最判平成14年1月22日|ゴルフ会員権の預託金返還請求と弁護士法73条
1 最判平成14年1月22日|ゴルフ会員権の預託金返還請求と弁護士法73条
平成14年1月22日、最高裁判所第三小法廷は、ゴルフ会員権を買い取った業者がゴルフ場の経営会社に預託金の返還を求めた事件について判決をしました。弁護士法73条について、形式的に条文に当たる行為でも違反とならない場合があることを示した判決です。
あわせて、退会した会員の預託金返還請求権を譲り受けた者が、クラブ理事会の承認を経ていなくても経営会社に請求できるか、という点も判断されています。
本記事では、この判決が何をどう判断したのかを、判決文と最高裁判所判例解説にそくして説明します。
弁護士法73条の規定そのものについては、別の記事で説明しています。
2 結論——退会後の預託金返還請求権→承認不要・正当業務行為→73条違反なし
この判決から取り出せる規範を並べます。いずれも後述の各節で、判決文と判例解説を挙げて説明します。
結論——退会後の預託金返還請求権→承認不要・正当業務行為→73条違反なし
あ 判決が明示したこと
(ア)会則に定める据置期間の経過後に会員が退会の意思表示をすれば、会員契約は終了し、会員は預託金の返還を請求できる。会員権の譲渡に理事会の承認等を要するという会則の定めは会員契約が継続している場合の規定なので、退会した会員が預託金返還請求権を譲渡することについては、この承認等は要らない(イ)弁護士法73条の趣旨は、主として弁護士でない者が権利の譲渡を受けることによって、みだりに訴訟を誘発したり紛議を助長したりするほか、72条本文の禁止を潜脱する行為をして、国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを防止するところにある(ウ)形式的には他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行をすることを業とする行為であっても、上記の弊害が生ずるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には、73条に違反しない(エ)ゴルフ会員権の売買等を業とする者が、市場から会員権取引における通常の方法と価格で会員権を購入し、ゴルフ場経営会社に対して社会通念上相当な方法で預託金の返還を求めたのであれば、利益を得る目的で購入していたとしても、73条に違反しないと解される場合がある(オ)正当な業務の範囲内かどうかは、譲受けの方法・態様、権利実行の方法・態様、業務内容やその実態等を審理して判断する必要がある→同種の訴訟を4、5件提起しているという事実関係だけで違反と即断することは許されない(カ)上告人の行為が正当な業務の範囲内だったのかは、この判決では決まっていない。括弧の中で上告人の主張に触れたにとどまり、審理を尽くさせるために原判決を破棄して東京高等裁判所へ差し戻した
い 判決に明示なし——判例解説の読み
(ア)この場合に当たることは、刑法35条の正当業務行為として違法性を阻却するという位置づけになる。民事訴訟では、73条該当性を争う側が主張立証責任を負う(イ)下落した会員権の市場価格と預託金の額との差額を利得する目的で会員権を購入する取引を、一般的に広く容認したものではない
う 判決が触れていないこと
(ア)どのような場合が73条の例外に当たるのかは、この判決からは出てこない→今後の事例の集積に待つほかない(イ)譲り受ける権利に事件性(紛争性)が必要かどうかは、この判決が扱ったところではない
3 事案——退会届つきで転売されたゴルフ会員権|業者の買取りと預託金返還請求
判決は当事者を訴訟上の地位で呼びます。上告人がゴルフ会員権の売買等を業とする会社、被上告人がゴルフクラブを経営する会社、Aが元の会員です。判例解説のほうは、上告人をX、被上告人をY、元の会員をA、中間の譲受人をB・Cと呼びます。以下の引用も、それぞれの呼び方によります。
会員権は、元の会員から2つの業者の手を経て上告人に渡りました。譲渡の1件書類には元の会員が署名押印した退会届が含まれており、最終の譲受人が元の会員に代わってこれを提出する権限も与えられていました。会員権の譲渡について理事会の承認を受ける手続は、経ていません。
上告人は、この退会届を提出し、譲渡通知を送ったうえで、内容証明郵便で預託金の返還を請求し、訴訟を提起しました。会員権が上告人に渡ってから訴訟提起までは1か月ほどです。
上告人は、預託金の額を下回る価格で会員権を買い取って返還を求める訴訟を提起することを、反復継続の意思のもとに行っていました。東京地裁に提起したものだけでも、本件以外に4、5件の同種訴訟がありました。
会員権の来歴と、理事会の承認を経ていないこと
(1) Aは、昭和60年4月、被上告人との間で被上告人の経営するゴルフクラブである埼玉ゴルフクラブ(以下「本件クラブ」という。)への入会契約を締結し、預託金900万円を支払って、本件クラブの個人正会員権(以下「本件会員権」という。)を取得した。
