1 相続や財産を目的とする縁組の縁組意思(有効性)の判断事例
2 財産相続目的の養子縁組(有効判断)
3 資産・事業承継目的の養子縁組(有効判断)
4 財産相続・死後供養目的の養子縁組(有効判断)
5 会話や世話の不足と散財(無効判断)
6 養親の死亡直後の預貯金引出(無効判断)

1 相続や財産を目的とする縁組の縁組意思(有効性)の判断事例

養子縁組の届出をすれば戸籍に記録されますが、後から、無効となってしまうこともあります。ただし、相続や扶養として財産を承継する目的があってもそれだけで無効となるわけではありません。
詳しくはこちら|養子縁組の縁組意思の内容のまとめ(実質的意思の判断基準)
実際には、もっと詳細な事情によって、有効性が判断されます。
本記事では、財産が目的で養子縁組がなされたケースについて、その有効性が判断されたいろいろな裁判例を紹介します。

2 財産相続目的の養子縁組(有効判断)

養子に相続させることで、他の相続人の取り分を減らすという目的で養子縁組がなされたケースです。
この養子縁組は、純粋に相続分を変化させるだけが目的ではなく、親子としての精神的なつながりを作る目的もありました。
このように認められ、養子縁組は有効となりました。

財産相続目的の養子縁組(有効判断)

あ 養子縁組

AとBが養子縁組をした
A=養親、B=養子

い 縁組の目的

財産相続を目的とする養子縁組であった
Aには(B以外の)相続人の相続分を減少させる動機があった
A・Bは親子として精神的なつながりを作る意思があった

う 裁判所の判断

A・Bには真実に養親子関係を成立させる意思が十分にあった
養子縁組は公序良俗に違反しない
養子縁組は有効である
※最高裁昭和38年12月20日

3 資産・事業承継目的の養子縁組(有効判断)

資産と事業を承継する意図で行った養子縁組のケースです。このような目的だけではなく、親子としての精神的なつながりを作る目的もあった、と判断されました。
結果的に、養子縁組は有効となりました。

資産・事業承継目的の養子縁組(有効判断)

あ 養子縁組

養親Aと養子Bが養子縁組をした

い 主な目的

Aの資産と事業とをBに一括して相続させることであった

う 他の目的

AにとってBは甥であり従前から親しみがあった
Aは『え』のような将来の予定・希望があった

え 養親の希望

Bを引き取り同居したい
Bに大学に行かせたい
Aが愛着を持って営んでいた事業をBに引き継がせたい

お 死亡直前の会話

Aは「真面目な良い子をもらった」と喜んでいた
Bは事業を引き継ぐと答えていた

お 裁判所の判断

ア 相続目的と有効性 相続も養親子関係の1つの効果である
相続を主たる目的としたこと自体によって
養子縁組が無効となるものではない
イ 精神的なつながり Aは、Bとの間で養親子としての精神的なつながりを作る意思があった
Bやその両親にも、Aの意思に応じる意思があった
当事者間には、真実に養親子関係を成立させる意思があった
ウ 結論 養子縁組は有効である
※大阪高裁昭和59年3月30日

4 財産相続・死後供養目的の養子縁組(有効判断)

財産の相続と将来、養親が亡くなった後に養子が供養してくれる、という思いで養子縁組が行われたケースで、養子縁組を有効した判例です。
このケースでは、過去に養親と養子の間に情交関係(性的関係)があったため、あるべき縁組の姿ではないとして無効であるという主張もされていましたが、情交関係が夫婦同然になったわけではない、ということから、無効にはなりませんでした。

財産相続・死後供養目的の養子縁組(有効判断)

あ 養子縁組

養親Aと養子Bが養子縁組をした

い 養子縁組の経緯(判決引用)

