【離婚・財産分与に向けた財産調査:最適なタイミングと離婚前の準備】

1 離婚・財産分与に向けた財産調査:最適なタイミングと離婚前の準備

離婚を意識する段階では、将来の財産分与に向けた相手方(配偶者)の財産の把握が重要になります。
詳しくはこちら|離婚・財産分与に向けた財産調査:総合ガイド(制度・手続の一覧と選択)
財産の調査において重要なのは適切なタイミングです。離婚の意思を相手方に伝えた後では、相手が財産を隠匿する可能性が高まり、調査が困難になってしまいます。相手方の警戒心のレベルへの配慮が必要なのです。
本記事では、離婚を検討しているがまだ相手方に意思を伝えていない段階の方を対象に、効果的な財産調査のタイミングと具体的な準備方法について詳しく説明します。同居中だからこそ可能な情報収集手法、法的制約の範囲内での調査方法、さらには収集した情報を整理する財産目録の作成方法まで、実践的な内容をお伝えします。

2 調査タイミングの重要性

(1)離婚意思表明前の黄金期間

離婚前の財産調査において最も重要なのは、相手方に離婚意思を察知される前の期間を有効活用することです。この時期は財産調査における「黄金期間」と呼ぶべき貴重な機会であり、相手方の警戒心が低い状態で包括的な情報収集が可能となります。
同居中であれば、家の中をくまなく観察して隠し財産の痕跡を探ることができます。通帳や証券関係書類、保険証券などの重要書類への物理的アクセスが制限されることなく、相手に怪しまれることなく自然な形で確認作業を進められます。また、郵便物の確認や、相手の日常的な行動パターンから財産の手がかりを得ることも容易です。
この期間を逃してしまうと、後述する法的手段に頼らざるを得なくなり、時間と費用の両面で大きな負担を強いられることになります。確実に取ることができる財産をしっかり把握しておく方が、取りこぼしを防げて結果的に多くもらえることに繋がるのです。

(2)相手方の警戒心回避

離婚意思表明後の財産隠匿リスクは、多くの離婚事案で現実的な問題となっています。離婚や別居の意思を伝える前に相手方配偶者の隠し財産の有無を調査しておくことが重要である理由は、相手に離婚意思が察知されると財産を意図的に隠す行動に移る危険性があるためです。
特に自営業者や経営者の場合、法人名義で財産を隠すケースや、相手に知られていない口座を開示しないケースが典型例として挙げられます。また、ネット銀行の活用、証券への資金移動、貸金庫の利用、さらには現金での保管(いわゆるタンス預金)など、発見困難な隠匿方法が多数存在します。
事前調査で情報格差を作っておくと、後の交渉を有利に進めることにもつながります。
相手が財産開示に協力的でないため、事前に収集した情報が不完全であったとしても、断片的な情報によって、弁護士会照会制度や調査嘱託制度を効果的に活用することにもつながります。

(3)証拠保全の最適時期

同居期間中は、証拠保全の観点から見ても最適な時期です。物理的アクセスが可能な期間であることに加え、デジタル情報への接触機会も豊富に存在します。インターネットバンキングの確認、電子メールの情報、スマートフォンアプリの確認など、別居後には困難となる調査が自然な形で実施できます。
ただし、信書開封罪などの法的制約には十分な注意が必要です。相手がまだ開けていない郵便物を勝手に開けることは違法行為となる可能性があります。
詳しくはこちら|メール・手紙を見られたことへの法的救済:犯罪・慰謝料・証拠能力
また、第三者への聞き取り機会についても、同居中であれば相手の交友関係や取引先との接触が自然に発生し、有益な情報を得られる可能性があります。
財産調査を含め時機を逃すと有効な対策の多くが実行できなくなるケースは決して少なくありません。したがって、離婚問題が予測される状況の方は、早急に専門家への相談を検討することをお勧めします。

3 同居中の財産情報収集

(1)通帳・書類の確認方法

同居中の財産情報収集において最も基本となるのが、通帳や各種書類の確認です。通帳の所在確認と複写作業は、財産分与の基礎資料として極めて重要な意味を持ちます。通帳の表紙を確認することで、銀行名と支店名をすぐに把握できるため、後の調査においても有効な手がかりとなります。
証券関係書類の発見方法として、株式や投資信託の取引報告書、証券会社からの郵送物などに注意を払うことが重要です。配偶者が預金口座は教えていても証券口座は隠している場合も多く、証券投資による財産隠匿のケースが増加しています。
保険証券の確認ポイントとして、生命保険の解約返戻金は財産分与の対象となるため、保険証券や保険会社からの年次報告書の内容を詳細に確認する必要があります。特に外貨建て保険や変額保険など、評価額が変動する商品については定期的な評価が必要となります。
詳しくはこちら|財産分与の対象財産=夫婦共有財産(基本・典型的な内容・特有財産)
不動産関係書類の重要性も見逃せません。登記済権利証、固定資産税納税通知書、不動産売買契約書などから、投資用不動産の存在が判明するケースもあります。配偶者に内緒で不動産を購入している場合、これらの書類が発見の重要な手がかりとなります。

