婚約していました。
親や他の異性が関与して婚約破棄に至りました。
『関与した人』に損害賠償請求はできないのですか。

1 『婚約者を奪った異性』は慰謝料が認められる
2 婚約破棄→結婚に反対した親影響が大きい場合は慰謝料が認められる
3 婚約破棄→結婚に反対した親の影響が小さいと慰謝料は認められない
4 婚姻継続中でも反対した親の影響で険悪→慰謝料請求が認められる
5 婚約破棄関与した者の慰謝料相場は30万円〜100万円が目安

1 『婚約者を奪った異性』は慰謝料が認められる

<事例>

女性Aはある男性Bと交際し,婚約していました。
その後,Bが女性Cと交際していることが発覚しました。
結局,結婚しないことになりました。
CはAとBが婚約していることを知っていました。

婚約をしたのは,AとBです。
Cは『婚約』とは無関係です。
しかし,Bへ影響を与えることによって結果的に,婚約破棄という結果に関与しています。
婚約を知っていた場合,さすがに,重複して交際することはひどいと言えます。
俗に言う『寝取った』という状態です。
通常は違法性が高いものとして,慰謝料請求が認められています(判例1)。
もちろん,この責任は,Cが婚約の存在を知っていることが前提となります。

既婚者との『不貞』が,結婚前(婚約中)にまで拡張された,と言える状態です。
詳しくはこちら|不貞相手の慰謝料|理論|責任制限説|破綻後・既婚と知らない→責任なし
専門的には債権侵害と言われるカテゴリの1つです。

2 婚約破棄→結婚に反対した親影響が大きい場合は慰謝料が認められる

<事例>

女性Aはある男性Bと交際し,婚約していました。
その後,Bの母Dがものすごく結婚に反対し始めました。
最終的に,結婚しないことになってしまいました。

婚約した当事者の一方の親が結婚に反対するということはよく生じることです。
そして,婚約者の一方が,親の反対(説得)に応じて婚約を破棄する,ということになると責任問題となります。

婚約者は約束を破棄した当事者ですから,(正当性がない以上は)損害賠償責任を負います。
<→別項目;婚約破棄に『正当な理由』がないと損害賠償責任が生じる
ここで反対して婚約破棄に関与した親については,まさに反対したの内容次第です。
複数の裁判例による基準をまとめます(後掲判例2,裁判例3)。
『判例2』は婚約破棄ではなく内縁解消のものです。
ただし,責任の法的構成は同じですので題材として用いています。

<婚約破棄に関与した親の責任の有無の判断基準>

・社会通念上の許容範囲を超えた不当な干渉と言える場合
・反対した動機や言動(方法)が公序良俗を超えている場合
・婚約破棄への影響度(元々婚約者自身が破棄の意向を持っていた場合は影響度は低い)

結局,親の反対があったとしても,婚約破棄に与えている影響が少ない場合,関与の程度が低い場合は,親自身には責任が生じない,ということもあるのです。

3 婚約破棄→結婚に反対した親の影響が小さいと慰謝料は認められない

婚約を破談にした親が損害賠償責任を負わないということもあります。

確かに,親が結婚に反対と強く主張し,婚約破棄を勧めた場合,子(婚約者)は迷ってしまうのが通常でしょう。
いわゆる嫁・姑で,同居しないとしても,今後一生,うまくやっていけないのではと思ってしまうというのも事実でしょう。

その一方で,親が結婚に反対という意向を表明しただけで,違法性あり,慰謝料が発生,というのも極端です。

婚約というのは当事者間の約束であって,多少極端ですが,2人だけが納得していれば,周囲が何と言おうと,結婚すること自体は可能なのです。
ちょっと大上段の構えになりますが,両性の合意のみによって結婚できる,ということは憲法24条に規定されていることです。

結局,親の反対の内容によって,違法性,が判断される,ということになります。
この点,昭和38年の最高裁判例(判例2)がありますが,時代の流れとともに親自身の責任は否定される方向にあります。
というのは,戦後の時代は親が反対しても押し切って結婚するということは非常にレアだったのです。
しかし,現在は,それほどレアではありません。
親との同居が著しく減り(核家族化),個人主義が浸透してきたからです。
最後に,結婚した親の責任が否定されるような要素のうち典型的なものを示しておきます(後掲裁判例4)。

