役員賞与を損金にする要件|届出に書いた日と額のとおりに支給する

1 役員賞与を損金にする要件|届出に書いた日と額のとおりに支給する

役員に賞与を払って損金にするには、事前確定届出給与として税務署へ届け出て、そのとおりに支給する必要があります。では「そのとおり」とは何を指すのか。金額だけか、支給日も含むのか。条文、施行規則、通達と質疑応答事例、裁判例は、それぞれの言い方で支給時期を要件の側に置いています。本記事では、事前確定届出給与の要件である「所定の時期」と「確定した額」が何を求めているかを、資料ごとに説明します。

支給日が実際にずれてしまったときの扱いは、別記事が扱っています。

役員賞与の振込が1日ずれたら|全額が損金不算入になりうる・先例も救済規定も無い

届出と違う支給になったとき、損金不算入が同じ期の他の回や他の役員にどこまで及ぶかは、別記事が扱っています。

役員賞与の支給が届出と違ったとき|同じ期の全回が落ち、他の役員へは及ばない

2 要件は支給の日と額の両方=資料ごとの言い方(まとめ)

先に見通しを示します。事前確定届出給与の要件は、届出に書いた支給の日と額のとおりに支給することです。条文と施行規則は支給時期を定めと届出の内容に置き、国税庁の質疑応答事例と裁判例も、支給時期を要件や制度の趣旨の中に置いています。通達と質疑応答事例が「該当しない」例として挙げるのは支給額の相違ですが、それは例示であって、要件が金額だけだということではありません。

支給の日と額について、どの資料が何を言っているか

資料 何を言っているか
法人税法34条1項2号 「所定の時期に」確定した額を交付する旨の定めに基づく支給=時期も定めの内容
法人税法施行規則22条の3 支給時期と各支給時期の支給額は届出事項。その支給時期とした理由も書かせる
法人税基本通達9-2-14 届け出た支給額と実際の支給額が異なれば該当しない(例示は金額)
国税庁質疑応答事例 支給時期・支給金額が事前に確定し、実際にもそのとおりに支給される給与に限る
東京地判 令和6年2月21日 金額を含め、届出がされたとおりに支給する給与のみ
東京地判 平成26年7月18日 損金算入の趣旨=支給時期と支給額の事前確定による恣意性の排除
東京高判 平成26年11月19日 届出額は支給時期を同日とするもので特定される
東京高判 平成25年3月14日 損金算入の可否を主観的な要素で判断しない
救済 届出漏れのやむを得ない事情と、臨時改定事由・業績悪化改定事由による変更だけ

3 条文は「所定の時期に」確定した額を支給する定めを求める

条文は、役員賞与が損金になる要件を「所定の時期に、確定した額の金銭……を交付する旨の定めに基づいて支給する給与」と書いています。額だけでなく時期も、定めの内容として要求されていることが文言から読めます。反対に、年俸の期末報酬のように後日の査定を経てはじめて額が決まる仕組みでは、そもそも「所定の時期に確定額を支給する旨の定め」が無いと評価され、入口の要件を満たしません。

条文

法人税法34条1項2号の条文

その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭又は確定した数の株式(出資を含む。以下この項及び第五項において同じ。)若しくは新株予約権若しくは確定した額の金銭債権に係る第五十四条第一項(譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例)に規定する特定譲渡制限付株式若しくは第五十四条の二第一項(新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)に規定する特定新株予約権を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの(当該株式若しくは当該特定譲渡制限付株式に係る第五十四条第一項に規定する承継譲渡制限付株式又は当該新株予約権若しくは当該特定新株予約権に係る第五十四条の二第一項に規定する承継新株予約権による給与を含むものとし、次に掲げる場合に該当する場合にはそれぞれ次に定める要件を満たすものに限る。)

※法人税法34条1項2号

(1)施行規則22条の3=支給時期は届出事項・その時期とした理由まで書かせる

その「所定の時期」は、届出書に書く事項でもあります。施行規則は届出事項として支給時期と各支給時期における支給額を挙げ、さらにその支給時期とした理由までを記載させます。支給時期が届出の付随的な情報ではなく、届出の中核であることが、様式の定めから分かります。

