手

例;会社役員の専属運転手

え 集合住宅の管理人

例;住み込みの場合,寄宿舎の寮母

お ビル警備員

例;隔日勤務
※通達;平成5年2月24日基発110号

5 監視・断続的労働の具体例|該当しない典型業務

『監視・断続的労働』の要件(前述)に該当しないために許可を受けられないこともあります。
よく抵触する要件は『精神的緊張・身体的緊張が少ない』に該当しない,というものです。

<監視・断続的労働に該当しない業務内容>

あ 精神的緊張が高い業務

例;交通関係の監視・誘導を行う駐車場の監視業務

い 身体的緊張が高い業務

例;プラントにおける計器類を常時監視する業務
例;危険or有害な場所における業務

6 部分的な監視・断続的業務

例えば,1日の業務のうち半分はノーマルのオフィスワーク,残り半分が守衛業務というケースもあります。
この点,監視・断続労働と通常業務が『1日の中に』混在する場合『適用除外申請』はできません。

勤務時間の適用除外制度は,あくまでも例外的なものです。
要件に合致するかどうかは厳格に判断されるのです。

ただし,日単位週単位で,監視・断続労働と通常業務が切り替わる場合は,対象となる日や週で適用されます。
このように日によってタイプが違う場合,記録・管理をしっかりしておかないといけません。

7 監視・断続的労働|許可未了の場合

監視,断続的労働ではあっても,許可を取るのが遅れた,というケースもあります。
具体的な業務によりますが,杓子定規に,待ち時間も含めて残業代計算をすると過大な金額となります。
しかし,裁判例の傾向としては,杓子定規な計算を採用しています。

<監視・断続的労働の『許可未了』の扱い>

形式的に『労働時間からの除外』を認めない(傾向)
※東京高裁昭和45年11月27日;判例1
※大阪地裁平成8年10月2日;判例2

一切例外がないとは言い切れませんが,今後も,裁判所はこれら裁判例を重視すると思われます。

8 監視,断続的労働の適用除外が許可されても『不利益変更』と抵触することもある

<事例設定>

当初は仮眠時間についても,労働時間として賃金支給の対象されていた
監視,断続的労働の適用除外の申請手続が行われた
労働基準監督署がこれを許可した

この場合,適用除外の許可後には,仮眠時間は賃金支給の対象外になるはずです。
しかし,適用除外とは別のルールの規制を受けます。
不利益変更禁止の原則です。
仮に労基署が適用除外の許可を出しても関係ありません。
労働基準監督署の許可には,不利益変更の禁止原則を排除する機能はありません。
『従業員vs雇用主の関係』と『雇用主vs労基署の関係』は別の問題,ということです。

不利益変更禁止の原則により,従前の条件よりも従業員に不利な方向の変更は原則的に無効となります。
対象となる従業員全員の了解を取った上で運用を変更するというのは大前提です。
なお,新規に募集・採用する従業員については,最初から新ルールを説明し,了解を得れば新ルールを適用しても問題ありません。
別項目;不利益変更禁止;原則と例外,裁判例

9 『適用除外』許可を得ても所定労働時間超過分の割増賃金は発生する

監視・断続労働の適用除外の許可を得ても,割増賃金が一切適用されないわけではありません。

適用除外許可申請の時点で,所定労働時間を定めてあるはずです。
既に決まっている所定労働時間よりも超過して勤務すれば,賃金が発生します。
言い方を変えると許可により,『1日8時間制限』は解除されるけど,勤務時間無制限になったわけではないということです。

もっと正確に言えば,労働基準法の割増賃金の適用が排除されているのです。
結果的に,所定労働時間超過部分については,労使間で自由なルール設定が可能です。

<所定労働時間超過の勤務に関するルールの例>

・通常の労働時間として(1時間あたりの賃金を用いて)超過分の賃金を計算する(1倍)
・一般の残業代と同様の方法で,割増賃金として計算する(1.25倍)
・独自の時間単価を設定する

10 『適用除外』許可を得ても『深夜手当』は適用される

(1)深夜労働の割増,だけは『適用除外』の対象外

もともと,午後10時〜午前5時の労働時間については,割増賃金が適用されます(労働基準法37条4項)。
ここで,『適用除外』の手続により排除されるルールは『労働時間』とされているのです(労働基準法41条)。
『労働時間』は量,合計時間,というものであって,『時刻』ではないのです。
結果的に深夜労働の割増賃金だけは適用除外の対象外,となるのです。

(2)具体的には0.25倍部分のみが加算される

ところで,一般的な深夜労働については,『通常の賃金』の1.25倍が残業代となります。
ただし,『適用除外』の場合は,割増分のみ,つまり,0.25倍の部分だけが加算,となります。
なお,これ以上の倍率を就業規則等で規定している場合は,規定が優先となります。

(3)時給相当額の算定

倍率をかける元となる『通常の賃金』は,基本給を所定労働時間で割ったものです。
例えば,所定労働時間が1日10時間であるとすれば,10時間,を使います。
法定労働時間の8時間を誤って用いているケースがたまにありますのでご注意下さい。

(4)定額深夜手当という制度併用も好ましい

当初より,一定額の深夜勤務手当を設定する方法もあります。
この方式であれば,給与算定が楽ですし,労使ともに分かりやすい(予測が付きやすい)です。

判例・参考情報

(判例1)
[東京高等裁判所昭和41年(行コ)第17号、昭和41年(行コ)第18号時間外勤務手当支払請求控訴事件昭和45年11月27日]
のみならず、かりに引率・付添の勤務が原判示のような実質をもつ労働であるとしても、本件において労働基準法第四一条第三号に規定する行政官庁の許可を受けたことについてなんらの主張・立証がないから、第一審被告は同法を適用することによつて時間外勤務手当の支払義務を免れることはできないものというべきである。この点についても、「労働の性質においてそのように解せられる以上行政官庁の許可を受けた者ではなくてもその違法性とはかかわりなく、かかる労働に対する対価としては、時間外勤務の割増賃金支払義務は発生しないものと解するのが妥当である。」とする原判示は、法律の解釈を誤つた不当の判断といわざるを得ない。

(判例2)
[大阪地方裁判所平成6年(ワ)第12731号賃金請求事件平成8年10月2日]
1 原告らの業務の内容を考えると、原告らの業務は、労働密度が希薄で、手待時間の長いいわゆる断続的労働に該当するというべきである。そして、前記のとおり、被告は、原告らの業務について、平成五年一二月二七日、茨木労働基準監督署長から、断続的労働の許可を受けている。
2 被告は、原告らの業務が断続的労働であることを理由に、時間外手当等の支給義務を負わない旨を主張する。しかしながら、労基法四一条三号の趣旨は、実際に区別することが難しい「監視又は断続的労働」と一般の労働について、使用者が断続的労働であることに藉口し、不当な労働形態を採ることを防止するため、労働基準監督署長に判断を委ねて、労働者の保護を図ることにあると解すべきであるから、その労働実態にかかわらず、労働基準監督署長の許可を受けていない以上、労基法の労働時間及び休日に関する諸規定の適用を免れないというべきである。

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