<親の責任を否定する要素>

・婚約者自身が相手の欠点を発見した
・親→子の説得の具体的言動はそれ程強いものではなかった。
 例;あくまでも婚約者自身(子)の最終判断に委ねる(尊重する)という態度であった。

4 婚姻継続中でも反対した親の影響で険悪→慰謝料請求が認められる

<事例>

女性Aはある男性Bと交際し,婚約していました。
その後,Bの母Dがものすごく結婚に反対し始めました。
Bはとても迷ったけれど,最終的に,結婚しました。
しかしその後の夫婦の関係は,険悪です。
Dの影響で夫Bの気持ちが晴れないのです。

親が結婚に反対しつつも,これを押し切る形で結婚する,というケースはあります。
その場合,夫婦の意思が強く合致していれば問題ないのでしょう。

しかし,反対されているという意識から,夫婦関係が悪化するということもあります。
まさにこのような前提で,いつ破局(離婚)に至ってもおかしくないという状況に至ったケースについての裁判例があります(後掲裁判例5)。
結論としては,婚姻解消のおそれが十分にあると認定した上で,親の責任(慰謝料)を認めました。
ですから,結果的に結婚に至ったとか現在も婚姻が継続しているということだけでは,反対した親の責任が即消滅,ということにはならないのです。
もちろん,最初から親の反対の動機・方法が一定限度内であれば,そもそも責任は発生しません。
この裁判例におけるケースでは,動機・方法が限度を超えていたので問題となったのです。

5 婚約破棄関与した者の慰謝料相場は30万円〜100万円が目安

<婚約破棄に『関与した者』の慰謝料相場>

30万円〜100万円程度

これは,認定額として多い,という意味です。
個別的事情で大きく異なることもあります。

(1)婚約当事者以外の影響は間接的に過ぎない

婚約という契約の当事者が破棄の責任を持つのが本来の姿です。
その上で,当事者以外,いわば外野が一定の関与をした場合は,外野自身も責任を負います。
つまり,外野の関与は間接的なのです。

(2)婚約はもともと確実に結婚に至るわけではない

そこで,婚約の当事者,と比べると外野の責任は低くなる傾向があります。
また『寝取った』ケースについては正式な結婚をしている者(既婚者)との不貞行為を参考にすると良いです。
つまり,既婚者(の貞操)比べると,婚約の方が,一定程度,保護が低くなります。
婚約の場合は,元々事情の変更により正式な結婚に至らないという可能性も存在しているからです。
そこで寝取ったケースについても,既婚者との不貞行為よりも,不貞相手の責任は小さくなりましょう。

(3)ごく平均的には慰謝料額=30万円〜100万円程度

統計的,平均的なところでは,慰謝料として認められているボリュームゾーンは,30万~100万円程度です。
もちろん,それ以外の要素(関与の程度やこれ以外の婚約破棄の原因など)によって大きく変わりますのでご注意下さい。