本件クラブの会則により、預託金は、ゴルフ場の正式開場の日から10年間据え置き、その後、退会の際に返還する旨定められていたが、平成11年6月までに据置期間は経過した。
(2) Aは、平成11年6月2日ないし4日ころ、本件会員権を株式会社住地ゴルフに700万円で譲渡し、名義書換えに関係する一件書類として、会員資格保証金預り証、印鑑登録証明書並びにいずれもAの署名押印のあるゴルフ会員権譲渡通知書及び退会届等を交付した。その際、Aは、本件会員権の最終譲受人に対し、Aに代わってゴルフ会員権譲渡通知書及び退会届を被上告人に提出する権限を与えた。
株式会社住地ゴルフは、同月4日、株式会社アルテックに対し、本件会員権を725万円で譲渡して前記一件書類を交付し、同社は、同日、上告人に対し、本件会員権を800万円で譲渡して同書類を交付した。
(3) 本件クラブの会則には、会員権の譲渡には、本件クラブの理事会の承認を受けるなどの手続を要すると規定されているが、上告人はこの手続を経ていない。
※最高裁判所 2002-01-22 最高裁判所民事判例集56巻1号123頁/裁判所時報1308号38頁/判例タイムズ1085号179頁/金融・商事判例1147号3頁/判例時報1775号46頁/金融法務事情1643号70頁
退会届の提出と、預託金返還の請求
(4) 上告人は、Aに代わって、被上告人に対し、平成11年6月5日ころ、前記退会届を提出し、同月7日ころ、前記ゴルフ会員権譲渡通知書により、Aが上告人に本件会員権を譲渡した旨を通知した。
上告人は、被上告人に対して、同月10日に到達した内容証明郵便をもって預託金の返還を請求し、同年7月5日、預託金の返還を求める本件訴訟を提起した。
※最高裁判所 2002-01-22 最高裁判所民事判例集56巻1号123頁/裁判所時報1308号38頁/判例タイムズ1085号179頁/金融・商事判例1147号3頁/判例時報1775号46頁/金融法務事情1643号70頁
上告人の業態と、同種訴訟の件数
(5) 上告人は、ゴルフ会員権の売買等を業とする会社であるが、利益を得る目的で、預託金の額を下回る価格でゴルフ会員権を譲り受け、ゴルフ場経営会社を被告として預託金の返還を求める訴訟を提起するという行為を反復継続の意思の下に行っており、東京地方裁判所に提起したものだけでも、本件以外に4、5件の同種訴訟がある。本件会員権の購入も同様の行為の一環としてされたものである。
※最高裁判所 2002-01-22 最高裁判所民事判例集56巻1号123頁/裁判所時報1308号38頁/判例タイムズ1085号179頁/金融・商事判例1147号3頁/判例時報1775号46頁/金融法務事情1643号70頁
4 下級審——1審は請求認容・原審は理事会の承認と弁護士法73条で棄却
この事件は、下級審で結論が入れ替わっています。争点は2つで、上告人が預託金返還請求権を行使できるかという点と、会員権の譲受けが弁護士法73条に違反して無効かという点です。
(1)1審——預託金返還請求権=単なる金銭債権→請求認容
第1審は、会員権のうち預託金返還請求権は単なる金銭債権にすぎず、入会の承認を得て会員にならなくても行使できるとしました。据置期間は経過し、債権譲渡の通知もされているから請求は理由がある、という判断です。73条についても、権利を譲り受けて訴訟によって返還を求めることを業としているとは認められないとして、被上告人の主張を退けています。
第1審の判断
第1審は、Yの主張を、
(1)会員権のうちの預託金返還請求権は、単なる金銭債権にすぎないから、入会の承認を得て会員にならなくても、これを行使することができる、本件の場合、預託金の据置期間は経過し、債権譲渡通知もYにされているから、Xの請求は理由がある、
(2)Xは、権利を譲り受けて訴訟によってその返還を求めることを業としているものとは認められない、として退け、Xの請求を認容した。
※小野憲一稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成14年度』法曹会2005年p84〜85
(2)原審——理事会の承認なし・譲受けは73条違反で無効→請求棄却
原審は東京高等裁判所です(後述のとおり、最高裁は本件を東京高等裁判所に差し戻しました)。第1審とは逆に、上告人の請求を棄却しました。
理由は2つです。1つは、理事会の承認を受けていないから会員権に基づく権利を行使することができず、ゴルフ会員権は契約上の地位であって預託金返還請求権のみを分離して譲渡することもできない、というものです。もう1つは、会員権を譲り受けて訴訟によって預託金の返還を求めることを業としているから、上告人による譲受けは73条に違反して無効だ、というものです。
判例解説は、2つめが「念のため」の判断だったと記しています。1つめだけで請求は理由がないことになるからです。
原審の判断
2 原審は、上記事実関係の下において、次のとおり判示し、上告人の請求を棄却すべきものとした。
