【離婚・財産分与に向けた財産調査:生命保険の契約内容と価値の調査】

1 離婚・財産分与に向けた財産調査:生命保険の契約内容と価値の調査

離婚を意識する段階では、将来の財産分与に向けた相手方(配偶者)の財産の把握が重要になります。
詳しくはこちら|離婚・財産分与に向けた財産調査:総合ガイド(制度・手続の一覧と選択)
この点、財産分与では、生命保険(の解約返戻金)も清算の対象に入ります。
詳しくはこちら|財産分与の対象財産=夫婦共有財産(基本・典型的な内容・特有財産)
配偶者が保険契約の詳細を明かさない場合や、複数の保険会社との契約が疑われる場合には、専門的な調査手法が必要となります。特に、契約者名義と実質的な保険料負担者が異なるケースでは、慎重な立証作業が求められます。
本記事では、生命保険契約の把握方法から解約返戻金の調査、実質的契約者の立証、そして財産分与の実務まで、段階的かつ体系的に説明します。

2 保険契約の把握方法

(1)保険証券の確認

生命保険契約の存在を確認する最も基本的な方法は、保険証券の確認です。保険証券が保管されている場所の特定から始まり、金庫や重要書類の保管場所を調査することが重要です。
保険証券には契約者名、被保険者名、受益者名、保険金額、契約年月日などの基本情報が記載されており、これらの情報から契約の概要を把握することができます。また、保険証券に契約時からの年数に応じた解約返戻金の額が記載されているものがあります。ただし、保険証券の年数表示は契約時点での推定であり、実際の解約返戻金額とは異なる可能性があることにも注意が必要です。
また、解約返戻金の記載がない保険証券も多いです。その場合、別途保険会社への照会が必要となります。

(2)保険会社からの通知

年末に近くなると、保険会社から控除証明書が届いたり、あるいは契約更新時にはお知らせが届くと思いますので、そこから辿ることも可能でしょう。これらの郵便物は保険契約の存在を示す重要な手がかりとなります。
定期的な案内書類には、契約内容の変更通知、保険料の改定案内、満期案内などがあり、これらから保険会社名や契約の概要を把握することができます。また、保険会社からの各種通知は、契約が継続中であることを示す証拠としても重要な意味を持ちます。
郵便物の確認においては、不在票も含めて日頃から注意深く確認することが重要です。ネット系保険会社との契約の場合、従来の保険会社と比較して郵送物が少ない傾向にありますが、重要な通知は郵送されることが多いため、見落としのないよう注意が必要です。

(3)生命保険協会照会

弁護士会照会を通じた一括照会については、制度の変遷を理解しておく必要があります。従来は弁護士会照会により生命保険協会に照会をすることで、加盟している保険会社全社への一括照会ができる制度がありましたが、平成29年5月に終了しました。
詳しくはこちら|生命保険契約照会制度(相続時の一括照会)
現在では、令和3年7月から開始された新たな生命保険契約照会制度が存在しますが、この制度は相続や認知判断能力の低下となった者を対象とするものであり、離婚における財産分与調査では利用することができません
したがって、現在では各保険会社に対して個別に弁護士会照会を行う必要があり、照会先1社ごとに照会手数料が発生することとなります。このため、他の情報から保険契約がありそうな保険会社を絞り込んでから照会を行うことが効率的です。

3 解約返戻金の調査

(1)見込額証明書の取得

生命保険の解約返戻金の有無やその額については、契約者が保険会社に問い合わせて解約返戻金見込額の証明書を発行してもらう方法によって、確認することができます。この方法は最も確実かつ正確な調査方法といえます。
契約者本人による問い合わせが原則となりますが、保険会社への直接照会により基準時点での正確な解約返戻金額を確定することができます。証明書の発行には一定の期間を要する場合がありますので、財産分与の協議や調停の進行を考慮して早期に手続きを開始することが重要です。
見込額証明書には、照会時点での解約返戻金額、契約者貸付の有無、貸付残高などの情報が記載されており、財産分与の算定に必要な情報を網羅的に把握することができます。また、証明書は裁判所等での手続きにおいても重要な証拠資料となります。

(2)保険証券からの推定

保険証券に解約返戻金の金額表が記載されている場合には、契約年数での計算により解約返戻金の推定額を算出することができます。ただし、この方法による推定額の信頼性には限界があることを理解しておく必要があります。
保険証券記載の返戻金表は契約時点での試算であり、実際の運用実績や保険料の払込状況によって変動する可能性があります。また、途中で契約内容の変更が行われている場合には、記載内容と実際の状況が大きく異なることもあります。
このため、保険証券からの推定は暫定的な把握方法として位置づけ、最終的には保険会社への正式な照会により正確な金額を確認することが不可欠です。推定額と実際の解約返戻金額に大きな差異がある場合には、その理由についても詳細に調査する必要があります。

