【生命保険の解約返戻金の差押(特定の程度や事前の調査内容)】
1 『生命保険』を差し押さえることができる
債務者が多額の生命保険に入っている場合もあります。
以前は、生命保険の差押、ができるかどうかについて両方の説があり、明確な答えがありませんでした。
しかし最高裁で『差押可能』という結論が出されました。
現在では、預貯金と同じように『差押の代表的ターゲット』となっています。
2 解約した上で『解約返戻金』を受け取る|死亡保険金ではない
以前は、『解約→解約返戻金の受領』について認めるかどうかの見解が統一されていませんでした。
この点について平成11年の最高裁判決で見解が統一されました。
生命保険×差押|判例
あ 差押の対象財産
解約返戻金請求権
『生命保険金』ではない
い 『解約』手続
差押債権者は『解約手続』を行うことができる
理由;取り立てに必要な範囲で債務者の権利を行使することができる
※民事執行法155条1項
※最高裁平成11年9月9日
結論として、債権者は、解約返戻金を解約した上、債務者に代わって受け取ることができます。
3 生命保険に関する差押対象は『配当金』『満期金』もある
生命保険については、他にも差押対象があります。
生命保険に関する差押対象
ア 解約返戻金(前述)イ 配当金(請求権)ウ 満期金(請求権)
タイミングによっては『金額が大きい』ということもあります。
債務者の保険の状況・情報を十分に把握することが『回収可能性』『回収効率』に直結します。
4 生命保険差押|契約内容の特定の程度の解釈に幅がある
相手の生命保険の差押手続を行う場合、生命保険の特定が必要になります。
差押対象の生命保険について『○○生命保険』だけで足りるかどうか、見解が分かれていrます。
統一的な見解がありません。
生命保険の差押×証券番号の特定なし
あ 適法説
ア 見解の概要生命保険会社だけの特定で足りる
イ 保険契約の特定|具体的方法『契約日の古い順』という記載
ウ 特殊事情の影響特殊事情が判断に影響しているとも言える(後述)
※民事執行規則133条2項
※東京高裁平成22年9月8日
い 不適法説
生命保険会社だけの特定では不十分とする見解
※東京高裁平成22年12月7日
このように、近い時期に、同じ東京高裁の判決で、反対の結果となっています。
両方の説があるから、今後の差押の場面でどうなるか読めないと言うのが結論です。
5 生命保険差押|東京地裁の実務=証券番号は必須ではない
平成23年以降は東京地裁での運用が統一されています。
生命保険の差押についての特定の程度についてまとめます。
生命保険の差押|東京地裁の実務
東京地裁執行センターの運用
=証券番号を特定できない場合はしなくて良い
平成23年から運用が変更された
※『自由と正義11年12月』日本弁護士連合会p22〜
6 生命保険差押|事前の『弁護士会照会』がその後有利に働く
生命保険差押の際の『特定の程度』については統一的な判例がありません(前述)。
この点、2つの見解の判例を分析すると、対応が見えてきます。
生命保険差押|特定の程度|判断の分析
あ 適法説の理由・特殊事情
事前の弁護士会照会に対し、保険会社が回答を拒否した
→このことが『特定の緩和』方向に働いた
※東京高裁平成22年9月8日
い 対策への応用
ア 債権者の差押前の準備保険会社に対し、弁護士会照会による情報開示請求をしておく
実際には生命保険協会に対する弁護士会照会を行う(後述)
イ 保険会社が回答を拒否した場合『生命保険会社だけの特定』で差押申立を行う
→これで足りる可能性が高くなる
ウ 保険会社が詳細な情報の開示(回答)に応じた場合差押申立の時、十分な特定ができる
7 弁護士会照会による生命保険の情報取得
債務者の生命保険の情報を取得する方法としては、弁護士会照会が優れています。
弁護士会紹介によって生命保険の情報を取得する方法については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|弁護士会照会による生命保険の情報(契約内容)の取得
8 生命保険の差押申立|『差押債権目録』記載例
生命保険の差押を行う場合の、差押債権目録の記載について説明します。
仮に該当する生命保険が複数あった場合、どの契約を対象にするか分からない、という状態になってしまいます。
そこで順序だけは網羅的に記載するようにしなくてはなりません。
サンプルを示します。
生命保険の差押における差押債権目録のサンプル
金 円
ただし、債務者(昭和年月日生まれ)が、債務者と との保険契約に基づき、第三債務者 に対して有する配当金請求権、解約返戻金請求権、満期金請求権にして、下記記載の順序により頭書金額に満つるまで。
記
1 先行する差押え、仮差押のないものと先行する差押え、仮差押のあるものがあるときは、次の順序による。
(1) 先行する差押え、仮差押のないもの
(2) 先行する差押え、仮差押のあるもの
2 担保権の設定されているものとされていないものがあるときは、次の順序による。
(1) 担保権の設定されていないもの
(2) 担保権の設定されているもの
3 上記1、2に同順位の複数の生命保険契約があるときは、契約日が早いものの順により、契約日が同一のものがあるときには保険証券番号の若い順による。
4 配当金請求権、解約返戻金請求権、満期金請求権がある場合は、次の順序による。
(1) 本命令送達日以降支払期の到来する配当金請求権にして、支払期の早いものから頭書金額に満つるまで
(2) (1)により完済されないうちに契約が中途解約された場合には、解約返戻金請求権にして(1)と合計して頭書金額に満つるまで
(3) (1)により完済されず、かつ、中途解約されないうちに契約が満期を迎えた場合には、満期金請求権にして(1)と合計して頭書金額に満つるまで
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。