(1) 上告人は、会員権の譲渡について本件クラブの理事会の承認を受けていないから、会員権に基づく権利を行使することができず、自ら被上告人に対して預託金の返還請求をすることはできない。また、ゴルフ会員権は契約上の地位であって、預託金返還請求権のみを分離して譲渡することはできないから、上告人は、預託金返還請求権のみを取得することができない。上告人がA作成に係る退会届を被上告人に送付したことは、上記の結論を左右しない。
(2) 上告人は、上記1(5)のとおり、ゴルフ会員権を譲り受け、訴訟によって預託金の返還を求めることを業としており、本件会員権の購入もその一環としてされたものであるから、上告人による本件会員権の譲受けは、弁護士法73条に違反し無効である。
※最高裁判所 2002-01-22 最高裁判所民事判例集56巻1号123頁/裁判所時報1308号38頁/判例タイムズ1085号179頁/金融・商事判例1147号3頁/判例時報1775号46頁/金融法務事情1643号70頁
73条の判断が「念のため」であったこと
(注2)(1)の判断のみでXの請求は理由がないに帰することから、原審は、(2)の判断を「念のため」に判断するとしている。
※小野憲一稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成14年度』法曹会2005年p96
(3)上告理由——弁護士に依頼した正規の権利行使→濫訴に当たらない
上告受理の申立ての理由のうち73条に関する部分は、正規に譲り受けた権利を弁護士に依頼して実現を図ることは濫訴に当たらず、国民の法律生活の利益に弊害も与えない、というものでした。これが弁護士法違反に当たるというのなら、金融機関が担保流れで会員権を取得して預託金の返還を受けることや、不良債権の買取りまで許されなくなって不当だ、とも主張されています。
上告受理申立ての理由(弁護士法73条について)
(2)原告が預託金の返還を目的として本件会員権を譲り受けたものと認めた原審の認定には、経験則違反がある、原告は、本件と同種の預託金返還請求訴訟を数件提起しているが、弁護士法73条は、非弁護士が権利の譲渡を受けることによる濫訴の弊害を防止し、国民の法律生活の利益を保護する目的の規定といわれるところ、正規に譲り受けた権利を弁護士に依頼して実現を図ることは濫訴に当たらないし、国民の法律生活の利益に弊害も与えない、仮に、本件が弁護士法違反に当たるというのなら、多くの金融機関が担保流れによってゴルフ会員権を取得し、預託金の返還を受けて貸付金の弁済に当てることや、不良債権の買取りなども許されなくなり不当である、などというものである。
※小野憲一稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成14年度』法曹会2005年p85〜86
5 判示|退会後の預託金返還請求権の譲渡→理事会の承認等を要しない
最高裁は、原審の2つの判断のいずれにも判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとしました。まず1つめです。
出発点は、会員権の内容です。預託金会員制ゴルフクラブの会員権は、会則に従ってゴルフ場を利用し得る権利や年会費納入等の義務とともに、会則に定める据置期間の経過後は退会に伴って預託金の返還を請求することができる権利を内容とする、契約上の地位である、としました。据置期間の経過後に会員が退会の意思表示をすれば、会員契約は終了し、会員は預託金の返還を請求することができます。
そのうえで、会員権の譲渡に理事会の承認等の手続を要するという会則の定めは、会員契約が継続している場合の規定である、としました。退会した会員が預託金返還請求権を譲渡することについては、この承認等の手続は要りません。
本件では、上告人が元の会員に代わって退会届を提出したことによって会員契約が終了し、退会によって行使が可能となった預託金返還請求権が順次上告人に譲渡され、退会届の提出後に送られた譲渡通知によって譲渡の通知がされたものと解される、という運びになります。上告人は、預託金返還請求権の取得を被上告人に対抗することができます。
この部分は、判示事項として取り上げられていません。判例解説は、通説的見解を前提とした事例的な判断にすぎないからだと説明しています。
退会後の預託金返還請求権の譲渡と、会則の承認の定め
上記事実関係によれば、本件会員権は、いわゆる預託金会員制ゴルフクラブの会員契約に基づく契約上の地位として、会則に従ってゴルフ場を利用し得る権利及び年会費納入等の義務と共に、会則に定める据置期間の経過後は、退会に伴って入会時に預託した預託金の返還を請求することができる権利を内容とするものと解される。したがって、会則に定める据置期間の経過後に、会員が被上告人に対して退会の意思表示をした場合には、退会によって会員契約が終了し、会員は、被上告人に対して預託金の返還を請求することができる。そして、本件クラブの会則には会員権の譲渡について理事会の承認等の手続を要するとの定めがあるが、これは会員契約が継続している場合の規定であるから、退会した会員が預託金返還請求権を譲渡することについて、この承認等の手続が必要となるものではない。