(2)郵便物からの情報収集

金融機関からの通知(送付物)は、隠し口座発見の重要な手がかりとなります。銀行等の金融機関からのハガキ等があれば、その金融機関に相手方が口座を保有していることが判明します。また、口座開設や商品購入に関する案内状、キャンペーン情報なども有益な情報源となり得ます。
証券会社・保険会社からの書類についても同様に重要です。取引報告書、運用報告書、保険契約の更新通知などから、隠れた資産の存在を把握できる可能性があります。特に証券会社からの書類は、株式や投資信託による資産隠匿を発見する重要な手がかりとなります。
税務関係書類の活用も効果的です。確定申告書の控えには税金の還付先口座の情報が記載されている場合があり、新たな口座の発見につながる可能性があります。また、源泉徴収票や支払調書から収入状況を正確に把握することも重要です。
会社からの書類、特に退職金に関する通知や企業年金の案内なども見逃せません。将来的に受給予定の退職金や企業年金も財産分与の対象となる可能性があるため、これらの情報収集も怠らないようにする必要があります。

(3)デジタル情報の取扱い

現代の財産調査において、デジタル情報の確認は不可欠な要素となっています。
インターネットバンキングの確認により、紙の通帳では把握困難なネット専用銀行の口座や、定期的な取引履歴を把握することが可能です。ただし、パスワード等の不正取得は違法行為となる可能性があるため、合法的な範囲での確認に留める必要があります。
詳しくはこちら|メール・手紙を見られたことへの法的救済:犯罪・慰謝料・証拠能力
電子メールの情報についても、金融機関からの取引完了通知や、投資関連のメールマガジンなどから有益な情報を得られる場合があります。ただし、プライバシー侵害の問題もあるため、慎重な判断が求められます。
スマートフォンアプリの確認では、銀行アプリ、証券アプリ、電子決済アプリなどから取引状況を把握できる可能性があります。特に最近では、スマートフォンでの資産管理が一般化しているため、これらのアプリから重要な情報を得られるケースが増加しています。
法的制約と注意点として、他人のスマートフォンを無断で操作することや、パスワードを不正に使用することは違法行為となる可能性があります。また、取得した情報の証拠能力を確保するためには、適法な方法で収集することが重要です。不正に取得した証拠は、後の手続きで使用できない可能性があるため注意が必要です。
詳しくはこちら|民事訴訟における違法収集証拠の証拠能力(理論・基準)

4 財産目録の作成方法

(1)体系的な整理手法

収集した財産情報を効果的に活用するためには、体系的な整理が不可欠です。
財産種類別の分類として、預貯金、有価証券、不動産、保険、動産、債務などのカテゴリーに分けて整理することで、全体像を把握しやすくなります。各カテゴリー内でも、金融機関別、取得時期別などの細分化を行うことで、より詳細な分析が可能となります。
時系列での整理も重要な要素です。婚姻成立日から現在まで、または婚姻成立日から別居開始日までの期間における財産の変動を時系列で把握することで、財産形成の経緯を明確にできます。特に婚姻前から保有していた財産と婚姻後に形成した財産の区別は、財産分与において極めて重要な意味を持ちます。
金額・評価額の記録については、各財産の具体的な価値を正確に把握することが必要です。預貯金については残高を、不動産については評価額を、有価証券については時価を記録します。評価時点も併せて記録しておくことで、後の手続きでの混乱を避けることができます。

(2)証拠価値の確保

財産目録の証拠価値を確保するためには、適切な記録方法が重要です。
写真撮影のポイントとして、通帳の場合は表紙、口座番号、残高が記載されたページを鮮明に撮影し、日付が確認できるようにします。書類についても、全体が写るように撮影し、必要に応じて部分的なアップ写真も併せて撮影します。
コピーの取り方についても注意が必要です。通帳をコピーする際は、婚姻期間中のすべてのページを漏れなくコピーし、入出金記録だけでなく口座名義、金融機関、支店、口座番号も含めてコピーします。婚姻前の通帳をそのまま使っている場合は、独身時代と結婚当時の残高が分かるページも準備しておきます。
日付・場所の記録も証拠価値の観点から重要です。いつ、どこで、どのような方法で情報を取得したかを詳細に記録しておくことで、後の手続きでの証拠能力を確保できます。特に、適法に取得した証拠であることを証明するためには、取得経緯の記録が不可欠です。

