【依頼者以外からの依頼の受任(不正な事業承継への加担・弁護士の懲戒)】

1 依頼者以外からの依頼の受任(不正な事業承継への加担・弁護士の懲戒)
2 依頼者以外の者からの依頼を受任する経緯
3 弁護士会の判断(懲戒処分)
4 司法書士の依頼者本人確認の不備との比較(参考)

1 依頼者以外からの依頼の受任(不正な事業承継への加担・弁護士の懲戒)

通常は,紛争の当事者が弁護士に依頼します。しかし,いろいろな事情によって,当事者本人ではなく,身内の者が弁護士との相談や依頼の窓口となることもあります。
依頼者(当事者)と,窓口となる者の意思疎通がしっかりしていれば問題はありません。しかし,連絡が不十分であるとか,意図的に本人を関与させないような状況だと大きな問題となります。
本記事では,依頼者自身ではなく別の者が弁護士に依頼して,その後大きな問題が生じたケースを紹介します。

2 依頼者以外の者からの依頼を受任する経緯

多くの債務を負った者(債務者)の法的対応について,その親しい知人が弁護士に相談し,破産手続を依頼することになりました。
弁護士は,この知人の説明を信じ切っていて,債務者本人へ連絡して確認することをしませんでした。
しかし,この知人の意図は,債務者の経営する会社の従業員や業務を自分が経営する会社で引き取ってしまうというものでした。

<依頼者以外の者からの依頼を受任する経緯>

あ 依頼者以外からの受任

弁護士は,債務者Aの代理人Bからの依頼を受けた
AとBは長年経営者として一緒に仕事をしてきた関係であるという説明を受けた
依頼者A本人の確認(面談など)は一切していない

い 介入通知・破産予告の通知

債権者に対し,破産手続開始の申立を準備中である旨の介入通知を発送した

う 依頼者の意思

現実には,Bが経営する会社が,Aが経営する会社の従業員と業務をすべて承継する計画であった
依頼者Aにはそのような意向はなかった
※『自由と正義68巻9号』日本弁護士連合会2017年9月p89

3 弁護士会の判断(懲戒処分)

依頼者本人に面談をしないどころか,電話連絡も含めて,一切連絡・意思確認をしなかったことは非常に大きな問題です。
この弁護士は,業務停止3か月という重い懲戒処分を受けました。

<弁護士会の判断(懲戒処分)>

あ 事実の評価

弁護士の品位を失う非行に該当する

い 結論(懲戒処分)

業務停止3か月とする
※『自由と正義68巻9号』日本弁護士連合会2017年9月p89

4 司法書士の依頼者本人確認の不備との比較(参考)

ところで,司法書士の不動産登記業務では本人確認が欠けたことが問題となるケースがとても多いです。
これは,不動産の売却の場面では,所有者になりすますことだけで多額の金銭を騙し取れるという構造に原因があります。つまり,いわゆる地面師と呼ばれる所有者になりすまそうとする者が常に存在しているのです。逆に不動産決済の立会業務を行う司法書士は,このような不正や虚偽を見抜かなくてはならないので,常に緊張して臨んでいるのです。
詳しくはこちら|司法書士の不動産売買決済への立会の法律的な意味(義務)
一方,一般的な弁護士業務の中には,所有者になりすますだけで大きな利益を得られる,さらに短期間で完了するので発覚しにくいというようなものは普通ありません。そのため,依頼者の本人性を疑うような発想自体があまりないのです。だからこそ,弁護士も意識的に,なりすましへの配慮や警戒をすることが求められるのです。

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