役員賞与の支給が届出と違ったとき|同じ期の全回が落ち、他の役員へは及ばない

1 役員賞与の支給が届出と違ったとき|同じ期の全回が落ち、他の役員へは及ばない

事前確定届出給与として届け出た役員賞与を、届出と違う形で支給してしまうことがあります。金額を減らした、支給日がずれた、一部しか払えなかった——そうなったとき、損金不算入はその1回の支給で止まるのか、同じ期の他の回や他の役員の賞与にまで及ぶのか。本記事では、届出と違う支給があったときに損金不算入が及ぶ範囲を、時期・役員・届出の内外の順に説明します。

支給日のずれがそもそも「届出と違う支給」に当たるかは、別記事が扱っています。

役員賞与の支給日のずれ|明文は金額だけ・落ち度の抗弁は斥けられている

2 落ちる範囲は職務執行期間・役員・届出の内外で区切られる(まとめ)

届出と違う支給があったときに損金不算入が及ぶ範囲は、次のとおりです。差額だけを調整する仕組みはなく、範囲に入った支給は全額が損金不算入になります。

届出と違う支給で、どこまで損金不算入になるか

場面 損金不算入になる範囲
同じ職務執行期間の1回を届出と違えて支給 その期の全ての回の全額(届出どおり払った回を含む)
当初事業年度は届出どおり・翌事業年度の回だけ違えた 翌事業年度に支給した額だけ
1人の役員にだけ届出と違えて支給 その役員の賞与だけ(他の役員へは及ばない)
届出に無い賞与を別に支給 その賞与だけ(届出どおりの賞与へは及ばない)

3 判定単位は職務執行期間=1回外せば定めどおりの回まで落ちる

最初の軸は時間です。判定は1回ごとの支給ではなく、職務執行期間を1つの単位として行います。そのため、届出と違う回が1回あれば、同じ期に届出どおり払った回まで含めて全額が損金不算入になります。国税庁の質疑応答事例と裁判例が、同じ構成を採っています。

(1)質疑応答事例=200万円2回の届出で1回を減額すると300万円全額が不算入

国税庁は、役員給与が定時株主総会から次の定時株主総会までの職務執行の対価であることを理由に、定めどおりに支給されたかどうかを職務執行期間を1つの単位として判定するとしています。設例では、12月と翌年6月に200万円ずつと届け出て、12月に100万円しか払わず6月に満額を払った場合、届出どおりだった6月分も含めて、支給額の全額300万円が損金不算入になります。減らした100万円分だけを調整するのではありません。

引用:文献・公開情報

国税庁質疑応答事例(判定単位=職務執行期間)

その支給が複数回にわたる場合であっても、定めどおりに支給されたかどうかは当該職務執行の期間を一つの単位として判定すべきであると考えられます。

※『国税庁質疑応答事例 法人税 定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)』国税庁令和7年8月1日

引用:文献・公開情報

国税庁質疑応答事例(1回を減額すると届出どおりの回を含む300万円全額が不算入)

例えば、3月決算法人が、X年6月26日からX+1年6月25日までを職務執行期間とする役員に対し、X年12月及びX+1年6月にそれぞれ200万円の給与を支給することを定め、所轄税務署長に届け出た場合において、X年12月には100万円しか支給せず、X+1年6月には満額の200万円を支給したときは、その職務執行期間に係る支給の全てが定めどおりに行われたとはいえないため、その支給額の全額(300万円)が事前確定届出給与には該当せず、損金不算入となります。

※『国税庁質疑応答事例 法人税 定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)』国税庁令和7年8月1日

(2)東京地判平24.10.9=届出どおり払った冬季賞与も損金不算入

裁判所も同じ構成を採っています。東京地判平成24年10月9日の事案では、会社は冬季賞与を届出どおり支給したあと、業績の悪化を理由に夏季賞与を減額し、変更の届出をしないまま支給しました。判決は、特別の事情がない限り職務執行期間の全期間を1つの単位として判定し、1回でも定めどおりでない支給があれば全体として定めどおりでなかったことになると述べて、届出どおり払った冬季賞与も事前確定届出給与に当たらないとしました。

引用:判例

東京地判 平成24年10月9日(職務執行期間の全期間を1つの単位として判定する)

内国法人がその役員に対してその役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の事前の定めに基づいて支給する給与について一の職務執行期間中に複数回にわたる支給がされた場合に、当該役員給与の支給が所轄税務署長に届出がされた事前の定めのとおりにされたか否かは、特別の事情がない限り、個々の支給ごとに判定すべきものではなく、当該職務執行期間の全期間を一個の単位として判定すべきものであって、当該職務執行期間に係る当初事業年度又は翌事業年度における全ての支給が事前の定めのとおりにされたものであるときに限り、当該役員給与の支給は事前の定めのとおりにされたこととなり、当該職務執行期間に係る当初事業年度又は翌事業年度における支給中に1回でも事前の定めのとおりにされたものではないものがあるときには、当該役員給与の支給は全体として事前の定めのとおりにされなかったこととなると解するのが相当である。

※東京地方裁判所 2012-10-09 訟務月報59巻12号3182頁/税務訴訟資料262号順号12060/LLI/DB 判例秘書登載

引用:判例

東京地判 平成24年10月9日(届出どおり払った冬季賞与も事前確定届出給与に当たらない)

