【民事訴訟法の特別代理人の選任の要件の内容と解釈】
1 民事訴訟法の特別代理人の選任の要件
民事訴訟法では特別代理人を選任する制度があります。この制度をうまく使うと、比較的早く、解決を実現することができます。
詳しくはこちら|訴訟無能力者への提訴では民事訴訟法の特別代理人の選任ができる
では、どのような場合に、特別代理人選任の制度を使えるか、つまり、特別代理人選任の要件が問題となることがあります。
本記事では、特別代理人の選任要件に関する解釈を説明します。
2 特別代理人選任の要件に関する条文
特別代理人の選任の要件は、民事訴訟法35条1項のお条文に示されています。
被告が未成年者または成年被後見人であり、法定代理人がない場合で、かつ、(特別代理人の選任をしないと)遅滞して損害が発生するということが記載されています。
また、民事訴訟法37条で、法人の代表者がいない場合も同じ扱いとなると規定されています。
特別代理人選任の要件に関する条文
あ 民事訴訟法の35条1項
法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる。
※民事訴訟法35条1項
い 民事訴訟法の37条
この法律中法定代理及び法定代理人に関する規定は、法人の代表者及び法人でない社団又は財団でその名において訴え、又は訴えられることができるものの代表者又は管理人について準用する。
※民事訴訟法37条
この条文の中の文言は、それぞれ解釈によって意味が拡げられています。以下説明します。
3 訴訟行為を予定しているという選任要件
特別代理人の選任要件の1つに、訴訟行為をしようとする状況であることが規定されています。解釈としては、訴訟以外の裁判所の手続も広く含みます。
これとは別の選任要件の1つに、未成年者・成年被後見人に対する訴訟行為を予定しているというものがあります。これも解釈としては、これら以外の者も含まれます。
訴訟行為を予定しているという選任要件
あ 条文規定(選任要件の1つ)
未成年者or成年被後見人に訴訟行為をしようとする場合である
い 「訴訟行為」の解釈
訴えの提起が典型例である
支払督促・保全処分・破産申立も含まれる
訴訟係属後のあらゆる段階における訴訟行為を含む
第1審だけでなく上訴審における訴訟行為を含む
※賀集唄ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法1 第3版補訂版』日本評論社2012年p104
う 「未成年者又は成年被後見人」の解釈
広く法律上みずから訴訟行為をなし得ない者を含む
具体例は(後記※1)のとおり
※賀集唄ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法1 第3版補訂版』日本評論社2012年p104
4 訴訟行為をなし得ない者の具体例
前述のように、特別代理人が選任される対象者として、条文上は未成年者・成年被後見人が規定されていますが、解釈としては広い範囲の者が含まれます。
具体的には、代表者が不明の法人や相続財産法人などです。実際に実体の存在がよくわからない法人に対する提訴で特別代理人選任が活用されています。
訴訟行為をなし得ない者の具体例(※1)
あ 意思能力を欠く者
成年後見開始の審判を受けていないが意思能力を欠く常況にある者
※東京高裁昭和62年12月8日
※中野貞一郎ほか編『新民事訴訟法講義 第2版補訂2版』有斐閣2008年p114
い 相続財産法人
相続財産法人(相続人不明の相続財産)
※大決昭和6年12月9日
※最高裁昭和36年10月31日(前提としている)
※大阪地裁昭和40年8月7日
※福岡高裁昭和49年12月23日(理由中に指摘あり)
う 代表者の存在しない法人
代表者の存在しない法人
※最高裁昭和41年7月28日
5 法定代理人不在・代理権行使不能の選任要件
特別代理人の選任要件の1つに、法定代理人がいない・代理権を行うことができない、というものがあります。
このうち代理権を行うことができないとは、法律上、権利行使が禁じられていることをいいます。利益相反による制限が典型例です。
法定代理人不在・代理権行使不能の選任要件
あ 条文規定(選任要件の1つ)
法定代理人がいないor代理権を行うことができない
い 代理権行使不能の意味
ア 法律上の不能(肯定)
