財産分与を請求した側に給付を命じることもできる

1 財産分与を請求した側に給付を命じることもできる

離婚のときの財産分与は、分与を求める側が申し立てて、相手方から自分への給付を命じてもらうのが通例です。しかし夫婦の財産がどちらの名義に寄っているかによっては、申し立てた側から相手方へ財産を渡すことが、清算として正しい形になります。自宅の共有持分を相手方へ移し、その代わりに金銭を受け取る、という組み方がその典型です。

このとき、裁判所はそのような向きの給付を命じられるのでしょうか。結論として、命じられます。財産分与の申立ては額も方法も特定せずにすることができ、裁判所は申立人の主張に拘束されずに、分与の有無・額・方法を定めます。申立てをしていない側への給付を命じても、申立ての範囲を超えたことにはなりません。

この記事では、その根拠を条文と最高裁判所の判決、実務書から順に見ていきます。これとは別に、財産分与を支払う側が自ら相手方への分与を申し立てられるか、という問題もあります。こちらは見解が分かれているので、別の記事で説明しています。

財産分与を渡す側から申し立てられるか|学説は否定説が強い

2 条文は給付を命じる相手を区別していない

はじめに条文です。離婚の訴えでは、裁判所は判決の中で財産の分与に関する処分についての裁判をし、あわせて当事者に対する給付を命じることができます。条文は、命じる相手を当事者と書くだけで、申し立てた側と相手方とを区別していません。

条文

人事訴訟法32条2項の条文

前項の場合においては、裁判所は、同項の判決において、当事者に対し、子の引渡し又は金銭の支払その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる。

※人事訴訟法32条2項

3 申立ての特定は要らない=額も方法も書かずに申し立てられる

出発点は、財産分与の申立てがどういう申立てなのかという点です。民事訴訟の請求のように「いくら支払え」と特定して申し立てるものなら、裁判所が動ける幅はその特定に縛られます。そうではなく、裁判所に判断そのものを求める申立てなら、縛られません。

最高裁判所は昭和41年7月15日、離婚の訴えに附帯してする財産分与の申立てについて、分与を求める額と方法を特定する必要はなく、抽象的に申し立てれば足りると判断しました。

引用:判例

判示=分与を求める額および方法を特定して申立をすることを要しない

人事訴訟手続法一五条一項によつて離婚の訴においてする財産分与の申立は、訴訟事件である右訴に附帯して、手続の経済と当事者の便宜とを考慮して、家事審判法九条一項乙類五号に定める本来家庭裁判所の権限に属する審判事項の申立をするものであるから、右申立をするには、訴訟事件における請求の趣旨のように、分与を求める額および方法を特定して申立をすることを要するものではなく、単に抽象的に財産の分与の申立をすれば足りるものと解するのを相当とする。

※最高裁判所 1966-07-15 民集 20巻6号1197頁/裁判集民 84号101頁/家月 18巻10号39頁/判タ 195号79頁/判時 456号32頁

同じ判決は、裁判所が定める分与の額が金銭に限られないことも述べています。金銭以外の財産で定めてよく、その場合は分与する財産を特定すれば足りて、評価額まで判示する必要はありません。

引用:判例

判示=金銭以外の財産で定めてよく評価額まで判示する必要はない

民法七七一条において準用する同法七六八条三項によつて裁判所が「分与の額」を定めるにあたつては、必ずしも金銭をもつてその額を定めることを要するものではなく、金銭以外の財産をもつてその額を定めることができ、この場合には分与すべき財産を特定すれば足り、また、その評価額まで判示する必要はないと解すべきである。

※最高裁判所 1966-07-15 民集 20巻6号1197頁/裁判集民 84号101頁/家月 18巻10号39頁/判タ 195号79頁/判時 456号32頁

実務書もこれを判例・通説として受け止めています。申立人が具体的に特定して申し立てた場合であっても、裁判所はその特定に拘束されず、特定された以上のものを与えることもできます。

引用:文献・公開情報

新基本法コンメンタール=特定された以上のものを付与することも可能

当事者は、財産分与の申立てにあたり、分与の額および方法を明示する必要はなく、具体的に特定していても、裁判所はこれに拘束されることはなく、特定された以上のものを当事者に付与することも可能であるとするのが判例(最判昭41・7・15民集20巻6号1197頁)、通説である

※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p82

4 相手方が給付を求めていれば、請求した側に給付を命じられる

次は、裁判所が定める分与の方法です。財産分与は夫婦の実質的な共有財産を清算するものなので、名義の寄り方によっては、分与を請求した側に給付を命じる必要が出てきます。

(1)東京高裁は申立人の妻にも移転登記手続を命じた

東京高等裁判所は平成10年2月26日、妻が申し立てた離婚訴訟の財産分与について、妻から夫への不動産共有持分の移転登記手続と、夫から妻への1600万円の支払とを、同時に履行すべきものと定めました。原審は夫に対する支払だけを命じていましたが、控訴審は妻に対しても移転登記手続を命じています。

