1 宇宙活動による損害の賠償責任
2 国家への責任集中の原則
3 国家への責任集中に伴う国家の監督権限
4 政府から加害者(機関)への求償
5 宇宙損害責任条約の主な内容
6 宇宙活動のミスの損害賠償に関する外交ルートの活用

1 宇宙活動による損害の賠償責任

ロケットの打上を始めとする宇宙開発の中では,どうしても想定外の事故が生じることがあります。
宇宙活動のミスによって損害が生じた場合,一般の損害賠償とは違う特殊な国際的ルールが適用されます。
本記事では,宇宙活動によって生じた損害の賠償に関する国際的ルールを説明します。

2 国家への責任集中の原則

ごく一般的な民事的なルールでは,加害者が損害の責任を負うことになっています。非常にシンプルで,当然の理論です。
しかし,宇宙開発に関する事故では,損害が非常に大きな規模になる可能性が高いです。
そこで,国際的には,宇宙活動を遂行している機関自体ではなく,その機関が属する国(政府)が責任を負います。これを国家への責任集中(の原則)と呼びます。

<国家への責任集中の原則>

あ 国家への責任集中

非政府団体によって行われる宇宙活動も,国の活動とされる
宇宙活動に伴う国際違法行為に対する責任は直接に国に帰属する
※宇宙条約7条

い 国際法の一般原則との関係

国際法の一般原則(う)を排除している
※杉原高嶺ほか著『現代国際法講義 第5版』有斐閣2012年p179

う 国際法の一般規則(参考)

私人の活動については国家は原則として国家責任を負わない
※杉原高嶺ほか著『現代国際法講義 第5版』有斐閣2012年p179

3 国家への責任集中に伴う国家の監督権限

前記のように,国家は,宇宙活動を行う非政府機関の責任も負います。
つまり,非政府機関の活動を政府が保証している状態と同じです。
そこで政府としては宇宙活動を行う機関を監督する必要があります。その一環として,宇宙活動をする場合には内容を審査して許可を与えるという仕組みも要求されます。

<国家への責任集中に伴う国家の監督権限>

あ 国家の保証責任

国家は,宇宙条約に違反する宇宙活動の発生を事前に防止し回避する必要がある
非政府団体が条約を遵守することを確保する国際的責任を負う

い 国家の監督権限

非政府団体の宇宙活動は,当事国の許可継続的監督を必要とする
※宇宙条約6条

4 政府から加害者(機関)への求償

国家(政府)が賠償責任を負うのは国外の被害者に対する責任です。
そうすると,政府が被害者に賠償した後に,政府は国内の加害者(機関)に対して賠償した分を求償(請求)することになります。
結局,宇宙活動を遂行する機関は責任を負わないわけではないのです。
そこで一般的には,宇宙活動を行う機関は,賠償責任に備えて賠償保険に加入しておくのが通常です。

5 宇宙損害責任条約の主な内容

宇宙活動によって生じた(宇宙物体が引き起こした)国際的な損害の賠償については,主に宇宙損害責任条約でルールが作られています。
以上で説明した国家への責任集中も含めて,主要な内容をまとめます。

<宇宙損害責任条約の主な内容>

あ 国家の無過失責任

宇宙物体が引き起こした損害については,打上げ国(政府)が無過失責任を負う
※宇宙物体責任条約2条

い 国家への責任集中

ア 打上後
民間が打ち上げたロケットについても,宇宙物体がその領域から打ち上げられる国が責任を負う
※宇宙物体責任条約1条(c)(ii)
※宇宙条約6条,7条(同趣旨・参考)
イ 打上中
ロケットの打ち上げに失敗した場合も同様とする
※宇宙物体責任条約1条(b)

う 政府から事業者への求償

政府から打ち上げた民間事業者に対する求償は特に禁じられていない

え 国内完結自己の適用除外

打ち上げた国内に生じた損害については,この条約の適用はない
※宇宙物体責任条項7条
加害者・被害者の両方が同じ国に属している場合
→一般的な国内法が適用される(日本であれば民法709条など)

6 宇宙活動のミスの損害賠償に関する外交ルートの活用

宇宙活動による損害の賠償では,賠償請求の交渉ルートについても特殊なルールがあります。
まず一般的な民事上のルールでは,被害者自身(またはその代理人)が,直接責任を負う者(加害者)に対して,請求を行います。
他国の国家が責任を負う場合であれば,被害者(個人や会社)が直接加害国へ請求することになります。このことは条約でも認められています(宇宙損害責任条約11条2項)。
しかし,このように個人や会社が外国の政府と交渉するのは,手続遂行の負担がとても大きいです。
それでは,被害者の属する国(政府)に,外交ルートで交渉してくれるように要求することはどうでしょうか。
一般論として,民間が外交ルートを利用することについては,補充性が必要とされています。つまり,直接の手続として利用可能なものをすべて利用し尽くした後で初めて外交ルートの利用が認められるというものです。この一般論を適用すると,被害者が外交ルートを使うハードルは高いままです。
そこで,宇宙活動による損害については,被害者は加害者の属する国(政府)に賠償請求をする際に,最初から(補充性は不要)外交ルートを使えることになっています(宇宙損害責任条約9条,11条1項)。

本記事では,宇宙活動によって生じた損害の賠償について説明しました。
ルールの整備によって宇宙開発の発展が促進され,人類の知的探求やその他の役に立つことにつながると良いと思います。