1 金銭の提供として認められる範囲
2 銀行口座振込による提供→有効
3 郵便為替による提供→原則有効
4 小切手による提供→原則無効
5 自己宛小切手(預手)の提供→有効
6 小切手の授受と支払の時点
7 約束手形による提供→原則無効
8 現金書留郵便による提供→原則有効
9 預金証書・預金通帳による提供→原則無効
10 転買人の同道による代金の提供→有効判断あり

1 金銭の提供として認められる範囲

金銭債務の履行は,原則として,文字どおり現金を支払うことです。
しかし,実際に紙幣を直接手渡すことは非効率・不合理であることもあります。
そこで,銀行振込や小切手が用いられることも実務ではよくあります。
本記事では,支払金種が特定されていないことを前提に,一般的な金銭債務の履行としていろいろな支払方法の(現実の提供としての)有効性を説明します。

2 銀行口座振込による提供→有効

銀行口座振込で金銭を支払うことは,現金の交付と実質的に同等といえます。そこで,現実の提供(弁済)として有効とされています。
反対する学説はありますが,実務的には債権者の同意がなくても有効という見解が一般的です。

<銀行口座振込による提供→有効>

あ 同意不要説(判例)

支払いの確実性があり,現金による弁済と同視できる
債権者の預金口座に払込金額の記入があった時に
債務の現実の提供がなされ,かつ,弁済の効力を生じる
※横浜地判昭和42年3月7日
※東京地判平成10年6月10日;同趣旨(不渡異議申立預託金の返還について)

い 同意必要説(反対説)

銀行振込には,債権者にとっては現金払いにはない不利益を伴う
リスクの例=銀行の倒産や手続のミス,第三者により預金債権の差押え
→現実の提供として有効ではない
ただし,債権者が格別の不利益がないのに弁済の効力を否定することは,信義則違反あるいは権利濫用にあたる
※後藤紀一『振込・振替の法理と支払取引』有斐閣

3 郵便為替による提供→原則有効

郵便為替は,郵便局で現金に換えられます。そこで,原則的に金銭債務の履行の提供として有効とされています。

<郵便為替による提供→原則有効>

あ 通常の提供

郵便為替による弁済(の提供)→有効である
※大判明治39年2月13日

い 支払呈示

郵便為替券(振替貯金払出証書)による支払呈示→有効である
※大判大正8年7月15日
※大判大正9年2月28日

う 特殊事情の影響による無効判断

隣家にある賃貸人に賃料を支払うことについて
本来,現金を持参すれば足りる
しかし賃借人は,遠隔地の払渡郵便局の郵便為替を提供した
→嫌がらせといえる
→有効な現実の提供とはならない
※東京地決昭和37年1月29日

4 小切手による提供→原則無効

小切手は銀行で現金に換えることができます。しかし,債務者の預金が不足していないことが前提です。
そこで,確実性が不十分なので,原則的に金銭債務の履行としては無効です。
過去の取引で小切手を使っていたとか,預金残高が十分にあるというような特殊な事情があれば,個別的に,小切手の提供でも弁済提供として有効となることもあります。

<小切手による提供→原則無効>

あ 通常の提供

小切手の現金化は確実とはいえない
→特別な合意や慣習がない限り,原則として小切手の呈示は有効な現実の提供とはならない
※大判大正8年8月28日
※大判大正8年12月24日
※大判大正10年11月3日
※東京控判大正11年4月22日
※東京控判大正13年2月25日
※大判昭和3年11月20日
※大判昭和3年11月28日
※神戸地判昭和31年10月3日
※大阪地判昭和32年3月26日
※最判昭和35年11月22日
※大阪高判昭和38年8月21日
※東京高判昭和40年6月15日
※大阪高判昭和56年10月30日

い 小切手決済の経緯+残高十分という事情による有効判断

売買代金の割賦払について,従来から債務者は小切手で支払っていた
買主が割賦払を滞ったのを機に,売主が小切手の受領を拒絶した
買主の預金口座には十分な預金残高があった
→小切手の呈示は有効な弁済提供である
※東京高判昭和29年2月26日
※東京地判昭和30年4月20日;同趣旨
※東京高判昭和40年3月17日;同趣旨

う 小切手呈示+現金提供という事情による有効判断

債権者が支払期日に小切手の受領を拒否した
債務者は,週明けの営業日まで期限の猶予を求めた
債務者は営業日に現金を提供した
→期限の猶予を認め期日後の提供を有効とした
※大阪地判昭和40年3月6日

5 自己宛小切手(預手)の提供→有効

小切手の中でも,銀行が振り出したものであれば,現実的に,確実に現金化されるといえます。
そこで,銀行振出の小切手(自己宛小切手・預手)の交付は現実の提供として有効となります。