※最高裁判所 2002-01-22 最高裁判所民事判例集56巻1号123頁/裁判所時報1308号38頁/判例タイムズ1085号179頁/金融・商事判例1147号3頁/判例時報1775号46頁/金融法務事情1643号70頁
本件における預託金返還請求権の移転と対抗
そうすると、Aから上告人に至る本件会員権の譲渡は、本件クラブの理事会の承認等の手続を経ていないから、譲渡後においても、被上告人との関係では本件会員権を有する者はAであったというべきであるところ、上告人が前記A作成名義の退会届を同人に代わって被上告人に提出したことによって当該会員契約は終了し、Aは被上告人に対して預託金の返還を請求することができることになる。そして、本件の事実関係の下においては、退会によって行使が可能となる預託金返還請求権は、上記1(2)の各譲渡契約によって上告人に順次譲渡され、退会届の提出後、上記1(4)の譲渡通知によって、被上告人に譲渡の通知がされたものと解するのが相当である。したがって、上告人は、預託金返還請求権の取得を被上告人に対抗することができるものというべきである。
※最高裁判所 2002-01-22 最高裁判所民事判例集56巻1号123頁/裁判所時報1308号38頁/判例タイムズ1085号179頁/金融・商事判例1147号3頁/判例時報1775号46頁/金融法務事情1643号70頁
この説示が判示事項とされなかった理由
本判決は、このように通説的見解を前提とした事例的な判断を行ったものにすぎないので、この説示部分は判示事項として取り上げられなかったものと思われる。
※小野憲一稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成14年度』法曹会2005年p96
6 判示|弁護士法73条の立法趣旨からの限定解釈
2つめが、この判決の中心です。最高裁は、73条の文言をそのまま当てはめるのではなく、この規定が何のために置かれたのかに立ち返って、適用の限界を引きました。
(1)趣旨=みだりな訴訟の誘発・弁護士法72条本文の潜脱による弊害の防止
最高裁が示した73条の趣旨は、主として弁護士でない者が権利の譲渡を受けることによって、みだりに訴訟を誘発したり紛議を助長したりするほか、72条本文の禁止を潜脱する行為をして、国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを防止するところにある、というものです。
判例解説は、これを従前の解釈の流れに沿った解釈だと読んでいます。趣旨の理解そのものを新しく打ち出した判決ではない、ということです。
73条の趣旨については、別の記事で説明しています。
弁護士法73条の趣旨
弁護士法73条の趣旨は、主として弁護士でない者が、権利の譲渡を受けることによって、みだりに訴訟を誘発したり、紛議を助長したりするほか、同法72条本文の禁止を潜脱する行為をして、国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを防止するところにあるものと解される。
※最高裁判所 2002-01-22 最高裁判所民事判例集56巻1号123頁/裁判所時報1308号38頁/判例タイムズ1085号179頁/金融・商事判例1147号3頁/判例時報1775号46頁/金融法務事情1643号70頁
趣旨の理解は従前の解釈の流れに沿うものだという読み取り
本判決が、法73条の趣旨につき
「主として弁護士でない者が、権利の譲渡を受けることによって、みだりに訴訟を誘発したり、紛議を助長したりするほか、同法72条本文の禁止を潜脱する行為をして、国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを防止するところにあるものと解される」
と述べているのも、これら従前の解釈の流れに沿った解釈を示したものと解される(注5)。
※小野憲一稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成14年度』法曹会2005年p88
(2)形式的に該当→弊害のおそれなし・正当な業務の範囲内→弁護士法73条違反なし
この立法趣旨に照らして、最高裁は次のように述べました。形式的には他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行をすることを業とする行為であっても、上記の弊害が生ずるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には、73条に違反しない、というものです。
判例解説は、これを学説と裁判例の流れを受けて73条の適用が限定される場合を明らかにしたものだと位置づけています。