条文

[日本国憲法]
第24条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

判例・参考情報

(判例1)
[東京地方裁判所平成15年(ワ)第27845号、平成16年(ワ)第13551号損害賠償本訴請求事件,同反訴請求事件平成17年3月17日]
本件婚約の破棄について帰責事由がある被告Dは,原告が,本件婚約が履行され被告Dと結婚して夫婦の共同生活をすることを信じて,被告Dに対して金銭等を給付して被った物質的な損害を賠償すべき義務を負っているというべきである。また,上記認定の本件婚約の破棄に至る経過に照らし,被告Dの本件婚約の破棄により,原告が相応の精神的苦痛を被ったことは否定することができず,被告Dは,原告に対し,相当額の慰謝料を支払うべき義務も負っているというべきである。前者の物質的損害については,原告が請求する合計491万0750円(婚約指輪代64万5750円,結婚式場申込代10万円,結納金60万円,被告Dの借財返済等のため交付した70万円,新居への引越費用6万1000円,電化製品購入代金10万円,サイドテーブル購入代金の一部2万4000円,雑貨購入代金4万円,被告Dに交付した給料の一部54万円,探偵社への調査費210万円)のうち,結納金60万円及び探偵社への調査費210万円は,前提事実(3)及び(6)のとおり,原告ではなく,原告母が出捐したものであるから,被告Dが賠償すべき範囲からは除外すべきであるが,その余の出捐は,原告が,いずれも本件婚約が履行され被告Dと夫婦となることを信じて支出したものであり,被告Dにおいて相応の利益を得ていて,被告Dの本件婚約の不当破棄により原告が被った物質的な損害と評価することができるから,被告Dは,原告に対し,その余の出捐に対応する221万0750円の損害賠償をすべきである。また,原告の慰謝料については,本件婚約の成立前とはいえ,平成15年2月までの間,原告が被告Dと頻繁に旅行するような交際する一方,Hとも男女としての交際をしていたこと,本件婚約の継続期間が約3か月程度とそれほど長い期間ではないことに照らし,100万円が相当であると認められる。
(略)
被告Eは,その供述によれば,8月3・4日の件の後も,被告Dとの交際を続けており,その真意はともかく,結果的に,被告Eと被告Dの交際が,被告Dの本件婚約の履行と両立しないものでああって,本件婚約を破棄に至らせるものであることを認識していたと評価せざるを得ず,それにもかかわらず,8月3・4日の件に関与した後も,被告Dと交際を続けたことは,本件婚約の破棄と因果関係がある,被告Eの原告に対する不法行為となると認めることができる。
   ただ,被告Eが,本件婚約の履行を前提に,原告が被告Dにした金銭の交付に関与したことを認めるに足りる証拠はないので,被告Eが原告に対し,賠償すべき損害額は,本件婚約の破棄への被告Eの関与により,原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料にとどまるというべきである。そして,上記3の事実の経過を合わせ考えれば,本件婚約を積極的に破棄に至らせているのは,主に被告Dの行動にあり,被告Eの関与は,補充的なものであると考えられるから,被告Eが原告に賠償すべき慰謝料額は,30万円を限度とすべきである(なお,被告Dの行為と被告Eの行為との関連性から見て,被告Eの原告に対する支払義務は,30万円の限度で,被告Dの原告に対する支払義務と連帯責任となると考えられる。)。

(判例2)
[最高裁判所第2小法廷昭和37年(オ)第801号損害賠償請求事件昭和38年2月1日]
内縁の当事者でない者であつても、内縁関係に不当な干渉をしてこれを破綻させたものが、不法行為者として損害賠償の責任を負うべきことは当然であつて、原審の確定するところによれば、本件内縁の解消は、生理的現象である被上告人の悪阻による精神的肉体的変化を理解することなく、懶惰であるとか、家風に合わぬなど事を構えて婚家に居づらくし、里方に帰つた被上告人に対しては恥をかかせたと称して婚家に入るを許さなかつた上告人らの言動に原因し、しかも上告人Aは右被上告人の追出にあたり主動的役割を演じたというのであるから、原審が右上告人Aの言動を目して社会観念上許容さるべき限度をこえた内縁関係に対する不当な干渉と認め、これに不法行為責任ありとしたのは相当である。