ア 同居 Bは、Aの姪で、昭和二九年終り頃から、二児を連れ、Aおよびその内縁の妻Sと同居して、一夫方の家事や建築請負業の事務の手伝に従事し、同三一年八月頃Sが病臥してからは、同人の看護にあたるとともに、A方の家計をとりしきるようになり、同三三年一月にS死亡した後もAとの同居生活を続けていた
イ 相続と死後供養の目的(判決引用) Aは、明治二九年生れで、昭和三九年七月一〇日に本件養子縁組の届出をした当時は、すでにかなりの高令に達していたばかりでなく、病を得て、建築請負業をもやめ、療養中であつたものであり、Bに永年世話になつたことへの謝意をもこめて、Bを養子とすることにより、自己の財産を相続させあわせて死後の供養を託する意思をもつて、本件縁組の届出に及んだものである
ウ 情交関係 縁組前にAとBとの間にあつたと推認される情交関係は、偶発的に生じたものにすぎず、人目をはばかつた秘密の交渉の程度を出なかつたものであつて、事実上の夫婦然たる生活関係を形成したものではなかつた

う 裁判所の判断

養子縁組は有効である
過去の一時的な情交関係の存在は、あるべき縁組の意思を欠くものではない
※最判昭和46年10月22日

情交関係が養子縁組の有効性にどのように影響するか、ということは、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|養子縁組の目的の実例と縁組意思(有効性)の判断(集約)

5 会話や世話の不足と散財(無効判断)

以上のように、財産を移動(承継)させる目的があっても、精神的なつながりを作る目的があれば、養子縁組は無効となるわけではありません。
この点、養子縁組の後に、養親と養子が同居はしたけれど会話が少なく、世話もせず、他方で養子が養親の多くの財産を浪費した、という事情がありました。このような事情から、裁判所は、親子としての精神的なつながりを作る意図はなかったと考え、養子縁組を無効としました。

会話や世話の不足と散財(無効判断)

あ 知り合った敬意

AとBは、病院での治療中に知り合った
その後、A・BはAの自宅で同居するようになった
同居開始後約2か月の時点で養子縁組の届出がなされた

い 養子縁組

AとBが養子縁組をした
A=養親、B=養子

う 入院と養親の死

養子縁組の届出後約1か月半後にBが入院した
Bが退院後、約1週間後にAが入院した
Aは入院後約1か月半後に亡くなった

え 養親と養子の関係性

同居期間は、通算4か月にも満たない
AとBは血縁関係がない
Bは、同居中に、Aの看護・日常の世話に意を配ったような事情はなかった
実際に、Bが入院する直前は重篤な状態に陥っていて、保健所の職員が入院させた
Aの葬儀の際、Bは香典を受け取ったが、香典返しをしなかった
BはAの資産により、高級外車を乗り換えるなどの散財行為を行った

お 裁判所の判断

ア 養子縁組の目的 BはAの資産に依存した消費行動を取っていた
Bは『養親子という社会一般の身分関係を意識した行動』を取っていない
親族関係の形成を前提とした会話がなされていない
B自身、Aと養子縁組をする目的・理由・趣旨を理解していない
Aは、合理的な判断能力が相当に減退した状態にあった
Aは、親族に対する反発感情が強かった(い)
→Aは、親族への相続を阻止する目的で養子縁組をした
イ 反発感情の原因 知人Cとの交際に反対された
医療保護入院をさせられた
後見開始申立をされた
ウ 結論 A・Bには、養親子関係を生じさせようとする意思がなかった
養子縁組は無効である
※名古屋高裁平成22年4月15日

6 養親の死亡直後の預貯金引出(無効判断)

養親が亡くなった直後に養子が養親名義の預貯金を引き出したというケースです。このような行動から、裁判所は、財産だけが目的であり、親子関係を作る目的がなかったと考え、養子縁組を無効としました。

養親の死亡直後の預貯金引出(無効判断)

あ 事案

養子縁組当時、養親子間に交流がなかった
養子縁組後も親族として交流した形跡まったくなかった
養親の死後、即座に預貯金解約・引き出しなどの相続手続を行った

い 裁判所の判断

純粋に財産的な法律関係を作出することのみが目的であった
養子縁組は無効である
※大阪高裁平成21年5月15日

このように、養子縁組よりも後の事情を元にして、さかのぼって、縁組した時の気持ち(意思)を判断されることがあるのです。このような判断の構造は想定外の結果を生むリスクがあります。
リスクと予防策については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|縁組意思の実務的な立証・認定とリスクやトラブルの予防策

本記事では、相続や財産の移転を目的とする養子縁組の有効性について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に養子縁組か有効か無効か、という問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。