最判昭和32年10月31日|書証を理由を示さず排斥した原審の審理不尽と理由不備

1 最判昭和32年10月31日|書証を理由を示さず排斥した原審の審理不尽と理由不備

契約書や領収書のような書面が証拠として出ているのに、裁判所がその記載と違う事実を認定することがあります。本判決は、そのような認定をするには、その書面を採用しない理由を示さなければならない、として原判決を破棄したものです。

土地の買入代金を出した人と、売買契約の証書に買主として記載された人が違っていた、という事案でした。本記事では、この判決が何を判断したのかを説明します。

2 結論——書証の排斥には首肯するに足る理由の解明が要る

<この判決から取り出せる規範>

(ア)奥書のある書証は、反対事情が認められない限り、その記載内容を措信するのが当然である(判決が明示)(イ)記載文面及び体裁からみて、特に反対事実の認むべきもののない限り、記載どおりの事実を認めるのが当然である(判決が明示)(ウ)右の書証を、首肯するに足る理由を示さずに採用できないとするのは、審理の不尽であって理由不備の欠陥を蔵する(判決が明示)

3 事案——買入代金を出した者と、契約証書面上の買主が違った

上告人は、本件土地の買入代金400円を自分で出し、現実に使用収益もしていて、その一部は第三者に賃貸していた、と主張していました。

上告人は、土地の買取りの交渉を被上告人の先代である利一に依頼したところ、売買契約が成立した後に売主が殺害され、その家督相続人が売買契約を否認して登記手続に応じませんでした。そこで上告人は、やむなく、売買契約の証書面上の買主となっていた利一に所有権移転登記手続請求の訴えを提起させ、その訴訟費用も自分で負担して勝訴判決を得た、とも主張していました。

つまり、代金を出したのは上告人で、契約証書に買主と書かれているのは交渉を頼まれた利一だった、という食い違いが争点の土台にあります。

4 下級審の判断と上告理由

原審は、上告人が提出した書証について、何ら理由を示すことなく、これを採用できないとしました。上告理由は、この点を争うものです。

5 判示——反対事実が認められない限り記載どおりに認めるのが当然とした

引用:判例

書証を排斥するには首肯するに足る理由の解明が要る

然るに原審は前示(一)(二)の各事実について逐一思を運らした形跡がないばかりでなく、しかも右各事実について、その立証資料とされた甲第三号証はその奥書の点に徴し反対事情の認められない限り、その記載内容を措信するのを当然とし、また、同じく甲第七ないし第九号証はその記載文面及び体裁よりして特に反対事実の認むべきもののない限り、その記載どおりの事実を認むるのを当然とし、以上書証を所論人証(但し証人星山セイの証言を除く)と照合して、考量するときは右各事実が一応肯定されたであろうと認められるにも拘らず、原判決は右各書証について何ら首肯するに足る理由を示すこともなく、ただ漫然とこれを採用できないとしたのは審理の不尽であつて、理由不備の欠陥を蔵するものと考えざるを得ない。

※最高裁判所 1957-10-31 民集 11巻10号1779頁/判タ 76号31頁/ジュリ 144号85頁

6 あてはめ——逐一思を運らした形跡がなく、理由を示さず排斥した

最高裁は、原審が上告人の主張した各事実について逐一思いを巡らせた形跡がないと指摘しました。そのうえで、上告人の提出した書証を人証と照合して考量すれば、主張された事実は一応肯定されたであろうと認められるのに、原判決は書証について首肯するに足る理由を示さずに、ただ漫然と採用できないとした、としています。

これを審理の不尽であって理由不備の欠陥を蔵するものとして、原判決を破棄し、札幌高等裁判所函館支部へ差し戻しました。

7 本判決が決めていないこと

本判決は「処分証書」という語を使っていません。書面を種別で分けたうえで一般的な取扱いを述べる、という形も採っていません。判決が挙げたのは、甲第3号証については「奥書」、甲第7ないし第9号証については「記載文面及び体裁」という、個々の書証の属性です。

本判決は、処分証書の法理の代表的な判例として引かれることが多いのですが、判決自身がその概念で語っているわけではない、ということになります。

また、本判決は原判決を破棄して差し戻したものであって、上告人の主張した事実を認定したものではありません。差戻審がどう認定すべきかを述べてもいません。

8 おわりに

本記事では、最判昭和32年10月31日が何を判断したのかを説明しました。書証を排斥するには首肯するに足る理由の解明が要る、という点が判断の中心です。

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。原文の段落の行頭にある字下げは再現していません。

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