(判例3)
[徳島地方裁判所昭和55年(ワ)第201号損害賠償請求事件昭和57年6月21日]
原告は被告Hも被告Tの右不法行為に加担した旨主張するものであるところ、〈証拠〉によると、被告Tは原告と結納をかわして交際中、原告が約束の時刻に遅れることがあり、身なりにも概して無頓着であり、或は料理が上手ではないなどとしてこれを不満とするに至り、とりわけ、原告の体つきが細いことを気にして右婚姻に次第に気が進まなくなり、これを原告に打ち明けたことはないが、実母である被告Hには打ち明けたうえ、尚決断するには至らなくて悶々としていたところ、同年四月二六日夜、被告らはこの問題につき自宅に親戚の者数名と仲人丙村を集めて話し合いを持つに至つたこと、右席上、親戚の者やH村は婚姻するかどうかはひつきよう被告Tの気持ち次第という態度をとり、同被告は、日程の切迫感に追われて非常に悩みながらも、やはり自分は結婚するつもりである旨の決意を披瀝したのに対し、被告Hはすでに早く同年三月下旬ごろより原告に好感を抱いておらず、原告の欠点をあれこれ指摘して、この婚姻に反対する旨をかねてより被告Tに伝えてあつたところから、ここでも右婚姻に強く反対し、右反対の意見を繰り返して述ベたので、遂には被告らの間において見解の相異のあることを示したまま右話し合いが終了したこと、翌四月二七日における前述した原告宅での話し合いの席上、被告らが原告に対し料理が下手だとか、家庭の躾けが悪いとか体が細いなどとこもごも苦情を呈し、そのため原告が泣き出した際、被告太郎はそれを見てこれからは二人で力を合わせてやつて行こうなどと言つて原告を慰め、割り切れない気持ちながらも五月五日の結婚式を中止するまでの決断がつかなかつたところ、翌四月二八日朝、H村がそれまでの被告ら、殊に被告Hの態度に不安を持つて、同被告に電話し、結婚することに変わりはないか、嫌なら今から断つてもよいと申しむけたところ、被告らにおいて、にわかに、今からでも断わることができるなら断つてほしい旨明言するに至り、さらに被告らはそろつてH村宅に出むいたうえ、こもごも、本件婚約を解消したいからその旨を原告に伝えてくれるよう断言し、そのため丙村は直ちに原告宅に電話してその旨を伝えたこと、被告Tは本件破棄後の同年六月ごろ、原告との仲の取りなしを知人に依頼して原告より拒否されたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
 而して右事実によると、被告らは結納交付後ともに本件婚姻につき消極的態度に変じたものであるところ、被告Hの右態度が強度であつたのに対し、被告Tのそれは同Hの働きかけを受けながらもむしろ優柔不断なものであつて、婚約破棄の意思表示を敢てした当の四月二八日朝に至るまでの間は結婚式を実際にとりやめるまでの決意には至つておらず、仮に被告Hが同Tに対し婚約の履行をすすめなかつたまでも、かくまで反対の意思を強調することがなかつたならば、同被告において、なおいくらかの浚巡を呈しつつも、本件婚約を破棄することなく婚姻していたものというべきである。かかる場合被告Hの右各行為、すなわち被告Tに対する婚姻反対の働きかけ、原告の欠点の指摘、四月二八日のH村への電話並びに被告Tと同行したうえの婚約解消の依頼等の各行為は一体となつて被告Tの婚約破棄の決意を誘発せしめ、右決意の形成に寄与したものというのが相当であり、ひつきようこれらは被告Tによる婚約破棄と相当因果関係を有すると解すべきである。
 それ故被告らは共同不法行為者として原告に対し右婚約破棄によつて生じた損害について連帯して賠償の義務を負うものである。

(判例4)
[東京地方裁判所平成3年(ワ)第8714号、平成4年(ワ)第16940号損害賠償請求事件平成5年3月31日]