引用:判例

主文=双方に引換給付を命じた

1 被控訴人は、控訴人に対し、控訴人から金1600万円の支払を受けるのと引き換えに、原判決添付別紙物件目録1及び2記載の不動産の被控訴人の共有持分について財産分与を原因として持分全部移転登記手続をせよ。
2 控訴人は、被控訴人に対し、被控訴人から右不動産の持分全部移転登記手続を受けるのと引き換えに、金1600万円を支払え。

※東京高等裁判所 1998-02-26 家月 50巻7号84頁

この判決の判例解説は、分与を請求する側に給付を命じることができるかという点について、学説上の異論がないと述べています。

引用:文献・公開情報

判例解説=請求する側に分与等を命ずることを可能と解すべきことに異論がない

離婚に伴う清算的な財産分与は、夫婦各自の特有財産を除き、その形成に寄与した割合等に応じて夫婦の実質的共有財産の清算を行うものであるから、その名義いかんによっては財産分与を請求する側に分与等を命ずる必要が出てくるのであるが、これを可能と解すべきことに学説上異論を見ない。

※梶村太市ほか稿/『判例タイムズ1005号臨時増刊 主要民事判例解説』p144〜

そして、分与の方法まで申立てを要しないので、申立てが無いのに妻へ移転登記手続を命じたことにも問題はない、としています。

引用:文献・公開情報

判例解説=申立てがないのに移転登記手続を命じたことに問題はない

それが裁判所の職権行使として行われるものである以上、具体的な分与方法についてまで申立てを要するものでないことはいうまでもなく、この点控訴審における本判決が当事者の申立てがないのにXにも物件分与による移転登記手続を命じたことに何ら問題はない。

※梶村太市ほか稿/『判例タイムズ1005号臨時増刊 主要民事判例解説』p144〜

(2)広島高裁は却下せず申立人に給付を命じられるとした

この向きの給付について、もっとも新しい正面からの判断が、広島高等裁判所の令和4年1月28日決定です。元妻が申し立てた財産分与の審判で、原審は、既に財産分与の合意が成立していること、申立人である元妻が財産分与を求める意思はないと述べたことを理由に、申立てを却下しました。これに元夫が抗告しています。

抗告審は、審理の結果、給付を受けるべき権利者が申立人ではなく相手方の側だと認められる場合に、相手方がその手続で給付を求めていれば、申立てを却下するのではなく、申立人に対して相手方への給付を命じられるとしました。申立人が途中で審判を求める意思を失っても、その結論は変わりません。

引用:判例

判示=却下せず申立人に対して相手方への給付を命じることができる

以上を踏まえると、財産分与の処分に関する審判の手続において、その審判の申立人が、自らが給付を受けるべき権利者であると主張し、相手方に対してその給付を求めたが、審理の結果、申立人が給付を受けるべき権利者であるとは認められず、かえってその相手方が給付を受けるべき権利者であると認められる場合において、少なくとも相手方が、当該審判の手続において、自らが給付を受けるべき権利者であり、申立人に対して給付を求める旨を主張しているときは、審判の申立てを却下するのではなく、申立人に対して相手方への給付を命じることができるというべきであり、このことは、上記の場合において、申立人がその申立て後に財産分与に関する処分の審判を求める意思を有しなくなったとしても、そのことに左右されるものではない。

※広島高等裁判所 2022-01-28 判時 2550号37頁/Westlaw Japan

5 申立ては裁判所を拘束しない|それ以上を求めない意思の扱いは分かれる

では、申立人が示した意向はどこまで効くのでしょうか。先の判例解説は、分与の方法について裁判所が裁量で定められること、当事者の申立てには拘束されないことを述べ、申立ての位置づけを次のように書いています。

引用:文献・公開情報

判例解説=裁判所の裁量で定められ当事者の申立てには拘束されない

財産分与の方法等については、裁判所がその裁量により妥当と考える内容のものを定めることができ、当事者の申立てには拘束されず、その申立ては希望意見の表明に過ぎないものと解されている(福岡高判昭36.2.27家月一四巻四号一九七頁)。

※梶村太市ほか稿/『判例タイムズ1005号臨時増刊 主要民事判例解説』p144〜

ただし、申立人が「これ以上は求めない」という意思を明らかにしている場合まで同じでよいかについては、別の見方が有力に主張されています。この対立は、裁判所の後見的な役割と私的自治のどちらを重く見るかという軸の上にあり、同じ軸は、支払う側から相手方への分与を申し立てられるかという問題でも働きます。

引用:文献・公開情報

新基本法コンメンタール=それ以上の分与を認めるべきではないとの見解も有力

しかし、当事者の具体的申立て内容が真意に基づくものであると認められるときには、できるだけそれに沿った判断をすることが望ましいし、そもそもこれらの事項は当事者の合意で決めうるものであるため、当事者が一定額の養育費の支払いを求めそれを超える支払いを求める意思がないことを明示している場合とか、申立てにかかる財産で満足しそれ以上の分与を求めない意思が明確な場合は、裁判所はそれ以上の養育費の支払いを命じたり、分与を認めるべきではないとの見解も有力である

