【弁護士法73条違反の判断をした裁判例の集約】

1 弁護士法73条違反の判断をした裁判例

弁護士法73条は、業としての権利の譲り受けと権利の実行を禁止しています。
詳しくはこちら|業としての権利の譲受と実行の禁止(弁護士法73条の全体像)
実際には、この規定に該当するかどうかがはっきりしない状況が多くあります。
これについては、具体的な事案(実例)についての判断を把握すると分かりやすいです。
そこで、本記事では、弁護士法73条に該当するかどうかが判断された実例(裁判例)を紹介します。

2 最高裁が示した判断枠組み(ゴルフ会員権の譲受)

弁護士法73条については、最高裁が判断の枠組みを示しています。
形式的に条文に当たる行為でも、例外的に違反とならない場合があるという内容です。
以下で紹介する平成以降の裁判例は、いずれもこの枠組みを前提に判断しています。

最高裁が示した判断枠組み(ゴルフ会員権の譲受)

あ 事案

ゴルフ会員権の売買等を業とする会社が
預託金の額を下回る価格でゴルフ会員権を譲り受けた
ゴルフ場経営会社に預託金の返還を求める訴訟を提起した
同種の訴訟が本件以外に4、5件あった

い 原審(東京高裁)の判断

ゴルフ会員権の譲受は弁護士法73条に違反し無効である

う 最高裁の判断

形式的に弁護士法73条に当たる行為でも
弊害が生ずるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には
同条に違反しない
→原判決を破棄し、東京高裁に差し戻した

え 差戻審が審理すべき事情

権利の譲受けの方法・態様
権利実行の方法・態様
業務内容やその実態
濫訴を招いたり紛議を助長したりするおそれの有無
弁護士法72条本文が禁止する取立て代行業務等の潜脱に当たらないか
※最高裁平成14年1月22日

ゴルフ会員権の売買には市場があり、その市場から通常の方法と価格で購入して、社会通念上相当な方法で預託金の返還を求めたのであれば、利益を得る目的があっても違反とならない場合がある、としています。
つまり『業として』に当たるかどうかではなく、正当な業務の範囲内かどうかで結論が分かれるのです。

3 ゴルフ会員権の譲受と実行の事例(違法認定)

同じゴルフ会員権の譲受でも、違法と判断された事例があります。
前記の最高裁の枠組みを当てはめて、正当な業務の範囲内とはいえないとしたものです。

ゴルフ会員権の譲受と実行の事例(違法認定)

あ 背景

76歳の男性が生活保護を受給していた
ゴルフクラブに入会する動機・目的はなかった
会員権を安く買い取って預託金額面の返還を請求し、差額を取ることを持ち掛けられた
買取資金は別会社から借り入れた(弁済期の定めはなく、預託金が戻ったら返済する内容)

い 権利の実行

会員権を取得した11日後に訴訟を提起した
前後して同種の訴訟6件の原告にもなっていた(本件を含め預託金額面合計1億2670万円)

う 裁判所の判断

実質的な金主と会員権の調達役の主導の下での名義貸しである
弁護士法72条本文が禁止する取立代行業務の潜脱行為に当たる疑いが強い
およそ社会経済的に正当な業務の範囲内の行為とはいえない
→預託金返還請求権の譲受けは弁護士法73条に違反し無効である

え 判断を動かさないとされた事情

代金が世間相場から大きく逸脱しない範囲内であること
弁護士を代理人として委任し、訴訟という合法的手段で履行を求めたこと
※大阪高裁平成14年9月19日

最後の項目は実務上重要です。対価が相場の範囲内であることや弁護士を立てたことは、それだけでは適法の理由になりません。

4 債権の譲受と実行の事例(違法認定)

弁護士法73条違反となる行為の代表的な類型は債権譲渡とその後の債権回収というものです。
最初に、債権譲渡が弁護士法73条に該当して違法と判断された事例を紹介します。

債権の譲受と実行の事例(違法認定)

