【領空(各国の主権)と宇宙空間の国際法上の扱いと境界の基準】

1 領空(各国の主権)と宇宙空間の国際法上の扱いと境界の基準
2 領空の意味(主権の有無)
3 領空の範囲(宇宙空間との境界)
4 領空と宇宙空間の境界に関する見解
5 国家の主権の範囲外となるエリア(参考)

1 領空(各国の主権)と宇宙空間の国際法上の扱いと境界の基準

例えば人工衛星をロケットで打ち上げる場合,他の国の上空を通ります。
この場合でも,他国(領空)の侵害,には当たりません。外国政府の許認可などは不要です。これはその国の領空の範囲外,つまり宇宙空間だからです。
ここで,領空と宇宙空間の境界がどこなのかという問題があります。
本記事では領空と宇宙空間の境界の基準について説明します。

2 領空の意味(主権の有無)

現在では航空機が上空を移動できるので,一定の範囲の上空は特定の国家の独占的な権利(主権)の対象とされています。この国家が独占(支配)する上空の空間を領空”と呼びます。

<領空の意味(主権の有無)>

あ 領空の意味

国家が領有する空域を領空という
現在では,絶対的な意味での領空主権が確立している(い)
※杉原高嶺ほか著『現代国際法講義 第5版』有斐閣2012年p99

い 領空の主権を認める条約など

すべての国がその領域上の空域において『安全かつ排他的な主権』を有する
※パリ国際航空条約(1919年)1条
※国際航空に関する決議(1927年)1条
※シカゴ国際民間航空条約(1944年)1条,2条

3 領空の範囲(宇宙空間との境界)

国際法上,領空の範囲を明確に規定したルールはありません。
この点,水平方向は,常識的に領土の範囲と一致するので,特に問題はありません。
垂直方向,つまり,領空の上限については単純に判断できません。つまり領空と宇宙空間の境界ということです。

<領空の範囲(宇宙空間との境界)>

あ 領空の範囲の定義(なし)

領空の空域に関する国際法上の定義は存在しない

い 領空の水平方向の限界

水平的な限界は明白である

う 領空の垂直方向の限界

垂直的な限界は未確定である
=領空と宇宙空間の境界を決定する基準は確定していない
※杉原高嶺ほか著『現代国際法講義 第5版』有斐閣2012年p99

4 領空と宇宙空間の境界に関する見解

領空と宇宙空間の境界をどこにするのか,ということについてはいくつかの見解があります。
実際には,NASAを含む多くの国や機関が海抜高度100キロメートル(カーマン・ライン)を便宜的に基準として用いています。この高度は熱圏の範囲内にあり,地球の大気が非常に希薄な部分です。航空機の運行が不可能であり,事実上,地表面との関連性がほぼ皆無といえるのです。

<領空と宇宙空間の境界に関する見解>

あ 大気存在説

大気が存在する空間

い 航空機飛行可能説

空気浮揚力を利用して航空機が飛行しうる空間
海抜高度30キロメートル程度

う 人工衛星最低軌道説

地上から100マイル程度である
※杉原高嶺ほか著『現代国際法講義 第5版』有斐閣2012年p99,100

え カーマン・ライン(実務)

海抜高度100キロメートルのラインを宇宙空間と領空の境界とする
(100km Altitude Boundary for Astronautics)
※制定=国際航空連盟

5 国家の主権の範囲外となるエリア(参考)

以上のように,領空を上限より高い空間は宇宙空間として各国の主権が及びません。
ところで,国家の主権が及ばないエリアは宇宙空間以外にもあります。
国際法上,公海やその上空と深海底は国家の主権の範囲外とされています。

<国家の主権の範囲外となるエリア(参考)>

あ 国際公域の意味

国家による領有または支配が禁止され,すべての国に解放される空間である
国際管轄権の範囲を超えた地域と呼ぶこともある

い 国際公域に該当するエリアの例

公海・公海の上空・深海底・宇宙空間など
※杉原高嶺ほか著『現代国際法講義 第5版』有斐閣2012年p165

本記事では,領空の上限,つまり,領空と宇宙空間の境界の基準について説明しました。
今後,技術開発が進み,この境界付近を利用することができるようになった場合には,改めてこの境界問題が良い意味で表面化します。
宇宙開発が人類の知的探求やその他の役に立つことにつながると良いと思います。

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【宇宙・天体の利用に関する国際的ルール(宇宙条約・月協定)】
【宇宙活動による損害の賠償責任(国家への責任集中の原則・外交ルート)】

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