弁護士法73条に事件性(紛争性)は必要か|不要説の論拠と、必要説の立つ場所

1 弁護士法73条に事件性(紛争性)は必要か|不要説の論拠と、必要説の立つ場所

弁護士法73条は、他人の権利を譲り受けて、訴訟などの手段によってその権利の実行をすることを業とすることを禁じています。ここで譲り受ける権利について、争いがあること——事件性、あるいは紛争性——が必要なのかどうかは、見解が分かれています。

分かれ目は実務に直結します。事件性が必要だとすれば、正常に支払われている債権をまとめて買い取って回収する業務は、そもそも73条の射程の外にあることになります。不要だとすれば、実行を目的として権利を買い取ること自体が、争いの有無にかかわらず禁止の対象になります。

本記事では、条文の文言、逐条解説、サービサー法を所管する側の解説、そして裁判例を順に見て、この対立がどこにあるのかを説明します。

弁護士法73条の要件の解釈の全体については、別の記事で説明しています。

弁護士法73条の各要件(文言)の解釈(成立するかどうか)

2 条文に事件性を求める文言はなく、逐条解説は不要説を採るが、サービサー法の解説は事件性を前提にする

本記事の結論を先にまとめます。いずれの行も、後述の各節で条文と出典を挙げて説明します。

条文に事件性を求める文言はなく、逐条解説は不要説を採るが、サービサー法の解説は事件性を前提にする

問い 答え
条文は事件性を求めているか 求めていない。72条の「法律事件」や28条の「係争権利」に当たる文言が、73条には置かれていない
条解弁護士法はどちらを採るか 事件性不要説。権利の実行を目的とした権利の譲受はすべて禁止されると読む
必要説はどこにあるか サービサー法を所管する側の解説。通常の状態ではその満足ができないような債権についての禁止と読む
最高裁は要否を決めたか 決めていない。サービサー法違反の事件で、通常の状態では満足を得るのが困難な債権だという事実を挙げて該当性を認めた
実務ではどこで効くか 下級審は、事件性や紛争性の有無・程度を、73条違反かどうかの総合考慮の一要素として挙げている

3 条文に事件性を求める文言はない——72条の「法律事件」も28条の「係争権利」も置かれていない

まず条文を見ます。73条は「他人の権利」と書くだけで、その権利について争いがあることを求める文言を置いていません。

これは同じ弁護士法の中で対照的です。72条は「一般の法律事件に関して」法律事務を取り扱うことを禁じ、28条は弁護士が「係争権利」を譲り受けることを禁じています。争いがあることを指す文言は、この二つの条文には置かれ、73条には置かれていません。

条解弁護士法は、第5版でこの対照を不要説の論拠として書き加えました。72条について事件性が必要だという見解が「法律事件」の文言を論拠の一つにするのであれば、その文言を持たない73条では、いっそう不要説が適当だという筋です。

28条との関係では、逆向きの説明もされています。弁護士が権利を譲り受けた場合、その権利に係争性がなければ28条は適用されません。その場面で73条を適用する意義が認められる、というのが同書の説明です。つまり、73条は係争性のない権利にも及ぶことが前提になっています。

弁護士法73条と、事件性を指す文言を置く72条・28条

何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。

※弁護士法73条

弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

※弁護士法72条

弁護士は、係争権利を譲り受けることができない。

※弁護士法28条

73条には「法律事件」の文言がないこと

法72条について事件性必要説を採る見解は、同条に「法律事件」との文言があることをその一つの論拠とするが、本条にはその文言がない。
この点からも、本条に関してはより一層事件性不要説が適当と解されよう。

※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第5版』弘文堂2019年p681

係争性のない権利について73条を適用する意義

ただ、弁護士又は弁護士法人に関しては、譲り受けた権利に係争性がないことを理由として法28条が適用されない場合に、本条適用の意義が認められる。

※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第5版』弘文堂2019年p677

4 不要説は、権利の実行を目的とした譲受をすべて禁止と読み、手段も限定しない

条解弁護士法は、事件性不要説を妥当としています。権利の実行を目的として権利を譲り受ける行為は、実行の方法がどうであれ、また紛議を誘発するおそれがあるかどうかにかかわらず、すべて禁止されるという読み方です。

同書は、必要説の内容も併せて紹介しています。通常の状態ではその満足ができないような債権について、これを譲り受けて権利の実行をすることを業とすることの禁止だ、という読み方です。引用の中で必要説の出典として挙げられているのは、サービサー法の解説です。必要説は、弁護士法の逐条解説の側ではなく、サービサー法の側から出てきています。

手段の面でも限定は置かれていません。条文の「訴訟、調停、和解その他の手段」は例示にすぎず、紛争を誘発するおそれのある手段であることも要りません。債権の取立てを法的手続の外の任意交渉だけに限ると決めていたとしても、73条違反になり得るとされています。