この場合に当たることが刑法上どう位置づけられるのか、民事訴訟では誰が主張立証責任を負うのかは、73条の解釈の問題です。別の記事で説明しています。
形式的に当たる行為でも73条に違反しない場合
このような立法趣旨に照らすと、形式的には、他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行をすることを業とする行為であっても、上記の弊害が生ずるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には、同法73条に違反するものではないと解するのが相当である。
※最高裁判所 2002-01-22 最高裁判所民事判例集56巻1号123頁/裁判所時報1308号38頁/判例タイムズ1085号179頁/金融・商事判例1147号3頁/判例時報1775号46頁/金融法務事情1643号70頁
73条の適用が限定される場合を明らかにしたものだという位置づけ
本判決は、このような背景の下において、2(2)で記載した学説、裁判例の流れを受けて、法73条の適用が限定される場合を明らかにしたものである。
※小野憲一稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成14年度』法曹会2005年p93
7 あてはめ——原審の事実関係のみでの即断→許されない
規範を立てたうえで、最高裁は本件へのあてはめに進みます。ここで原審の判断が覆りました。原審は、上告人が預託金の額を下回る価格で会員権を買い取って返還を求める訴訟を反復していたという事実関係から、73条違反という結論を出していました。
(1)ゴルフ会員権市場の存在=公知の事実
最高裁は、ゴルフ会員権の売買にはゴルフ会員権市場ともいうべき市場が存在し、その市場で多数の会員権の売買が日常的に行われていることは公知の事実である、としました。市場を通じた取引であることが、正当な業務かどうかの判断に効いてきます。
もっとも、判例解説は、この判決が、下落した会員権の市場価格と預託金の額との差額を利得する目的の取引を一般的に広く容認したものではない、と注意を促しています。市場を通じていれば足りるという読み方は取れません。
ゴルフ会員権市場の存在は公知の事実である
これを本件についてみるに、ゴルフ会員権の売買には、ゴルフ会員権市場ともいうべき市場が存在し、その市場において多数の会員権の売買が日常的に行われていることは公知の事実である。
※最高裁判所 2002-01-22 最高裁判所民事判例集56巻1号123頁/裁判所時報1308号38頁/判例タイムズ1085号179頁/金融・商事判例1147号3頁/判例時報1775号46頁/金融法務事情1643号70頁
差額の利得を目的とする取引を広く容認したものではないという注意
本判決は、「ゴルフ会員権市場」ともいうべき市場が存在していることを前提に、同市場を通じて通常の方法と価格でゴルフ会員権の譲渡を受けた会員権業者が、通常の交渉や訴訟手続を通じてゴルフ場経営会社に対して預託金の返還を求めているのならば、利益を得る目的で会員権を購入していたとしても、利益追及に向けた通常の経済活動と評価できる場合もあり、一律に正当業務性が否定されるわけではない、としたものであり、下落したゴルフ会員権の市場価格と預託金の額との差額に目を付けその差額を利得する目的で会員権を購入する取引を、一般的に広く容認しているものではないことに注意する必要がある。
※小野憲一稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成14年度』法曹会2005年p99
(2)市場からの通常の方法と価格での購入・相当な方法の請求→利益目的でも違反なし
そのうえで最高裁は、ゴルフ会員権の売買等を業とする者が、業として、市場から会員権取引における通常の方法と価格で会員権を購入し、ゴルフ場経営会社に対して社会通念上相当な方法で預託金の返還を求めたのであれば、利益を得る目的で購入していたとしても73条に違反しないと解される場合もある、としました。
ここで注意が要るのは括弧の中身です。上告人の行為がそのようなものであったと認定したのではなく、上告人がそう主張していることが記録から明らかだ、と述べているにとどまります。
市場からの通常の購入と、社会通念上相当な方法による請求
そして、ゴルフ会員権の売買等を業とする者が、業として、上記市場から、会員権取引における通常の方法と価格で会員権を購入した上、ゴルフ場経営会社に対して社会通念上相当な方法で預託金の返還を求めたものであれば(記録によれば、上告人は、自己の行為がそのようなものであると主張していることが明らかである。)、利益を得る目的で会員権を購入していたとしても、上記の見地から同条に違反するものではないと解される場合もあるというべきである。
※最高裁判所 2002-01-22 最高裁判所民事判例集56巻1号123頁/裁判所時報1308号38頁/判例タイムズ1085号179頁/金融・商事判例1147号3頁/判例時報1775号46頁/金融法務事情1643号70頁