したがって、本件冬季賞与を含む本件各役員給与は法人税法34条1項2号の事前確定届出給与に該当しないというべきである。

※東京地方裁判所 2012-10-09 訟務月報59巻12号3182頁/税務訴訟資料262号順号12060/LLI/DB 判例秘書登載

4 翌事業年度の回だけ外したときは翌期の支給分だけが落ちる

例外は、届出と違う回が翌事業年度にある場合です。質疑応答事例の照会は、12月に届出どおり300万円を払い、翌年6月は資金繰りの都合で50万円しか払えなかったという事案でした。国税庁は、翌事業年度の支給が違ったことは前の事業年度の課税所得に影響しないとして、翌事業年度に支給した額だけを損金不算入として扱って差し支えないとしています。前節の東京地判平成24年10月9日も、この取扱いを、期全体で判定する考え方と矛盾しない、納税者に有利な扱いとして説明しています。

当初事業年度の回で違えた場合は、この例外に当たりません。前節の設例がその形です。2回払いの定めで年度をまたぐときは、どちらの回で違えたかで結果が変わります。

引用:文献・公開情報

国税庁質疑応答事例(翌事業年度の例外)

ただし、ご質問のように、3月決算法人が当該事業年度(X+1年3月期)中は定めどおりに支給したものの、翌事業年度(X+2年3月期)において定めどおりに支給しなかった場合は、その支給しなかったことにより直前の事業年度(X+1年3月期)の課税所得に影響を与えるようなものではないことから、翌事業年度(X+2年3月期)に支給した給与の額のみについて損金不算入と取り扱っても差し支えないものと考えられます。

※『国税庁質疑応答事例 法人税 定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)』国税庁令和7年8月1日

引用:判例

東京地判 平成24年10月9日(翌事業年度の例外は期全体で判定する立場と矛盾しない)

当初事業年度が終了した平成19年3月31日の時点においては当該役員給与の支給は事前の定めのとおりにされており、翌事業年度にされた役員給与の支給が事前の定めと異なることは当初事業年度の課税所得に影響を与えるものではなく、翌事業年度中に生起する事実を待たなければ当初事業年度の課税所得が確定しないとすることは不合理であることから、納税者に有利な取扱いを認め、翌事業年度に支給された役員給与のみを損金不算入とし、当初事業年度に支給された役員給与は損金算入を許しても差し支えないこととしたものであると理解することができる

※東京地方裁判所 2012-10-09 訟務月報59巻12号3182頁/税務訴訟資料262号順号12060/LLI/DB 判例秘書登載

5 他の役員へは波及しない=34条1項2号は役員ごとの定め

2つめの軸は人です。1人の役員にだけ届出と違う支給をしたとき、他の役員の賞与まで落ちるかという照会に、国税庁は落ちないと答えています。理由は条文の書き方にあります。34条1項2号は「その役員の職務につき」所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づく給与と定めていて、役員ごとの給与を単位にしているからです。ここまでの「全額」は、その役員の、その期の定めに基づく支給の全額を指します。

条文

法人税法34条1項2号の条文

その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭又は確定した数の株式(出資を含む。以下この項及び第五項において同じ。)若しくは新株予約権若しくは確定した額の金銭債権に係る第五十四条第一項(譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例)に規定する特定譲渡制限付株式若しくは第五十四条の二第一項(新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)に規定する特定新株予約権を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの(当該株式若しくは当該特定譲渡制限付株式に係る第五十四条第一項に規定する承継譲渡制限付株式又は当該新株予約権若しくは当該特定新株予約権に係る第五十四条の二第一項に規定する承継新株予約権による給与を含むものとし、次に掲げる場合に該当する場合にはそれぞれ次に定める要件を満たすものに限る。)

※法人税法34条1項2号

引用:文献・公開情報

国税庁質疑応答事例(特定の役員に異なる支給をした場合=他の役員へ波及しない)

法人税法第34条第1項第2号では、事前確定届出給与について、「その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭又は確定した数の株式(出資を含む。・・・)若しくは新株予約権若しくは確定した額の金銭債権に係る…特定譲渡制限付株式若しくは…特定新株予約権を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの(・・・)」と規定しており、個々の役員に係る給与について規定しているものであることから、A役員(=「その役員」)以外の他の役員に対する給与に影響を与えるものとはなっておりません。

※『国税庁質疑応答事例 法人税 「事前確定届出給与に関する届出書」を提出している法人が特定の役員に当該届出書の記載額と異なる支給をした場合の取扱い(事前確定届出給与)』国税庁令和7年8月1日

6 届出の外で払った賞与はその賞与だけが落ちて届出分へ波及しない

3つめの軸は届出の内外です。届出に無い賞与を別に支給した場合、その賞与は事前確定届出給与に当たらないので損金不算入になります。では、届出どおりに払った賞与まで巻き込まれるのか。ある実務書は、届出の外で払ったものは届出内容との不一致の問題にならないとして、届出分へは波及しないと整理しています。同書はその根拠に、通達9-2-14と東京高判平成25年3月14日を挙げています。

引用:文献・公開情報

会社役員 法務・税務の原則と例外 p.253(例外2=届出にない賞与)

したがって、その賞与は損金不算入とされるものの、事前確定届出給与に波及することはありません(法基通9―2―14、東京高判平25・3・14税資263(順号12165))。

※植松勉編著『会社役員 法務・税務の原則と例外』新日本法規出版2021年 5月p253

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。原文の段落の行頭にある字下げは再現していません。

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