【口頭の提供の前提である『(弁済)履行の準備』の意味や解釈】

1 口頭の提供の前提である『履行の準備』の意味や解釈
2 口頭の提供における履行準備の必要性
3 履行の準備の内容(基準)
4 銀行融資の予約と履行の準備(肯定)
5 履行場所以外での催告と履行の準備(肯定)
6 条件を付けた提供と履行の準備(否定)

1 口頭の提供の前提である『履行の準備』の意味や解釈

状況によっては,債務の弁済として口頭の提供で足りることもあります。
その場合は,現実の提供は不要で,弁済の準備をしたことを通知して受領の催告をする(口頭の提供)ことで足ります。
詳しくはこちら|口頭の提供の基本(条文・口頭の提供が認められる要件と方法)
本記事では,口頭の提供の方法の中の(弁済)履行の準備の内容について説明します。

2 口頭の提供における履行準備の必要性

民法の条文には,口頭の提供の中身として,弁済(履行)の準備が必要と書かれています。
そこで,履行の準備がなく債権者に履行を催告したという場合は口頭の提供としては認められません。

<口頭の提供における履行準備の必要性>

口頭の提供で足りるというケースにおいて
債務者は現実の履行の準備を行う必要がある
債務者が履行の準備をしないで債権者に履行を催告した場合
→有効な提供とはならない
※大判大正11年5月2日

3 履行の準備の内容(基準)

履行の準備の内容は,仮に督促に応じて債権者が協力をしてくれれば履行が可能な状態ということになります。

<履行の準備の内容(基準)>

口頭の提供における履行の準備とは
債権者が将来に履行の協力をしてくれれば,債務者が相当の時期に履行できる状態”である
※大判大正10年11月8日

4 銀行融資の予約と履行の準備(肯定)

実際の履行の準備の具体例を以下紹介します。
まず,金銭を支払うために銀行融資の予約を完了した状態は履行の準備(をした)といえます。

<銀行融資の予約と履行の準備(肯定)>

買主が代金の支払準備として,銀行との間での資金借受の予約を締結した
履行の準備といえる
※大判大正7年12月4日
※大阪控判大正8年7月22日;同趣旨

5 履行場所以外での催告と履行の準備(肯定)

契約で履行場所が定められていることはよくあります。この場合,形式的には履行場所以外での履行では弁済として有効ではありません。
この点,履行場所以外で代金を支払うことが可能な状態でも履行の準備として認めた判例があります。
債権者(売主)が意図的に履行場所を離れていたという特殊事情が影響しています。

<履行場所以外での催告と履行の準備(肯定)>

あ 履行の催告

山林売買の予約契約が締結された
売主の住所で代金を支払って予約完結権が行使されることになっていた
売主は予約の有効性を否定して住宅外にいた
買主は,その場所を探し当てて受領を催告した

い 裁判所の判断

履行場所ではないが履行場所で履行することは可能な状態であった
履行の準備があるといえる
※大判大正8年2月1日

6 条件を付けた提供と履行の準備(否定)

債務者による催告に,条件が付けられていたというケースがあります。
もともとの契約では条件がなかったので,これでは履行の準備として欠けています。つまり本来の履行が可能な状態とはいえません。口頭の提供として有効にはなりません。

<条件を付けた提供と履行の準備(否定)>

あ 条件追加の提供

債務者が一方的な条件を付して提供を申し出た

い 裁判所の判断

履行が可能な状態ではない
→有効な弁済提供(口頭の提供)とはならない
※東京地判平成21年10月22日

本記事では,口頭の提供の方法の中の履行の準備の意味や解釈について説明しました。
実際には,債務者の状況が履行の準備を完了したといえるのか,という点が問題となりやすいです。
実際に債務の弁済(支払,納品)についての問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【債権者の明確な受領拒絶の意思表明による債務不履行責任免除(口頭の提供すら不要)】

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