(3)主文——原判決破棄・譲受けと権利実行の方法・態様等の審理→東京高裁へ差戻し
したがって、原審が挙げた事実関係だけから上告人の行為が73条に違反すると即断することは許されません。最高裁は、上告人による会員権の譲受けの方法・態様、権利実行の方法・態様、上告人の業務内容やその実態等を審理して、濫訴を招いたり紛議を助長したりするおそれがないかどうか、72条本文が禁止する預託金の取立て代行業務等の潜脱行為に当たらないかどうかなどを含め、社会的経済的に正当な業務の範囲内の行為であるかどうかを判断する必要があるとしました。
主文は、原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻すというものです。理由では「原審に差し戻す」と書かれています。差戻先の東京高等裁判所が、この事件の原審です。
即断は許されず、審理すべき事項
そうすると、上記1(5)の事実関係のみから、上告人の行為が同条に違反するものと即断することは許されず、さらに、上告人による本件会員権を含むゴルフ会員権の譲受けの方法・態様、権利実行の方法・態様、上告人の業務内容やその実態等を審理して、上告人の行為が濫訴を招いたり紛議を助長したりするおそれがないかどうかや同法72条本文が禁止する預託金の取立て代行業務等の潜脱行為に当たらないかどうかなどを含め、社会的経済的に正当な業務の範囲内の行為であるかどうかを判断する必要があるというべきである。
※最高裁判所 2002-01-22 最高裁判所民事判例集56巻1号123頁/裁判所時報1308号38頁/判例タイムズ1085号179頁/金融・商事判例1147号3頁/判例時報1775号46頁/金融法務事情1643号70頁
破棄と差戻しの理由
4 以上のとおり、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
そして、上告人の行為が弁護士法73条に違反するものであるかどうかについてさらに審理判断させるため、本件を原審に差し戻すこととする。
※最高裁判所 2002-01-22 最高裁判所民事判例集56巻1号123頁/裁判所時報1308号38頁/判例タイムズ1085号179頁/金融・商事判例1147号3頁/判例時報1775号46頁/金融法務事情1643号70頁
主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
※最高裁判所 2002-01-22 最高裁判所民事判例集56巻1号123頁/裁判所時報1308号38頁/判例タイムズ1085号179頁/金融・商事判例1147号3頁/判例時報1775号46頁/金融法務事情1643号70頁
8 決めていないこと——上告人の行為の正当業務性・例外の範囲
まず、上告人の行為が正当な業務の範囲内だったのかは、この判決では決まっていません。前述のとおり、括弧の中で上告人の主張に触れただけで、審理を尽くさせるために差し戻されています。
次に、どのような場合が73条の例外に当たるのかは、この判決からは出てきません。判例解説も、実際にどのようなケースが例外に該当するのかは今後の事例の集積に待たなければならないとし、とくにファクタリングや不良債権処理のような、新しい社会的経済的必要性を背景に生じる取引についての当てはめの例が待たれるとしています。
例外に当たるケースは今後の事例の集積に待つほかないという指摘
本判決は、法73条の適用が限定される場合を明らかにした重要な判例であり、判旨については、後注に掲げた評釈においても大方の賛同を得ているところであるが、実際にどのようなケースが法73条の例外に該当するのかについては、今後の事例の集積に待たなければならない(注18)。
特に、ファクタリングや不良債権処理など、新しい社会的経済的必要性を背景に生じる新しい取引についての具体的な当てはめの例が待たれるところである。
※小野憲一稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成14年度』法曹会2005年p93〜94
9 おわりに
平成14年1月22日の判決は、弁護士法73条について、形式的に条文に当たる行為でも違反とならない場合があることを示しました。もっとも、どこまでが例外なのかは、この判決の後の裁判例の積み重ねに委ねられています。
この判決の枠組みを当てはめて73条違反かどうかが判断された裁判例は、別の記事で説明しています。
譲り受ける権利について事件性(紛争性)が必要かどうかは、この判決が扱ったところではありません。その論点は別の記事で説明しています。
弁護士法73条に事件性(紛争性)は必要か|不要説の論拠と、必要説の立つ場所
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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