不要説では、したがって、争いのない債権を買い取って話し合いだけで回収する業務も、反復継続の意思をもって行えば73条の禁止に触れることになります。

事件性の要否についての見解の分布

事件性の要否について、本条は、債権が通常の状態ではその満足ができないような債権について、これを他人から譲り受けて、その権利の実行をすることを業とすることを禁止するものであるとし事件性ないし紛争性を要するとする見解(事件性必要説)もあるが(杉浦正健監修・法務省債権回収監督室編『Q&Aサービサー法』76頁)、
実行方法のいかんを問わず、また、紛議を誘発するおそれがあると否とを問わず、権利実行を目的とした権利の譲受はすべて禁止するものであるとして、事件性の有無にかかわらず、本条違反に該当するという見解(事件性不要説)が妥当である
(法72条の解説(647頁以下)参照)。

※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第5版』弘文堂2019年p681

権利実行の手段は限定されないこと

従って、その手段は特に紛争を誘発するおそれがあることを要せず、債権取立行為を法的手続外の任意交渉のみに限ることとして訴訟、調停、和解等の法的手段を取る意図がなくとも本条違反になり得る。

※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第5版』弘文堂2019年p679

5 必要説は、サービサー法を所管する側の解説にあり、通常の状態では満足できない債権に絞って読む

必要説の出典は、法務省債権回収監督室が編んだサービサー法の解説です。そこでは73条が、「債権が通常の状態ではその満足ができない」ような債権についての禁止として説明されています。手段については裁判外の任意交渉も含まれるとしており、この点は逐条解説と変わりません。

この読み方は、サービサー法の条文の組み立てと結びついています。サービサー法は、債権管理回収業を「弁護士法に違反する(事件性のある)」特定金銭債権の管理及び回収を行う営業として定義しており、事件性のない正常な債権の管理回収は、弁護士でなくとも誰でも行うことができる、と整理されています。

したがって、73条に事件性が要るかどうかは、学説の対立にとどまりません。サービサー法の許可制度は、事件性のある特定金銭債権の管理回収を許可の対象とし、事件性のない正常債権をその外に置く形で組み立てられており、この線引きの前提にかかわります。

法務省の解説による弁護士法73条の説明

また、弁護士法第七三条は、「債権が通常の状態ではその満足ができない」ような債権について、これを他人から譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によってその権利の実行をすることを業とすることを、何人に対しても禁止しています。
ここでいう「訴訟、調停、和解その他の手段」の「訴訟、調停、和解」は単なる例示であり、訴訟、支払督促、強制執行、破産申立て等の裁判所を利用する手続のみならず、裁判外の任意交渉も含まれます。

※法務省債権回収監督室編『Q&Aサービサー法』商事法務研究会1999年p76

サービサー法の業務の範囲と、事件性のない正常債権

法第12条第1号にいう「特定金銭債権の管理又は回収を行う業務であって、債権管理回収業に該当しないもの」とは、事件性(紛争性)のない特定金銭債権(取立ての容易な、いわゆる正常債権)の管理または回収を意味する。
債権管理回収業は、法第2条第2項において、弁護士法に違反する(事件性のある)特定金銭債権の管理及び回収を行う営業と定義されているため、債権管理回収業に「専業」すると、特定金銭債権であっても、事件性のない正常な債権は取り扱えないこととなってしまうという不都合が生じる。
そもそも事件性のない正常債権の管理回収は、弁護士でなくとも誰でも行うことができるのであるから、債権回収会社がその取扱いを禁じられるいわれはない。

※黒川弘務著『逐条解説 サービサー法 4訂版』きんざい2012年p122

6 最高裁はサービサー法の事件で、事件性の要否を正面から決めていない

最高裁が事件性に触れた事例はあります。法務大臣の許可を受けずに消費者金融業者から不良債権を買い取ってその管理回収業を営んだ行為が、サービサー法の無許可営業罪に当たるとされた、平成24年2月6日の決定です。

この事件で、弁護人は、本件債権には事件性がないからサービサー法2条2項後段に当たらない、と主張しました。社会的経済的に正当な業務の範囲内だから違法性が阻却されるという主張も、併せてされています。

最高裁はこれに対し、買い取った債権が長期間支払を遅滞し、譲渡元で貸倒れ処理がされ、その多くが利息制限法にのっとって再計算すれば減額または過払いになり、時効を援用すれば消滅するものもあった、という事実を挙げて、「通常の状態では満足を得るのが困難なもの」だとしました。そのうえで、取立てのための請求をして弁済を受けていたのだから同条後段に当たる、と結論しています。

条解弁護士法は、この決定について、具体的事実を指摘するのみで構成要件該当性を肯定したものだと読んでいます。事件性が要件なのかどうかを一般論として述べたものではない、という読み方です。もっとも、最高裁が挙げた「通常の状態では満足を得るのが困難なもの」という言い回しは、必要説が73条の読み方として使うそれと重なっています。

事件性がないという上告趣意

所論は,サービサー法3条の法務大臣の許可を受けずに行った本件債権の管理回収に関する営業について,①本件債権には事件性がないし,「訴訟,調停,和解その他の手段」によって回収したものではないから,サービサー法2条2項後段には該当しない,②社会的経済的に正当な業務の範囲内であるから違法性が阻却されると主張する。