<自己宛小切手(預手)の提供→有効>

銀行が振り出す小切手(自己宛小切手・預手)について
→支払が確実であり,取引界では現金と同様に扱われる
→自己宛小切手による提供も有効である
※大判昭和9年2月21日
※最判昭和48年12月11日
※最判昭和37年9月21日

6 小切手の授受と支払の時点

小切手での決済(支払)が行われた場合に,いつの時点で支払が完了したといえるのかという問題があります。
間接的にこの問題を判断した裁判例を紹介します。
小切手の受領後は利息が発生しなくなるというものと,小切手の受領日を保険金の支払日として扱うというものです。

<小切手の授受と支払の時点>

あ 小切手の受領後の利息(否定)

小切手の授受の日から現金化される日までの利息について
→支払請求を否定した
※名古屋地判昭和55年3月12日

い 小切手による保険料の支払日の認定

保険料の支払について小切手が授受された
→小切手が授受された日での支払が認定された
※広島高判昭和46年10月19日

7 約束手形による提供→原則無効

約束手形は小切手と似ている機能があります。通常の小切手と同じように,現金化が確実とはいえないので,金銭債務の履行の提供としては,原則的に無効となります。

<約束手形による提供→原則無効>

あ 原則

約束手形の現金化は確実とはいえない
→現実の提供として無効である

い 特殊事情による有効の方向性

ア 前提事情
保険契約者が保険料を約束手形によって支払った
現金化が終わる前に保険事故が発生した
保険会社は支払義務がないと主張した
イ 裁判所の判断
保険料の支払時期より前に保険事故が発生したことについて
主張・立証責任は保険会社にある
→これが尽くされていないことを理由に保険会社の主張を排斥した
※広島地呉支判昭和49年6月7日

8 現金書留郵便による提供→原則有効

現金を現金書留郵便で送るという方法があります。これは,現金を手渡ししたのと似ている状況です。
そこで,金銭債務の履行の提供として有効とする裁判例があります。
ただし,銀行振込や小切手と違って,送付された現金の金額について,明確な証拠が残らないという弱点もあります。

<現金書留郵便による提供→原則有効>

あ 前提事情

賃貸借契約において賃料の持参債務が約定されていた
賃料増額をめぐる紛争が生じた
賃借人が現金書留郵便によって賃料を送金した

い 裁判所の判断

現金書留郵便による送金は,賃貸人に格別の不利益を与えるものでない
→現実の提供として有効である
※京都地判昭和47年2月23日

う 証拠としての問題点

在中の現金の金額について郵便局が確認・証明するわけではない

9 預金証書・預金通帳による提供→原則無効

預金されている金銭を支払に用いるという発想があります。だからといって,預金通帳や預金証書を債権者に渡しても,債権者は現金化できません。
この点,預金証書に加えて銀行届出印を捺印した受領書を交付したケースについて,金銭債務の履行の提供として有効であると判断した古い判例があります。
ただし,現在は厳格な本人確認ができないと預金の払戻は行われません。そこで,古い判例の理論は,現在ではあてはまらないと思います。

<預金証書・預金通帳による提供→原則無効>

あ 原則

預金証書・預金通帳を債権者が受領しても現金化できない
→現実の提供にはあたらない

い 捺印付による有効判断

債務者が預金証書に預金の受領に要するなつ印をして債権者に交付した
→経済上の効果として現金の交付と同様である
→有効な弁済の提供となる
※大判大正15年9月30日

う 時代による変化(補足注意)

『い』の判断について
→現在では,預金者の本人確認が求められている
→預金証書+捺印付受領書があっても債権者は現金化できない
→現在では有効な弁済の提供とはならないと思われる

10 転買人の同道による代金の提供→有効判断あり

金銭を支払うために金銭を出す人を同席させたという変わったケースがあります。
確実に金銭を払える状況であったために,古い判例は,金銭債務の履行の提供として有効であると判断しました。
ただ,個別的な事情が大きく影響しています。あまり一般論として成り立つとはいえないでしょう。

<転買人の同道による代金の提供→有効判断あり>

あ 前提事情

商人が買い入れた商品を転売するのは通例のことである
買主が転売買主を連れて履行場所に赴いた
買主自身は代金額を持参していないが,転売買主が代金を持参している

い 裁判所の判断

現実の提供として有効である
※大判昭和5年4月7日

本記事では,いろいろな決済の方法が,法律的な金銭債務の履行の提供として有効となるかどうかについて説明しました。
これが実際に問題となるのは,熾烈な対立が生じているケースや,この理論を元にまったく新しい決済方法(仮想通貨など)の法的扱いを考えるような時です。
実際に金銭債務の履行の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。