あ 債権の購入

Aは、約2年の間に合計6人の者から合計8個の債権を譲り受けた
いずれも支払命令(支払督促)を申し立てた

い 裁判所の判断

弁護士法73条に該当する
代物弁済としての債権譲渡も含む
※福岡高裁宮崎支部昭和32年10月8日

この頻度・回数が『業として』に該当すると判断されたのです。
基準として参考になるものです。

5 債権の譲受と実行の事例(適法認定)

代表的な類型である債権譲渡ですが、弁護士法73条違反とはならなかった事例です。

債権の譲受と実行の事例(適法認定)

あ 背景

Aは会社Bに勤務していた
AはBを退職した
Aの複数の取引先(債権者C)がBに対する債権を持っていた
Bは経営不振により債務の弁済が滞っていた
債権者Cは困っていた
AはBの代表者と話し合った
Aが『債権をAが買い受ける』という解決策を提示した
Bの代表者はこれを了解した

い 債権の購入

債権十数口、金額約40万円の売掛債権について
Aは、それぞれ6〜7割の金額で譲り受けた
Aは、譲受の数日後にBへの支払命令を申し立てた

う 裁判所の判断

『業として』には該当しない
→適法である
※東京高裁昭和28年11月4日

債権譲渡や権利行使(支払命令申立)だけをみると『業として』に該当するように思えます。
しかし、背景には特殊な事情があったため、『業として』には該当しないと判断されたのです。

6 債権の譲受と実行の事例(適法認定・平成の事例)

平成に入ってからの事例です。いずれも債権の譲受を業とする者による請求で、適法と判断されました。
どのような事情が適法の方向に働くのかが読み取れます。

外国の公債の譲受の事例(適法認定)

あ 事案

不良債権の購入・売却を主要な業務の一つとする英国の会社が
債務不履行となった円建債券を譲り受けた
発行した外国国家機関とこれを保証した外国国家に対し、元金と利息の支払を求める訴訟を提起した

い 弁護士法73条の適用範囲

同条の適用範囲は限定的に解すべきである
訴訟等が必要な状態であると予期しながら債権を譲り受けることを業としていても、それだけで違反とはならない

う 総合的に考慮する事情

取引の対象となった債権の種類
事件性や紛争性の有無・程度
債務者の性質
対価の決定方法その他の譲渡の目的・態様
請求方法等の譲受後の権利行使の態様

え 本件の判断

対象は有価証券であり、流通性が最も保護されなければならない権利である
債務者は外国の国家と公社であり、権利行使によって不当な圧力を受けることは考えられない
不当な方法での権利行使をした事実は認められない
→弁護士法73条に違反する違法性があるとは認められない
※東京地裁平成12年11月30日

バルクセールで買い受けた貸付債権の事例(適法認定)

あ 事案

政策金融機関から債権の大量一括売却(バルクセール)の手法で貸付債権を買い受けた者が
債務者と連帯保証人に履行を求める訴訟を提起した

い 適法とされた事情

不良債権処理のためのバルクセールは正常な経済取引として社会的に認知されている
譲渡人が政策金融機関として公的な存在であった
バルクセールの契約内容に特段社会的に不相当な定めはない
債権譲渡の通知の段階から譲受人の連絡先として弁護士を表示していた
訴訟を誘発したり紛議を助長したりすることにつながる事情は認められない

う 裁判所の判断

形式的には弁護士法73条に当たる行為である
しかし社会的経済的に正当な業務の範囲内にある
→弁護士法73条に違反しない
→違反しない以上、サービサー法違反も問題にならない
※東京地裁平成21年12月25日

債権の種類(不良債権かどうか)だけで結論が決まるわけではありません。譲渡人の性質、対価の決め方、請求の方法といった事情の全体で判断されています。

7 賃借権の譲受と実行の事例(違法認定)

類型としてはややマイナーな賃借権の譲受というケースです。

賃借権の譲受と実行の事例(違法認定)