※最高裁判所 2012-02-06 最高裁判所刑事判例集66巻4号85頁

最決平成24年2月6日の読み方

なお、この点、直接には債権管理回収業に関する特別措置法(以下「サービサー法」という)に関する判例であるが、本条の解釈とも関係する最決平成24年2月6日刑集66巻4号85頁は、
「被告会社が譲り受けた本件債権は、長期間支払が遅滞し、譲渡元の消費者金融業者において全て貸倒れ処理がされていた上、その多くが、利息制限法にのっとって元利金の再計算を行えば減額され又は債務者が過払いとなっており、債務者が援用すれば時効消滅となるものもあったなど、通常の状態では満足を得るのが困難なものであるところ、被告人らは、本件債権に関し、取立てのための請求をし、弁済を受けるなどしていたのであるから、本件債権の管理回収に関する営業は、サービサー法2条2項後段の『他人から譲り受けて訴訟、調停、和解その他の手段によって特定金銭債権の管理及び回収を行う営業』に該当するといえる」
とし、具体的事実を指摘するのみで、直接サービサー法違反の構成要件該当性を肯定している。

※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第5版』弘文堂2019年p681〜682

7 下級審は、事件性や紛争性の有無・程度を、要件ではなく総合考慮の一要素として挙げている

要件かどうかとは別に、事件性は判断の材料としては使われています。不良債権の購入業務を行う外資系企業が外国の公債を譲り受けて償還を求めた事件で、東京地裁は、73条の適用範囲は限定的に解されるべきだとして、判断の枠組みを示しました。

そこで挙げられている考慮事情の中に、「事件性や紛争性の有無・程度」が入っています。事件性の有無が該当性を決めるのではなく、債権の種類、債務者の性質、対価の決定方法、譲受後の権利行使の態様などと並ぶ一要素として置かれている形です。

ただし、この枠組みの位置づけまで確定しているわけではありません。最高裁判例解説は、73条はあくまでも禁止を原則とすべきだという立場から、この判決に距離を置いています。

総合考慮の一要素としての事件性・紛争性

(2)下級審判決としては、東京地判平成12年11月30日判時1740号54頁が、不良債権の購入業務を行う外資系企業が、外国債権の譲渡を受けて、その償還を求めた訴訟において、
「取引の対象となった債権の種類、事件性や紛争性の有無・程度、債務者の性質、債権の譲り受けの対価の決定方法その他の譲渡の目的・態様、債務者に対する請求方法等の譲受後の権利行使の態様など、他人の債権の譲り受けを業とする行為を総合的に考察し、その行為が他人の紛争に介入することによって利益を得ることを目的とし、弁護士法73条の趣旨に反して国民の法律生活の安定を害する弊害を生ずるおそれがある行為であると評価することができる場合に限って、弁護士法73条に違反する違法な行為に当たると解することが相当である」
という判断を示した。

※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第5版』弘文堂2019年p683

禁止を原則とすべきだという最高裁判例解説の立場

しかし、法73条は、他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段で権利の実行をすることを業とすることを許すと、不当な利益を得る目的でこれを業とする者が現れ、かつ、暴力行為等非合法的手段で債権回収を図ろうとする者が生じやすいので、一般予防的にその種の行為をすることを業とすることを禁じたものと解すべきであるから(田邊・前掲「債権買取業と弁護士法73条」449頁など)、あくまでも禁止を原則とすべきである。

※小野憲一稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成14年度』法曹会2005年p98〜99

8 弁護士法72条の側では、事件性の要否が正面から論じられている(参考)

事件性の要否は、弁護士法72条の「法律事件」をめぐる議論と地続きです。条解弁護士法が73条について不要説を採る理由の一つも、72条について必要説が論拠にする文言が73条にはないという対照でした。72条の側で事件性の要否がどう論じられているかは、別の記事で説明しています。

弁護士法72条の『法律事件』の解釈(事件性必要性と不要説)

9 おわりに

本記事では、弁護士法73条の「権利」について事件性(紛争性)が必要かどうかを説明しました。条文には事件性を求める文言がなく、逐条解説は不要説を採ります。必要説はサービサー法を所管する側の解説にあり、最高裁はこの点を正面から決めていません。

実務では、事件性の有無は、73条に形式的に当たる行為が例外的に違反とならないかを判断する場面で、考慮事情の一つとして挙げられています。73条のほかの要件の解釈は、別の記事で説明しています。

弁護士法73条の各要件(文言)の解釈(成立するかどうか)

この例外の判断枠組みを示したのが、最判平成14年1月22日です。この判決が何をどう判断したのかは、別の記事で説明しています。

最判平成14年1月22日|ゴルフ会員権の預託金返還請求と弁護士法73条

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
最判平成25年11月29日|遺産共有と通常の共有が併存する共有物の分割と賠償金の保管
最判平成14年1月22日|ゴルフ会員権の預託金返還請求と弁護士法73条

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00