(3)弁護士との相談準備

効果的な法律相談を受けるためには、事前準備が重要です。相談時に持参すべき資料として、作成した財産目録、収集した通帳のコピー、各種書類の写真、相手方の収入に関する資料などを整理しておきます。これらの資料を体系的に整理しておくことで、限られた相談時間を有効活用できます。
質問事項の整理については、財産分与の見込み額、隠し財産の可能性、今後の調査方法、法的手続きの流れなど、具体的な質問を事前に準備しておきます。また、自身の希望や不安についても明確にしておくことで、適切なアドバイスを受けることができます。
秘密保持の重要性も忘れてはなりません。弁護士には守秘義務があるため、収集した情報はすべて開示して構いませんが、相談後の情報管理についても注意が必要です。特に、相手方に調査が発覚しないよう、資料の保管方法や相談記録の取り扱いについても弁護士と相談しておくことが重要です。

5 注意点と法的制約

(1)プライバシー侵害の回避

財産調査を行う際には、プライバシー侵害を避けるための配慮が不可欠です。合法的な情報収集の範囲として、夫婦が結婚後に形成した財産は共有財産であるため、配偶者がその内容を確認することは基本的に認められています。しかし、その方法については法的な制約があることを理解しておく必要があります。
避けるべき行為として、相手がまだ開けていない郵便物を勝手に開封することは信書開封罪に該当する可能性があります。また、相手のスマートフォンやパソコンに無断でアクセスすることや、パスワードを不正に使用することも違法行為となる可能性があります。さらに、第三者の協力を得て情報収集を行う場合も、その方法によっては問題となる場合があります。
グレーゾーンの判断基準については、夫婦の共有財産に関する情報収集であっても、その方法が社会通念上相当な範囲を超える場合は問題となる可能性があります。判断に迷う場合は、事前に弁護士に相談することで、適法な方法での調査を確実に行うことができます。

(2)証拠能力の確保

収集した情報が後の手続きで有効に活用されるためには、証拠能力の確保が重要です。適法に取得した証拠の重要性として、不正な方法で取得した証拠は、たとえ真実を示していても、後の調停や裁判で採用されない可能性があります。したがって、情報収集の際は常に適法性を意識することが重要です。
後の手続きでの活用可能性を考慮すると、財産分与の協議や調停、さらには訴訟において、収集した証拠が有効に活用されるよう、取得方法や保存方法についても注意を払う必要があります。特に、デジタル情報については改ざんの可能性も指摘されるため、取得時の状況を詳細に記録しておくことが重要です。

(3)実践的チェックリスト

効率的な財産調査を行うため、調査項目の一覧として、預貯金口座、証券口座、保険契約、不動産、動産、債務などの各項目について系統的にチェックします。優先順位の付け方としては、まず基本的な預貯金から始めて、証券投資、保険、不動産の順で調査を進めることが効果的です。
完了の判断基準については、各金融機関からの郵便物を一定期間観察し、新たな口座の存在が判明しなくなった時点を一つの目安とします。ただし、完璧な調査は現実的には困難であるため、合理的な範囲での調査完了を目指すことが重要です。また、調査過程で新たな手がかりが見つかった場合は、柔軟に調査範囲を拡大することも必要です。

6 まとめ

離婚前の財産調査における重要ポイントとして、まず調査のタイミングが成否を大きく左右することを改めて強調いたします。相手方に離婚意思を察知される前の同居期間中こそが、効果的な財産調査を実施できる貴重な機会です。この期間を逃すことなく、計画的かつ系統的に情報収集を行うことが、公平な財産分与の実現につながります。
次のステップへの進み方については、収集した情報を基に財産目録を作成し、財産分与の概算を把握した上で、具体的な離婚手続きの検討に入ることが適切です。ただし、相手方への離婚意思の伝達については、調査完了後に慎重に行うことが重要です。感情的な対立が生じる前に、できる限りの情報収集を完了させておくことで、後の交渉を有利に進めることができます。
専門家相談のタイミングとしては、財産調査の初期段階から弁護士への相談を検討することをお勧めします。適法な調査方法の確認、収集した証拠の評価、今後の手続きの見通しなど、専門的な判断が必要な事項が多数存在するためです。特に、高額な財産や複雑な資産構成がある場合は、早期の専門家への相談が不可欠です。
財産分与は離婚後2年(今後5年に変更される)以内であれば請求可能ですが、事前の準備が十分でないと不利な条件での合意を余儀なくされる可能性があります。また、隠し財産の発見は時間の経過とともに困難になるため、早期の対応が重要です。

本記事では、離婚・財産分与に向けた財産調査の最適なタイミングについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に財産分与など、離婚(夫婦)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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