※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p82

令和4年の広島高等裁判所の決定は、この点について当事者の意思を汲む形を示しています。申立人が自分が権利者だと主張して相手方に給付を求め、かつ相手方の側が給付を求める意思を持っていない場合にまで、申立人に相手方への給付を命じる必要はない、というものです。

引用:判例

判示=相手方が給付を求める意思を有していなければ命じる必要はない

もっとも、財産分与に関する処分の審判の申立てが、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときにされるものであること(民法768条2項本文)に鑑みると、審判の申立人が自らが給付を受けるべき権利者であると主張して相手方に対して給付を求める趣旨で申立てをし、かつ、申立ての相手方が給付を求める意思を有していない場合、すなわち、相手方が申立人から給付を受けないものとすることにつき当事者間に争いがない場合にまで、申立人に対して相手方への給付を命じる必要はないと解される。

※広島高等裁判所 2022-01-28 判時 2550号37頁/Westlaw Japan

6 抗告審で向きが逆転しうる=不利益変更禁止の原則が働かない

最後に、不服申立ての段階です。民事訴訟では、控訴した側が第1審判決より不利な判決を受けないことが保障されています(不利益変更禁止の原則・民事訴訟法304条)。財産分与では、この保障が働きません。

最高裁判所は平成2年7月20日、離婚の訴えの附帯処分としての財産分与について、相手方だけが控訴した場合であっても、控訴裁判所は第1審が定めた額を変更できると判断しました。

引用:判例

判示=申立人の主張に拘束されず不利益変更禁止の原則の適用はない

人事訴訟手続法一五条一項の規定により離婚の訴えにおいてする財産分与の申立については、裁判所は申立人の主張に拘束されることなく自らその正当と認めるところに従つて分与の有無、その額及び方法を定めるべきものであつて、裁判所が申立人の主張を超えて有利に分与の額等を認定しても民訴法一八六条の規定に違反するものではない。したがつて、第一審判決が一定の分与の額等を定めたのに対し、申立人の相手方のみが控訴の申立をした場合においても、控訴裁判所が第一審の定めた分与の額等が正当でないと認めたときは、第一審判決を変更して、控訴裁判所の正当とする額等を定めるべきものであり、この場合には、いわゆる不利益変更禁止の原則の適用はないものと解するのが相当である。

※最高裁判所 1990-07-20 民集 44巻5号975頁/裁判集民 160号335頁/裁時 1031号3頁/判時 1403号29頁/金商 869号39頁

家事審判の即時抗告でも同じです。実務書は、Aの申立てで第1審がBからAへの給付を命じ、Bが即時抗告した結果、抗告審がAからBへの給付を命じることも可能だと述べています。

引用:文献・公開情報

家事事件手続法=抗告審で逆向きの給付を命ずることも可能

また、AよりBに対して財産分与の申立てがなされ(第二類事件4項)、第1審ではBからAへの給付を命ずる審判が出され、Bが即時抗告を行った結果、抗告審ではAからBへの給付を命ずることも可能である(財産分与の審判においては、あるべき分与のあり方が審理判断されるのであり、申立人から相手方に分与を命じることもあり得る)。

※梶村太市編著『家事事件手続法 第3版』有斐閣2016年p262〜263

7 議論は有責配偶者の離婚請求を契機に始まった(参考)

この向きの給付をめぐる議論は、有責配偶者からの離婚請求を一定の条件で認めた最高裁判所大法廷の昭和62年9月2日判決の後に広がりました。離婚訴訟の附帯処分の手続全体、有責配偶者からの離婚請求が認められる条件、そして家事審判に対する即時抗告の手続は、それぞれ別の記事で説明しています。

離婚訴訟の附帯処分等(子の監護・財産分与・親権者)の申立と審理の理論

有責配偶者の離婚請求の3要件のうち特段の事情(苛酷条項)の判断

家事審判に対する即時抗告(不服申立・第2審)

当時の評釈は、無責の配偶者が受ける経済的な不利益を離婚と同時に解決する方策として、次のような方向を示していました。

引用:文献・公開情報

評釈=破綻離婚には当然に財産分与の判決が随伴するという判例法の創造

有責配偶者からの離婚請求を認容する条件としては、慰謝料ないし財産分与の給付によって無責配偶者の蒙る不利益が補償されなければならないという指摘は、従来この問題を論じてきたあらゆる立場の学説の中に共通して認められる。
本稿はいわば、この主張を破綻主義の構造の面から裏づけたものであり、その具体的方策としては、とりあえず昭和六二年九月判決の補足意見の提案を一歩進めて、破綻離婚には当然に財産分与の判決が随伴するという判例法の創造を期している。

※滝沢聿代稿『有責配偶者の離婚と今後の課題』/『判例タイムズ680号』1989年1月p38

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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