(3)契約者貸付の確認

解約返戻金の調査において見落としがちなのが、契約者貸付の存在です。契約者貸付とは、解約返戻金を担保として保険会社から資金を借り入れる制度であり、貸付残高がある場合には解約返戻金から控除されることとなります。
貸付残高の有無については、見込額証明書に記載されますが、貸付の履歴や使途についても可能な限り調査することが重要です。特に、離婚協議の開始前後に大額の契約者貸付が行われている場合には、財産隠匿の可能性も考慮する必要があります。
詳しくはこちら|離婚・財産分与に向けた財産調査:隠された財産を見つけ出すテクニック
実質的価値の算定においては、解約返戻金額から契約者貸付残高を控除した金額が財産分与の対象となります。また、貸付利息についても考慮し、基準時点での正確な残高を把握することが重要です。

4 実質的契約者の立証

(1)保険料支払口座の調査

保険契約において、名義上の契約者と実質的な保険料負担者が異なる場合があります。この場合、実質的な契約者が誰であるかを立証することが財産分与において重要な意味を持ちます。
保険料の引き落とし口座の特定により、実質的な保険料負担者を推定することができます。夫名義の保険契約であっても、妻名義の口座から保険料が引き落とされている場合には、妻が実質的な契約者である可能性があります。また、生活費を管理している口座からの支払いの場合には、夫婦の家計管理の実態を詳細に調査する必要があります。
口座の実質的権利者の判定においては、給与の振込先、日常的な支出の管理者、通帳や印鑑の管理者などを総合的に考慮します。単に名義だけでなく、実際の口座の利用実態を詳細に分析することが重要です。

(2)申込書の筆跡確認

保険契約申込書の筆跡確認は、実質的契約者を立証する重要な証拠となります。契約者欄の記載が当該契約者本人の筆跡でない場合には、実際の契約手続きを行った者が実質的契約者である可能性があります。
保険契約申込書の入手については、保険会社に対する開示請求により取得することができる場合があります。ただし、個人情報保護の観点から開示が制限される場合もありますので、弁護士会照会等の法的手続きを利用することも検討が必要です。
筆跡による契約者特定においては、住所欄の記載内容も重要な判断要素となります。当時の居住実態と記載内容の整合性を確認し、実際に契約手続きを行った者を特定します。また、第三者による代筆の可能性も考慮し、筆跡鑑定が必要な場合もあります。

(3)受益者変更履歴

生命保険契約における受益者の変更履歴は、実質的な財産移転の意図を示す重要な証拠となります。特に、離婚協議の開始前後に受益者変更が行われている場合には、財産隠匿の意図が疑われます。
受益者の変遷確認により、契約者の真の意図や財産に対する考え方を推測することができます。また、受益者変更の時期と離婚協議の進行状況を照合することで、意図的な財産移転の有無を判断することが可能です。
受益者変更履歴の調査は、保険会社に対する照会により行います。ただし、契約者本人以外からの照会については制限がある場合もありますので、適切な法的手続きを経て情報を取得することが重要です。

5 財産分与の実務(参考)

(1)婚姻期間対応部分

婚姻前から生命保険を契約している場合は、婚姻時の解約返戻金の金額と、財産分与の基準時(別居)時点の解約返戻金の金額をそれぞれ算出し、差額を確認する必要があります。婚姻前の部分は特有財産として財産分与の対象外となります。

(2)分与の方法

財産分与の履行方法については、契約者変更手続き、受益者変更手続き、解約による現金化、継続契約の選択などの選択肢があります。当事者の協議により最も適切な方法を選択することが重要です。合意できない場合は裁判所が審判や判決として決定することになります。

(3)税務上の注意点

生命保険の財産分与に際しては、贈与税の課税リスクに注意が必要です。契約者、被保険者、受益者の関係によって税務上の取扱いが異なりますので、適切な手続き選択が重要となります。

6 まとめ

生命保険の財産分与調査においては、保険契約の把握から解約返戻金の調査、実質的契約者の立証まで、段階的かつ総合的なアプローチが必要となります。保険証券の確認や保険会社からの通知を活用した基本的な調査から開始し、必要に応じて弁護士会照会等の法的手続きを利用することが重要です。
生命保険の財産分与調査は高度な専門性を要する分野であり、個人での対応には限界があります。弁護士会照会等の法的手続きの活用や、税務上の取扱いについても専門家の助言を得ることが不可欠です。適切な専門家のサポートを受けながら、系統的な調査を進めることで、公正な財産分与の実現が可能となります。

7 参考情報

参考情報

森公任ほか編著『2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与算定・処理事例集』新日本法規出版2018年p107

本記事では、離婚・財産分与に向けた生命保険の契約内容と価値の調査について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に財産分与など、離婚(夫婦)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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