条文

法人税法施行規則22条の3第2項第3号の条文

あ 届出事項=支給時期と各支給時期の支給額

事前確定届出給与の支給時期並びに各支給時期における支給額又は交付する株式若しくは新株予約権の銘柄、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める事項及び条件その他の内容

※法人税法施行規則22条の3第2項第3号

い その支給時期とした理由も書かせる

事前確定届出給与につき法第三十四条第一項第一号に規定する定期同額給与による支給としない理由及び当該事前確定届出給与の支給時期を第三号の支給時期とした理由

※法人税法施行規則22条の3第2項第7号

(2)通達・質疑応答事例=支給時期も要件に含め、不該当の例示は支給額

その「所定の時期」は、国税庁の説明でも要件の側に入っています。質疑応答事例は、通達9-2-14を引きながら、事前確定届出給与を、支給時期と支給金額が事前に確定し、実際にもその定めのとおりに支給される給与に限られると言い換えています。一方、「該当しない」例として通達と質疑応答事例が名指しするのは支給額の相違です。通達は届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合を挙げ、質疑応答事例の設例も金額の食い違いです。

引用:文献・公開情報

法人税基本通達 9-2-14(事前確定届出給与の意義)

届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合にはこれに該当しないこととなり、原則として、その支給額の全額が損金不算入となることに留意する。

※『法人税基本通達 第4款 事前確定届出給与(9-2-14〜9-2-16)』国税庁

引用:文献・公開情報

国税庁質疑応答事例(要件は支給時期も含めて定めどおり・不該当の例は支給額の相違)

この事前確定届出給与は、所定の時期に確定した額の金銭等を支給する旨の定めに基づいて支給するもの、すなわち、支給時期、支給金額又は株式数等が事前に確定し、実際にもその定めのとおりに支給される給与に限られます(法基通9−2−14)。
 したがって、所轄税務署長へ届け出た支給額又は株式数等と実際の支給額又は株式数等が異なる場合には、事前確定届出給与に該当しないこととなります

※『国税庁質疑応答事例 法人税 定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)』国税庁令和7年8月1日

4 裁判例は届出がされたとおりの支給だけを認める

判決は、要件そのものを定義しています。「確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与」とは、決議で確定的に定められ届出がされた場合において、金額を含め、所定の手続に従って届出がされたとおりに支給する給与のみをいう——という形です。「金額を含め」という限定の付け方は、要件が金額だけではないことを前提にしています。同じ判決は、制度が防ごうとしている弊害も具体的に述べます。支給額を高額に定めて枠取りをしておき、あとから減額して支給することで損金の額を操作する、という機序です。

引用:判例

東京地判 令和6年2月21日(要件の定義)

法34条1項2号の「確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与」とは、株主総会等の決議において役員給与が確定的に定められ、その決議に基づき、所轄税務署長に対して事前確定届出給与に関する届出がされた場合において、金額を含め、所定の手続に従って届出がされたとおりに支給する給与のみをいうものと解するのが相当である。

※東京地方裁判所 2024-02-21 LLI/DB 判例秘書登載

引用:判例

同(弊害の機序=枠取りと減額)

例えば、支給額(施行規則22条の3第1項3号)を高額に定めて事前確定届出給与に関する届出を行うことによりあらかじめ枠取りをしておき、その後、上記のとおり届出をした金額より減額した額を支給するなどして損金の額をほしいままに操作し、法人税の課税を回避するなど、事前確定届出給与制度を設けた趣旨を没却し、課税の公平を害することになりかねない。

※東京地方裁判所 2024-02-21 LLI/DB 判例秘書登載

別の判決は、制度の趣旨の側からこれを裏づけています。東京地判平成26年7月18日は、事前確定届出給与の額を損金に算入できるのは、支給時期と支給額が株主総会等で事前に確定的に定められ、その内容が届け出られていることで、支給の恣意性が排除されているからだと述べています。支給時期は、支給額と並んで趣旨の中に置かれています。

引用:判例

東京地判 平成26年7月18日(損金算入の趣旨=支給時期と支給額の事前確定による恣意性の排除)

