後遺症についての等級認定はどのようなプロセスでなされるのでしょうか。
後遺症の等級は,損害保険料率算出機構が最初に認定を行います。
ただし,絶対的な判断ではありません。
裁判所の判断の方が優先されます。
イレギュラーなケースでは等級の「併合」,「加重」,「準用」という方法を用います。
脳障害の場合,認定のプロセスで注意しないと不利な認定につながります。

1 後遺症の等級認定は損害保険料率算出機構が最初に行う
2 後遺障害等級認定に不服の時は異議申立や訴訟提起などの対応がある
3 該当する症状が2つの場合総合する4つのルールがある;併合
4 事故以前からの障害が重くなった場合,『差』を計算する;加重
5 該当する症状が等級表にない場合は類似するものを流用する;準用
6 脳障害では,4つの判断要素で等級を決める
7 高次脳機能障害;等級認定;ポイント

1 後遺症の等級認定は損害保険料率算出機構が最初に行う

後遺障害の等級認定は,一般的に,損害保険料率算出機構が最初に行います。
被害者請求など,保険金請求に関する審査の一環として行います。

損害保険料率算出機構とは,自賠責の保険料を算出するための機関です。
自賠責保険の保険金支払について,各保険会社から依頼を受けて損害の調査を広く行っています。
その一環として,後遺障害等級の認定も行っているのです。
通常,最初にこの機関により等級認定が行われます。

後遺障害等級の認定においては,原則書面審査のみです。
大量の案件を迅速に処理することが重視されているのです。

2 後遺障害等級認定に不服の時は異議申立や訴訟提起などの対応がある

損害保険料率算出機構による後遺障害等級認定は適正な結果とならない場合もあります。
等級認定は数が多いので,迅速に進めることを重視していることも理由です。
そこで,認定結果に不満がある場合は,異議申立ができるようになっています。
一般的に,各保険会社が料率機構に調査を依頼しています。
そこで,異議申立も,料率機構に対して行うのではなく,保険会社に対して行うことになります。

審査自体は,料率機構が行います。
前提となっている等級認定とは異なって,外部の弁護士・医師も審査に加わります。
より専門性・客観性を図る趣旨です。

異議申立により,当初の認定結果を覆すには,提出する資料が重要です。
1度結論が出ているので,これを覆す程に強い資料が必要とされます。
そのためには,当初の認定結果の分析を徹底することが肝要です。

なお,等級認定に不満がある場合には,異議申立以外の対応も可能です。

<等級認定に不服がある場合の手続き>

・異議申立
・財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構に,紛争処理の申請をする
・訴訟を提起する

3 該当する症状が2つの場合総合する4つのルールがある;併合

後遺症の等級表に,該当する症状が2つある,というケースもあります。
系列の異なる障害が複数ある場合,総合して等級を判断します。
等級の併合と呼んでいます。
併合の処理内容は次のとおりです。

<後遺障害等級の併合処理>

あ 5級以上の等級に該当する後遺障害が2つ以上ある

 →重い方の等級を3級上げる

い 8級以上の等級に該当する後遺障害が2つ以上ある

 →重い方の等級を2級上げる

う 13級以上の等級に該当する後遺障害が2つ以上ある

 →重い方の等級を1級上げる

え 『あ』~『う』以外の場合

 →1番重い後遺障害の該当する等級用いる(上げない)

4 事故以前からの障害が重くなった場合,『差』を計算する;加重

交通事故の前から障害を負っていて,交通事故によりさらに障害の程度が重くなった,というケースもあります。
重くなった部分だけについて,加害者の責任(損害賠償)が認められる,ということになります。
実際に,損害額として具体的金額を算出する場合は,次のような処理を行います。
障害等級の加重と呼ばれる方法です。

<後遺障害等級の加重処理>

・事故前の状態→該当する障害等級→これを元に損害額を算出(Aとする)
・事故後の状態→該当する障害等級→これを元に損害額を算出(Bとする)
・今回の事故の損害=B – A
 →つまり,損害額同士の差額ということです。

5 該当する症状が等級表にない場合は類似するものを流用する;準用

事故によって生じた後遺障害について等級表に該当するものがない,というケースがあります。

一般的に,障害等級表に記載のない身体障害についても,障害等級を適用することになります。
直接の適用ではないので,等級準用と呼びます。
具体的には次のような方法です。