代理権を行うことができないとは
法律上行使しえない場合をいう
※民法826条、860条;利益相反行為
イ 事実上の不能(否定)
事実上行使しえない場合を含まない
※賀集唄ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法1 第3版補訂版』日本評論社2012年p104
6 遅滞のための損害発生リスクの選任要件
特別代理人の選任要件の1つに、遅滞によって損害が発生するおそれがある、というものがあります。要するに、予定している手続が、特に急ぐものであれば、この要件に該当することになりやすいです。
仮差押や仮処分(民事保全)や、消滅時効完成が近い時期の提訴が典型例です。
遅滞のための損害発生リスクの選任要件
あ 条文規定
遅滞のため損害を受けるおそれがある
い 遅滞のための損害発生の解釈
正式の方法で法定代理人の選任をまっていたのでは
申立人が損害を受ける
例=利益相反行為に関する特別代理人
※民法826条
う 遅滞により損害が発生する典型例
ア 保全処分申請イ 時効中断のために訴えを提起する
え 証拠保全への適用除外
証拠保全については
民事訴訟法35条の特別代理人の選任は適用されない
裁判所の裁量で特別代理人を選任することはある
※民事訴訟法236条
※賀集唄ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法1 第3版補訂版』日本評論社2012年p104
7 実務での特別代理人選任の傾向(親族の場合のハードル)
では、実際に、民事保全や時効完成間際のような事情がない場合には特別代理人を使えないかというとそうではありません。共有物分割訴訟で被告のうち1人が認知症である場合に特別代理人が選任されるということはよくあります。
ただし、原告と被告(のうち意思能力を欠く者)がきょうだいや親子であるケースは要注意です。この場合は、申立人は、特別代理人ではなく、後見開始の審判も申し立てることができます(申立権者になっています)。
詳しくはこちら|成年後見人の制度の基本(活用の目的や具体例と家裁の選任手続)
そこで、原則どおりに後見人の選任をするとしても、対して遅滞は生じない(損害は生じない)ということになり、特別代理人の選任は認められない、ということになりやすいです。
逆にいえば、後見開始の審判の申立権者ではない場合には、相手に後見人をつけようと思えば、相手の親族に、「後見開始の審判の申立をしてください」とお願いして、親族がこれに応じてくれる、というプロセスが必要になります。そこで、このプロセスを進めていてはいつ後見人選任が実現するか分からないので、遅滞により損害が発生すると判断されやすい、ということになるのです。
8 離婚・婚姻無効での特別代理人の選任の可否
前述のように、訴訟であれば特別代理人選任が使えるのですが、訴訟の種類によっては例外もあります。
それは離婚訴訟です。離婚する、しないという判断は一身専属的です。要するに、判断は本人に限定され、代理人が判断することはできないのです。
そこで、離婚訴訟についての特別代理人を選任することはできません。
一方、婚姻無効確認の訴訟の場合は、特別代理人の選任を認める裁判例があります。ただし、最高裁判例ではないので、選任を認めない考え方もあり得ます。
離婚・婚姻無効での特別代理人の選任の可否
あ 離婚訴訟における特別代理人選任
ア 判例=否定
離婚訴訟は代理に親しまない
臨時の代理人では本人の保護に不十分である
→特別代理人の規定は離婚訴訟には適用されない
※最高裁昭和33年7月25日
イ 反対説
離婚訴訟における特別代理人の選任を認める見解もある
※中野貞一郎ほか編『新民事訴訟法講義 第2版補訂2版』有斐閣2008年p114参照
い 婚姻無効確認訴訟
第三者の婚姻無効確認の訴えについて
被告の一方が事理弁識能力を欠く常況にあった
離婚訴訟と異なり一身専属的な身分行為を目的とするものではない
→特別代理人の選任を認めた
※東京高裁昭和62年12月8日
本記事では、民事訴訟法の特別代理人の選任の要件の内容や解釈を説明しました。
実際には、個別的事情によって扱いが違うということもよくあります。
実際に特別代理人の利用をお考えの方は、本記事の内容だけで判断せず、法律相談をご利用くださることをお勧めします。