あ 土地の権利関係

銀行が土地に根抵当権を設定した
土地に賃借権が設定された

い 競売手続中の賃借権譲渡

銀行が土地の競売を申し立てた
売却前にAが賃借権を譲り受けた

う 賃借権に関する交渉

Aは、賃借権をめぐり銀行に示談的な解決を持ちかけた

え 裁判所の判断

賃借権の譲渡は弁護士法73条に違反する
賃借権の譲渡は無効である
賃借権の移転登記の抹消請求を認容した
※鹿児島地裁昭和38年10月10日

賃借権が根抵当権に劣後することや、賃借権譲渡のタイミングが競売申立後で売却前であったことが考慮されたように思います。
大雑把にいえば、異常なものである・悪質であるというような印象があるのです。
弁護士法73条に該当するかどうかの判断では、正当性も大きく影響します(正当業務行為)。
詳しくはこちら|弁護士法73条の各要件(文言)の解釈(成立するかどうか)
このような全体的な印象も判断結果に影響するのです。

8 所有権(土地)の譲受と実行の事例(適法認定)

弁護士法73条に該当する権利(の譲受)は、債権に限りません。
所有権をはじめとする物権も含みます。
その実例として土地の所有権の譲受に関する裁判例を紹介します。
結果としては、『業として』には該当しないとして、弁護士法73条は成立しないと判断されました。

所有権(土地)の譲受と実行の事例(適法認定)

あ 紛争前提での土地購入

A所有の土地について無断転借人Bが存在した
CがAから土地(所有権)を譲り受けた
譲渡(売買)にはいわゆる事件屋が関与していた

い 直後の裁判手続

Cは譲受と同時に保全手続の準備をした
譲受から11日後にCは明渡断行の仮処分を申し立てた

う 違法性に関する裁判所の判断

Cが土地を購入(譲受)したことについて
『業として』の権利譲受とはいえない
→土地(所有権)の譲渡は有効である

え 仮処分の内容に関する裁判所の判断

仮処分の必要性が低いことを理由に仮処分異議を一部認容した
具体的内容=債務者(B)に使用を許すという条件を付けた
※最高裁昭和25年2月28日

9 所有権(建物)の譲受と実行の事例(違法認定)

不動産業者が、占有者がいる物件を買い受けて明渡しを求めた事例です。
弁護士法73条違反とされたうえで、明渡請求自体が権利濫用として退けられました。

所有権(建物)の譲受と実行の事例(違法認定)

あ 事案

不動産の売買等を業とする会社が
占有者(売主の親族)がいる区分所有建物の一室を買い受けた
占有者に明渡しと賃料相当損害金の支払を求める訴訟を提起した
同社は占有者のある不動産を買い受けて任意交渉で明渡しを実現したことが約50回あった

い 形式的な該当性

他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行をすることを業とする行為に形式的に当たる

う 正当な業務の範囲内といえないとした理由

競売手続における買受けではなく、買受けの申出を広く募る市場が形成されているとは考え難い
所有者と占有者の間で占有権限の有無について紛争が生じたことに端を発し、所有者の利益を図る目的で行われた
弁護士法72条本文の潜脱につながるおそれがある
占有者の利益を大きく害するおそれがあり、みだりに紛議を助長する

え 調査を欠いたことの評価

重要事項説明書の記載は「売主親族による占有があります。」のみであった
占有権限の有無や内容について何ら調査せずに買い受けた
→占有者の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることが防止されているとはいえない

お 裁判所の判断

買受けは弁護士法73条に違反する行為の一環として行われた
同条に違反する行為の私法的効力は抑制的に解するのが相当である
→売買契約が無効でないとしても、所有権に基づく明渡しと賃料相当損害金の請求は権利の濫用として認められない
※熊本地裁平成31年4月9日

なお、この裁判例は控訴後に和解が成立しており、確定していません。
重要事項説明書の記載が薄いことが、弊害の防止を欠いた事情として使われています。買い受ける側の調査が結論を左右した例です。

本記事では、弁護士法73条に関する裁判例を紹介しました。

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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