事前確定届出給与の額が損金の額に算入されることとされたのは、事前確定届出給与が、支給時期及び支給額が株主総会等により事前に確定的に定められ、その事前の定めに基づいて支給する給与であり、政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長に事前の定めの内容に関する届出がされたものであることからすれば、その支給については上記のような役員給与の支給の恣意性が排除されており、その額を損金の額に算入することにしても、課税の公平を害することはないと判断されたためであると解される。

※東京地方裁判所 2014-07-18 LLI/DB 判例秘書登載

(1)東京高判平26.11.19=届出額は支給時期で特定される

別の控訴審は、当てはめの形で支給時期の位置づけを示しています。実際に支給した額を、届出額のうち「支給時期を同日とするもの」と突き合わせているのです。届出は、支給時期をキーに支給額を対応させた定めとして読まれていることになります。

引用:判例

東京高判 平成26年11月19日(届出額は支給時期で特定される)

控訴人が本件役員らに対して平成20年12月10日に支給した本件役員給与の支給額は本件各届出額のうち支給時期を同日とするものとは異なっていたのであるから、本件役員給与の支給は全体として本件定めに基づくものではなかったこととなり、そうである以上、本件役員給与については、その全額について法人税法34条1項2号の規定は適用されず、控訴人の本件事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されないものというべきである

※東京高等裁判所 2014-11-19 LLI/DB 判例秘書登載

(2)東京高判平25.3.14=損金算入の可否を主観で判断しない

別の控訴審は、判断の物差しを示しています。届出より減額して支給した事案で、納税者は「変更届出をしなかったことについて落ち度はない」「枠取りと減額による租税回避は同族会社の行為計算否認で足りるから実害はない」と主張しました。裁判所はこれを斥け、損金算入の可否を利益調整の意図や課税回避の目的といった主観的な要素で判断すると法的安定性を害し課税の公平を害する、と述べています。物差しは、所定の手続に従ったかという形式です。

引用:判例

東京高判 平成25年3月14日(落ち度・意図・実害の抗弁を斥けた)

所定の手続を経ることなく減額支給された事前確定届出給与を損金算入することはできないと解すべきである。控訴人主張のように損金算入の可否を利益調整の意図や法人税の課税回避の目的の有無といった主観的な要素により判断することとなれば、法的安定性を害し、課税の公平を害することにもなるので、採用できない議論である。

※東京高等裁判所 2013-03-14 訟務月報59巻12号3217頁/税務訴訟資料263号順号12165/LLI/DB 判例秘書登載

5 救済は届出漏れのやむを得ない事情と改定事由の2つだけ

届出の要件を満たせなかったときの救済として明文で用意されているのは、届出が期限までに無かった場合です。やむを得ない事情があると税務署長が認めれば、期限までに届出があったものとして扱われます。届出の内容を変更する道もありますが、事由は臨時改定事由と業績悪化改定事由の2つに限られ、後者について通達は、法人の一時的な資金繰りの都合はこれに含まれないと明言しています。

条文

法人税法施行令69条7項の条文

税務署長は、届出期限又は変更届出期限までに法第三十四条第一項第二号イの届出がなかつた場合においても、その届出がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、当該届出期限又は変更届出期限までにその届出があつたものとして同項の規定を適用することができる。

※法人税法施行令69条7項

引用:文献・公開情報

法人税基本通達 9-2-13(業績悪化改定事由の射程)

「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」とは、経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいうのであるから、法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれないことに留意する。

※『法人税基本通達 第3款 定期同額給与(9-2-12〜9-2-13)』国税庁

6 支給日のずれを防ぐ手=届出に実際に支給できる日を書く(実務家の解説)

支給日も要件に入るので、届出書に書く支給日そのものが、ずれを生まない日になっているかが問題になります。実務家の解説では、届出書を出すときに金融機関の休業日を確かめ、実際に支給できる日を書くことが挙げられています。これは税理士事務所の実務家としての見解で、国税庁の公式の見解ではありません。

引用:文献・公開情報

税理士事務所の解説(カレンダーを見て実際に支給できる日を記入する)

税務調査などで必ず指摘されるというわけではないかもしれませんが、役員賞与は金額が大きくなることも多いため、届出書を提出する際にはカレンダーを見て実際に支給できる日を記入した方がよいのかもしれません。

※『事前確定届出給与の支給日のズレについて』2018-06

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。原文の段落の行頭にある字下げは再現していません。

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