二 婚約解消を理由として、それまでにかかった費用の清算以外の精神的損害に対する損害賠償義務が発生するのは、婚約解消の動機や方法等が公序良俗に反し、著しく不当性を帯びている場合に限られるものというべきである。婚約当事者以外の者が婚約当事者に対して婚約を解消することを決断させた場合においても、同様に、精神的損害に対する損害賠償義務が発生するのは、その動機や方法等が公序良俗に反し、著しく不当性を帯びている場合に限られるものというべきである。例えば、親が、結婚を望んでいる子に対して、婚約の相手方の親族との円満な協力関係の形成が見込めないことを理由に婚約解消をするよう強く説得することは、それだけでは、婚約の相手方に対する精神的損害の損害賠償義務を発生させるほどの違法性を持たず、その動機や方法等に公序良俗に反する点が認められて始めて、損害賠償義務を発生させるほどの違法性を具備するものと解するべきである。
 三 被告三男が被告春子に対する脅迫等の不当な手段をもって原告と被告春子の婚約を解消させたことを直接認定させるような証拠はない。
 四 前記認定事実中、被告三男が被告春子に対する脅迫等の不当な手段をもって原告と被告春子の婚約を解消させたことを推認させるかのような事実は、次のとおりである。
  1 平成三年二月六日ころ以降、被告三男及び夏江は一貫して、原告と被告春子の結婚に反対していたと推認される。
  2 婚約解消の重要な原因となったのは原告の母の言動であり、原告が嫌いになったことが直接の原因ではない。
  3 被告春子は、平成三年二月一八日に、一度、婚約解消を取り止める気持ちになった。
  4 その際、被告春子は、母から「帰ってくるな。」と言われ、また、原告に対して「両親は、結婚式に出席しないかもしれない。」と発言した。
  5 被告春子は、最終的に原告に婚約解消の意思を告げた際にも「両親の反対を押し切ってまで結婚する意思はない。」と発言している。
 五 しかし、右四の事実から被告三男が被告春子に対する脅迫等の不当な手段をもって原告と被告春子の婚約を解消させたことを推認することは、とうていできないものというべきである。
 六 また、被告春子が一旦は婚約解消を取り止める気持ちになったことについては、次のような点からの検討も必要である。
  1 以上の認定事実によれば、平成三年二月六日以降の被告春子の心情は次のようなものであったと推認することができる。
   (1) 原告の母との間で配偶者の母として円満な協力関係を築いていく自信がなくなり、ひいては原告との間でも配偶者として円満な協力関係を築いていく自信がなくなったことから、婚姻は一生の問題であるので、迷いながらも、婚約は解消した方がよいと決断した。
   (2) 一旦は、原告のことを好ましい人と思って婚約を決意した後に、原告と交際しているときには気付かなかった問題が表面化したのであるから、婚約解消を決意した時点では原告が全く嫌いになったわけではない。
   (3) 原告との間で婚約の円満解消の合意ができておらず、結納も終え、結婚式の日取りと場所まで決めた後であるから、原告との結婚生活に入ることが心理的に大変な負担のかかることであったのと同程度に、婚約を解消することも心理的に大変な負担のかかることであった。
  2 右1の事実によれば、平成三年二月六日以降、被告春子が気持ちが揺れ動きやすい心理状態にあったことを推認することができる。そして、このことは、被告春子の「二月一八日は、心身ともに衰弱して、頭の中が真っ白であった。」という供述からも、裏付けることができる。
  3 以上の点を考慮すると、二月一八日に一旦は被告春子が婚姻する方向で翻意し、それに対して被告三男及び夏江が反対していたことから、被告春子は何の迷いもなく原告との婚姻を望んでいたのに、被告三男及び夏江が脅迫等の不法な手段を用いて被告春子に原告との婚姻を断念させたということを推認することは、とうていできないというべきである。
 七 そして、ほかに、被告三男が被告春子に対する脅迫等の不当な手段をもって原告と被告春子の婚約を解消させた事実を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、原告の被告三男に対する請求は、そのほかの点について判断するまでもなく、理由がない。

