事故の後遺症が残った場合,将来の収入を得られなくなります。
損害として賠償されるのでしょうか。
損害の一環として将来の収入分,についても「逸失利益」として参入されます。
中間利息控除としてライプニッツ係数が使われます。

1 収入の減少に対応する『損害』には休業損害逸失利益がある
2 休業により実際に生じた減収は休業損害となる
3 将来得られたはずの収入も損害に含まれる;逸失利益
4 逸失利益の算定では中間利息の控除のためライプニッツ係数を用いる
5 逸失利益算定におけるライプニッツ係数の理論
6 ライプニッツ係数表

1 収入の減少に対応する『損害』には休業損害逸失利益がある

事故により負傷した場合,仕事が一定期間できなくなることがあります。
この場合,収入の減少という結果が生じます。
これは『損害』の一環としてカウントされることになります。

ここで収入の減少に対応する『損害』は,分類上,2つあります。
最初にまとめを示します。

収入の減少に対応する『損害』>

 ↓後遺症の有無   休業損害   逸失利益 
 後遺症なし=傷害のみ   治療期間中   ☓ 
 後遺症あり   症状固定前   症状固定後 

<休業損害と逸失利益の概要>

あ 休業損害

収入の減少のうち,実際に生じたもの

い 逸失利益

収入の減少のうち,将来生じるもの

2 休業により実際に生じた減収は休業損害となる

事故によって負傷し,仕事を休むことが生じます。
この場合,治療期間中の収入の減少を算定し,これを損害とします。
事故によって入院や通院をした場合の収入の減少は,損害の1つです。
休業損害と呼んでいます。
休損と略すこともあります。

<休業の期間として認められる範囲>

 一般的な負傷の場合   治療期間中=完治までの間 
 後遺症を負ったケース   症状固定まで 

通常,事故直前の収入と,実際の(減少した)収入の差額を計算します。
給与所得者は,収入が明確なので計算が容易です。
自営業者の場合は,もともと収入に波があるなど,算定,評価が曖昧になる傾向があります。

当然ですが,これらの治療期間が長い場合は損害は多額になります。
実際には事故によってどの程度収入が下がったのかという評価,算定について,見解が食い違う,ということも少なくありません。

3 将来得られたはずの収入も損害に含まれる;逸失利益

事故によって後遺症が残った場合の逸失利益について説明します。

事故によって後遺症が残った場合,長期間にわたって身体の不自由な状態が継続します。
当然,その程度によって,仕事ができなかったり,仕事ができる程度が悪化した状態となります。
このような将来の収入の減少は,当然,損害の1つです。
逸失利益と呼んでいます。
本来であれば得た利益を失った,という趣旨です。

金額としては多額になりがちです。
被害者の年齢が若いと,将来の稼働期間が長い→将来の収入も多額,ということになります。
億の単位となることもよくあります。

仕事の程度の低下については,労働能力喪失率という係数を使います。
この率の評価で大きく金額が違ってきます。
労働能力喪失率は,後遺障害の等級によって基準が定められています。
実務上は,後遺障害の等級認定について見解が一致しない,ということが多いです。

4 逸失利益の算定では中間利息の控除のためライプニッツ係数を用いる

(1)逸失利益算定式

逸失利益の具体的な算定方法を説明します。

<逸失利益算定式>

逸失利益=年収×労働能力喪失率×稼働可能期間に対応するライプニッツ係数

逸失利益を具体的に算定する方法は,将来の収入の減少,を類型的に推定するものです。
年収と労働能力喪失率と就労可能期間を掛けあわせる,というのが基本的な発想です。

(2)稼働上限年齢の設定は67歳

通常,リタイヤする年齢を67歳と設定します。
就労可能年限としていろいろな統計により,平均的なリタイヤの年齢とされています。
例えば30歳の場合,残りの就労可能期間は37年となります。

(3)中間利息の控除はライプニッツ係数を用いる

ただし,経済的に,一定のディスカウントをしないと公平ではありません。
一括で賠償金が支払われる前提に立つとその後利息を生じるからです。
本来は将来収入が実際に生じるはずだったこととの差です。
この一定金額の割引については,ライプニッツ係数を用います。(後記)。

(4)労働能力喪失割合は障害等級による

労働能力喪失率は,後遺障害等級によって決められています。
<→別項目;後遺症;慰謝料相場;表

(5)逸失利益の算定の具体例

以下,具体例を示します。
なお,実務上,後遺障害等級について当事者間で見解が相違することが多いです。
見解が相違している状況を想定して,後遺障害等級5級と3級を設定として用いました。
金額としての相違が非常に大きくなることが分かるでしょう。
この例では2450万円以上の開きとなっています。

<逸失利益の算定例>

あ 例1;年収700万円,30歳,後遺障害等級5級の場合

 年収    労働能力喪失率  37年のライプニッツ係数
700万円 × 0.79  ×  16.7112 = 9241万2936円

い 例2;年収700万円,30歳,後遺障害等級3級の場合

 年収    労働能力喪失率  37年のライプニッツ係数
700万円 × 1.00  ×  16.7112 = 1億1697万8400円

5 逸失利益算定におけるライプニッツ係数の理論

逸失利益を計算する時のライプニッツ係数について説明します。

損害賠償請求は,法的に一括払いとなります。
そうすると,逸失利益については,本来は将来得た収入を『前倒しして得る』という状態になります。

経済的には,時間は金銭的価値があります。
つまり,金銭は運用により時間とともに増えるという根本原理があるのです。
逆に言えば,将来の金銭を前倒しで受け取る場合は,増えるはずの分をディスカウントするのが公平なのです。
ディスカウントする割合を割引率(ディスカウント・レート)と呼んでいます。

割引率を算出するのは少し複雑なので,実務上,年数に対応した係数のセット(テーブル)を用います。
実際には,割引を行った後の割合,という数値です。
この係数のセットをライプニッツ係数(表)といいます。
これを提唱した方の名前に由来します。

<ライプニッツ係数の提唱者>

ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(Gottfried Wilhelm Leibniz(ドイツ人))

例えば,37年に対応するライプニッツ係数は,16.7112となっています。

6 ライプニッツ係数表

ライプニッツ係数を表にまとめたものを示しておきます。

<ライプニッツ係数表>

労働能力喪失期間 ライプニッツ係数 労働能力喪失期間 ライプニッツ係数
1 0.9523 35 16.3741
2 1.8594 36 16.5468
3 2.7232 37 16.7112
4 3.5459 38 16.8678
5 4.3294 39 17.0170
6 5.0756 40 17.1590
7 5.7863 41 17.2943
8 6.4632 42 17.4232
9 7.1078 43 17.5459
10 7.7217 44 17.6627
11 8.3064 45 17.7740
12 8.8632 46 17.8800
13 9.3935 47 17.9810
14 9.8986 48 18.0771
15 10.3796 49 18.1687
16 10.8377 50 18.2559
17 11.2740 51 18.3389
18 11.6895 52 18.4180
19 12.0853 53 18.4934
20 12.4622 54 18.5651
21 12.8211 55 18.6334
22 13.1630 56 18.6985
23 13.4885 57 18.7605
24 13.7986 58 18.8195
25 14.0939 59 18.8757
26 14.3751 60 18.9292
27 14.6430 61 18.9802
28 14.8981 62 19.0288
29 15.1410 63 19.0750
30 15.3724 64 19.1191
31 15.5928 65 19.1610
32 15.8026 66 19.2010
33 16.0025 67 19.2390
34 16.1929