<後遺障害等級の準用処理>

あ 障害等級表上のいかなる障害の系列にも属さない身体障害

その障害によって生ずる労働能力の喪失の程度を医学的検査結果等に基づいて判断します。

その労働能力喪失の程度に相当(近接)する等級を準用等級とします。

い 障害等級表上に,その属する障害の系列はあるが,該当するものがない身体障害

同一系列に属する障害の中で,当該障害に類似する2つ以上の障害を選択します。

併合の方法を用いて準用等級を定めます。
※ただし,併合の結果が不合理な場合は,その等級よりも1級上下させて調整することもあります。

6 脳障害では,4つの判断要素で等級を決める

脳の障害が残る後遺障害については,次のような判断の枠組みが用いられています。
典型的な例は高次脳機能障害です。

<判断要素>

高次脳機能障害の後遺障害等級を判断する要素は,主に4つの能力です。

あ 意思疎通能力

記銘・記憶力、認知力、言語力等
職場や学校において他人とのコミュニケーションが適切に行えるかどうか。

い 問題解決能力

理解力、判断力等
作業課題に対する指示や要求水準を正確に理解し、適切な判断を行い、円滑に業務が遂行できるかどうか。

う 作業負荷に対する持続力、持久力

一般的な就業時間に対処できるだけの能力が備わっているかどうか。精神面における意欲、気分又は注意の集中の持続力、持久力、意欲や気分の低下による疲労 感や倦怠感などについて判断します。

え 社会行動能力

協調性等
職場や学校において他人と円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうか。
特に協調性の有無や場違いな行動の頻度などについて判断します。

<判断基準>

判断基準は自賠責保険等級別表として規定されています。
<→別項目;後遺障害等級表(慰謝料額,労働能力喪失率)
高次脳機能障害の場合は1級または2級となります。
高次までは至らない場合は,一般的な神経障害(症状)として,その状況によって3~9級に該当することになります。
複数の障害がある場合,複合的に判断されます。

7 高次脳機能障害;等級認定;ポイント

脳の障害の症状は直接目に見ることができないものがほとんどです。
不利な等級認定にならないために細かい注意を払うと良いです。

等級認定のプロセスを踏まえた上で,不利・不適切な部分がない証拠を揃えることが重要です。
適正な等級を獲得するためには,証拠を万全に揃えることが重要です。
当然,等級判断のシステムをしっかり把握することが大前提です。
以下,いくつかの項目に分けて重要な点を説明します。

(1)意識障害

事後直後の意識障害の程度・継続時間についてカルテ等に記録としてしっかりと残っていることが重要です。
実際の事故直後の救急処置の現場では,このような記録が不十分なままとなっている例がよくあります。
医師や看護師に連絡を取り,確認・要請をしておくと良いです。

意識障害の程度については,その主な判断方法は2種類あります。
・JCS(ジャパン・コーマ・スケール)
・GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)
この内容を詳しく理解するのは,一般の方は難しいかもしれません。
いずれにしても,次のような状態であると高次脳機能障害と認定される可能性が高くなります。
・半昏睡以上の意識障害が6時間以上継続
・軽症の意識障害が1週間程度継続

(2)画像所見

CT・MRI画像上脳の損傷が確認できることが重要です。

<脳の損傷の具体的症状;典型例>

あ 事故直後

・脳室内出血
・くも膜下出血

い 事故数日後

・脳委縮

CT画像では確認できないけどMRI画像では確認できる,ということもあります。
脳の血流検査(PET・SPECT)により脳損傷が確認できることもあります。
ただし,CT・MRI画像上脳の損傷が確認できず,他の検査で損傷が確認された,というケースについては,裁判例では高次脳機能障害の肯定・否定が分かれ ています。
損害保険料率機構,自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会でも見解は分かれています。
とにかく,CT・MRI画像が重視されることは確実なので,これらの撮影を適切なタイミングで行っておくべきです。

(3)事故後の症状

次のような書面を準備しておくことが重要です。
・医師に神経系統の障害に関する医学的所見を作成してもらう
・家族(介護者)が日常生活状況報告書を作成する

医師による医学的所見については,家族など周囲の方が,日頃の状況を医師に説明することも重要です。
医師が被害者本人と接するのは,被害者の生活のごく一部です。
周囲の方の説明によって,医学的所見が変わってくることもあります。
家族などによる日常正確状況報告書については,日頃の状況の中で変わったことがあったら細かいことでも盛り込むべきです。
メモなどに逐一記載しておいて,最後に定型用紙にまとめると良いでしょう。
実際には,記載事項が多すぎて定型用紙では書ききれないことも多いです。
記載を省略するのではなく,別紙に記載するなどして,より多くの情報を記録すると良いです。
さらに,写真(画像),動画,録音なども報告書に添付すると非常に有用です。
最近では,スマートフォンで,簡単にこのような記録化をすることが可能です。
身近なIT機器をフル活用して,報告書も強力なものにできるのです。

(4)意見書

訴訟・等級認定異議申立の手続中で,医師のコメントを書面にして提出することがあります。
鑑定意見書と言うこともあります。
しかし鑑定とは,裁判所が行う中立・公的な手続のネーミングでもあります。
そこで,これを意識して(私的)意見書私的鑑定書と呼ぶこともあります。
いずれにしましても,判断に大きな影響を与える重要なものです。
医師に,しっかりと実情を反映した意見書を書いてもらうことが重要です。
多少不十分な記載のままだと,後から訂正することが非常に困難になります。
意図的に変更したというように取られるおそれがあるからです。
ですから,意見書の作成段階から,弁護士が十分に関与することがとても重要です。