(判例5)
[大阪高等裁判所判決/昭和52年(ネ)第1522号、昭和52年(ネ)第1915号昭和53年10月5日]
 1 控訴人は神戸市○○区に所在する○○○○株式会社の代表取締役であるところ、昭和四七年一月妻R子を亡くし、それ以後数十回にわたり見合いをし、再婚相手を探していた。控訴人と亡妻R子との間には二名の子があり、昭和五三年八月にはいずれも大学生になつている。
   K子は昭和一七年生れの女性で、同四二年一〇月に婚姻したが、翌四三年七月に離婚し、その頃いとこである被控訴人の妻の世話で訴会社に雇用され、事務員として勤務していた。
 2 控訴人は、昭和四八年七月〇〇市立○○センター結婚相談室の紹介でK子と見合いをし、以来交際を続け、同四九年二月双方が婚姻の意思のあることを互いに確め、同年四月七日K子に対し結納として現金三○万円と指環を交付し、K子と同年七月に婚姻する旨合意(婚約)した。
3 被控訴人は、K子が訴外会社で勤務を始めてから一〇日位後から同女と性関係を結ぶ目的で誘惑し始め、昭和四三年八月頃K子と関係を結び、以後神戸市内や尼崎市内のホテルなどにおいて少なくとも毎月一回位の割合で右関係を継続していたところ、同四八年一〇月頃にはK子が同年七月に控訴人と見合いをし、それ以後結婚を前提とした交際をしていることを知り、また翌四九年二月には同女から控訴人と結婚することに決めたのでそれまでの関係を清算して欲しいと求められたが、K子に対する恋愛感情を断ち切れず、かえつてこれに不満を述べ、挙句には「死んでやる。」とか「誰かに頼んでも二人の結婚をつぶせる。」などと言つて控訴人とK子との婚姻に反対し、両名が前記のとおり婚約をしたことをその翌日である昭和四九年四月八日には知つたが、その後も同月一二日、二〇日、二七日の三回にわたり神戸市内のホテルなどにおいてK子と性関係を結んだ。
4 被控訴人は同年五月五日訴外会社の業務の都合上K子に連絡するべく控訴人方へ電話をして控訴人にK子ヘの伝言を依頼したが、控訴人はその際の被控訴人の話し振りからK子との関係を疑い、同女の母親にそのことを伝えたところ、K子の母親が被控訴人に真相を質したが、被控訴人はK子との関係を強く否定した。
 控訴人はK子の母親から右の事情を聞き、K子自身も被控訴人との関係はないと明言するので、同月一五日頃謝罪するため被控訴人を訪れたところ、被控訴人は訴外会社の近くの喫茶店において、事実は前記のとおりK子との関係があつたのに、これを偽り、「控訴人があらぬ疑いをかけたから告訴する。」と言つて控訴人を脅迫した。
 このようなことで控訴人は、K子や被控訴人らの言葉を信じ、同年七月五日に同女と婚姻したが、その後やはりK子らの態度に釈然としないものを感じ、同女に問い質したところ、K子は同五〇年三月頃になつて被控訴人と前記関係のあつたことを告白し、被控訴人は強い精神的打撃を受け、夫婦間は円滑な意思疎通を欠き不和となり、控訴人は一時はK子との婚姻関係を解消することをも考えたが、二人の子供を含めた家庭の事情などからこれを決めかね、K子としては自己に非のあることが明らかなのですべて控訴人の意に従うほかないものと決めて現在に至つている。
 以上の事実が認められ、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果中の右認定に反する部分は前記T山K子の証言に照らし措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
三 思うに、婚約当事者は互いに一定期間の交際をした後婚姻をして法律、風俗、習慣に従い終生夫婦とし共同生活することを期待すべき地位に立つ。婚約は将来婚姻をしようとする当事者の合意であり、婚約当事者は互いに誠意をもつて交際し、婚姻を成立させるよう努力すべき義務があり(この意味では貞操を守る義務をも負つている。)、正当の理由のない限りこれを破棄することはできない。婚姻はその届出と届出時における真意に基づく婚姻意思の合致によつて、成立するから、婚約当事者の一方が婚姻意思を失ない、婚約を破棄したときは、他方は婚約の履行として届出を強制することはできず、正当の理由がなく婚約を破棄した者に損害賠償を請求しうるにすぎない。しかし、その故をもつて婚約は何らの法的拘束力を有しないということはできない。そして、婚約当事者が合意に従い、合意の通常の発展として婚姻した場合に終生夫婦として共同生活を続けるべき義務のあることは疑問のないところであるから、婚約当事者の前記地位は法の保護に値いするというべきであり、これを違法に侵害した者は損害賠償義務を負うといわなければならない。
  ところで、婚約当事者の一方及びこれと意を通じまたはこれに加担した第三者の違法な行為によつて婚約当事者の他方が婚約の解消を余儀なくされ、あるいは婚姻をするには至つたものの、これを解消するのやむなきに至つた場合はもとより、解消に至らず婚姻を継続している場合でも、少なくとも婚約の破棄あるいは離婚するについて正当な事由があつて、婚約あるいは婚姻関係が円満を欠き、その存続が危ぶまれる状態(婚姻破綻のおそれ)に至つた場合にも婚約当事者の有する前記法的地位の侵害があると解するのが相当である。つまり、婚約当事者は、婚約の通常の発展としての、将来の婚姻成立後の夫婦の地位(いわば将来の権利)についても、法の保護を受けることができるものというべく、婚約期間中、その当事者の一方または双方に対し、将来の婚姻の破綻を生じさせるような原因を与える第三者の行為は、法の容認しない違法なものといわねばならない。
四 これを本件についてみるに、前記認定事実によれば、被控訴人は、控訴人とK子が昭和四九年四月七日に婚約し、数か月後に婚姻する約束であつたことを知りながら、同月において三回にわたりK子と性関係を結び、そのうえ控訴人に対しては事実を偽つてK子との関係を否定したものであり、控訴人はそれがK子の控訴人に対する弁明とも符号したこともあつて、被控訴人とK子との関係はなかつたものと信じ、同年七月五日K子と婚姻したが、後に被控訴人が前記のとおりK子と性関係を結んだ事実を知り、強い精神的打撃を受けるとともに、夫婦間に不和を生じ、現在なお婚姻を継続しているとはいえ、婚姻解消のおそれが十分にあることが認められる。
  そうすると、被控訴人は、K子と共同して控訴人が婚約に基づいて得たK子と誠実に交際をした後婚姻し、終生夫婦として共同生活をすることを期待すべき地位を違法に侵害したものであるから、控訴人に対し不法行為による損害賠償義務を免れないというべきである。
 前記認定事実によれば、控訴人は被控訴人の侵害行為によつて多大の精神的損害を被つたことが推認され、その侵害態様のほか、控訴人の年齢、社会的地位など本件記載に現われた事情をしんしゃくすると、その慰藉料としては、後記五の慰藉料を含め、五〇万円をもつて相当と認める。