【外貨に関する所得税(外貨建取引・外貨同士の交換の為替差損益)】

1 外貨に関する所得税
2 外貨建での購入における所得の算定
3 外貨建預貯金の預入と払出による為替差損益
4 外貨同士の交換による為替差損益
5 為替差損益の所得分類(雑所得・概要)

1 外貨に関する所得税

外貨(外国の法定通貨)が関係する取引で利益が生じる場合があります。
そうすると,所得として扱われ,所得税が課税されます。
本記事では,外貨に関する所得税について説明します。

2 外貨建での購入における所得の算定

まず,外貨で財産を購入したというケースの課税を説明します。例えば米ドルで住宅を購入したというケースを想定します。
日本円で米ドルを買った(交換した)時点よりも,米ドルを代金支払に使った時点の為替レートの違いでトクをした場合は,利益を得たと考えます。
実質的にキャピタルゲインが現実化したということです。
このような利益(や損失)を為替差損益と呼びます。

<外貨建での購入における所得の算定>

あ 取引の具体例

建物を外貨建取引により購入した
外貨建預貯金を払い出して代金を支払った

い 考え方

それまでは評価差額にすぎなかった為替差損益に相当するものが所得税法上の収入金額として実現した

う 所得の算定方法

『ア・イ』の差額を所得(為替差損益)として認識する
ア 実現した価値 建物の購入価額の円換算額
イ 取得に要した価値(※1) 購入に充てた外国通貨を取得した時の為替レートにより円換算した金額
※所得税法57条の3第1項

え 複数回の外貨取得の扱い

建物の購入に充てた外国通貨の取得が複数回ある場合
→取得に要した価値(前記※1)は,外国通貨を取得した円換算額の平均をとる
※所得税法施行令118条1項参照
外部サイト|国税庁|所得税・質疑応答

3 外貨建預貯金の預入と払出による為替差損益

米ドル(外貨)を預金として持っていて,その後払い出すケースを想定します。
払い出した米ドルを財産の購入に使うと,その時点で為替差損益が生じます(前記)。
払い出した米ドルを代金の支払に使わず,別の預金口座に預け入れた場合は,米ドルであることに変わりはありません。そこで,キャピタルゲインが現実化したものとは扱われません。
為替差損益が生じることにはならないのです。

<外貨建預貯金の預入と払出による為替差損益>

あ 所得税法施行令の規定

外国通貨で表示された預貯金を受け入れる金融機関を相手方とする当該預貯金に関する契約に基づき預入が行われる当該預貯金の元本に係る金銭により引き続き同一の金融機関に同一の外国通貨で行われる預貯金の預入は、上記の外貨建取引には該当しない
※所得税法施行令167条の6第2項

い 所得税法施行令の3要件

『ア〜ウ』の3つに該当する場合に外貨建取引に該当しない
ア 同一の金融機関イ 同一の外国通貨ウ 継続して預け入れる

う 所得税法施行令の趣旨

同一の外国通貨で預入・払出が行われる限りその金額に増減はない
実質的には外国通貨を保有し続けている場合と変わりはない
外貨建取引とすることにより為替差損益が認識されることは実情に即さない
→外貨建取引(所得税法57条の3第1項)からは除かれる

え 所得税法施行令の解釈

他の金融機関へ預け入れる場合であるとしても,同一の外国通貨で行われる限り,その預入・払出は外貨建取引に該当しない
外部サイト|国税庁|所得税・質疑応答

4 外貨同士の交換による為替差損益

外貨同士の交換の際にも所得が生じます。例えば,日本円を米ドルに交換(両替)して,その後,米ドルをユーロに交換する,ということを想定します。
このケースでは,米ドルを軸として考えると,米ドルを買って,後から米ドルを売ったということになります。
そこで買った値段売った値段の差額が利益(損失)であるといえます。つまり為替差損益です。
これらの値段は,すべて統一的に,日本円に換算した金額を使います。

<外貨同士の交換による為替差損益>

あ 事例内容

日本円から米ドルに交換した
米ドルをユーロに交換した

い 為替差損益の計算

『ア・イ』の差額(為替差損益)を所得として認識する
=所得税法36条の収入(金額)となる
ア 初回交換時の日本円換算額 円から米ドルへの交換時の為替レートにより米ドルを円換算した金額
イ 2回目交換時の日本円換算額 米ドルからユーロへの交換時の為替レートによりユーロを円換算した金額
外部サイト|国税庁|所得税・質疑応答

5 為替差損益の所得分類(雑所得・概要)

以上のように,外貨が関わる取引によって生じた利益(損失)は為替差損益として,所得として扱われます。
なお,所得の分類としては,一見すると資産についてのキャピタルゲインなので譲渡所得と思えます。
しかし外国での法定通貨は決済手段として,通常の『資産』ではないものとして,実務では雑所得として扱われています。
詳しくはこちら|雑所得の基本(定義・該当する所得の実例・課税方式・損益通算)

なお,仮想通貨同士の取引(交換)について,外貨同士の交換と同じ課税上の扱いをするという見解が示されています。
確かに,仮想通貨を既存のモノの中で近いものに当てはめようとすると外貨という発想が出てくるのは自然です。
しかし,違う性質も多くあります。解釈で既存のモノに当てはめようとすること自体に無理があります。
新たに適切な課税内容を考えて法令(税制)として創設する必要があるでしょう。

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