【NPOや自治体のツアーやバス手配は旅行業法違反の可能性あり(実例)】

1 公的なツアー・バス手配と旅行業法の抵触
2 ボランティアバスの違法扱い事件の事案
3 ボランティアバスへの国交省の対応(平成28年)
4 ボランティアツアーに関する通知(全文)
5 埼玉県白岡市のスキーツアー中止
6 川崎市の小中学生夏キャンプ中止
7 平成29年の各種ツアーへの適用緩和の通達(概要)

1 公的なツアー・バス手配と旅行業法の抵触

公的なツアーやバスの手配などは以前から全国各地で行われており,便利なサービスと受け取られていました。
しかし近年,旅行業法違反という指摘により中止や廃止される事例が続出しています。
というのは,運送や宿泊のサービスの代理・媒介・取次旅行業(手配旅行)に該当し,登録がないで行うと旅行業法違反となるのです。
詳しくはこちら|旅行業法の基本(旅行業の定義・登録の要否)
本記事では,適法性の判断については詳しく触れず,事案を中心に紹介します。

2 ボランティアバスの違法扱い事件の事案

被災地の復興のためのボランティアバスのツアーが違法扱いされた事件がありました。
まずは,ボランティアバス事件の事案をまとめます。

<ボランティアバスの違法扱い事件の事案>

あ ボランティアバスの運営主体

NPO法人など

い サービス内容

平成28年の熊本地震の復興に関して
被災地のボラティア活動の参加者を公募する
参加者から参加費を直接集める
貸切バスや宿泊サービスを手配する
運営主体は利益を得ていないケースも多かった
=外部の運送業者に支払う金額だけを参加者から徴収する

NPO法人が利益を得ないで,非営利といえるような状況でした。
しかし,行政庁はこれを違法と指摘します。

3 ボランティアバスへの国交省の対応(平成28年)

行政庁がボランティアバスを違法と指摘しました。その内容をまとめます。

<ボランティアバスへの国交省の対応(平成28年)>

あ 観光庁の対応

『報酬』の解釈によると違法となる
詳しくはこちら|旅行業法の『報酬』(有償性)に関する解釈(旅行業法施行要領)
旅行業法違反として是正を求めた
全都道府県に対して通知(後記※1)を出した
※毎日新聞平成28年6月11日

い 国土交通省大臣のコメントの内容

ツアーの主催者がツアー参加者に対して
運送や宿泊のサービス提供に関して責任を持つことになる
→参加者の安全確保が必要である
次のいずれかの対応をすることが要請される
ア 主催者が旅行業の登録を受けるイ 旅行業者に委託する

う 国土交通省大臣のコメントのソース

国土交通省 石井啓一大臣のコメント
平成28年6月14日
外部サイト|国土交通省|石井大臣会見要旨平成28年6月14日

この通達の内容はいろいろな面で不合理といえるでしょう。
実際に,この後平成29年に,運用を緩和する別の通達が出されています(後記)。

4 ボランティアツアーに関する通知(全文)

ボランティアバスを違法と指摘する通知の本体全文を紹介します。

<ボランティアツアーに関する通知(全文;※1)>

観観産第78号
平成28年5月25日
都道府具旅行業担当部長 殿
観光庁観光産業課
旅行安全対策推進室長
ボランティアツアー実施にかかる旅行業法上の取扱について
先般発生した平成28年熊本地震を契機に,旅行業の登録を受けていないNPOや社会福祉協議会等が主催者となり,ボランティア参加者を募集し,参加代金を収受した上でボランティアツアーを実施しようとしている事例が見受けられます。
その際,鉄道・バス・飛行機・タクシーなどの運送サービスやホテル・旅館などの宿泊サービスの手配を伴うボランティアツアーについては,旅行業法により,観光庁長官または都道府県知事の登録を受けた旅行業者でなければ取り扱うことができないこととなっております。
従って、このようなボランティアツアーの実施については、主催者が旅行業の登録を受けるか、または、旅行業法施行要領(平成17年2月28日付け 国総旅振第386号)第1定義(法第2条)における2企画旅行契約(法第2条第4項)3)(4)に基づき 取り扱われるよう,貴都道府県内関係部局及び貴都道府県内でボランティアツアーを実施しようとしている団体等への周知等,よろしくお取り計らい願います。

結局,前記のように,NPO法人などは自らツアーを企画せず,そのサービスを旅行業登録のある既存事業者に依頼(委託)するよう要請したのです。
公的かつ強力な既存事業者の宣伝(PR)という状況になっていました。
これは国交省OBの天下り問題に近いテーマなので別の記事にゆずります。
詳しくはこちら|国土交通省OBの天下り傾向が復活している

5 埼玉県白岡市のスキーツアー中止

公的なサービスの廃止の事例の紹介に戻ります。
平成28年に埼玉県白岡市の教育委員会が主催する市民のスキーツアーが中止となりました。

<埼玉県白岡市のスキーツアー中止>

あ スキーツアーの内容

ア 主催者 埼玉県白岡市の教育委員会
イ スキーツアーの内容 市民などを対象にスキーツアーの参加者を募集する

い 過去の実施履歴

スポーツ振興の観点からほぼ毎年実施してきた

う 旅行業法への抵触

平成28年埼玉県が旅行業法違反を理由に是正を求めた

え 実施方法の変更

教育委員会は募集内容を変更する予定である
検討内容=主催者を教育委員会から宿泊先のホテルに変更する
※毎日新聞(オンライン)平成28年12月22日

6 川崎市の小中学生夏キャンプ中止

平成29年に,川崎市の小中学生向けの夏キャンプが中止されました。

<川崎市の小中学生夏キャンプ中止>

あ 夏キャンプ企画の内容

ア 主催者 川崎市の教育委員会などでつくる実行委員会
イ 夏キャンプの内容 対象者=市内の小中学生

い 過去の実施履歴

20年以上前から毎年開催していた
平成29年も参加者を募集した
コース=岩手県や北海道など全国5か所

う 旅行業法への抵触

不特定多数の参加者を募り費用を受け取っていた
→『旅行業』に該当すると思われる

え 実施中止

川崎市の教育委員会は平成29年度のキャンプを中止した
参加の申込者には全額を返金することにした
※NHK NEWS Web平成29年6月30日

7 平成29年の各種ツアーへの適用緩和の通達(概要)

前記の平成28年の通達については,内容が不合理であると思えます。
そこで,平成29年7月に,国交省(観光庁)は,各種ツアーについて旅行業法の適用を緩和する内容の通達を2つ出しています。
1つは,災害発生時のボランティアツアーに関するものです。
詳しくはこちら|ボランティアバスへの旅行業法の適用緩和(平成29年通達)
もう1つは,子供向けなどの自治体ツアーに関するものです。
詳しくはこちら|子供向け自治体ツアーなどへの旅行業法の適用緩和(平成29年通達)
ただ,この通達では,自治体以外が主催する子供向けツアーに関しては適法になると記載されていません。
まだ問題が残っているといえるでしょう。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【旅行業法の『報酬』(有償性)に関する解釈(旅行業法施行要領)】
【プラットフォーム/原サービス販売者の判定と実費の扱いの違い】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00