1 現金の概念の基本(一般的受容性・汎用性と強制通用力の関係)
2 貨幣(現金)の意味・概念
3 一般的受容性・汎用性と強制通用力の関係
4 強制通用力あり・汎用性なしの具体例(取引拒絶)
5 強制通用力あり・汎用性なしの具体例(ハイパーインフレ)
6 強制通用力なし・汎用性ありの具体例

1 現金の概念の基本(一般的受容性・汎用性と強制通用力の関係)

現金(貨幣)の法的な扱い・解釈を考える上で,現実的・経済的な機能が大きく影響します。
現金の機能の中で特に重要なことは広く支払に使えるというものです。これを一般的受容性とか汎用性と呼びます。
本記事では,現金の一般的受容性・汎用性を含めた基本的な特徴や,これと強制通用力との関係について説明します。

2 貨幣(現金)の意味・概念

常識的な貨幣(現金)の意味は,広く決済(支払)に使えるというものです。
実際に社会で信頼されている貨幣であれば,安心していろいろな対価として受け取ることができるのです。
現金の本質は社会の信用であり,法律や学問として取り決めをするというものではないのです。

<貨幣(現金)の意味・概念>

あ 貨幣の概念の基礎

本来,貨幣・金銭という概念は,法律制度の力によってまたは学問的な構成によって規定されるのではない
現実の取引生活においていわば常識的なものとして与えられる
我々が日常生活において(貨幣と)いうところに従って規定されれば足りる

い 貨幣の定義

社会における一般的な信頼と信認とに基づき取引上いわば暗黙の慣行的な合意があってしかもある程度法制上の力が加わって広く流通ないし支払の手段として行われているものが貨幣だというふうに考えて差し支えない

う 具体例

強制通用力を超えた補助貨幣のようないわゆる自由貨幣も貨幣に含めて考える
外国の貨幣も『貨幣』に含めて考えて差し支えない
※末川博稿『貨幣とその所有権』/『経済学雑誌1巻2号(1937年)』/末川博著『物権・親族・相続』岩波書店1970年所収p264

3 一般的受容性・汎用性と強制通用力の関係

前記のように現金の機能の根幹は社会で広く信用され,受け入れられているということです。
これを一般的受容性と汎用性と呼びます。
一方,法律上,法定通貨には強制通用力が付与されています。
強制通用力があれば,社会で信用され,流通することが促進されます。
では,強制通用力のあるものが現金であるように思えますが,そうとは限りません。

<一般的受容性・汎用性と強制通用力の関係>

あ 一般的受容性の意味

より広く人々に受け入れられていることである

い 汎用性の意味

交換可能性が極めて高いことである

う 強制通用力との関係(相関肯定)

一般的受容性・汎用性(あ・い)は
法律による強制通用力に裏付けられているところが大きい

え 強制通用力との関係(相関否定)

(支払決済手段としての汎用性は)法律によって強制通用力が付与されることの法的効果として直ちに導き出されるわけではない
多くの取引経済主体により受諾されることが前提となる
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p110

4 強制通用力あり・汎用性なしの具体例(取引拒絶)

強制通用力汎用性の有無は一致するとは限りません(前記)。
一致しない具体例にはいろいろな状況があります。
その1つは,ある取引の相手方が強制通用力のある法定通貨による決済(支払)を拒否しているというケースです。
取引の一般原則として,どのような決済方法を条件とするのかは当事者の合意で決めます。
典型例は,小売店が支払はクレジットカードだけと指定するようなケースです。
民法は,このような決済方法の指定(合意)を認めています。
詳しくはこちら|民法402条の任意規定性(法定通貨使用の強制を断念した経緯)

<強制通用力あり・汎用性なしの具体例(取引拒絶)>

現金での決裁を拒絶している者がいる
強制通用力には,現金決裁による取引(契約の締結)を強制する効力までを含むものではない
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p110

5 強制通用力あり・汎用性なしの具体例(ハイパーインフレ)

強制通用力はあるけれど一般的受容性がないという状況もあります。
つまり社会として法定通貨を受け入れないというような状態です。分かりやすい典型例はハイパーインフレの状態です。国家が過剰に紙幣を発行してしまったことで紙幣(法定通貨)の価値が極端に下がったようなケースです。このような状況では,逆に,強制通用力はないが流通量が限定されているモノが交換の媒体として使われます。歴史を振り返ると,金・銀などの金属や米が交換の媒体(商品貨幣)として用いられた実例があります。

<強制通用力あり・汎用性なしの具体例(ハイパーインフレ)>

あ ハイパーインフレーション

受取から次の交換(支払)までの現金の価値が保証されない状態である

い 非常事態

革命動乱のような非常時において
→強制通用力を支える法への信頼自体が揺らいでいる

う 現実の状況

『あ・い』のような状況においては
いかに法律が現金の強制通用力を保証しても,商品貨幣や外貨により代替される可能性がある

え 商品貨幣の例

金(Au)・塩・米・タバコなど
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p110,111

6 強制通用力なし・汎用性ありの具体例

強制通用力はないけれど社会で受け入れられている,つまり汎用性があるというものもあります。
実例としては,銀行振込や銀行発行の小切手は,現金と同じように信用されているので,社会で広く決済手段として活用されています。

<強制通用力なし・汎用性ありの具体例>

あ コミュニティの合意

法律による強制通用力の裏付けがなくとも
多数の取引参加者が支払手段としての使用に合意している場合
→実態上現金に近い性質を持つことが可能なはずである

い 現金に近い決済手段の具体例

ア 極めて汎用性の高いプリペイドカード
イ 銀行預金の振替(による支払)
ウ 国債投資信託持分の振替(による支払)
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p111

本記事では,現金の概念や機能・特徴として,一般的受容性と汎用性を説明しました。
実際に現金の概念や機能が問題になるのは(仮想通貨など)イレギュラーな支払方法に関するケースです。
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